「おちょやん」 第84回
第17週 「うちの守りたかった家庭劇」
どんだけしんどい時でも、
思うことだけはでけます
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千代） よっしゃ。ほなお稽古しましょか。
百久利さんが戻ってきた時のために、
うちらは家庭劇守らな。
一平） すまん･･･あかんのや。
家庭劇は･･･解散する。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜稽古場＞
千代） 解散てどういうことだす？
一平） 言葉のとおりや。
天晴） ボン、何でやねんな。
一平） 大山社長に見限られたんや。
（回想）
鶴蔵） 家庭劇は、解散してもらう。
一平） 何で解散せなあかんのですか。
鶴蔵） 言わずもがなや。最近では、
客足が遠のいて、公演を打てば
打つほど赤字が増えてる。
熊田） 座員たちには、しばらくどうにか
なるだけのお金を払わしてもらう。
一平） ちょっと待ってください！
たとえ少なかろうと、見に来てくれた
お客さんには喜んでもろてます。
鶴蔵） もうけ生まん興行など興行
ではない！ 家庭劇は解散。
これは決まったこっちゃ。
徳利） 鶴亀何やねん！ 今までさん
ざん俺らのこと利用してきたくせに。
一平） せやけどその鶴亀のおかげで今
の家庭劇があんのもほんまのこっちゃ。
その後ろ盾失うたら、もう続けることな
んかでけへん。
千代） ちょっと行ってきます。
香里） 行くてどこに。
千代） 決まってますやん。大山社長に
解散取り消してもらうんだす。
一平） ちょっと待ちて！ あの大山社長
がいっぺん決めたこと取り消すはず
あれへんやろ！
千代） せやさかいて、そない簡単に
言いなりになっててよろしのか？
あんたにとっての家庭劇てそないな
もんだしたんか！？
一平） 鶴亀に言われたからだけやあれ
へん！ 俺もな、このまま続けていくの
は無理や思てたんや。
千代） 何でだす？
一平） 分かれへんのか？
みんなボロボロやで！
毎日空襲におびえながら、寝不足で頭
ぼ～っとさして、防空演習して、配給並
んで、生きてくだけでも精いっぱいやの
に･･･。芝居のことなんか考えられるは
ずあれへんやろ。もうこれ以上、皆さん
を家庭劇に縛り付けとくことなんかでき
ません。ここで家庭劇は幕引きです。
千代） 勝手に決めんといて！
そらみんなしんどうてえらい！
そやけど、なんとかしてここまで
やってきましたやんか！ みんなかて、
こんなん納得でけしまへんわな。
全員で大山社長に直談判したら
きっと分かってくれはるはずだす。
徳利） それがでけんねやったら、
苦労せえへんけどな。千さん。
千さんどない思いはります？
千之助） おもろないわ。
徳利） 何がですか？
千之助） 何もかんもじゃ。
（出て行く千之助）
天晴） ここらが、潮時かも分かれへんな。
一平） 皆さん、俺の力不足です。
ほんまに･･･。
千代） うちは絶対に嫌や！ うちは、女優
になってみんなを喜ばすのが夢やった。
家庭劇はその夢をかなえてくれたとこだ
す。家庭劇があったさかいうちは生きて
こられたんや。一平、お願いだす･･･。
（両手をつき、頭を下げる千代）
千代） これ以上、大事なもんがのうなっ
てしまうのはもうごめんだす。
ルリ子） ごめんなさいね。
田舎に、父が一人で暮らしてるの。
いつかは、帰らないとと思ってても、
芝居が楽しくて、つい先延ばしにしてた。
でもこれでようやく、ふんぎりがついたわ。
千代） （泣）
徳利） いや･･･いや俺もな、ほんまのとこ、
ぼちぼち疎開できへんのかいうて、家族
に言われてんねや。警報鳴るたんびに、
子供５人連れて逃げ回んの、もう、嫁も
俺も限界や。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜長屋＞
千代） 何で先相談してくれへんかってんな。
一平） 言うたらまた反対して、さっき
みたいに鶴亀駆け込んでたやろ。
千代） 当たり前やんか。
一平） せやさかい言われへんかったんや。
お前にそないなことされたらな･･･俺も
また諦めきられへんようなるよってな。
勝手に決めて悪かった。けどな、
こないするしかあれへんのや。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜福富＞
千代） いつ行くの？
みつえ） 来週な。ここんとこ空襲も
しょっちゅうやしな。いつどないな
るか分かれへんやろ。
千代） そやな。
みつえ） お母ちゃんも一緒にて説得
してんねけどな、何を意地張ってん
のか分かれへんけど、言うこと聞い
てくれへんねん。
千代） あこ離れたら、ほんまに諦める
ことになるて思てはんのかも分かれ
へん。
（割烹着姿の婦人会が来る）
田島） ごめんやす。ああ、金属の供
出してもらうために来ましたんや。
福松） それやったらせんだって全部
出さしてもろたはずだす。
菊） あと残ってんのは、包丁と鍋一つ
くらいなもんだす。あれまで持ってか
れたら、わてらおまんま食べられしま
へんわ。
田島） 確か息子さん、楽団に入って
はりましたな。使うてたトランペットが
あるっちゅうて、町内の方から聞きま
したんやで。
菊） そないなもんあれしまへんわ。
田島） 隠すと、非国民やいうことに
なりますで。
福松） そんな･･･。
菊） あれへんもんはあれへんのだす。
お引き取りを。
田島） ほんなら、警察に連絡して、
家の中あらためさしてもらうことに
なりますけど。
千代） みつえ。
（鍋と包丁を持ってくるみつえ）
みつえ） そない金属がいるねやったら
これもこれもみんな持っていきはった
らええ。
田島） トランペットがおまへんがな。
みつえ） 質に入れて貰たお金だす。
持っていきなはれ。福助さんの大事
にしてたトランペット、うちらがどない
な気持ちで質に入れたか分かりはり
ます！？
女性） ほんまに質（ひち）入れはり
ましたんか？
みつえ） 疑いはんねやったら好きなだ
け家捜ししはったらよろし。ただし、う
ちにも意地がある。この包丁でうちを
刺し殺してからにしてもらいましょか！
千代） みつえ･･･。
福松） みつえ！ なんちゅうことを！
みつえ） 非国民やて疑われるぐらい
なら死んだ方がマシだす！ それに
これ取り上げられたらうちらはもう
生きていかれへん。福富の名誉の
ため、お国のため、いつでも命捨て
る覚悟でけてます！ さあやって！
千代） みつえ･･･。
田島） さよか。帰りまっせ。
女性） へえ。
女性） 行きまっせ。はよ。
（へたりこむみつえ）
千代） みつえだんないか？
（みつえの背中を撫でる千代）
（笑い声）
菊） ようやった！ ハハハハ！
福松） もう堪忍してえな。
（奥からトランペットを持ってくる福松）
福松） ほんまに質に入れたかと思たわ。
千代） 何やあんねやんか！
みつえ） 当たり前や。
質になんか入れるはずあれへん。
菊） これは、あの子が大事にしてた
もんやさかい、帰ってきた時になか
ったら悲しみます。
みつえ） このトランペットは福助そのも
んや。誰にも渡せへん。命懸けで守る。
（トランペットを抱き締めるみつえ）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜岡安＞
シズ） そうか･･･鶴亀には鶴亀の事情
もありますのやろ。おんなじ商売人や
った身としては、一概に、責めること
はでけしまへんな。
千代） うちは納得でけへんのだす。
なんぼ鶴亀のためやいうたかて、
大山社長も熊田さんも勝手だすわ。
せやけど･･･うちも身勝手だす。
ほんまやったら、岡安閉めはった
ご寮人さんみたいに、うちもみんな
のこと思たら解散に賛成せなあかん。
諦めなあかんのだす。
せやけど、うちは･･･。
シズ） どんだけしんどい時でも、思う
ことだけはでけます。わては、まだ
諦めてまへんで。またいつか、ここに
もういっぺん、岡安ののれんかけて、
富士子ら呼び戻したるて、そない思
てますのやで。
みつえ） ごめんやす。
シズ） 何べん来てもおんなじやで。
わてはここ離れへん言うてますやろ。
みつえ） そないわがまま言わんと、
一緒に行こ。お父ちゃんとお母ちゃん
置いてうちらだけ疎開するやなんて
心配で。
シズ） お父ちゃんだけ連れてったげて。
みつえ） お父ちゃんがお母ちゃん置い
て行くはずあれしまへんやろ。
シズ） わては！
どこにも行けしまへん。
みつえ） お母ちゃん！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜長屋＞
千代） ただいま。
一平） 待ってたんやで。これからのこと
決めなあかんよってな。寛治と３人で
どっか疎開するか･･･。それとも、大阪
で何か仕事見つけるか･･･。
千代） 堪忍。
やっぱりうちは、家庭劇を続けます。
一平） まだ言うてんのか？
鶴亀からも見放されて役者もいてへ
んのにどないして続けるつもりや。
千代） あんたがいてるやんか。それに
寛治かていてます。あの防空壕の時
みたいに、たった２人でもみんなを喜
ばせることはでけますのやで。なっ。
もっぺんやってみような。
一平） 無理や。
これから世の中もっともっと厳しなる。
生きるか死ぬかの瀬戸際や。
芝居してる場合やあれへん。
千代） ほなうち一人でもやる。
一平） 勝手にせえ。
（前を見たまま、動かない千代）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
朝ドラにおける戦時中の鉄板エピソード、
婦人会のおばちゃんたちが来ましたよ～！
ヒロイン夫婦のうちにはめぼしいものはな
さそうなのでターゲットは福富ということに。
しかも、劇場にもやって来た、「トランペット
あるやろ？」おばさんだからね～簡単には
あきらめない。なかなか手強い敵キャラｗ
みつえの熱演で何とかトランペットは死守
したものの･･･。今週の演出の脇の甘さが
気になる。劇場でもそうだったけど、今回も
オバサンたちが出てってすぐにトランペット
を出してくるところとか･･･。オバサンが戻っ
てきたら即アウト的な状況が見ていて辛い。
もちっと警戒、用心深く振る舞ってくれよ～。
意外とね、こういう当たり前の細かい所作
の描写のあるなしが引っ掛かるんだよ～！
どんだけしんどい時でも、
思うことだけはでけます。
家庭劇を諦めきれない千代に、自分も諦め
てはいないと話すシズ。「今は」諦めるしか
なくても、その先の未来を心の中で思い描
くことは･･･思うことだけは、いつだって自由。
一人でも、家庭劇を続けると言い張る千代。
一人芝居、即興芝居なら･･･やれないことも
ないだろうけれど。千代の目指すお芝居を、
今週は見られるのかな？ 見てみたいけど。
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