「南さんも忙しいですよね、」
絵梨沙は南にお茶を淹れてきた。
「ん。 まーね。 でも、こうしてたまには早く帰れることもあるし、」
それに口をつけていつものように元気に言った。
南は事業部の仕事以外に真太郎のサポートもして、以前よりもぐんと忙しくなった。
「ねえねえ、今日みーちゃんとこ泊まりたい、」
真鈴がすり寄って来た。
「もう、またわがまま言って・・・。」
絵梨沙がたしなめると
「えーやん、えーやん。 一緒にお風呂はいろ。」
南は真鈴の頭を撫でた。
真尋のウイーンでの仕事は順調だが、去年の春から行ってこれまでに3度しか日本に戻れていない。
ほぼ母子家庭状態なのだが、こうして南や義母たちが子供たちを気遣って面倒を見てくれる。
絵梨沙は自分の恵まれた環境に感謝した。
萌香は仕事をしながらも頑張って子育てもしていた。
夜7時には迎えに行けるように日中は仕事をフル回転でこなす。
彼女は子育ての手伝いを斯波に頼むようなことはこれまでに1度もなかった。
新生児のころからお風呂も夜泣きも一人で対応した。
たまに萌香が買い物に出かけていて、斯波がオシメを替えてやろうとしていると
戻って来た彼女は急いで駆け寄って
「あたしがやりますから、」
と、ほぼ彼には何もやらせなかった。
休みの日に時々翔をベビーカーに乗せて3人で散歩に行くくらいで。
むずがる翔をあやすとか、ミルクを飲ませるとか
そんなことは一切やったことがないという
近頃の若い父親にはありえないほど育児に参加していなかった。
「あ~~~、あたしがかーくんを預かりたい、」
夏希は大まじめに言ってため息をついた。
「なに言うてるの、」
一緒にランチをとっていた萌香は笑った。
「この前、絵梨沙さんの仕事のことでお宅に伺ったんですけど! もー、柊くんと並んで寝かされてるのみると、きゅ~~~んとなるほどかわいくて! 仕事より長い時間いて斯波さんに怒られました・・・」
身ぶり手ぶりを交えてオーバーに話す夏希に南も笑ってしまった。
「自分で産んだ方が早いって、」
「まーねー。 いつかは赤ちゃんができたらねーって隆ちゃんとも話してるんですけど。」
「でも。 斯波ちゃんはなーんもしないんやろ? 一人で大変やな、」
南は萌香に話を振った。
「いえ。 あたしが彼には家にいるときは休んでほしいので。 夜も別の部屋で寝て、夜泣きしても迷惑がかからないように、」
「え、えらーい! 栗栖さんだって仕事を始めたんだから大変なのに、」
「彼の方が大変やから。 ほんま休みもほとんどなく仕事やし、」
萌香は余裕の笑顔で言った。
「加瀬がそーやって斯波ちゃんにメーワクをかけるからやんかあ、」
南は夏希の肩を小突いた。
「わっ! スープがこぼれますよっ!!」
大変だけれど、またこうしてみんなと一緒に過ごす時間も
萌香には嬉しかった。
翔が北都家に預かられるようになってから1ヶ月ほどすぎたころ。
「え!!! 増えてる!!」
日本での仕事のあと香港のコンサートを控えた真尋が4日ほどの予定で自宅に戻った。
いきなりベビーベッドに赤ん坊が二人並んで寝かされているのを見て、彼は大真面目に驚いた。
「なに? ウチって双子だった???」
絵梨沙に聞くその顔は真剣そのものだったので
「・・・・ほんと。 自分の子がひとりなのかふたりなのかわからないってどーなのよ・・・」
絵梨沙は呆れてため息をついた。
もちろん『双子』じゃありません(;^_^A 萌香は仕事をしながらも懸命に子育ても頑張っています。
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