「・・・・自分を変えたいのなら。 もっともっと厳しい環境に身を置くことじゃないのか。 ここで逃げたらおまえはその甘えた状況から抜けられねえだろ、」
斯波は少し語気を荒める。
結城はようやく顔をゆっくりと上げて
「・・・音楽の仕事を・・・一生の仕事にします。 真摯に真面目に取り組み・・・事業部のために身を粉にして仕事をします・・。 いや、おれが・・そうしたい、と思っています・・・・」
真っ直ぐに斯波の目を見上げるように
小さな声だがきっぱりとそう言った。
そこに
「は~~~~。 斯波も一人前の管理職やん、」
場違いな暢気な声が響き渡り
緊張の糸が一気に切れた。
志藤がいつもの笑顔でそこに立っていた。
「し、志藤さん・・・」
斯波はいきなり焦り始めた。
「いやいやいや。 ほんま。 立派な『上司』としての言葉やったで。」
「か、からかわないで下さい、」
今のいきさつを聞かれていたのかと思うとめちゃくちゃ恥ずかしかった。
「こんなん言うてるけど。 ほんまはなァ、おまえ・・クビになるトコやったんやで。」
志藤はひざまずく結城に言った。
「え・・・・」
「こいつは言わなかったけど。 事業部のスポンサーさんからもな、なんやその男はって何件か電話もあったし。おまえは被害者やけども、痴情のもつれで刺された・・なんてスキャンダル以外の何物でもないやん。 イメージ優先のこの世界ではめっちゃマイナスやん。 専務かて一応の覚悟はしていたし。 他の取締役もおまえの自主退職を促す意見でまとまってたし。」
志藤はズバズバと言い始めた。
結城は大きなため息をついてまたうつむいた。
「でも。 斯波は一人頑張って。 何とかおまえを辞めさせないように・・・本人が出てくるまで待って欲しいって。 本人と話し合って決めてやりたいって。 」
裏をばらされて斯波は気まずそうにプイっと横を向いた。
「おまえの『本気』を知りたかったんやろ。 ここはほんまみんなふざけたヤツばっかやけど。 音楽を真剣に思う人間の集まりや。 腰掛の気持ちで仕事するのは・・・おれも前任者として許さへん、」
最後は厳しい口調で言った。
「チャンスは・・・何度もないで。 これが・・きっと最後や。 その覚悟はあるか?」
志藤の問いかけは
結城への最後のパスだった。
ゆっくりと立ち上がった彼は斯波に向かって直立不動で
「・・・・もし。 最後のチャンスをいただけたなら。 全身全霊を込めて・・仕事に打ち込みます。 どうか・・・事業部で仕事をさせてください、」
そして深く頭を下げた。
斯波は頭をかいて、少しだけ口元を緩めて
「・・・今の。 録音した?」
真面目な顔で南に言って
「あ???」
いきなりのフリに南は変な声を出してしまった。
「え、イキナリ録音なんかできませんよ・・・」
そしてもっと真面目に夏希が返したので
志藤はぶっと吹き出してしまった。
「な? こーゆーヤツらだから。 おまえも思いきってこの中にハマってみな、」
笑って結城の背中をポンと叩いた。
斯波ちゃんのいいトコだったのに、志藤さんてば・・ヽ(;´ω`)ノ
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