変革の時を迎えた乳がん検診。「個別化に向かう乳がん診療」 | ポポ山に祈りを込めて

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中村清吾先生のお話です(パンフレットより)

昭和大学医学部乳腺外科教授

日本乳癌学会理事長


乳がんは、わが国でも女性の罹患数では第一位、死亡数では第二位を占め、その発症リスクを知り、対策を講じることは喫緊の課題となっています。


特に、1985年の推計値では、約20,000人とされていましたが、2016年のがん罹患予測数(国立がん研究センターがん情報サービス)では、実に90,000人と、4倍以上となりました。


かつて、乳がんは、欧米人と比べて顕著に少なく、人種差があるのではないかと言われていたこともあります。


しかし、日本人、ハワイ在住の日系人、サンフランシスコの日系人、サンフランシスコの白人の罹患数の分布を比較すると、同じ日本人でも、ハワイ、サンフランシスコと移り住むに従い、そのパターンは、欧米型に近づくことが報告されています。したがって、人種差というよりも、食生活を中心とする生活習慣の影響が強く出ていることが示唆されます。


昭和30年代初め、まだまだ日本人の栄養状態は貧しく、摂取カロリーの約半分は米から取っていました。


しかし、その後のめざましい経済復興とともに、生活様式も欧米化し、1960年(昭和35年)を基準としてみると、40年余りを経た2004年(平成16年)には、米から摂るカロリーは全体の4分の1以下となり、その代わりに畜産物油脂類からの摂取量は4倍以上となり、総カロリーも約300カロリー増え、特に閉経後の肥満傾向が強まっています。


これまで、米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、肺がんを筆頭にがん発症リスクを減らすために、各種禁煙運動を進めてきましたが、肥満が、乳がん、大腸がん、前立腺がんの発症に強くかかわるとして、近年、積極的な減量対策に乗り出しました。


BRCA1/2と称する親から子に伝わる遺伝子に変異を有する人は、一般人に比べ、乳がん発症リスクが10倍以上であることが指摘され、MRIによる検診等が診療ガイドラインに盛り込まれています。


2015年1月、米国のオバマ大統領は、一般教書演説の中で、Precision Medicine(精密医療)を積極的に推進することを政策目標に掲げました。


この中の1つとして、ゲノム(遺伝子)情報を用いて個人のがん発症までの大きなリスクをより正確に把握し、そのリスクに応じた検診プログラムを確立することが掲げられています。


これによりマンモグラフィーを用いた検診を中心として年齢をもとに一律に推進してきた対策も、変革の時を迎えており、超音波やMRIを用いた検診の対象者の選定や至適時期及び間隔の設定において、一翼を担う可能性があります。


以上、これからの乳がんに対する予防、早期診断、治療戦略についての展望を紹介します。


「ピンクリボンシンポジウム2016東京」パンフレットより転載。