「ブギウギ」 第73回
第16週「ワテはワテだす」
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愛助） タナケンと共演？
決まったんか？
スズ子） まあ、そやな・・・。
愛助） すごいやないか！
スズ子） え・・・。
愛助） 喜劇王タナケンと、スイング
の女王福来スズ子の共演やで？
何が起こるんや？ 想像でけへん。
分かってることはただ一つ。
最高の舞台になる！ そやろ？
スズ子） どうやろ？
愛助） はあ？ 何やスズ子さん、
気乗りしてへんのか？
スズ子） 断るつもりやったのに、
あれよあれよと引き受ける流れ
になってしもてな。
愛助） 断るやなんてそないな
もったいないことあるかあ！
スズ子） 愛助さんは、タナケンに会う
てへんからそないなこと言えるんや。
無口で、何考えてるか分からへん、
けったいなおっさんやったで？
映画のタナケンとはまるで別人や。
愛助） そんなん珍しない。舞台を
降りたら無口で神経質なんて、
うちの漫才師や落語家にも
ぎょうさんおるわ。
スズ子） そうなん？
愛助） そうや。せやからそんなん
気にせんと、胸借りるつもりで
ぶつかったらええ。スズ子さん
にとって、絶対ええ機会になる。
応援してるで。
スズ子） そういうもんかなあ・・・。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（闇市近くの路地に、
スズ子が一人立っている）
秋山） 福来さん！
スズ子） 秋山！
秋山） 福来さん！
スズ子） 秋山～！
この日、大阪から、
秋山美月が、
東京にやって来ました。
スズ子） 無事やったんやな。
秋山） はい。
スズ子） みんなも無事か？
リリーは？ 和希ちゃんは？
秋山） みんな無事です。
（抱き合う2人）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
スズ子） 戦争中は、
大変やったやろ？
秋山） もう、必死でした。
劇場が閉鎖されたあと、地方に
疎開した子も何人かおったけど、
ほとんどが、挺身隊として、内地
の慰問に回って、歌も踊りも、
なんとか続けました。
スズ子） みんなふんばったんやな・・・。
秋山） そやけど、戦争が終わって、
これからやって時に、桜庭さん、
ＵＳＫやめはったんです。
スズ子） 何で？
秋山） 空襲で、お母さん亡くさはって。
家のこともせなあかんやろし、今は、
実家の畳屋さんも忙しいらしいて。
今は、残ったみんなで頑張ってます。
ウチが、男役トップで、娘役はリリー
さん。桜庭さんの分も、ええ舞台作ろ
なって。
スズ子） うん。
あっ、林部長はどないしてる？
秋山） あの人が一番張り切ってますよ。
もう戦争中は、和物や愛国物ばっかり
やったから、これからは、華やかな洋
物やるんやって毎日走り回ってます。
スズ子） ふふふ。生き血が足りへんな。
秋山） ホンマですよ。福来さんは、
今、どうされてるんですか？
スズ子） ワテは、自分の楽団解散して、
舞台に出演することになってんねん。
秋山） 舞台？
えっ、歌やなくてお芝居ですか？
スズ子） うん、そやねん・・・。
秋山） へえ～！
スズ子） 棚橋健二って、知って・・・。
秋山） タナケンですか！？
大スターやないですか！
共演するんですか？
スズ子） そやねんけど、何やよく
分からんけったいなおっさんや・・・。
秋山） ウチ大ファンなんです！
タナケンとやなんてさすが福来さんや。
うわ～。いや～大阪のみんなも驚く
思いますよ。
スズ子） そうか？
秋山） はい。
スズ子） そやろ？
秋山） ・・・はい。
スズ子） そやねん。ふふふふ・・・。
明日から稽古や。
まっ、ワテも頑張ってるで。
ふふふふふふ・・・！
秋山） 負けてられへん。
今日は、これで失礼します。
スズ子） もう行くんかいな。
秋山） ウチ、新しいダンス習おう思て、
公演の隙間縫って東京来たんです。
新人もぎょうさん入ったし、新しい
ＵＳＫを、ウチらが作っていかな。
福来さんの話聞けて、やる気出ま
した。必ず、ＵＳＫを、日本一の
歌劇団にします。
スズ子） 秋山、
あんたやったらでけるわ。
応援してるで。またな。
（秋山を見送るスズ子）
（秋山の前を、アメリカ兵と
小夜が横切っていく）
（追いかけるスズ子）
（秋山を追い越していく）
秋山） え・・・？ 何で？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（人でごったがえす闇市）
スズ子） えっ？ え・・・。
すんまへん。
男性） ああ。
スズ子） 今、ここを女の子が
通っていきましたやろ？
アメリカさんと、腕組んで。
男性） ああ・・・。
スズ子） どっちへ行ったか
分かりまへんか？
男性） へへ・・・
いちいち見ちゃいねえよ。
しかしあんた、パンパンなんか
追っかけてどうすんだよ？
スズ子） パンパン・・・。
男性） ああ、この辺でよく見る女だよ。
アメ公相手にいつもベッタリ
くっついて歩いてやがる。
スズ子） 小夜ちゃんが、パンパン・・・。
そんなはずあらへん！
男性） あ？
スズ子） あ、いや・・・すんまへん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夜＞
愛助） おっ、セリフ繰ってんのか。
スズ子） うん・・・。
愛助） ちょ、見してみ。
（台本を手に取る愛助）
愛助） 「ど・・・どうして不安そうに
おっしゃるんですか？」。
上品な言い方。原節子みたいや。
なっ？ スズ子さん？
スズ子） 今日、小夜ちゃんがおった。
愛助） 小夜ちゃん！？
どこで？ 何してたんや？
スズ子） それがな・・・アメリカさんと、
腕組んで歩いてたわ。闇市の辺りで。
愛助） スズ子さん、それ・・・。
スズ子） そうやとしたら、何でや？
愛助） 付き人やめて、
金に困ってんのかもしれへん。
女が一人で生きていこ思たら、
並大抵やないやろ。
スズ子） いや、やっぱり、
何かの間違いや。
うん、ちゃうちゃう・・・。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
そして、いよいよ、スズ子は、
「舞台よ！ 踊れ！」の、
稽古初日を迎えました。
田中） 尊敬する棚橋先生の舞台、
全力で、頑張らせていただきます！
（拍手）
男性） ありがとうございます。
では最後に、雪子役の、
福来さん、お願いします。
山下） 福来さん！
スズ子） あ・・・はい、はい！ あ、はい。
え～あの、お芝居は初めてで、緊張
しております。皆さん、いろいろ教えて
ください。よろしゅうお願いいたします。
男性） 福来さんには、音楽監督である、
羽鳥善一先生作曲の、「コペカチータ」
で、この作品を盛り上げていただくこ
とになっております。
スズ子） 頑張ります！
（拍手）
男性） 役者紹介は、以上となります。
棚橋先生、何か、
お言葉ございますか？
棚橋） ありません。
稽古を始めましょう。
一同） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「舞台よ！ 踊れ！」は、歌って
踊るレビュー劇団の物語です。
スズ子が演じるのは、
新人女優、雪子。タナケンは、
演出助手の木下です。
とある舞台の、本番直前、安い賃金
に不満を募らせた、劇団の看板
女優が、逃げ出してしまいます。
その穴を埋めようと奮闘する、
雪子と木下ですが、
さて、どうなることやら。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
田中） 「一体どうすりゃいいんだ？
この期に及んで、高山真知子の
穴を埋めるなんて不可能だろう！
おい木下！」。
棚橋） 「はい木下です」。
田中） 「お前なんとかしろ！
棚橋） 「私ですか！？」。
田中） 「私だ」。
棚橋） 「いや～・・・っと、
う～ん、あっ、え～？」
「雪子！ 雪子なら絶対大丈夫だと
思うんですけどね・・・」。
スズ子） 「ど・・・どうして不安そうに
おっしゃるんですか？」
棚橋） 「えっ、どうしてですか？」。
スズ子） 「あ・・・あなたがおっしゃっ
たんじゃありませんか」。
棚橋） 「あっしがですか？」
田中） 「おい木下。こんな新人に、
高山真知子の代わりが務まる
はずないじゃないか！
失敗したらお前」・・・。
棚橋） やめ。
田中君。
田中） はい。
棚橋） セリフもっと詰めて、歯切れ
よく。試しに、もっと言葉を強く出し
てみてくれるかな。
田中） はい。
棚橋） じゃあもう一度。
スズ子） あ・・・あの～。
ワテはどないでっか？
棚橋） 君は・・・どうだろうね。
スズ子） そんな・・・。よいとか悪い
とか、何かありまっしゃろ？
棚橋） じゃあもう一度同じ
ところから！ はい！
（手をたたく音）
田中） 「一体どうすりゃいいんだ？」。
棚橋） 今日の稽古はこれで
終わりにします。田中君。
田中） はい。
棚橋） 今日やったことを明日もう
一度確認させてもらえるかな。
田中） はい。
棚橋） どうもしっくりこない・・・。
（出て行くタナケン）
男性） 棚橋先生、帰ります！
一同） ありがとうございました！
スズ子） 皆さん、お疲れさまでした。
田中） いいよな、人気歌手は。
ただそこにいりゃあ、
役が務まるんだから。
スズ子） そんな・・・。ワテかて、
何か言うてもらわんと、
不安でしかたないんです。
田中） フッ・・・。
棚橋先生は歌手に上等な芝居
なんか求めちゃいないよ。
つまり、期待されてないってこと。
（出て行く役者たち）
山下） いや～福来さん、
すばらしかった！ 初めての
お芝居とは思われへん。
原節子がおんのか思いましたわ。
スズ子） 全然そんな気せえへん
けど・・・。今かて田中さんに、
「期待されてない」、言われて
まいましたけど・・・。
山下） タナケンさんの芝居いうたら、
嫌でも注目されます。役者の皆さんも、
気持ちが張り詰めてはるんでしょう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（路地をぼんやり歩くスズ子）
（アメリカ兵とぶつかる）
スズ子） すんまへん。
サム） ソーリー。
（アメリカ兵と腕を組む小夜）
スズ子） 小夜ちゃん？
小夜） スズ子さん・・・。
あんた、この人と何してんねん！？
まさか・・・。
小夜） そうでねえ！
スズ子） ほんなら、何や？
ずっと、どこにおったんや。ワテ、
ずっと心配してたんやで？
小夜） 今は、
工場で住み込みで働いでる。
サムは、オレの・・・恋人だ。
スズ子） 恋人て・・・。小夜ちゃん、
あんたは、恋してるか知らんけど、
兵隊さんらにしたら、一時のこと
なんやで？ いつかアメリカに
帰ってまうんやから。
小夜） いいや！
オレはサムを信じでる。
ずっと一緒にいでくれるって
約束したんだ。
スズ子） そんなんうそに
決まってるやろ！
サム） ウェイウェイ。
（英語で）サヨ、何が起こってる？
この人は誰？
サヨの知り合いかい？
スズ子） 何ごちゃごちゃ
言うてんねん！
あんたが小夜ちゃんを
たぶらかしたんやな！？
サム） たぶ・・・ら・・・？
スズ子） あんたのせいで小夜
ちゃんはワテの前から・・・。
小夜） 違うっつってっぺ！
サムと恋仲になったのは、
スズ子さんから離れたあとだ。
スズ子） ほんなら、
何でおらんようになったんや？
小夜） とにかく、
オレのことは放っといでくれ！
スズ子） さ、さ・・・小夜ちゃん！
（サムと腕を組み、走り去る小夜）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
小夜と米兵・サムが～！ やっぱりね
と思いつつ、スズ子の反応が面白い。
サムにかみつく様子がデジャブ～♪
愛助にかみついた小夜にそっくり～。
ふふふ。立場が逆転してるのがいい。
あれも愛、これも愛。大事な人のこと
は心配になるよね。なかよしだね～。
タナケンの芝居の稽古が始まったも
のの、何も言ってもらえないスズ子。
何も言ってもらえないのが一番辛い
というか、どうかしようもなくて、困る。
まあ、展開は見えているけれども・・・
できあがる舞台が今から楽しみ～♪
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