「舞いあがれ！」 第93回
第20週「伝えたい思い」
いつまでも同じではいられないんだ
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史子） 今梅津先生は、
歌人として一番大事な時期です。
素晴らしい第一歌集を出していた
だくために、私も精一杯支えたい
なって思ってます。そやから、先生
のそばにおること、悪く、思わんと
いてくださいね。じゃあ…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
久留美） 何て？
貴司君に近づくなってこと？
舞） ただ、貴司君の力に
なりたいだけやと思う。
久留美） 舞も舞いやで。
何で黙って引き下がんの。
舞） 秋月さんな、貴司君の短歌の
こと、よう分かってはんねん。けど
私は…今の貴司君に、できること、
ないねんな。
久留美） 何言うてんの。どんな時でも、
自分にできること、探すのが舞やろ？
舞） うん…。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（貴司の短歌を読んでいる北條）
北條） ♪（鼻歌）
史子） どうぞ。
（お茶菓子を出す史子）
史子） どうぞ。
貴司） ありがとう。
北條） ♪（鼻歌）
何でいんの？
史子） 見学させていただきます。
後学のために。
北條） 本音は？
尊敬する先生を、
俗物から守りたい？
史子） ご明察です。
北條） 10首、
読ましてもらったけどさぁ。
駄目だね。
史子） 駄目って…。
北條） これまでの歌と、変わってない。
あまりにも地味。
（お茶菓子を頬張る北條）
史子） 失礼ながら、読み取る力が
おありにならないのでは？
貴司） 秋月さん…。
史子） 私には伝わりました！
北條） じゃあ２人だけで
通じ合ってればいい。
梅津さんはさぁ、本当に歌集を
出したいと、思ってる？
貴司） はい。
北條） 何で？
貴司） ………。
北條） 歌集を出したいんならさ、
ちゃんと大勢に伝わる歌を書いてよ。
短歌を作るってことは、自分の中の
本当の気持ちを差し出すってことで
しょ。梅津さん何か…伝えることを
諦めてる気がするんだよね。自分
だけの狭～い世界で満足してる。
僕が出版したいのは、売れる歌集
なんだよ。このままじゃ、梅津さん
の歌集は出せない。
それじゃ、ごちそうさま。失礼。
（出て行く北條）
（頭をかきむしる貴司。
史子） 先生。元気出してください。
北條さんは歌集を売ることしか考え
てへんのです。たとえ、ほかの人に
理解してもらえなくても、先生の歌の
よさは、私がちゃんと分かってます。
自信持って、先生らしい短歌を作っ
てください。
貴司） ありがとう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜朝・岩倉家＞
（食事の手を止めるめぐみ）
めぐみ） 舞。
舞） ん？
めぐみ） どないしたん。
舞） あ…フフフ、何もない。
めぐみ） 御園さん、来はんの
忘れんといてな。舞にもっと
話聞きたいねんて。
舞） うん、３時やっけ。
めぐみ） うん。
舞） うん。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜IWAKURAの会議室＞
御園） そう、お父さんが残してくれた
工場を、なんとかしたかった。
舞） はい。
御園） 偉いなぁ…。
でも、もったいないよね。
パイロットになれるとこだった
んでしょ？ 後悔してない？
舞） してません。
御園） 本当に？
舞） 本当です。
御園） ふ～ん。
舞） みんなで、力合わせてねじ作ん
の、楽しいんです。うちはええねじ
作ってるって、誇りに思えるのも、
うれしいですし。この工場も、私自
身も、もっともっとできること増やし
ていきたい。そう思うと、ワクワク
するんです。
御園） そっか。実はね、私の実家も、
町工場だったの。
舞） そうなんですか？
御園） うん。もうだいぶ前に閉めちゃ
ったんだけど、その時、工場を残し
たいとか継ぎたいとか思わなかった
から、舞さんのことが気になる。
今28歳だっけ？
舞） はい。
御園） 仕事以外はどう？
舞） 仕事以外？
御園） つきあってる人、いる？
舞） ああ…いません。
御園） じゃあ、好きな人は？
舞） 好きな人…。
御園） うん。
（回想）
久留美） 貴司君のこと、
好きなんやろ？
（回想）
舞） ええ友達やなぁ思て。
御園） 舞さん？
舞） あっ、いや…
好きな人も、いないんです。
御園） 今日さ、仕事のあと時間ある？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夜・カフェ・ノーサイド＞
御園） で？
好きな人はどんな人なの？
舞） せやからいません。
御園） あのね、ごめんね、
新聞記者って、うそを見抜くのも
仕事のうちなのね。
（舞の目が泳ぐ）
御園） やっぱり！ 両思い？
舞） いや…違います。
御園） 何…向こうは
気持ち知らないの？
舞） はい。
けど…これでええんです。
御園） どうして。
舞） ちっちゃい頃から、
何でも話してきた人なんで。
その関係変わってしまうん、
怖いんで…。
御園） まあ、いいけどね。
大事なのは恋愛だけじゃないし。
舞） そう思います？
御園） うん。
私はもう恋愛も結婚もしない。
舞） 何でですか？
御園） 身軽でいたいから。
私の人生だし、
自由に好きなことをしたい。
でもさ、舞ちゃん。後悔しない？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜デラシネ＞
（ノートに書いた文字を塗り潰す貴司）
（店の隅に座っている史子）
貴司） 夜遅いし帰った方がええよ。
史子） 座敷わらしやと思って、
無視してください。
貴司） フフ…。
史子） やっと笑ってくれはった。
（表を見る貴司）
貴司） 北條さん。
北條） もういっぺんだけ、話そうか。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
北條） あと10首なんだよ。
たった10首だけ書いてくれれば
本を出せる。これまでの300首
とは毛色の違う10首をね。
史子） それって、人目を引く
ための10首ですよね。
北條） ああそうだよ。
史子） 本を売るために書かせる
なんてあなたのエゴです。梅津
先生のよさは野の花のような歌
を書かれるところにあって…。
北條） 君の方がエゴイストだよ！
史子） どこがですか！
北條） 自分好みのきれいな短歌
だけ書いててほしいんでしょ。
美しいソプラノを聞きたいが
ために少年の成長を止める
ような残酷さを感じるね。
梅津さん。自分の殻を破って、
初めて歌人は成長する。
自己満足の歌はもう要らない。
一人でも多くの人間に伝わる
歌を書いてほしい。
梅津さん成長しないと。いつま
でも同じではいられないんだ。
貴司） 分かりました。
北條） よし。じゃあ、まず、
どんな歌が欲しいかだけどさ。
貴司） はい。
（原稿用紙に、 漢字三文字で
「相聞歌」と大きく書く北條）
北條） 恋の歌を書いてくれ。
伝えたいけど、伝えられない思い、
胸の奥で燃えている恋心、
それを歌にするんだ。みんな
飢えてんだよ、そういう歌に。
情熱的な恋、経験あるでしょ？
まあなければフィクションで。
（そっと、貴司を見る史子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜岩倉家＞
（明かりを消した部屋の窓辺に舞）
（向かいに貴司の部屋の窓）
舞） （ため息）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ブラボー～！めっちゃ見直したよ、グッジョブ！
胡散臭いだけの男かと思ったら、意外とちゃん
とした編集者だったよ、リュー北条。ありがとう、
グイグイ史子を黙らせてくれて。貴司の成長を
促してくれて。課題に相聞歌を提案してくれて。
自分好みのきれいな短歌だけ
書いててほしいんでしょ。
美しいソプラノを聞きたいが
ために少年の成長を止める
ような残酷さを感じるね。
何者でもなく、ただの、一ファンでしかないのに、
歌人でも、編集者でもなく、知り合いですらなく、
勝手に押しかけてきた、勘違いも甚だしいグイ
グイ史子に、君の方がエゴイストだと言う北条。
ホントそれ。スッキリしたよ～。ありがとう北条！
梅津さん。自分の殻を破って、
初めて歌人は成長する。
自己満足の歌はもう要らない。
一人でも多くの人間に伝わる
歌を書いてほしい。
梅津さん成長しないと。いつま
でも同じではいられないんだ。
貴司も、舞も、いつまでも同じではいられない。
互いに成長して…新しいステージに行かない
とね。さ～て貴司の恋の歌とは？ ワクワク♪
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