「すみません、ここまで送っていただいて。」
拓馬は詩織の車で彼女の家まで送り届けた。
「車庫入れはしておきますから、」
「え、できんの?」
「これでもけっこう巧いんです、見ますか?」
「へえええ。 見たいなァ、」
「絶対にできないと思ってるでしょう、」
楽しそうに車庫の前で戯れていた。
そんな二人の様子を友永邸から出てきた千崎が見ていた。
拓馬と別れて門の脇の勝手口から入って来た詩織を待ち伏せするように
「・・今、お帰りですか。」
千崎の姿があってドキっとした。
「・・千崎さん、」
彼女の持った大きめのバッグに目をやり
「旅行、ですか。」
冷たくそう言い放った。
「・・すみません、失礼します。」
軽く会釈をして彼の横を通り過ぎようとした。
「あんな男と。 ・・あなたはわかっていなさすぎる!」
千崎の声に足を止めた。
「自分の立場をお考えください。 『千睦流』だけでなく、名家である友永家にも傷をつけることになりますよ。」
身体の芯がカッと熱くなった。
「なぜ、あの人とおつきあいすることが友永を傷つけることになるのですか。 ・・私は自分が少しは特別な家に育ったとは思いますが、偉くもなんともないって思っています。 伝統として、仕事として『千睦流』を継いで行こうと思っていますが、ひとりの人間として、あの人を選びたいと思います、」
まっすぐに彼の目を見て、何も迷いのない自分を訴えた。
「家元はお許しになったようですが、彼が仮に友永の家に入るようなことになったら、つらい思いをするのは彼なんじゃないですか。 生きてきた世界が違うということはそういうことです。 何がどうという理屈ではなく、世の中にはいろいろなことを言う人がいるということです。 私のような考えの人間ばかりだということです、」
千崎も負けずに詩織に訴えた。
拓馬がつらい思いをする、と言われて
詩織の心は少し痛んだ。
「・・そのことで悩んだこともありました。 でも、私が私らしくいられるためには・・彼が必要なんです。 もう・・それしかないんです、」
それがきちんとした意見になっていないことが十分にわかって詩織は逃げるように千崎から離れた。
彼に嫌な思いをさせるかもしれない。
でも
もう彼を信じて一緒になるしかない。
詩織もまた
拓馬への愛にのめり込み
ひとすじに貫くしかないと思っていた。
「ねえねえ~、ひなたもいっしょにいってあげるからさあ。 」
ひなたは何かというと白川家にやってきて、祖父に病院行きを勧める。
「ひなたについてきてもらうようになったら、おれもおしめえだ、」
かわいい孫の言うことも全く聞き入れず、新聞をわざとかぶりつくように読んだ。
「ひょっとして・・・こわいの?」
ひなたは疑惑の目を向けた。
するとガバっと顔を上げて
「怖いなんてことあるわけねーだろ!!」
ムキになって反論した。
「そっかあ。 そうだよね! じじがお医者さん怖いなんて・・そんなことあるわけないよね~! 早くさあ、腰のいたいの治って、一緒にディズニーランドいこうよう。 ね! ねー! おばあちゃん! じじ、お医者さんに行くって!!」
台所で二人の会話を聞いていたゆうこの母はぷぷっと吹き出してしまった。
詩織は千崎の言葉で夢のひとときから現実に引き戻されます。 そして拓馬の父の身体に異変が・・・?
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