あのコンチェルトの後、彼は音楽院で知らない人はいないくらいの有名人になってしまった。
「マサ! 今日、これからみんなで遊びに行かないか?」
あの辛辣だったオケのメンバーとも、すごい勢いで仲良くなったりして。
ついこの間まで、どこの馬の骨の日本人だったのがウソみたいだった。
それほどあのピアコンは強烈だった。
それでも彼は変わらずに『Ballade』でバイトを続け、楽しそうにピアノを弾いていた。
あのライヴの評判になり、あのあと有志からもっと広いところを借りてやろう、なんて話も出ているくらいだった。
その頃の彼はウイーンの小さな街角のバーでピアノを弾いていられればそれで充分に幸せそうだった。
そんな彼を私も温かく見守った。
ところが。
「は??? アメリカ??」
話は突然やってきた。
マエストロ・シモンは契約を終えて、音楽院の特別講師をやめることになっていたがその前に彼のところにやってきた。
「そう。 3月のね。 終わり頃から2週間。 ロスとボストンとNYの演奏旅行があって。 きみも一緒に来ないか?」
マエストロは彼にそう誘った。
「え・・おれを??」
「学校もその頃は長期の休みだろう。 きっと勉強になる。」
あのシモン・クルシュに直々に誘われた。
すごいことだった。
それなのに彼はうーんと考え込む表情をした。
「なんか、都合悪い?」
マエストロはそう言ったが、この場合どんな用事があってもこれを受けるべきなのに!
私はそばで聞いていてヤキモキした。
「それって・・・おれは何しに行くんですかね???」
彼は大真面目にそう言った。
「何しにって・・・。 まあ、雑用だけど。 いろんなゲストと競演するし、ほんといい経験になると思うけど、」
「う~~~~ん、」
さらに彼は考え込んでいたので、私はたまらずに
「何言ってるの! こんなチャンス二度とないかもしれないのに!」
思わず彼の背中を叩いてしまった。
「え? いいの?」
「いいの?って・・・・。 いいに決まってるじゃない。 オルフェスの楽団員の人達と過ごせるなんて・・・もう名誉のほか何もないわよ、」
私のが熱くなってしまった。
「そうかあ・・・。 おれは2週間も絵梨沙と離れ離れになるのがイヤで迷っていたのに・・」
またも大真面目に言い出した。
「は???」
私も、そしてマエストロも思わず同時に声を上げた。
「そっかあ・・・。 絵梨沙が行けってゆーなら・・・。 行ったほうがいいかなあ・・・」
マエストロは呆れて、そして大笑いしてしまった。
「もー・・・! なんなのよ、それは・・」
私は真っ赤になってしまった。
このとき。
私が行かないでなんて言って
もし彼がアメリカに行かなかったら。
たぶんこれからの全ての運命が変わっていた。
今から思うと、これが全てだった・・・・
このNY行きが真尋の運命を変えてゆきます・・・
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