「舞いあがれ！」 第63回
第13週「向かい風の中で」
仲間がおるから、頑張れるんやろ
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舞ちゃんが、工場を手伝い始めて、
ひとつきが経ちました。
垣内） 200個の注文やから、
203個ずつ入れてな。
舞） はい、ありがとうございます。
垣内） お願いします。
（回想）
西口） 商品こん包の仕事は、
最後のとりでや。
舞） 最後のとりで。
（ねじの検品をする舞）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜休憩室＞
（肩をたたく舞）
山田） えっ、そんなにしんどいですか？
舞） ああ…何や、
えらい力入ってたみたいで…。
山田） 「私、頑張ったぁ」ちゅう
アピールかと思いましたわ。
（出ていく山田）
山田） 社長、お疲れさまで～す。
浩太） みんなお疲れさん。
舞） 頂きます。
浩太） 藤沢、もう出れるか？
おう舞、仕事どないや。
舞） 大丈夫。
浩太） うん。
ほな、営業行ってくるな。
舞） 行ってらっしゃい。
浩太） お疲れ。
藤沢） 行ってきます。
舞） 行ってらっしゃい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜会議室＞
浩太） 残念ながら、経営状態は改善
してません。新規の仕事を獲得する
努力と並行して、今ある仕事のコス
トパフォーマンスを上げる努力もして
いきたい。どないして、コストを下げ
て利益を上げていくか…。みんなの、
知恵を貸してほしんや。
古川） 輸入材料で、
作るいうのはどうですか？
宮坂） あかんて！
IWAKURAのねじは、
高品質が身上なんや。
やっすい材料使てやで、
信用なくしたら、元も子もあらへん。
男性） 不良品も、増えるやろうしな。
宮坂） おう。
相良） 笠巻さんは、どう思います？
笠巻） 安い金型を、長持ちさせて
作る、くらいしか思いつかへんかな。
相良） 確かに、それやったら
品質は保てますね。
宮坂） けど簡単なことちゃうで。
古川） そこをなんとかするのが、
あなたの仕事では？
宮坂） やれるもんやったらやってるわ！
相良） 宮さん落ち着きましょう。
浩太） おいおいおいおい…そうやで。
何言うてもええけど、
落ち着いて話しよ。なっ。
ほか、何か知恵ないか？
ああ商品管理どないや。
垣内君、何かないか？
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜うめづ＞
笠巻） どないしてん。
章） え？
笠巻） 何悩んでんねん。
章） 何もないですよ。
笠巻） お前な、隠せると思うなよ。
何年のつきあいやと
思てくれてんねん。
章） 実は…扇さんに、うちで働け
へんかって誘われてて…。
給料も、今の倍出すて。俺はね、
IWAKURA入ったばっかりの頃から、
仕事で迷たら、笠巻さん手本にして
きたんです。いっつも笠巻さんのこと
見て、笠巻さんやったらどないすん
ねやろて考えて、俺そうやって仕事
覚えたんすよ。笠巻さんやったら、
扇さんの誘い断るでしょ。それが正
しいって、俺かて分かってるんです。
笠巻） うん…。
せやな…俺やったら断る。
けどもうまねせんかてええ。
俺と違てお前はこれから子供を
育てていかなあかん。３人もな。
背負てるもんが違う。ええか章。
お前はもう一人前や。どこ行った
かて、立派にやっていける、腕の
ええ、職人や。自分で考えて、
答え見つけたらええ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜工場の休憩室＞
舞） お疲れさんです。
男性） お疲れさんです。
舞） ここ、いいですか？
章） ああ、どうぞ。
尾藤） うん、座り。
舞） ありがとうございます。
（章のいる席につく舞）
舞） 早苗さん、
予定日いつなんですか？
章） ５月の初め。
舞） 楽しみですね。
章） うん。
舞） 産まれたら抱っこさせてください。
章） おう。
尾藤） 女の子やねんて。
舞） ホンマですか！？
章） そや。初めての女の子や。
男性） 奥さんに似たらええけどな。
（笑い声）
男性） 女の子は男親に
似るていうからなぁ。
男性） 結城そっくりの女の子。
いかつそう。
（笑い声）
章） あかんのかい。
男性） せや、うちの娘のお下がり要る？
男性） あっ、うちもベビーベッド
残してるわ。あげよか？
章） ありがとう。
古川） よだれかけやったら、
縫えますけど。
舞） そんなんできるんですか？
尾藤） 古川さん、
お弁当も手作りなんやで。
舞） わあ～すごい。
尾藤） すごいやろ。
寝たきりのお母さんの世話しな
がらやもん。うまそうやなぁ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（作業場でねじの検品をする舞）
（課長の垣内が来る）
垣内） 手際、ようなったわ。
舞） あっ、ありがとうございます。
あの、これ、不良品ですか？
垣内） ああ、そうね。まあこれぐらいの
傷やったら、気にせんと出荷する会社
も多いけどね、IWAKURAにしたら、
不良品やね。はい。現場に言うてきた
げて。こんなん出ましたて。
舞） はい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（ねじを手に、廊下を行く舞）
（休憩室に、浩太の背中が見える）
（頭を垂らし、丸まった背中）
藤沢） 社長、アポ、取れました。
浩太） よし…よし、行こか。
（そっと目で追う舞）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
浩太） どんな仕事でもかまいません。
お願いします。
住田） そう言われましても、そちらに、
お願いできるような仕事は…ねえ…。
浩太） 機械はそろてます。
品質は、よそには負けしません。
（頭を下げる浩太と藤沢）
住田） 頭上げてください。
浩太） 何か、ありませんか？
難しい注文でも、精いっぱいやらして
もらいますよって。
藤沢） お願いします。
（頭を下げる２人）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夜・事務所の給湯室＞
（雑炊を作っている舞）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
舞） はい。
浩太） おっ。
舞） どうぞ。
浩太） 何や雑炊か。
舞） うん。
浩太） うまそやな。
舞） 一緒に食べよ。
浩太） おう、ええで。おいでおいで。
ほな、頂きます。
舞） 頂きます。
浩太） どれどれ…。
舞） アハハハ。
浩太） うん。
うん、フフフフ…うまいわ。
舞） ごはん粒ついてる。
浩太） そうか？
舞） うん。
浩太） どうや舞、
仕事ちょっとは慣れたか？
舞） ああ、うん。
せや、今日は…。これ見つけた。
浩太） ん？ あっ、不良品や。
これ不良品やないか…よう見つけたな。
舞） お父ちゃんすごいな。
浩太） 何がや。
舞） 私な、今日、
１万本以上ねじ見てん。
けど、不良品は、その一本だけやった。
ほかのねじはみんなきれいで、
スベスベやってん。お父ちゃん
ええねじ作ってんねんな。
浩太） 舞は、不良品探してる時でも
ええとこ見つけるんやな。
舞） え？
浩太） それが舞のええとこや。
お前、航空学校で、褒められへん
かったか？ お前は人のええとこ
見つけられるて。フフフフフ。
舞） そんなん褒めてくれるような教官や
なかったで。空飛ぶ厳しさを、徹底的
にたたき込まれた。
浩太） そうか。
舞） お父ちゃん。パイロットはな、
リレーのアンカーやねん。
浩太） アンカー？
舞） 機体を作る人、空港で働く人、機
内で働く人、大勢の力が合わさって、
初めて飛行機は空を飛ぶ。頼むで、
無事に飛行機飛ばしてなっていう
みんなの気持ち、バトンみたいに受
け取って、パイロットは空を飛ぶねん。
浩太） なるほどな…。
舞） 私な、ここで働いてたら、お父ちゃん、
パイロットみたいやなて思うねん。
工場のみんな乗せてるから、
絶対に飛び続けなあかん。
そう思って、頑張ってるパイロット。
浩太） そうや。
舞） 責任が重くて大変やけど、
仲間がおるから、頑張れるんやろ。
浩太） うん。
舞） みんなで、
乗り越えられたらええな。
浩太） ああ。
そのためには、何でもやるで。
舞） 私も手伝う。
浩太） フフ、ありがとう。
舞） うん。
浩太） あっごめん、冷めてまうな。
食べて。
浩太） ええて。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜昼・休憩室＞
浩太） みんな聞いてくれ！
新規の仕事や！
太陽光発電の機械に使うねじや。
ただ…普通３か月かかるとこ、
１か月半で頼むて言われた。
一同） え～。
浩太） きつい注文やけどな、成功したら、
かなり大口の取り引きになんねん。
なあ、やってくれるか？
一同） はい！
浩太） 章、早速設計の相談や！
章） はい。
浩太） みんな頼むで！
こっから巻き返そ！
一同） はい！
ようやく光が見えてきた、IWAKURA。
この難局を、
無事に乗り切れるでしょうか。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（IWAKURAの表に立つ悠人）
悠人） さて、この工場、
なんぼになるやろか。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ほかの従業員が愛想尽かしていなくなっても、
浩太のもとに最後まで残った笠巻。章もそうす
るべき、いや、そうしたいと思っているだろうけ
れど…。３人も子供がいたら、お金は必要だよ。
情だけじゃ、夢だけじゃ食べていけないからね。
せやな…俺やったら断る。
けどもうまねせんかてええ。
俺と違てお前はこれから子供を
育てていかなあかん。３人もな。
背負てるもんが違う。ええか章。
お前はもう一人前や。どこ行った
かて、立派にやっていける、腕の
ええ、職人や。自分で考えて、
答え見つけたらええ。
独り身だったら…残ってほしいと思ってしまう
けれど、家族がいるなら、家族のためを考え
てほしい。子供たちの未来を、考えてほしい。
でもね、でもね、これもまた、真実なのよねぇ。
責任が重くて大変やけど、
仲間がおるから、頑張れるんやろ。
仲間がいるから頑張れる。それもまた、真実。
昔の、そして今の、自分を知っている人たち。
産まれてくる娘に、お下がりやベビーベッドを
あげようかと言ってくれる人たちの存在。そう
いうのって、お金には換えられない、とても大
事な要素だったりするから…。自分一人のこ
とだったら簡単なのに…。辛いね。難しいね。
工場のみんなを乗せて、絶対に飛び続けな
あかんと頑張ってるパイロット。浩太はそん
なパイロットになれるのか？章はどうする？
どんな未来が待っているのか…心配だなぁ。
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