「抗がん剤は効きますか?」抗がん剤は無駄ではない。静穏の祈り。 | ポポ山に祈りを込めて

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しばしの休憩を。

前回の記事の、ピンクリボンシンポジウム2016東京、

渡辺亨先生のお話です。


渡辺先生はいくつかの症例を用いてお話をしてくださいました。


抗がん剤が効くとはどういうことなのか?

どんなことを期待するか?


近年、乳がんの遺伝子検査 の普及で、

患者さんの病状、生活環境、要望に合わせ、

的確な抗がん剤治療を行うことが出来るようになってきたそうです。

しかし、遺伝子検査は高額なため、

渡辺先生は日本でも早急に遺伝子検査の保険適用を一番に訴えています。


症例A:59歳 女性 

乳がんから骨に転移。

腸骨→恥骨→胸骨→腰椎(私が聞いた記憶なので・・この順番は違っているかもです)

骨転移による腰から足にかけて痛みが強くとても辛い。

主治医からもう打つ手は無いと言われ、渡辺先生の所に来院。

毎日農作業をしているので痛みの症状を緩和してほしい。


まずはホルモン療法を開始。


腸骨の痛みが強く。

ゼローダ(内服、カペシタビン)を開始→結果、痛みが消える。


しかし、手足症候群のため治療を中止。


また痛みが出たので、

脱毛は避けたいという希望からゲムシタビン(ジェムザール)開始。

しかし、ゲムシタビンは効かず痛みが強くなる。


次にナベルピン(ビノレルビン)に変更。

腫瘍マーカーが下がり、痛みも消える。


酷い便秘になり、ハラヴェン(エリブリン)に変える。

脱毛あり。 効果なし。


次にドセタキセル(タキソテール)に変更。

痛みが消え楽になった。 現在も治療中。


症例B;群馬に住む34歳女性

再発乳がん 肺転移 腎転移 骨転移悪化。

子どもの幼稚園の卒園式を見たい。

それまで延命を希望。


1985年8月 乳がんの術後、抗がん剤治療。

(年代は私の聞き取りミスかもしれません)


1988年5月 肺に転移 骨転移悪化 痛み増強 抗がん剤治療。


1991年1月 癌性胸膜炎で息が苦しく、体中が痛いと救急車で運ばれてくる。


3月17日にお子さんの卒園式があるので、

今のままではもたないと、渡辺先生の病院に来院。

延命できないなら諦めて群馬に帰りますと言った。


このときに今のように遺伝子検査が出来れば手探りではなく、

ピンポイントで治療法が選べるので、確実な治療が出来たはず。


1月18日 症状:苦しい、痛い

1月19日 パクリタキセル(タキソール)開始。

1月23日 意識朦朧 治療継続。

1月25日 気分が良くなり。食欲が出る

1月28日 パクリタキセル継続  痛みが消える


2月4日 パクリタキセル。 痛みなし。

2月15日 パクリタキセル。 元気になってくる。


3月3日 パクリタキセル 元気変わらず

3月9日  退院

3月17日  お子さんの卒園式に出席

3月22~29日 パクリタキセル。


4月5日 小学校の入学式に出席

4月30日 呼吸困難に。


5月17日 永眠。 


結果、約4ヶ月の延命だったけれど、本人の希望に答えることができた。


症例C:進行性乳がんの女性

手遅れと言われ渡辺先生のところに来院。

とにかく治してほしい、でも乳房は残したい、そして治癒を希望。


シャワー中にしこりに触れる。

近所の病院で4cmの悪性の癌と診断。

手遅れです。 乳房全摘の手術が必要ですと言われる。


がんにも性格が良い悪いがある。

ホルモン受容体がある、ない、HER2タンパクがある、ない、 など。


この患者さんは生検でHER2タンパク陽性。 

トラスツズマブ(ハーセプチン)が効くタイプのがんだった。


HER2陽性乳がんとは、 

がん細胞の表面にHER2タンパクがたくさんあるそうです。

HER2タンパクがぶつかり合うと増殖せよという信号が細胞に送られる。

この治療にハーセプチンが有効。

HER2陽性ではない乳がんは、ホルモン療法がよく効くタイプ、又はトリプルネガティブ。



術前抗がん剤でがんを小さくする治療を開始。

前半はトラスツズマブ(ハーセプチン)+ビノレルビン 12weeks

後半はトラスツズマブ+パクリタキセル(脱毛あり) 12weeks


結果、がんは小さくなり乳房温存手術へ。


生検の結果、がんは完全消滅。 生きたがん細胞はなかった。

これを病理学的完全効果と呼ぶそうです。


手術しなくてもよかったのではないかという疑問が残るが、

患者さんからオペの要望があった。


それから8年後、患者さんには孫娘が生まれ、孫の顔を見ることも出来た。


今回の治療で、乳房を残し治すという患者さんの希望に応える事ができた。


以上が症例です。


最近は抗がん剤というと、効果がないからやめなさいという本がたくさん出てきていますが、

症例のように、治療は患者さんによって違ってきます。

今回は、症状予防(記事には書いていません)、延命治癒に分けた抗がん剤の治療を取り上げました。

患者さんそれぞれの希望による治療の個別化や、副作用の少ない抗がん剤の新薬により、抗がん剤はけっして無駄ではないことが分かります。


今後、遺伝子検査が保険適用になれば、更に治療の効果が上がる。


今までのように手探りの治療から、しっかりと目に見える治療が可能になる。

効果が実感できれば、辛い抗がん剤治療にも耐えられるようになると、

渡辺先生が話されていました。


脱毛について。


副作用で一番困るという患者さんからの声は脱毛です。


パクリタキセルが一番脱毛します。

ホルモン療法でも、ちょっと脱毛します。


HER2タイプに対して、

カドサイラという新しい抗がん剤が出来ました。

パクリタキセルを使わずに、同効果で脱毛しない。

再発後の患者さんに対してもカドサイラを使えるので、非脱毛の選択が可能です。


医師に希望をきちんと伝えてほしい。そうすれば医師も答えてくれます。


渡辺先生は最後に ニーバの祈り。

日本語訳 「静穏の祈り」を紹介してくださいました。

(ここには講演会で話された内容の原文を載せました)


「静穏の祈り」

神よ

変えることのできないものについては、

それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。

変えることのできるものについて、

それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。

そして、
変えることのできるものと、変えることのできないものとを、
識別する知恵を与えたまえ。


乳がんのサブタイプについてはこちらを参考にしてください

乳がんを学ぶ 薬物療法

http://ganclass.jp/kind/breast/pharmacotherapy.php



2006年のものですが、渡辺亨先生の本です。

「がん常識の嘘」

アマゾンでKindle版または中古で購入できます。

新品は在庫無し。



説明

ガンについて“常識”と思われていることが誤りだったり、研究が進むにつれて全く逆だったりすることがある。「早期発見、早期手術は必ずしも正しくない」「乳がんが肺に転移しても乳がん」「もう手遅れで使う薬がない、ということはない」「専門医がホルモン療法を知らない」 など、国立がんセンター中央病院内科医長を務めた著者が、具体的な症例も紹介しながら、知られざる事柄を明らかにする。




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