「・・なんっか・・ずっる~~~、」
真尋はため息混じりに言った。
「え?」
「自分はさあ・・南ちゃんて彼女いながらさ。 彼女はキープ、みたいな?」
「キープなんて! シツレイなことを言うな、」
真太郎はムッとして言い返した。
「彼女。 ほんっと真太郎のこと・・・思ってるなあって。」
『あたしは真太郎さんの望みは何でも叶えてあげたいんです!!』
ゆうこの必死な言葉を思い出す。
「すんげえ・・かわいいってゆーか。 見てらんないってゆーか。 もう・・かわいそうになって。」
真尋はさっきの自分の行動を
言い訳のように
説明した。
「ほんと、悪い男だな、おまえ。」
そしてとどめのように言われて、
「おまえに・・言われたくねえって、」
真太郎は口を尖らせた。
真太郎は
酒には全く弱く。
普段はほとんど飲まない。
成人した後は、父に連れられてパーティーなどにも行ったりするようになったが、そういう場でもつきあい程度でほんの少し口をつけるだけだった。
もう
ワインを何杯飲んだか。
ものすごく
頭がボーっとしてきた。
「なんで。 急にクラシックなんかやろーって思ったの、」
真尋は全く酔っていないようだった。
「・・おまえの・・・演奏見て。 ほんっと・・すっげーって思った。 クラシック音楽にこんな力があるのかって。 それから・・・いっぱい・・CDとかDVDとか・・買って来て。 オケって・・いいなあって。 いろんな楽器が・・ひとつの音楽を造りだして・・・。 前から・・好きだったけど・・自分の手でそれが・・できたらって・・・」
真太郎は言葉もおぼつかなくなってきた。
「おまえが。 音楽に戻りたくなった気持ちも・・・ものすごく・・よくわかって。 なんとか・・一緒に頑張っていけないかって、」
真太郎はもうフラフラになって
ベッドに倒れこむように眠りながら話しているようだった。
「酒・・よえ~~~。」
真尋はふっと笑ってしまった。
ん??
真太郎は重いまぶたをゆっくりと開けた。
身体が重い・・と思ったら
真尋の足が自分のおなかの上に乗っていた。
「・・お・・おも・・・。」
それを鬱陶しそうに乱暴にどかした。
あ~~~。
結局。
土下座しただけで。
酔っぱらって
寝ちゃって。
真太郎は自己嫌悪に陥った。
もう
8時になるし
今日は学校に行かなくちゃ、だし・・。
まだ
グウグウと眠っている真尋を置いて、部屋を出た。
真尋がウイーンに帰るまであと2日。
真太郎は夕方ごろ出社した。
二日酔いで結局、講義に出ても
ほとんど身に入らなかった。
「あ、おつかれさまです、」
ゆうこが立ち上がった。
「・・夕べは・・どーも、」
「顔色、悪いですけど・・」
「いえ・・何でも・・」
疲れた様子でデスクについた。
それから1時間ほどしたあと。
ゆうこが給湯室で洗い物を終えて出てくると、
「よっ!!!」
いきなり真尋が現れて、ぎょっとした。
「まっ・・・真尋さん!」
夕べのことを思い出し、思わず身構えてしまった。
「あ~~、なんもしないし! 白川さんのコーヒー飲みたいな。 淹れてくれる?」
とニッコリ笑った。
本当に
いたずら小僧のような笑顔で。
むちゃくちゃだけど、憎めない真尋でした・・