「乳がんと肥満と糖尿病」ピンクリボンシンポジウム2018東京 | ポポ山に祈りを込めて

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しばしの休憩を。

2018年9月30日ピンクリボンシンポジウム東京 

中村清吾先生のお話をまとめてみました。


「乳がん ~敵を知り己を知らば百戦危からず~」

①増え続ける乳がん その背景と対策

②遺伝性乳がんへの対策 わが国の現状と今後の展望

③遺伝子検査でどう変わる 乳がんの診断と治療未来予測図




1985年乳がんは年間2万人といわれていたのが、2015年には9万人を超えました。


最近 若い方の乳がんをニュースで取り上げられています。

35歳以上と、80歳以上ではどちらが乳がんの発症が多いでしょうか?


正解は35歳未満は2.7% 80歳以上は5.3%で、一昔前と比べると、圧倒的に40代後半から50歳越えた閉経後の乳がんが極めて顕著に増えています。若い方も増えていますが、そのスピード感はまったく異なっています。
 

(記事すべての画像は講演で使われたものではありません))

乳がんの8割は女性ホルモンの刺激で大きくなります。


初潮年齢が若くなり、閉経年齢が遅くなり、その期間の間に子どもを産む回数が凄く減っている、あるいは高齢出産になっていることが、乳がんのリスクにかなり影響を及ぼしていることがいわれています。


まずは高齢者の肥満。

ホルモンを作る場所(卵巣からはもう作られないので)は末梢の脂肪組織の中でアンドロゲン(男性ホルモン)が最初はコレステロールを出発点にしてアンドロゲンからエストロゲン(女性ホルモン)への(変換される)代謝経路が肥満の人ほど活発化が強いということがいわれています。


栄養状態の変化


年間2万人程の乳がん発症の時代は、お米から採るカロリーが半分ぐらいで、畜産物油脂類は10%に満たないという状況から、現在はお米から採るカロリーが四分の一以下になり、畜産物油脂類から採るカロリーが4倍以上に増えていて、トータルのカロリー数にするとかなり増えています。これは実は糖尿病の患者さんの数も乳がんと同じように急速に増えています。


このグラフは糖尿病の患者数と自動車保有車両数がちょうど同じ割合で増えているグラフです。

実はこれにかぶる様に乳がんの患者数も増えています。

特に閉経後の肥満が乳がん発症リスクにつながるということになります。同様に子宮内膜癌も増えています。


完全な予防は難しいですが、予防に繋がる対策としては、糖尿病のリスク因子を防ぐことが一つの間接的な予防につながります。


乳腺はミルクを作る小葉というところから約20本近い乳管が1本に合流して乳頭に集まってくるわけですが、乳がんが一番できやすい箇所は、小葉を少し出たところの乳管に細胞増殖が始まる、これが一番多い原因となっています。

乳管はマンモグラフィーで撮ると白い影として写ってくる。高齢の方の乳腺はだいぶ脂肪に置き換わっているのですが、乳腺が白く写っている中でこうして引きつれを伴って真ん中に集まるような、(これを医学語でスピキュラという)こういったものは誰が見てもここに乳がんがあると分かります。

乳管の構造の中で、細胞がぎっしり詰まるように活発に増殖をすると、乳管の真ん中辺りのガンが死滅して、白い石灰(カルシウムを含んでいるので)というかたちでマンモグラフィーに写ることがあります。(石灰化といわれる乳がんの特徴的な所見)


乳がんの10年生存率

2センチ以下の乳がん、あるいは2センチ~5センチ以上のリンパ節転移が無い、又はあっても少数というⅠ期の早い時期に見つければ生存率はよくなります。、乳がんは比較的予後のよいタイプのがんなので、早く見つかればそれだけ治療成績も良くなるということで、ぜひ検診を受けてください。


2センチというのは1円玉の直径ぐらい。それよりも小さく見つけることができれば、非常に予後がいいということで、世界各国が乳がん検診を行ってきたわけですが、2007年当時の統計では残念ながらお隣の韓国に比べても、検診の受診率が低いということが問題となって、検診の無料クーポン(40歳から)が配られましたが、たしかに3年毎の統計を見ると、徐々に上がってきてはいますが、目標値としている50%にはなかなか到達しなかった。今でも30%台といわれています。

欧米では一足早く乳がん検診が行われてきて、30年間の間にマンモグラフィーの検診の治療成績が集まってきました。これを見るとたしかに初期のいわゆるⅠ期の小さく見つかってリンパ節転移もないような乳がんの割合が増えてきています。

そして非浸潤がんといわれる乳管の管の中に留まっているがんも顕著に増えてきています。ただ残念ながらリンパ節転移を伴うような乳がんが減ってはいるけれど、初期の発見数に比べればそれほどでもないということが指摘されています。


従来、乳管の中にがんが初期に出来て、そして徐々に拡がって最終的には乳管の外側に癌細胞がこぼれ落ちると、リンパや血液の流れに乗って、いわゆる転移を起こすので、初期の段階に見つけることを一生懸命に考えていたわけですが、どうもその中の一部には、将来転移を起こしやすい、かなり早期から乳管の外にこぼれ落ちて浸潤して発育するものと、そうではないタイプがあるということがわかってきました。


最近では日本を含めた欧米で、この非浸潤がんの中でもいわゆるおとなしいタイプ、将来再発を起こしそうでないタイプと、再発を起こす可能性のあるタイプをなんとか区別できないかということで、臨床試験というかたちで行っています(遺伝子発現解析(ゲノム医科学))。まだ結論は出ていませんが、たとえば再発を起こしそうにないタイプは経過観察で慎重に見守っていく方法をとったりと、管理方法を変えていく。つまり、この先の放射線治療やホルモン療法を避けることができないか、ということを試験として証明していくことになっています。


もう一つ、マンモグラフィーで考えていかなければいけないこと。

図の左側の脂肪が萎縮している高齢者の場合のマンモグラフィーは非常に役に立つ検査ですが、40歳未満の若い方は、乳腺が豊富で脂肪が少ない「高濃度乳房」といわれ、この中に白いしこりができてもわかりにくいことになります。どちらかというと、アジアの女性は高濃度乳房の比率が高いといわれていて、(欧米に比べても倍近い比率)この方たちの検診をどうするかが問題になっています。


一つの手段としては、魚群探知機の原理と同じように、超音波を使って魚影を追うのと同じ原理で乳がんを観察しようということで、超音波は高濃度乳房の方でもハッキリとしこりを映し出すことができます。

高濃度乳房の方はしこりがあっても乳腺の影に隠れてわからないことがあります。閉経前の方はとくにこのようなことがあるので閉経前と閉経後ではこのような違いが出てきます。


石灰化の場合はマンモグラフィーのほうが検出しやすいという特徴があるので、超音波もマンモグラフィーも両方それなりに良い点、苦手とする欠点があります。


マンモグラフィー単独よりも、超音波とマンモグラフィーを両方治療に加えたらどのくらい治療成績に差があるのか?←こういうことを調べたJ-START という日本初の大規模な臨床試験による結果が数年前に報告され世界的に注目を浴びました。 → 結果、マンモ単独に比べて超音波+マンモでは1.5倍がんを見つけるという結果が報告された。しかし、がんは倍近く見つかるのですが、それに加えて要生検数も1.5倍に増えています。

超音波検査とマンモグラフィーはそれぞれ特徴があり、超音波は検査をする人の技量に委ねられていて、ダブルチェック、2人のドクターが重ねてチェックをすることができないという欠点があります。ですので、これから検診にどの程度これが有効か、この先問題になるわけです。


欧米ではどのような動きがあるのか。

50歳前の女性では高濃度乳房の方もいるということで、マンモグラフィーのスタート年齢が引き上げられる傾向にあります。カナダは50歳~70歳、イギリスは47歳~75歳、米国でも40歳代は個別の判断で、50歳~上限は平均寿命から10年を切るまでの範囲が必須となります。

シーメンスヘルスケアの超音波診断装置「アキュソン」


それでは40代の人はなにもしなくていいのかといえば、そういうことではなくて、全身を自働的にスキャンするような新しい装置が検診用に使えないかということで、臨床試験が行われています。乳腺の濃度に関しても、自動的にコンピューターで計算をして、高濃度に相当する人をより客観的にピックアップするというようなことも行われています。


そこでいろいろな動きがあるのですが、乳がん検診も個々の乳がん発症リスクに応じた検診を考えたらどうかということで、とくに遺伝性で乳がんを発症しやすい人にはMRIを導入します。高濃度乳房の人には超音波を加えたらどうか、そして加齢により乳腺が萎縮してマンモグラフィー単独で見つけやすい人はマンモ単独でいいだろうと、このように3つの分野に分けた検診の有用性を検証する臨床試験が行われています。


とくに乳がんの中で、「若年性で発症する方の場合」、「治療した後でもお子さんがほしい、或いは乳がんが発見されたときに妊娠していた」、「遺伝性」という3つの大きな問題を考えていかなければならないわけですが、今回は遺伝性についてお話をしていきます。


(クリックすると拡大します)

人間の体は一説には60兆個の細胞で成り立っていて、1個の細胞の中には核といわれる細胞をコピーするときの情報が詰め込まれています。(遺伝子の説明は省略します)

たとえば指紋で個人を識別するのは、人それぞれ異なる遺伝子をもっているからです。


太りやすさ、お酒の酔いやすさ、病気のかかりやすさ、親から子に伝わる遺伝的な要因があることがわかってきていますが、乳がんも親がもっていて子孫に伝えられる変異というのが、生殖細胞系遺伝子変異といわれる、両親から半分ずつ遺伝子をもらって、お子さんがそのピースを持っているわけですが、そういった親から子へ伝わる遺伝子の原因で、乳がんが起こりやすくなって、実際にがんが発症している方が10%ぐらいいるのではないかといわれています。


とくにBRCA1、BRCA2の遺伝子の変異があると、本来は傷ついた遺伝子を修復するために備わった遺伝子なのですが、それがうまくいかないと、乳がんや卵巣がんを発症しやすくなります。


このBRCAに異変があると、一般の方に比べると乳がんを発症するリスクが10倍近い、卵巣がんは頻度が少ないけれど、一般の方に比べると20倍程で、この遺伝子の変異がある方に対しては、アンジェリーナ・ジョリーさんが受けられた予防的手術なども対策として検討する余地があります。


人工乳房による再建手術は2013年の秋から日本では保険適用になりました(乳がんに適用)。


実は今、術式の前提が、「部分切除してその残した乳房に照射する」 「全摘をして再建する」この2つの間の二者択一というかたちに移り変わってきているので、日本の術式の選択に関してはかなり細かい判断が必要になります。


再建方法も人工乳房で再建する方法もあれば、自分の脂肪の一部をもってくるというようなかたちもありますし、或いは、MRIで画像診断がかなり細かく広がりを示すことができるようになったので、乳頭乳輪を残せるか、この先いきなり同時再建を希望するのか、それとも後から再建を希望する、これが選択肢としてでてきたことによって、かなり手術前に自分のがんの状態をいろいろと勉強していただかなければいけないという時代になってきました。


検診の話に戻りますが、

実は検診というのは、1000人検診をして50人がこの先がんがあるかをどうか調べる必要がある人が見つかって、そして、50人の中から3人のがんが見つかる、1000対50対3の法則を時々その話をしますが、そういう図式になっています。


例えば、乳がんの専門病院が年間150人の手術をする、一週間に3人ぐらい手術をするような施設では、10年経つと1500人の乳がんの患者さんを、例えば2年1回とか、年に2回とか検診することになりますと、一週間に60人、上記の3人のがんを見つける背景には、150人を手術する背景には5万人の検診受診者がいると考えていただかなければいけなくて、更には残念ながら再発する方もいらっしゃるので、10%の再発の患者さんを月1回診察をした場合は、それだけでも40人以上一週間診ることになるので、乳がんの専門施設といっても、検診を専門にする施設と精密検査までをする施設、手術や術後の抗がん剤、或いは再発のがんを治療する施設をちゃんと機能的にわけていかなければなかなか難しい。



MDアンダーソンというわたしが留学したときの(アメリカの)がんセンターがあるのですが、(>臨床症例数のみでなく研究分野においても世界のTOPレベルを争う有数のがんセンター) やはり、「がんを検診する、そして精査をする、そして実際にがんの人を治療する」というような連携がとても大切だとわかりました。


わたしが2005年に聖路加病院で初めてブレストセンターを作ったときに、MDアンダーソン病院の構想を元に作りました。それから2010年に昭和大学に移ったときは、何を考えて移ったかというと、若い人を育てて、専門のクリニックでがんを見つけるということをやる人や、長期に渡ってフォローアップするというようなことを中心に行う先生方を大学では積極的に養成していこうと考えて、だいぶその体制が整ってきたわけであります。


しかし、やはりこれからは連携が大切で、クリニックやこれから遺伝のことなども専門に診ていく中核病院が出来てくると、連携が大切です。でも連携の主役は、実は診療情報がその間で行き交うのですが、患者さん自身がとても大事で、患者さん自身が自分の病気のことを知って、そして自分の状態を正しく先生に伝えられるかどうかということが大切なので、

実は欧米では一足早く、スマートフォンやアイパッドに自分の病歴を入れて、それを持ち歩いてそこに情報をためていくというような、たとえばボタンを押せばニコニコマークなどが出てくるので、自分の状態に合わせてそれをポチっと押せば、一週間の間の出来事が簡単に診療所や病院に行ったときにわかるような仕組みが整ってきています。私たちもそれを導入するために今開発をしているところであります。


今後は治療効果の高い薬がたくさん出てきますので、ただその薬がすごく高かったり、特有の副作用があったりすることもあります。生命予後を延長することだけではなく、自分らしい生き方がどれくらいできるかということのために、どんな治療が自分にとってふさわしいのか、あるいは、どんな手術が自分のがんには適切なのか、それを考えるときに、自分の価値観を踏まえて考えていくという時代が来ていると感じています。


昨年残念ながらお亡くなりになってしまいましたが、わたしの恩師である日野原先生は本当に昔から全人的医療、患者中心の医療ということを言っておりますが、今まさにその人生観や価値観、食生活、住環境といった生活環境を把握して、尚且つ、心にも寄り添いながら医療を施す、こういったことを考えていかなければいけない時代だなと。改めてそのことを念頭において、乳がんの診療に関わっていきたいと思っております。 


日野原先生の名言 「治療は個別化の道を歩むが、全人的医療が根本にある」


以上、シンポジウムのお話でした。ありがとうございました。

訂正箇所があるときは更新します。




中村清吾先生 医師プロフィール
1982年 千葉大学医学部卒業後、聖路加国際病院外科にて研修
1993年2月 同病院情報システム室長兼任
1997年 M.D.アンダーソンがんセンターほかにて研修
2003年5月 聖路加国際病院外科管理医長
2005年 同病院ブレストセンター長(初代)・乳腺外科部長
2006年 聖路加看護大学 臨床教授兼務、日本赤十字看護大学 非常勤講師
2008年 千葉大学医学部 臨床准教授兼務
2010年 昭和大学医学部外科学講座乳腺外科部門 教授、昭和大学病院ブレストセンター長、臨床遺伝医療センター長兼務
2014年4月 昭和大学薬学部病院薬剤学兼担講師、徳島大学客員教授
2016年2月 天津医科大学客員教授