「エール」 第103回
第21週 「夢のつづきに」
オーディションに合格はしたけれど・・・
※無断転載対策のため、不本意ですが、
しばらく、注意喚起させていただきます。
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<吟の家>
ケン) 大丈夫だよ。
このぐらいしっかり塗らなきゃ。
智彦) あ~そうか。
(メンコ作りをしているケンと智彦)
吟) 華ちゃん、
お父さん迎えにきてくれたわよ。
裕一) おはようございます。
どうも華がお世話になりまして。
智彦) あっいえ・・・
またいつでも来て下さい。
吟) 私とケンも出るので、
そこまで一緒に行きましょう。
裕一) はい。
吟) ケン、支度して。
ケン) は~い。
裕一) 華・・・帰ろう。
(俯いたまま頷く華)
**********
(道を行く吟たち)
子ども) あっ、ケンにいちゃんだ!
ケン) おう!
(ちびっ子たちに駆け寄るケン)
ケン) 強いメンコ作ったぞ。
裕一) 教会・・・。
吟) そうだ。ねえ知ってた?
音と裕一さんが初めて出会った
のって、教会なんだって。
裕一) いや、あの・・・。
華) えっ?
文通って言ってなかった?
吟) それがね・・・子どもの頃に、
川俣の教会で歌ってた音のことを、
裕一さんが偶然見てたって。
裕一) いいじゃないですかその話はもう。
華) ふ~ん。
ケン) 華ねえちゃんもやろうよ!
華) えっ?
(ケンに引っ張られ、
華も教会の広場に入る)
華) ボタン・・・ボタンずれてる。
(男の子のシャツのボタンをかけ直す華)
吟) 優しいですよね、華ちゃん。
裕一) ええ!
(掲示板に教会からのお知らせの張り紙)
佐代) 子どもたちのために、いろんな
催し物をやってるんですよ。
吟) 佐代さん、こんにちは。
佐代) こんにちは。
吟) 古山裕一さんと、華ちゃん。
裕一) 初めまして、古山と申します。
佐代) えっ?
古山裕一さんって、あの作曲家の?
裕一) い・・・一応。
佐代) 「鐘の鳴る丘」、子どもたち、
いつも楽しみに聞いてるんですよ。
裕一) へえ~!
佐代) 「とんがり帽子」も
一緒に歌ってます。
裕一) え~! うれしいです。
ありがとうございます。
佐代) この子たちも、ようやく娯楽を
楽しめるようになって・・・。今までは、
命をつなぐことに必死でしたからね。
吟) 佐代さんたちのおかげですね。
佐代) 最低限の衣食住は満たされても、
本当に大変なのは、これからなんです
けどね。
**********
<古山家>
(オルガンに顔を伏せている音)
裕一の声) ただいま。
(玄関に行く音)
**********
<玄関>
音) お帰りなさい。
(俯いた華)
華) ただいま。
**********
<華の部屋>
音) 華の気持ち、ちゃんと考えて
あげられなくてごめんなさい。
駄目ね・・・。
華) 私も・・・言い過ぎたし。
音) あのね、華・・・。
お母さんが歌を中断したのは、
華のせいじゃない。
お母さんが、華を選んだの。
華に会いたかったの。
**********
(階段の下に立っている裕一)
(音が2階から下りてくる)
裕一) ちゃんと話せた?
音) 伝わったかは、分からないけど。
裕一) そっか・・・うん。ゆっくりいこう。
音) うん。
**********
それから数日後、
最終選考の連絡が来ました。
電・音) はい・・・分かりました。
ありがとうございました。
はい・・・失礼します。
(電話を切る)
裕一) えっ・・・ど・・・どうだった?
(畳に倒れる音)
裕一) ちょちょ・・・
音? 音? えっ、えっ?
音) どうしよう・・・。
裕一) えっ、えっ、えっ?
華) ただいま。
音) 受かってしまった!
裕一) えっ!? えっ、えっ?
受かった!? 受かったの!?
本当に!?
音) 信じられない・・・
本当に私でいいのかしら?
裕一) いいんだいいんだいいんだよ、
いいんだよ、いいんだよ!
えっ・・・おめでとう! おめでとう!
本当におめでとう!
音) うん・・・頑張る。
絶対にいい舞台にする。
裕一) できる・・・絶対できる・・・。
おっ、華お帰り!
お母さん受かったよ!
音) 華!
(目をそらしている華)
音) これから、忙しくなると思うけど・・・
お手伝い、頼んでもいいかしら?
華) お弁当は自分で作るよ。
音) ありがとう。
華) おめでとう。
(立ち去る華)
**********
そしていよいよ、オペラ、「ラ・ボエーム」
の顔合わせの日がやって来ました。
駒込) 古山さん、お待ちしていました。
皆さん、主役のミミを演じる、
古山音さんです。
音) 古山音です。
よろしくお願いします。
(拍手)
駒込) 演出の駒込です。よろしく。
音) よろしくお願いします。
駒込) お席はあちらです。
音) はい。
伊藤) 古山さん、伊藤と申します。
よろしくお願いします。
音) ロドルフォの・・・。
古山です。よろしくお願いします。
伊藤) いい舞台にしましょうね。
音) はい。
駒込) さて、皆様おそろいになられ
ましたので、顔合わせを、始めた
いと思います。・・・が、最初に私か
らご挨拶を申し上げます。
「ラ・ボエーム」は、青春群像劇です。
芸術家志望の貧しい若者4人に、
2人の女性が関わることで、彼らが
大人になっていくさまを描いていき
ます。
(出演者の経歴が書かれた紙を見る音)
マルチェッロ役の八田武
近衛音楽新人賞受賞
日本オペラコンクール1位
日本中央交響楽団と共演
ムゼッタ役の橋本百合子
18歳でミラノに留学
留学先にてソロリサイタル開催
第3回東都声楽賞 最優秀賞受賞
ロドルフォ役の伊藤幸造
東都音楽学校首席
全日本声楽コンクール1位
全日芸術賞最年少受賞
古山音
東京帝国音楽学校 中退
駒込) どうぞ、よろしくお願いいたします。
(拍手)
**********
<バンブー>
保) どうぞ。
音) はあ~疲れた。コーヒーおいしい。
恵) どうぞ。
音) ありがとうございます。
恵) お稽古大変そうね。
音) すごい方ばかりなんです。
(稽古を回想する音)
音) ついていけるかしら・・・。
恵) 音さんなら大丈夫。
音) ありがとうございます。
頑張るしかないですよね。
恵・保) うん。
音) うん。
**********
<放送局>
池田) 帝都劇場の「ラ・ボエーム」!?
えっ、奥さん舞台経験あるんだっけ?
裕一) いやいや・・・音楽学校を中退し
てずっと休んでたんで、これが初めて
の舞台なんですよ。必死に練習して、
オーディション勝ち抜きました。
池田) へえ~!
ブランクあるのに大したもんだね!
あっ、演出は誰?
裕一) え~っと・・・駒込さんって
言ってたと思います。
池田) 駒込?
裕一) はい。
池田) あ~あの調子のいいやつか。
裕一) えっ、ご存じですか?
池田) うん。まあね。
そっか・・・駒込か。へえ~。
**********
<稽古場>
(歌う音と伊藤)
伊藤) 古山さん、どこ見てるんですか?
僕を見て下さい。
音) あっ・・・すみません。
伊藤) 指揮は、見るものじゃなくて、
感じるものでしょ。
音) はい。
伊藤) それから、この先の話なんですけど、
ハイツェーもう少し伸びませんか?
音) はい。
伊藤) それと、
ここの歩き方なんですけど・・・。
駒込) 伊藤君伊藤君。
そういうのは演出の仕事だから。ねっ?
古山さん大丈夫。少し、休憩して、
もう一度今のところから、いきましょう。
音) すみません。お願いします。
駒込) 大丈夫。休憩しましょう。
**********
<古山家・台所>
裕一) 置いとくね。
華) はい。これと・・・。
裕一) もう一個?
華) うん。もう一個。
(足音)
音) ただいま。
裕一) お帰り。
音が作ってってくれた煮物
ちょうどあったまったところ。
音) 先に召し上がっていて下さい。
今日の復習しないと。
裕一) えっ、ご飯食べてからでも
いいんじゃないの? 大丈夫かな?
**********
<稽古場の廊下>
女性) 千鶴子さん、先に行くわね。
千鶴子) あっ、ごめんね。
(ガラス戸越しに音を見る千鶴子)
**********
<稽古場>
音) ♪(歌声)
駒込) よし・・・ちょっと休憩にしよう。
伊藤) (ため息)
音) 伊藤さん・・・いろいろ、ご迷惑をお
かけしてしまって、申し訳ありません。
伊藤) 僕に謝ることじゃないです。
(気付いた音に微笑む千鶴子)
駒込) 脇坂常務!
脇坂) ご苦労さん、ご苦労さん。
古山さん、こちら、今回の公演を企画さ
れた、千代田音楽協働社の、脇坂常務。
音) あっ・・・古山です。
宜しくお願いします。
脇坂) どうですか? 調子は。
音) 皆さんに、
ご迷惑をおかけしてしま・・・。
脇坂) 大丈夫ですよ。
あなたらきっとやれる。
(音の肩に手を置く駒込)
音) あっ・・・。
**********
(千鶴子の回想・最終審査の日)
(橋本百合子に票を入れた千鶴子
駒込) よろしいですね?
ではこの2人でもう一度・・・。
(ドアの開閉音)
駒込) 脇坂常務。
脇坂) ご苦労さま。
駒込) 今、オーディションが終わり
まして、ちょうど、最終審議を。
脇坂) 主役は・・・古山音さんでいこう。
(黒板の音の名前に丸を描く脇坂)
脇坂) 彼女、古山裕一さんの、
奥さんだそうだ。
話題になるだろう。宣伝にも使える。
千鶴子) あの・・・お言葉ですが・・・
それでは何のためのオーディション
だったのでしょう?
脇坂) 駒込君、いいよねえ?
駒込) はい。
**********
<稽古場>
脇坂) 古山さん、期待してますよ。
音) はい・・・頑張ります。
**********
オーディションに合格はしたけれど・・・どうやら
大人の事情、「古山裕一の妻」というブランドが
欲しかったというオチ。まあね、話題になるだろ
うし宣伝にもなるよね。無名の人よりはずっと。
ブランクがあったのにオーディションで役を勝ち
取った・・・というストーリーも宣伝にはなるしね。
夫の七光りだったと音は知ることになるのか?
でもまあ、よくある話だし、チャンスを物にすれ
ばいいだけの話でもある。問題は、ここにきて、
そういう流れの話が面白いかと言えば微妙・・・。
「エール」というドラマの方向性とは相性が悪い
みたいなので、そのへんは目をつぶるしかない
のだけれど・・・。私はもっと、裕一が見たいよ!
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