「カムカムエヴリバディ」 第84回
第18週「１９８４－１９９２」
あんこのおまじないふたたび
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剣之介） 待って下さい。
あなたと話がしたかったんです。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夕方の道場＞
剣之介） 私が、二代目剣之介を襲名
したのは、父が亡くなった翌年･･･
昭和40年4月4日のことです。
ひなた） えっ･･･。
剣之介） 程なくして私は、テレビ版の「黍
之丞」シリーズを始めました。テレビ向
けに分かりやすくした「黍之丞」は、おか
げさまで人気シリーズとなりました。
しかし･･･私はずっと迷っていました。
父が育て上げた黍之丞を汚しているだ
けなのかもしれないと。そんな時です。
（回想）
ひなた） うちのお店の
回転焼きです！ どうぞ！
剣之介） ありがとう。頂きますよ。
ひなた） 私･･･侍になりたいです！
剣之介） 志を失わなければ、
きっとなれますよ。
剣之介） まさか自分の口からその言葉
が出ようとは･･･。何だか気になって、
あのあとすぐに回転焼きを頂きました。
「大月」と焼き印が押されているとおり、
まあるいお月さんのような回転焼きに
かぶりつきました。すると･･･甘～い
あんこの味が口の中に広がって･･･。
いつかサンタさんが言っていた言葉が
耳によみがえりました。
（回想）
サンタ） おいしいあんこの
おまじないじゃ。
ひなた） あんこのおまじない？
剣之介） （頷く）
（回想・20年前の映画館）
サンタ） まじいのう～！
何ならこのあんこ。
（サンタの手にあんぱん）
サンタ） 「小豆の声を聴けえ。
時計に頼るな。目を離すな。
何ゅうして欲しいか、
小豆が教えてくれる。
食べる人の、幸せそうな顔を
思い浮かべえ。おいしゅうなれ。
おいしゅうなれ。おいしゅうなれ。
その気持ちが、小豆に乗り移る。
うんとおいしゅうなってくれる。
甘えあんこが出来上がる」。
はあ～えれえもんじゃ。
覚えとった。
剣之介） 何ですか？ それ。
サンタ） え～？
おいしいあんこのおまじないじゃ。
ひなた） それを思い出したんですか？
うちの回転焼きを食べた時に。
剣之介） ええ。
「小豆の声を聴け。
時計に頼るな。目を離すな。
何ゅうして欲しいか、
小豆が教えてくれる。
食べる人の幸せそうな顔を
思い浮かべえ。おいしゅうなれ。
おいしゅうなれ。おいしゅうなれ」。
父は決して、自分を見放したわけ
じゃない。ずっと見守ってくれてた
んだ。そう腑に落ちました。
そしてそのあと･･･。
（回想）
ひなた） モ･･･モモケ～ン！
錠一郎） 僕ら、先代からの
モモケンファンでして。
剣之介） きっと草場の陰で、
父は言っていたんです。
「いつかこの映画を撮れ。
お前の左近を見つけろ」と。
ひなた） あ･･･そうやったんですね。
剣之介） 志を失わなければ、
きっとなれる。
侍にだって、何だって。
それは父の口癖だったんですよ。
（満面の笑みで剣之介を見るひなた）
剣之介） ありがとう。ひなたちゃん。
あの時、あの回転焼きをプレゼント
してくれて。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜大月家＞
ひなた） なあお母ちゃん、知ってた？
るい） 何を？
ひなた） モモケンさんが二代目襲名
したん、昭和40年4月4日やねんて。
るい） へえ～！
ひなたのお誕生日やね。
ひなた） うん。
知らない間に、
「大月」の回転焼きが、
大好きな時代劇のターたちの
運命を動かしていたなんて。
ひなたは、とても誇らしく思いました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夕方・商店街＞
森岡） お～ひなたちゃん、お帰り。
ひなた） ただいま。
算太） あんたが作ったん？ これ。
ひなた） あれ？
サンタのおっちゃん？
算太） お～ひなたちゃんじゃ。
あんたここら辺の子ぉじゃったかな。
ひなた） はい。
算太） ふ～ん。こねえだの
オーディション、どうじゃった？
ひなた） あ～まだ選考中みたいです。
算太） 五十嵐っちゅうにいちゃん、
選ばれたらええのう。
ひなた） えっ？
算太） ひなたちゃんの、
ええ人なんじゃろ？
ひなた） あ・・・いやいやいや・・・！
そんなんやありません。
算太） おっちゃんな、もうそねえ
なんだけ鋭（するで）んじゃ。
あのにいちゃんの時だけ、ひなた
ちゃんの目つきが変わりょうった。
ひなた） え・・・。あっ、あのサンタ
さん。今日は何でここに？
算太） それな。
あの～「大月」っちゅう、
回転焼き屋、知らんかな？
ひなた） えっ？
算太） うん？
ひなた） えっ、それやったら
うちですけど・・・。
算太） お～そうか。
ひなた） 何でですか？
算太） いやな、ダンゴちゃんが、
お気に入りの店じゃいうて・・・
まあいっぺん食うてみゅう
思ったんじゃ。
ひなた） そやったんですね。
うれしいなあ。こっちです。
算太） おっ。
（算太を案内するひなた）
ひなた） おじちゃんただいま。
吉右衛門） お帰り。
（吉右衛門と擦れ違う算太）
算太） 舌の肥えたダンゴちゃん
じゃ。間違えねえじゃろう。
ひなた） うちのあんこは
絶品ですよ。うん？
算太） ひなたちゃん見てると、
妹を、思い出すんじゃ。
ひなた） おっちゃんの妹？
おばあちゃんやん。
算太） そら今はおばあちゃんじゃ。
長えこと会うてねえからのう。
ひなた） ふ～ん。
算太） 何じゃあ、ここか。
ひなた） うん、そう。
お母ちゃんただいま。
るい） お帰り。
錠一郎） るい？
るい） うん？
錠一郎） るい。あ・・・るい。
あの・・・シャツどこやった？
るい） あのシャツて？
錠一郎） あの～ほら、こないだ
おしょうゆこぼしたやつ。
るい） もうお父ちゃんの
シャツは皆そうやんか。
錠一郎） ああ、ひなた。お帰り。
ひなた） ただいま。
算太） るい・・・。
（回想）
算太） お名前は？
るい） るいです。
算太） 「るいです」そっか～。
かうぇえらしいのう。
ひなた） お母ちゃん。このおっ
ちゃんに回転焼き焼いたげて。
るい） えっ？ どのおっちゃん？
ひなた） そやからこのおっちゃん・・・。
あれ？
（キョロキョロするひなた）
それきりサンタは、ひなたの前に
姿を現しませんでした。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜大月家・居間＞
（テレビを見ている錠一郎と桃太郎）
錠一郎） お～。
桃太郎） 大丈夫や。
PLやったら返せる！
なあお父ちゃん。
錠一郎） おう。桃太郎。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜店＞
るい） お待たせしました。どうぞ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
ﾃﾚﾋﾞ） 「今日は延長に及ぶ熱戦。
10回の裏、8対4。取手二高リード。
追い込まれたPL学園ツーアウト。
三振！」。
錠一郎・桃太郎） あ～！
桃太郎） 清原～！
ﾃﾚﾋﾞ） 「取手二高、初優勝！」。
桃太郎） 負けた・・・。
小夜子） 残念やったね、桃ちゃん。
桃太郎） 小夜ちゃん。
小夜子） でも、清原君てまだ２年
でしょ？まだ来年があるやん。
桃太郎） うん、うん。
錠一郎） 小夜ちゃん。いらっしゃい。
小夜子） おじさん。こんにちは。
ひなた） 佐代ちゃん？ 久しぶり。
小夜子） あっ、ひなちゃん。いてた。
ひなた） 今日は休みなん。
小夜ちゃんは？
小夜子） 私は夏休み。
ひなた） あっ、そうか。
ええなあ、学生は夏休みがあって。
小夜子） アハハッ。
ﾃﾚﾋﾞ） 「続いてのニュースです。桃山
剣之介の主演映画、『妖術七変化！
隠れ里の決闘』、主人公、棗 黍之丞
の敵役となる俳優が、今日発表され
ました」。
錠一郎） ひなた。
これ五十嵐君受けたやつか？
ひなた） そうそうそうそう！
るい） 何？ ひなた。あんた
結果知らされてへんの？
ひなた） こんな極秘情報
私んとこまで来いひんて。
ﾃﾚﾋﾞ） 「1500名の応募者の中
から選ばれたのは・・・」。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（回転焼きを食べまくる五十嵐）
ひなた） おなか壊すで。
五十嵐） いいよ、別に！
ひなた） そないにやけにならんでも。
五十嵐） お前にはな、俺があの
オーディションにどれだけ懸け
てたか分かってないんだよ。
ひなた） あんた、まだ養成所出た
ばっかりの新人やろ？
五十嵐） あの受かったやつだって
まだまだ無名だろ、ばか！
轟） ばかはお前や。
五十嵐） 監督！
轟） お前なんかホンマやったら、
書類で落ちてるわ。
五十嵐） えっ・・・。
轟） 最終選考は、悪なかったけどな。
まあ、あれは、虚無さんに引っ張ら
れて、実力以上が、出せただけや。
ほれ。マルつけたある役、お前で
どやて、モモケンさんが言うたはる。
五十嵐） えっ。
轟） わしも異論あらへんし。
五十嵐） あ・・・ありがとうございます！
轟） 頼むで。
五十嵐） えっ、えっ。えっ！
（台本を見る五十嵐）
五十嵐） ん！ んんん！
伊織・・・。役名がある！
ひなた） えっ、ちょっと・・・
どんな役！？
五十嵐） やめろやめろやめろ！
破れたらどうする！
ひなた） あっ、ごめん。
よかったなあ、五十嵐。
おめでとう。
五十嵐） ありがとう。
ひなた） 手伝おか？
読み合わせとか。
五十嵐） ハハッ、いいよ。
ひなた） 何でえな。
私、うまいんやで。
五十嵐） うそつけ。
ひなた） ホンマやて。
仕事終わったら道場行くわ。
五十嵐） 来るなって。
ひなた） いや行く。
榊原） あっ、いたいた。
大月さん、ちょっと。
ひなた） はい。また。
五十嵐） おう。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜休憩所＞
榊原） はい。
ひなた） 「京都茶道家殺人事件」。
一恵） 聞き捨てならへんなあ。
榊原） 新しいステージの企画や。
ひなた・一恵） へえ～。
榊原） それで・・・野田さんには、
茶道家役の女優さんに、茶道
指導をしてもらいたいんやけど。
一恵） えっ？
ひなた） えっ、そんなつながり、
映画村やったらなんぼでもある
んと違うんですか？
榊原） ああ・・・そら、あるけど・・・。
その女優さんは勘弁してくれって、
みんなに言われてしもて・・・。
ひなた） その女優さんって、
もしかして・・・。
榊原） すみれさんや。
（回想）
すみれ） 珠は生涯、
そなた一人の・・・。
ひなた） またですか？
懲りませんねえ。
榊原） 僕は、ここがすみれさんの
正念場やと思うんや。
そやから野田さん。
協力してくれへんかな？
一恵） ええんやろか？
教えたことないんやけど・・・。
ひなた） あっ、おばちゃんと
一緒にやったら？
一恵） えっ？
ひなた） おばちゃん好きそうやん、
そんなん。
一恵） ほな、ひなちゃんも
来てくれる？
ひなた） えっ？
あっ、いや、私は・・・。
榊原） もちろんや！ 大月さんには、
すみれさんのサポートをしてほし
いねん。
ひなた） え～！
榊原） 頼むわ。
何やかんやいうてすみれさん、
大月さんのこと気に入ってるんや。
一恵） じゃあ、今日帰ったら
お母さんに言うてみます。
榊原） ありがとう。
大月さんも一緒に行ってきて。
ひなた） はい・・・。
ひなたは、
にわかに忙しくなりました。
Hinata suddenly became busy.
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
二代目剣之介の記憶力、恐るべし～！
算太の言葉を全部覚えているなんて。
小豆の声を聴けえ。
時計に頼るな。目を離すな。
何ゅうして欲しいか、
小豆が教えてくれる。
食べる人の、幸せそうな顔を
思い浮かべえ。おいしゅうなれ。
おいしゅうなれ。おいしゅうなれ。
その気持ちが、小豆に乗り移る。
うんとおいしゅうなってくれる。
甘えあんこが出来上がる。
あんこのおまじない、算太も覚えてたね。
そのおまじないを聞いていた団五郎が、
大月の回転焼きを食べて、その言葉を
思いだし、父の気持ちに思い至るという
奇跡の流れ。み～んな繋がっていたね。
父は決して、
自分を見放したわけじゃない。
ずっと見守ってくれてたんだ。
そう腑に落ちました。
繋がった先で、ついに、るいのところまで
やってきた算太。やっぱ逃げるんか～い。
逃げ癖は変わらないね。吉右衛門ともニ
アミスしたし、そのうち誰かが気が付くか、
自首してくるのか。やっぱりクリスマスじゃ
ないとってことなのか？ 焦らされるね～。
五十嵐君の活躍も楽しみだし、お仕事繋
がりでベリーが登場するのも楽しみ。撮影
はすべて終了したということなので、あと
はひたすら物語を堪能するばかりなり～。
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