「ブギウギ」 第90回
第19週「東京ブギウギ」
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善一） これ、君の歌だ。
スズ子） えっ？
善一） すごいのが出来てしまったよ！
いいかい？ これは福来君の復興
ソングであると同時に、日本の復興
ソングでもあるんだ。♪「ダ～バ～バ
～ ババババ～ バババ ババババ～」
（紙ナプキンに書き殴りの楽譜）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（楽譜を見る佐原）
佐原） これは・・・いいですよ。
来ます。絶対に来ます！
善一） ブギのメロディーは、上海で、
李香蘭君に、「夜来香ラプソディ」を
歌ってもらった時にも試したんだ。
その時から、絶対に、福来君向きの
メロディーだと確信していたよ。
山下） 目ぇに浮かびますわ。
スズさん、ごっつい踊りますでえ！
善一） だろ？ それに、この鈴木ちゃん
の詞はどうだい？ 僕の曲を聴いて、
10分でこの詞を書きやがったんだ。
全くあの野郎は、面倒くさいやつだと
思っていたけど、最高にイカしてるよ。
福来君に早く見せたいよ。
一刻も早く、世に出そうじゃないか。
佐原） どのタイミングで出すか。
舞台なのか、レコードか・・・。
善一） それは、君の腕の
見せどころじゃない。
でもまずは、大勢の人が一気に
聴けるレコードを出してみて、
それから舞台にかけるのは
どうだい？
佐原） そうですね。出し惜しみ・・・。
山下） あの・・・。
レコード出すんやったら、私に
ちょっとしたアイデアがあるん
ですが・・・。
善一） 何ですか？ 山下さん。
山下） 素人考えで申し訳ないんでっ
けど・・・レコーディングに、米軍の
ＧＩを、呼んだらどうでっしゃろ？
佐原） はあ？
何を言ってるんですか。
何でわざわざ米兵を呼ば
なきゃならないんですか。
意味が分からないですよ。
善一） いや、山下さん・・・
グッドアイデアですよ！
山下） いけますか！？
いや、あいつらこういう感じの
音楽好きやないかと。
佐原） いやいやいやいや
ちょっと先生！
善一） 佐原ちゃん。
山下さんの言うとおりだよ。
ブギはもともと向こうの音楽なんだし、
連中は気に入ればすぐに踊り出す。
いい試金石にもなるよ。それにこの
復興ソングを是非彼らにも聴いても
らいたいねえ僕は！
佐原） ああ～
でも上が何て言うかな・・・。
そんなことした、前例ないしなあ・・・。
（机をたたく善一）
佐原） おいおい！
何つまらないこと言ってるんだよ！
日本のブギってのを、連中に見せ
つけてやろうじゃないか！
（善一と山下の笑い声）
山下） 先生最高ですわ！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
スズ子） え～っ！
アメリカさんの前で歌うんでっか！？
善一） そうだよ。何か問題あるかい？
スズ子） いえ、問題いうわけやないん
でっけど・・・。ただでさえ、久しぶりの
歌やし、外国人がぎょうさん見てる前
で、歌たこともありませんし・・・。何や
妙な感じですやん。
山下） 何を言うてるんですか、
スズさんらしゅうもない！ 妙なこと
ばっかりしてきたでしょうが。
善一） そうだよ。それに君なら
絶対に連中に喜ばれるよ。
どっちかっていうと君は向こう
っぽいよ。あいつらが喜べば、
「東京ブギウギ」は大成功だ。
いっちょ連中をびっくりさせて
やってくれよ。
スズ子） はあ・・・。
善一） 何だい何だい！ さえないな。
そうだ。ようやく歌詞も出来たんだよ。
鈴木さん知ってるだろ？ やつが
面白いものを書いてくれたんだ。
どうだい見てくれよ。
思わず僕スイングしちゃったよ！
スズ子） あ・・・ありがとうございます。
鈴木さんは、存じ上げまへんけど・・・。
善一） そうだっけ？ 何度も会ってるよ。
あの、牛乳瓶みたいな眼鏡の。
（楽譜を見るスズ子）
スズ子） 「東京ブギウギ リズム
ウキウキ 心ズキズキ ワクワク」。
ズキズキ ワクワク・・・。
善一） そうだよ。
ズキズキ ワクワクだよ。
いい響きだろう！
ドキドキじゃない。
ズキズキなんだよ！
ズキズキ ワクワク！
スズ子） ズキズキ・・・ワクワク・・・。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夕方の茶の間＞
スズ子） ♪「東京ブギウギ
リズムウキウキ
心ズキズキ ワクワク」
（愛助の写真を見る）
（回想）
愛助） スズ子さんの歌には
力がある。福来スズ子の
歌声は生きる糧。生きる
希望になるんやから。
（スズ子の瞳に力がみなぎる）
スズ子） ♪「心ズキズキ ワクワク」
（揺りかごの中でちっちゃな
手を動かす愛子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
昭和22年（1947） 9月
山下） カモンや！
こっちカモンやで！ こっちや！
（米兵をスタジオに誘導する山下）
山下） ア～ンド ナイスや、ナイスや！
善一） よ～し、ズキズキ ワクワク
してきたねえ。ははっ！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜控え室＞
スズ子） ほな、愛子、
ちょっとだけ待っててや。
（ノック）
スズ子） どうぞ。
山下） 準備どうだす？ アメリカ連中
まだかまだか言うて待ってますわ。
スズ子） いけます。
ふう～。久しぶりの緊張感や。
（手の平に人という漢字を
書いて飲み込む）
（呼吸を整える）
スズ子） よし、いこ！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（乳母車を押し、スタジオに入る）
（米兵がジロジロ見る）
スズ子） あかん、お代わりや。
（人という漢字を飲み込む）
善一） 福来君！
やつらを驚かせてやろう。
頼んだよ！
スズ子） 人の気ぃも知らんと・・・。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（マイクの前に立つスズ子）
スズ子） よろしゅうお願いします！
兵隊さんらも、楽しんで！
（真顔の米兵たち）
スズ子） 笑てえや・・・。
（スズ子に頷き、楽団に向かい、
指揮をする善一）
（乳母車の愛子と一緒に録音室
から見守る山下）
（スズ子が歌い出す）
米兵） オー マイ ガー！
米兵） イッツ ジャスト ライク ビーン
バック ホーム！
米兵） ワオ！ ディス イズ
リアル ブギウギ！
米兵） オー！ ディス イズ ザ ベスト！
米兵） ワ～オ！
米兵） カモン！
米兵） イッツ ソー グッド！
米兵） イエ～！
（踊る米兵たち）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
佐原） すぐに、福来スズ子
ワンマンショーをやりましょう！
これはレコード発売から間を
置いちゃ駄目です。
絶対に駄目です！ レコードと、
ワンマンショーはワンセット。
長年この業界でやってきた私の
勘が、働きまくってますから。
善一） うんまあその辺は佐原ちゃん
に任せるけど、じゃあいつやるんだ
い、そのワンマンショーは。そんな
都合よく会場空いてるかい？
佐原） 抜かりはありませんよ。
都合よく日帝劇場が空いてる日が
あるんです！ もう、仮押さえしちゃ
いました。
山下） 怒られるんやないんでっか？
そんな先走ったことしたら。
佐原） 何をおっしゃる。
前例のないことをやるから
面白いんじゃないですか。
善一） 福来君、どうだい？
久しぶりの舞台だ。
スズ子） もちろん、ワテは、一も
二もなくやりたいでっけど・・・。
佐原） 何何？ けど何？
スズ子） 舞台となると、お稽古が
ありますやろ？ そうなると、愛子
を、どないしようかと・・・。
山下） そんなんワシがなんぼでも
面倒見ますがな。
スズ子） オシメ替えるんで精一杯
ですやろ。もちろん、ありがたい
でっけど・・・。
佐原） だったら、子守を雇えばいい
じゃない。代金はうちが出すから。
スズ子） ありがたいんでっけど、
知らん人に、世話してもらうんは、
何や・・・。
佐原） 何や何？
スズ子） 愛子が、
さみしいんちゃうかって。
佐原） いやいや、愛子ちゃんまだ
そんなこと全然分からないよ。
心配ないって。
善一） 何なら、うちの麻里さんに
お願いしてみようか。愛子ちゃん
のこともよく知ってるし、手ぐすね
ひいて待ってるよ、頼られるのを。
スズ子） いえいえ・・・。
麻里さんにはもう何から何まで
お世話になりっぱなしやから。
善一） いいんだよ、なれば・・・。
スズ子） あの・・・。
ワテは、やれるかぎり、自分で、
愛子の世話をしたいんです。
なんぼ大切な仕事やいうても、
愛子と離れとうないんです。
ご迷惑かけんようにやりますさかい、
愛子を稽古場に連れてきて、ワテが、
自分で世話をしながら、お稽古させ
ていただいても、よろしいでしょうか？
善一） （指を鳴らす音） よし！
いいよ、そうしよう！
佐原） いやいやでも・・・大丈夫
ですかね？ 赤ちゃんがいて。
善一） 大丈夫じゃないかな。別に
だっこして歌うわけじゃないし。
なんとか子連れ出勤して
みましょうよ。
佐原） 前例がないからなあ・・・。
弱ったなあ。
スズ子） なんとか、
よろしゅうお願いいたします！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜ガード下＞
スズ子） すんまへんなあ、
わがまま言うて。
山下） いやいやいや・・・。
スズさんの気持ちはよう分かります。
愛子ちゃんに、一時も寂しい思いさ
せたないいうんも、いろいろあった
スズさんならそらそやろな思います
わ。やるだけ、やってみまひょ。ワシ、
オシメ替えるん以外もいろいろでき
るようになってまんねんで。
スズ子） え～っと、
何ができるんでしたかいな？
山下） 「いない いない ばあ」
できまんがな。
スズ子） そらすごい！
（笑い声）
達彦） おばさん！
おばさん、靴磨こうか？
シュー シャイン！
山下） 悪いな、坊主。
この人の靴、ピカピカやろ。
達彦） おばさん、お金持ってるでしょ。
いい靴履いてるもん。磨いてよ。
スズ子） そやなあ・・・。
（少年の体は汚れ、服はボロボロ）
スズ子） そしたら、お願いするわ。
達彦） ありがとう！
終戦から2年、町中には、
まだ貧困に苦しんでいる
人々が、たくさんいました。
スズ子） ボクは今、いくつなん？
達彦） 俺？ 8歳だよ。
スズ子） 8歳いうたら、小学2年生？
達彦） さあ知らねえ。
学校は行ってないからな。
おばさんは何してる人なの？
こんな靴履いてる女の人は、
ここいらじゃ珍しいよ。
スズ子） おばちゃんはなあ・・・歌手や。
達彦） へえ～すごいね！
何か歌ってよ！
スズ子） う～ん・・・タダでは
歌われへんなあ。
達彦） ヘン！ 別に聴きたかねえけど。
はい、いっちょ上がり！ 6円。
スズ子） おお～ピカピカや！ おおきに。
え～っと、10円でお釣りある？
はい。あ・・・。
（奪い取る少年）
達彦） 釣りはねえな。代わりに今度
サービスするよ！ じゃあね！
山下） おいおい・・・コラ！
達彦） シュー シャイン！
山下） ちゃっかりしたガキや。
スズ子） せやけど、
大変なんやろなあ。
頑張るんやで～！
（親指を立てる少年）
（回想）
善一） いいかい？ これは福来君の
復興ソングであると同時に、日本
の復興ソングでもあるんだ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
そして、福来スズ子、
ワンマンショーの稽古が
始まりました。
スズ子） ♪「東京ブギウギ
リズムウキウキ
心ズキズキ ワクワク
海を渡り響くは 東京ブギウギ
ブギの踊りは 世界の踊り
二人の夢の あのうた
口笛吹こう 恋と」
善一） スト～ップ！
ストップストップストップストップ！
福来君、もっとだ。もっといこう。
もっといけるよ。もっともっと。
スズ子） はい。
善一） さあいくよ。
トゥリー トゥ ワンゼロ！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
福来スズ子の復興ソングであり、日本の
復興ソングでもあった、「東京ブギウギ」。
なるほどね～。ずっと違和感があったの
よね。歌詞の、心ズキズキという言葉に。
そうだよ。
ズキズキ ワクワクだよ。
いい響きだろう！
ドキドキじゃない。
ズキズキなんだよ！
ドキドキじゃない。痛みを伴う、ズキズキ。
心も体も傷ついた人々が聴く復興ソング。
ここに至るまでの、スズ子や日本の状況
を見て来て、ようやく腑に落ちたって感じ。
いろんな思いを抱えて、未来を見つめる。
ズキズキする。でも、ワクワクしたいのだ。
いいねいいね。すんばらしい歌詞だわ～。
レコーディングは米兵の反応のみで表現。
完成形はまだお預け。お楽しみはこの先。
役名のある靴磨きの少年は、なんらかの
キーパーソンになるんだろうね。話のタネ
は、着々と蒔かれている。ワンマンショー
の稽古も始まり、本番が楽しみすぎる～。
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