「・・なんだか。」
結城は遠くの波間がきらめくのを見つめながらボソっと言った。
「え?」
あゆみは彼の声がよく聞き取れなくて聞き返してしまった。
「昼間。 デートすんのって・・・・ほぼなかったな。」
何をつくづく言いだすのか。
「デートというか。 ・・・・お墓なんですけど。」
と、あゆみはおかしくなってくすりと笑ってしまった。
あゆみの両親の墓参りにやって来た。
「いいところにあるなあ・・・おれも死んだらこういうところに入りたいな、」
「父の両親が茅ケ崎の人なので。 父にはひとりお兄さんがいて・・・まあ伯父に当たる人なんですけど。 その人は長いことリウマチで身体が不自由で。 今は施設に入っています。 身寄りといえるひとは・・その人だけで。伯父さん夫婦には子供もいないし、あたしたちはこのお墓を守って行かなくちゃならないんです。」
そして線香と花を手向けて
二人で手を合わせた。
「・・『バイト』の方はどうですか?」
寺から帰る石段を下りながら彼の手をぎゅっと繋いでそう言った。
「は? ああ・・・おれ、力仕事は初めてだから。 なんか走ってばっかだよ・・・・。 こんなに走ったのも中学以来かも、」
「情けない~~~。」
「呼ばれたらスグ行かないと怒鳴られる。 有吏なんかフットワークいいからすぐにハイハイ!って行っちゃうけど、」
怪我が完治した結城は有吏と同じコンサートなどの会場設営のバイトを始めた。
「でも。 新鮮だなーって。 おれ、学校卒業してから・・・ピアノの先生とか司法書士の事務の仕事とか・・・ホクトではフツーに営業だし。 ああやって怒鳴られることも一度もなかったし・・・。 みんな大変なんだなァって、」
「お坊ちゃんですからねー。 世の中には自分の思うようにならないことがたくさんあるんですよ、」
あゆみはいたずらっぽく笑った。
「ほんと。 おれってお坊ちゃんだったんだなあって・・・・」
つくづく言うのでまた笑ってしまった。
「それで。 例の・・・『事件』のことだけど。」
一転して神妙な表情に変わった。
「・・・その・・女の子のお父さんが。 おれに会いに来てくれて。 ・・・本人はこんなことをしでかして本当に後悔してるって・・・。 おれはもう、彼女を傷つけてしまったことで、事件にはしたくないって言ったんだけど。 いちおう彼女が持っていたナイフが果物ナイフだったから・・・『殺人未遂』になってしまうらしいんだ。 そうなると示談も難しいだろうからウチの弁護士とも話し合って、事件として送検したあと起訴猶予という形をとれるようにすることになって、」
結城は重い口調でそう言った。
「そう・・ですか。」
「人の心って・・・何で傷つくかわかんないし。 自分が未熟だったなあって、」
何でもわかってるみたいなふうだったけど
この人はちょっと子供みたいに世間知らずなところも人と感性がズレてたりするところがいっぱいあって
本当の彼が見えれば見えるほど
自分の気持ちが傾いていくのがわかる。
あゆみはそっと彼の身体に体重を預けるようにもたれた。
「生きてて・・・・よかった、」
今、彼がここにいることに
感謝したい・・・
新しい道を歩き始めた二人。 ようやく幸せが訪れて・・
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