大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第37回~最後の晩餐 | 日々のダダ漏れ

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日々想ったこと、感じたこと。日々、見たもの、聞いたもの、食べたものetc 日々のいろんな気持ちや体験を、ありあまる好奇心の赴くままに、自由に、ゆる~く、感じたままに、好き勝手に書いていこうかと思っています♪

大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第37回~最後の晩餐

 

 

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「日々のダダ漏れ」

 

 

五りん) え~今日は師匠、もうあがりです。

 読売巨人軍のパーティに呼ばれたんですって。

 いやまあああ見えてミーハーなもんで、ゆうべは

 眠れなかったそうなんですよもうね。あっ、こっち

 の方もだいぶ、いいらしいですからね。

志ん生) 余計なこと言うんじゃねえ。

美津子) さあお父ちゃん、車が来ましたよ。

今松) 美津子ねえさん、化粧、濃くないですか?

美津子) えっ?

志ん生) 気乗りしねえよな~。お前、代わりに

 出て、「らくだ」でもやったらどうだ?

今松) 嫌ですよ。川上の赤バットで殴られますよ。

 化粧濃いな。

志ん生) 宴会だろ? 落語なんか聞くやついないよお前。

美津子) ちゃんと話ついてますよ。

 一席終わるまではお料理出さないでって。

 さあさあ、行きましょう。五りん、あと頼んだよ~。

五りん) あっ、長嶋のサインボールお願いしますよ!

観客たち) 俺も俺も!

五りん) みんなの分もお願いしますよ! ねえ、もう…。

 え~長嶋選手が生まれた頃、オリンピックのお祭り

 騒ぎに、異議を申し立てるひねくれ者がおりました。

 

**********

 

昭和12(1937)年

 

<国会>

男性) 河野、一郎君。

立憲政友会・河野一郎) 一触即発の日中関係と

 平和の祭典。国防費のためにと、国民に我慢と

 緊張を求める一方で、オリンピックというお祭り

 を開催するという。この相反する2つに対して、

 国民に説明できないのであれば、この国でオリ

 ンピックを開催する資格はない!

 

1937年7月7日、北京、盧溝橋で起きた、

日本軍と中国軍の衝突をきっかけに、

日本と中国の、全面戦争が始まります。

 

**********

 

<オリンピック東京大会組織委員会>

 

戦争が始まっても、オリンピック開催の

準備は進められたのですが…。

 

副島) なぜ神宮外苑ではいかんのです?

牛塚) 4万人しか入らんからだよ。

副島) 神宮を中心に、

 プールも選手村も、近くに設営すれば…。

治五郎) そんなものは夢物語だ。

副島) 夢って…

 神宮にこだわっておられたのは、あなたでしょう!

治五郎) ベルリンの統制力を見せつけられた今、国民は

 君の言うような、こぢんまりした大会なぞ望んではおらん! 

 紀元2600年の祭典、真剣にやらんと、赤っ恥かくぞ!

 

**********

 

<バー・ローズ>

河野) 陸軍次官や文部次官を組織委員に

 招いたのは嘉納さんだっていうじゃないか。

 どうしちゃったんだね?あの人は。

政治) ママお酒。

マリー) はい。

(政治に詰め寄る河野)

河野) オリンピックを利用しようとしているんじゃ

 ないかね? ヒトラーがベルリンでやったように。

政治) そんなことは断じてない! ヒトラーなどと

 比べて語るんじゃないよ、嘉納さんを!

 ちゃんと分かってるんだよ、あの人は。

 今、この日本でオリンピックやるには、

 軍や政府を巻き込まなくちゃ駄目だって。

 夢見るジジイじゃ駄目だって。

河野) やけに肩持つじゃないか。

政治) 準備だってな、着々と進んでんだよ。

 公認マークも、ポスターも4種類、ほら。

マリー) えっ?

河野) マークとポスターしか出来てないなら

 まだ引き返せる。

政治) マークとポスターだけじゃないよ。

 嘉納さんはな、聖火リレーの準備も始めたよ。

 走るんだってよ、東京の町を。ほれ…韋駄天が!

 

**********

 

(日の丸の小旗を振りながら人々が鼓笛隊と行進している)

(電車のベル)

四三) おっ、来た来た。

子どもたち) お父ちゃ~ん!

四三) ほい! 大きゅうなったね~。えっ?

スヤ) すごかね。何の騒ぎ? 東京オリンピックの前祝いね?

四三) いいや、支那事変の、祝賀行進ばい。

スヤ) そぎゃんね。

 

日本の勝利を信じて疑わない人々は、

トラックに乗せられ出征していく兵士を、

皆万歳で送り出しました。

 

一同) ばんざ~い! ばんざ~い!

 

こん時は、すぐに片がつくと、誰も思ってたんですな。

 

**********

 

この年、辛作の妻、ちょうがこの世を去りました。

 

辛作) 金栗さんがいてくれて、暗くならずに済んで助かったよ。

四三) りくちゃん、ほい、だっこしてみ。

りく) はい!

四三) ほれ、いけるか?

りく) よいしょ。うわ~。

(スヤが連れてきた赤ん坊を抱くりく)

スヤ) それにしても、たまがった~。あのりくちゃんが…。

りく) 会ったことあります? 私。

スヤ) あるばい。おっぱい飲ましたこともあるばい。

子ども) おっぱい…。

りく) それは…その節はお世話になりました。

スヤ) よかよか! 震災でバタバタしとったけん、

 一人も2人も同じたい。ばってん6人も産むとは

 思わんかった。アハハハハハ!

四三) ハハハハ…もう笑うしかなか。ハハハハ…。

 勝君、ちゃんとやりおるね?

小松) やっとります。

 

**********

 

<ハリマヤ・2階>

スヤ) 心配やね。

四三) 今日も上海で爆撃のあったつばい。

 ばってん、オリンピックには影響なかて。

スヤ) 小松勝…りくちゃんに惚れとるばい。

四三) ばっ! な~し…。ばっ!?

スヤ) し~っ! 鈍感やね~四三さんは。

 小松勝、デレデレしとったばい。

 小松勝、盛りのついた肥後もっこすばい。

 ちゃんと監督せんといかんばい。

 

**********

 

<朝>

(2階から下りた四三が隠れる)

小松) 出だしで飛ばす走り方は、もう古か。

 夏場は、息が上がるけん。

りく) でもお水飲んじゃいけないんでしょ?

小松) それも古か。水分補給は、基本中の基本。ばっ!

四三) 能書きたれても金メダルは取れんばい。

(金栗足袋を履き、出て行く四三)

四三) フンッ。

小松) 行ってくるばい。

りく) 行ってらっしゃい。

(走る四三と小松)

四三) 何ばしよっとか! ぬしゃこら。

男性) ほら頑張れ頑張れ!

四三) ほう、しゃんとせえ。

小松) はい。

四三) おはようございます。

小松) おはようございます。

 

**********

 

8月になっても、戦火は収束するどころか、拡大する一方。

ついに副島さんは独断で、近衛文麿首相にオリンピック

開催の危機を、訴えます。

 

副島) 政府が本気で大会を支持して下さるなら、

 補助金として、500万円を上乗せして頂きたい。

 それが不可能なら、大会中止…。

 すなわち、返上もやむをえません。

 

**********

 

<組織委員会>

治五郎) 何てことしてくれたんだ君は!

東) 体協宛てにも各国の委員から問い合わせが殺到し

 ています。「本当にオリンピックは開催されるのか」と。

副島) 無理なら無理と早期に判断しお返しする。

 せっぱ詰まって返上ということになれば、どの国でも

 開催は困難になり、日本は、永久にオリンピックに

 参加できなくなる!

治五郎) 何の話をしとるんだね?君は。

副島) 今こそ、名誉ある撤退を!

治五郎) オリンピックはやるんだよ何が何でも! 

 この東京で!

 

**********

 

<YMCAプール>

(練習する選手の声)

(ベンチに置いてあった雑誌に「戦争は最大にして

 最も勇壮なるスポーツである」の見出し)

(選手の記録帳を見る政治)

政治) おいおいおいおいおい! 

 タイムが落ちてるじゃないか、野田君。

野田) 田畑さん…

 いやまあ、しかし…まだ3年ありますから。

政治) 3年だよ、3年! 

 あと3年しかないんだよカクさん! えっ!?

小池) 総監督!

政治) うん?

小池) 少しよろしいでしょうか?

松澤) どうした? 勝手に出るんじゃないよ。

政治) …カクさん。

宮崎) 田畑さん、僕たちは、泳いでいて、いいのでしょうか?

小池) いとこが出征しました。大して年も変わらないのに。

 それ以来…練習してても何だか後ろめたくて。

政治) それが、不調の理由かね? えっ?

 全種目制覇すんだよ!

小池) こんなことで…

 本当にこの国にオリンピック、来るんですか?

政治) 来るよオリンピックは! そのオリンピックで、

 全種目制覇してメダル取るんだよお前たちが! 泳げほら!

松澤) ほらほらぼうっとしてんじゃない…。

 はい続けて続けて!

野田) 次いくぞ!

松澤) はい、集中集中!

 

**********

 

ラジオ・河野) 「万歳の声を背中に聞きながら、中国へ多くの

 若者が出征していく。一方において、派手なユニフォームを

 着て飛んで回っている青年がいる。なにが精神総動員か! 

 オリンピックなど一刻も早く、返上すべきです!」。

ラジオ・アナウンサー) 「河野一郎議員による…」。

小松) どうしました?

(立ち止まり街頭ラジオを聴いている四三)

ラジオ・アナウンサー) 「東京オリンピック返上の答弁は、

 連日にわたり行われ、大きな波紋を呼んでおります」。

 

**********

 

<朝日新聞社>

四三) 失敬。

緒方) お~金栗さん。

四三) 河野君はおりますか? 河野一郎君です。

緒方) 河野はもう、退社してるんです…。

四三) 失敬、失敬…。

緒方) 金栗…。

四三) 河野! 河野君! 河野!

緒方) いやいや…もう河野はいないんです。

政治) 金栗さん!

四三) 田畑さん…。

 河野一郎君と話ばさせて下さい! 河野! 河野!

緒方) もうここにはいないと何度も言ったんだけどね。

四三) どぎゃんつもりですか彼は! かの早稲田ん

 徒歩部で、健脚ば誇り、第1回箱根駅伝ば共に

 立ち上げ、雪の7区ば共に走ったと…思えん!

 な~しあぎゃん返上論ばぶっとか!

政治) 落ち着いて下さい!

 河野はとっくに記者を辞めました。

四三) 田畑さん…東京オリンピックやらんとですか?

政治) そういう声が、国内外で出てるのは事実です。

 だが安心して下さい! 絶対やります! やりますとも!

 返上など…嘉納先生の、目の黒いうちは…。

四三) ストックホルムの次のベルリンの大会、

 1916年。俺は絶好調でした。世界記録ば出して、

 メダルも期待されとったばってん…。

 

(回想)

治五郎) オリンピックは中止だ!

 欧州戦争の長期化により、無期延期! 無念!

 

四三) 嫌~な予感のすっとです。あん時と同じ…

 いや、あれ以上に嫌~な感じ。今度の戦争…

 日本は当事者ばい。ドンパチやっとる国で平和

 の祭典? ハハッ…矛盾しとるばい。

政治) 矛盾…ええ…。記者の私も矛盾を感じております。

 ご覧下さい。机の上もぐっちゃぐちゃ。頭の中もこんな感

 じです。「返上」、「反対」、「絶望」! 大陸の地図を見て、

 中国へ何千何百の兵を送り込んだという記事を書くかた

 わら、同じ地図を見て、聖火リレーのコースを考えておる。

 夢と現実が入り交ざってこれはもう…矛盾!

 認めたくはないが…河野の言うとおりなんです。

四三) 田畑さん…。おるは今、若い選手の育成ばやっ

 とります。熊本から連れてきた有望株で、調子もぐん

 ぐん上がっとる。こん真夏の東京で…真っ黒になって

 走っとる。田畑さん…はしごば外される選手の気持

 ち…分かりますか? 田畑さん。明日の、目標ば失っ

 た選手の悲しみ…田畑さんなら分かるでしょう。

 おるの聖火ランナー、どぎゃんでもよか。戦争になろ

 うが小松君ば走らせたか。小松君ば走らせたか!

 そぎゃ~ん考えるは、矛盾でしょうか? 田畑さん。

政治) 矛盾じゃない! いや矛盾だ。

 スポーツに矛盾は付き物だよ! 

 なぜ走る? なぜ泳ぐ? なぜ走る!? なぜ泳ぐ!?

 えっ!? 答えられん。でもそれしかないじゃんね!

 あんたも俺も、オリンピックしかないじゃんね!

 戦争で勝ちたいんじゃない。マラソンで勝ちたい、

 水泳で勝ちたいんだよ。

 

**********

 

<マラソン記録会>

りく) ああっ、やった1着! 勝さん1着!

スヤ) どれ、見せて。

四三) 来た…来た来た! 小松勝~!

(観客席で双眼鏡を覗くスヤ)

スヤ) 若か頃の四三さんたい。韋駄天の生まれ変わりばい!

(グランドに駆け寄るりく)

りく) 勝さ~ん!

小松) スッスッハッハッ。スッスッハッハッ。

四三) 勝~! こっちばい!

小松) 先生! 金栗先生!

四三) よ~し! 小松~!

(ゴールテープの向こうで待ち構える四三)

四三) よし来~い! 小松~!

(歓声)

四三) がまだした!

(小松を抱き締める四三)

四三) がまだした! 小松君ようがまだしたばい!

小松) 先生…。

四三) ぬしゃ、世界に通用する、韋駄天ばい!

小松) ありがとうございます。

四三) うん…ようやった!

りく) 勝さ~ん!

四三) ようやった!

小松) りくちゃ~ん!

四三) よ~し、胴上げばい!

(胴上げされる小松)

一同) ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!……。

 

**********

 

(プールサイドに神妙な顔の政治)

 

**********

 

12月、日本軍が南京を占領。

更に戦争に突き進む日本は、世界から

非難を浴び、孤立を深めていきます。

 

<田畑家>

(中腰で新聞を読んでいる政治)

政治) そろそろアレはナニするから。アレもなかなか収らん。

 ナニがうるさくて、アレしてる場合でもない。さっさとアレ

 をナニしてナニせんと、アレにもナニにも失礼だよ。今日、

 アレをナニするつもりだが…君どう思う?

菊枝) いいんじゃないですか?

政治) いいって君…分かっとるのかね?

菊枝) 分かってますよ。ナニでしょ?

政治) い…冗談じゃない! アレを東京でナニするために

 俺は…。ナニはなくとも、ナニ第一主義で…。ああっ?

 大体何だこれは。きゅうりのぬか漬け、きゅうりのみそ汁、

 きゅうりの天ぷら、きゅうりの炊き込みごはん! 

 俺は何だ? 河童か? 河童だよ!

菊枝) 河童に戻って下さい。河童のまーちゃんに。

 近頃のあなたは、見ていられません。

(きゅうりの炊き込みごはんを茶わんによそう菊枝)

 

**********

 

オリンピック東京開催を疑問視する声が世界中で

高まる中、嘉納治五郎は、エジプトのカイロで開

かれる、IOC総会に出席します。

 

(神宮外苑競技場に立つ治五郎)

治五郎) こうして見ると、なかなかどうして…。

 いいスタジアムだ。

政治) 副島さん、また熱を出して倒れたそうです。

治五郎) どのみち、やつとカイロに行くつもりはない。

 追い詰められたら、簡単に、「お返しします」と、

 泣きつくのがオチだ。

政治) 嘉納さんは、どうするおつもりですか?

治五郎) そうだな…競技場もいまだに決定せず、

 報告すべき何物もない。徒手空拳、フフッ…

 手ぶらだ。だが、日本は大国。必ず開催できる

 という信念のもと、正々堂々、押し切ってみせる!

 君もどうだ? ついてこんかね? うん?

 嘉納治五郎…恐らく、最後の大舞台だ。

政治) 返上するならご同行します。

 断固開催するとおっしゃるなら、行きません。

 (土下座して)このとおりです!

 嘉納さん、返上して下さい。駄目だ…。こんな国で

 オリンピックやっちゃ、オリンピックに失礼です!

(政治に背を向け、トラックを眺める治五郎)

政治) いや分かります。この期に及んでこれほど

 みっともないことはない。しかし…それができる

 のは嘉納さん、あなたしかいません!

(トラックを、四三が走っている)

(治五郎の背中を見つめる政治)

治五郎) オリンピックは…オリンピックは…やる!

政治) 今の日本は、あなたが世界に見せたい日本ですか!?

 また口先だけで、大風呂敷を広げるというんですね。

治五郎) 何だと!?

政治) そんな嘉納治五郎は見たくない!

 どうぞ…一人で行って下さい。

治五郎) 後ろ向きなことは言わんのじゃなかったのか、田畑!

政治) 前向きですよ。前向きに返上してくれと言ったんだ

 俺は! あんたが、ここで、引き下がる潔さを見せれば、 

 戦争が収ったあと、もう一度オリンピックを招致できる!

(丸眼鏡の奥で政治の瞳が揺れている)

政治) 残念です。

(ドアの閉まる音)

(トラックに目を戻す治五郎)

四三) スッスッハッハッ、スッスッハッハッ…。

治五郎) (ため息)

 

**********

 

<IOC総会 カイロ>

 

カイロ総会は、「四面楚歌」、針のむしろに座る思いでした。

まず中国代表、王正廷(ワン・ジェンティン)が、開催地の

変更を要求します。ベルリン総会では東京を支持したが、

今や、殺し合いをやっている敵国同士。満州国問題も俎

上にあがった。「国際連盟が認めていない国を参加させ

るのか!?」「いつまで戦争を続けるんだ!」「競技場は

どうなった?」「聖火は?」「補助金は?」。

何も答えられない、治五郎。我らが日本代表、御年77歳。

やおら立ち上がり、並み居る委員を見据え…。

 

治五郎) (英)返す言葉もございません。

 全く、情けない限りですが、30年、IOC委員である私を、

 信じて頂きたい。オリンピックと政治は、無関係。証明

 してみせます、東京で。信じて下さい。ジゴロー カノー。

(ラトゥールを見る治五郎)

治五郎) ビリーブ ミー。

(頭を下げる治五郎)

治五郎) 順道、制勝。逆らわずして、勝つ!

(笑うラトゥール)

 

**********

 

昭和13(1938)年

 

一同) ばんざ~い。ばんざ~い!

 

1938年、春。東京開催が、改めて、承認されました。

 

男性) オリンピック盛り上げていかないとなりませんな、皆さん!

(拍手と歓声)

 

**********

 

<バー・ローズ>

河野) お前だって本心はそうだろう?

 違和感を覚えないはずがない。

政治) そんなのは…ずっと前から感じてるじゃんね!

 違和感ならニ・二六の時から…いやもっと前だよ。

 五・一五の時から大きくなる一方だ! 日本はそう

 いう国…。政治とスポーツを別に考えられない。

 もう、軍事国家だよ。

(カード占いをしているマリー)

政治) 本当のこと言おうか?

 お国のためのオリンピックなど俺は要らん!

 だから…返上してくれと嘉納さんに言ったんだよ。

マリー) 田畑さん…。

河野) そうなのか?

政治) だが、あの人は、世界に承認させてしまった。

 手ぶらで行って持って帰ってくるってオリンピックを。

 もうやるしか道はない。どうする? 助けてくれよ河野!

 

**********

 

<カナダ・バンクーバー>

 

五りん) カイロからカナダを経由して

 帰国の途につく嘉納さん。

 

平沢) あの…嘉納先生ですよね?

治五郎) はい。

平沢) 外務省に勤める平沢です。

治五郎) ああ…。

平沢) あっ…平沢和重と申します。

 

五りん) あれ? この人どっかで見た…

 え~誰でしたっけね? あっ、分かった! 

 あの平沢さん! 64年大会のスピーチを担当した…。

 

<IOC総会 ミュンヘン 1959>

東) (英)平沢和重氏は、かの”ジゴロー カノー”の、

 最期を看取った人物です。

 

五りん) 「看取った」ってことは…。

 

**********

 

<大型客船の食堂>

(分厚い大きなステーキが治五郎の元へ)

男性) お待たせしました。

治五郎) はい、ありがとう。

(向かい側でパンを小さくちぎって食べる平沢)

治五郎) 平沢さんは、食が細いですな~。

平沢) 食欲がなくて。先生こそ、お疲れでしょうに、

 よくそんなに召し上がりますね。

治五郎) 疲れるのは…精力を善用せんからです。

 私のように、精力善用を心がけてる者は、疲れる

 ということはない。疲れたことなど、一度もない。

平沢) 失礼いたしました。

 

五りん) 横浜まで13日間、嘉納さんのお供をする

 ことになった平沢さん。初めの3日ほどは、穏や

 かな航海で…。嘉納さんは体調もよく、食後1時

 間も話し続けたそうです。しかし…。ひどいシケ

 に出くわし、海が荒れ、疲れ知らずの嘉納先生、

 風邪をひいて随分と弱ってしまった。数日後、少

 し体調を戻した嘉納先生は、みんなの前に姿を

 現しました。

 

船長) ようこそ、先生。

平沢) 船長がお茶会にご招待して下さったんです。

治五郎) あ~結構ですね~。

 (英)皆さん、話してみませんか?

 人生で、”一番、面白かったこと”を。

外国人) オ~!

(外国人の話に耳を傾ける治五郎)

治五郎) じゃあ、平沢さんは? 人生で一番面白かったことは?

平沢) 私ですか?

治五郎) うん。

平沢) えっ…弱ったな…。え~っと…すいません、え~っと…

 面白かったこと…。面白かったこと…え~っと…。あの…

 今朝、私の、大便が、あの…偶然平沢の、「ひ」の字に…。

治五郎) あっ…ふ~ん。う~ん、私はね…そうだな…。

 ハハハ…やはり、羽田の予選。天狗倶楽部と清国からの

 留学生とで、羽田に、競技場を造ってね、そこに、韋駄天

 が…。真っ赤な顔をして、現れたんだ。しかし…一番では

 ない。ああ。ストックホルムも面白かった。「NIPPON」の

 プラカードを掲げて、金栗君と、三島君と、歩いたのは

 生涯忘れられない。…が、う~ん、これも一番ではない。

平沢) でも、オリンピックがやはり思い出深いようですね。

治五郎) あっ…ロサンゼルス大会。

 田畑っていうのがいてね…。

平沢) 田畑?

治五郎) うん。口は悪いが、言っただけのことは、必ずやる。

 すごかったからね~ロサンゼルスの競泳は。毎日のように、

 日の丸が揚がって…「君が代」が流れるんだよ。鼻が高か

 った。「俺は日本人だ!」って、みんな胸を張って、高らか

 に叫んでね。うん…現地の日系人に、感謝されたのが一番

 うれしかった。

平沢) はっ! 一番が出ましたね!

治五郎) うん…。いやいやいやいや…一番ではない。

 田畑が一番だなんて、そんなわけがない。え~ほかに

 あるはずだ…ちょっと待って…え~っとね…。(咳込)

 あ~…。これ難しいね、一番となると。う~ん…。(咳込)

平沢) 一番は、東京オリンピックじゃないですか?

 すいません…私のような若輩者が、知ったような口を。

治五郎) そこだよそこ!

平沢) はい?

治五郎) これから、一番面白いことをやるんだ。東京で!

 ヘヘヘヘヘ…。「本当にできんのか?」って、眉をひそめて、

 ぬかしおった西洋人どもを、あっと言わせるような…。(咳込)

平沢) 先生…。

治五郎) うんうん…大丈夫。(咳込)

 みんなが、驚く…みんなが面白い…そんなオリンピックを、

 見事にやってのける。うん! これこそ一番!

 ああ! ハハハ…うん…。(咳込)

平沢) 先生、大丈夫ですか?

治五郎) あ=大丈夫大丈夫…うん。あ~。(咳込)

 楽しい時間をありがとう。

平沢) いえ…。

(ドアが開く音)

治五郎) あ~すまんね。よいしょ…。

(部屋に戻っていく治五郎)

 

**********

 

<船内・廊下>

治五郎) (咳込)ああ…。(咳込)はあ…。(咳込)

 

**********

 

(小松と砂浜を走る四三)

四三) スッスッハッハ…そん調子ばい。

小松) はい!

(ひもが切れる音)

四三) あっ!

(右足を見る四三)

小松) どぎゃんしました? 先生。

(金栗足袋のひもが切れている)

(海を見る四三)

 

**********

 

五りん) 昭和13年5月4日。嘉納治五郎先生は、

 太平洋沖で帰らぬ人となりました。享年、77。

 駄目だ…笑いに、持ってけないですね。すいません。

 

**********

 

<横浜港>

(横浜港に着いた大型客船)

 

**********

 

(表情のない顔でやって来る政治)

(棺の中を見る政治)

政治) あっ…ああ…。(泣)

平沢) あの…田畑さんですよね?

政治) ああ…。

平沢) 嘉納先生がこれを。

政治) ストップウォッチ?

 

(回想)

医者) (英)患者さんが呼んでいます。

平沢) ヒー イズ?

医者) イエス プリーズ。

(医者に促され、客室に入る平沢)

平沢) 先生…平沢です。

治五郎) おお…。

平沢) 上着?

治五郎) うん。

平沢) 上着ですか?

(ベッドで体を起こす治五郎) 

治五郎) これを…田畑に。

(フロックコートのポケットからストップウォッチを出す)

(秒針の音)

 

(政治の手にス、トップウォッチ)

平沢) 動いてるんです。

(秒針の音)

平沢) いつ押したんでしょうね?

(棺の中の治五郎を見つめる政治)

 

(回想)

治五郎) オリンピックは…オリンピックは…やる!

 

政治) (泣)

副島) 嘉納さん…。(泣)

(棺が閉じられ、五輪の旗がかけられる)

 

**********

 

<寄席の楽屋>

五りん) 何がよかったのかな~? 77…77…。

知恵) 五りんちゃ~ん、大変大変大変!

五りん) あっ、今思いついた!

知恵) えっ?

五りん) 治五郎先生がストップウォッチを押したのは

 何時ごろ? 何時ごろ…なんジゴロウ? なん治五郎!

 あっ…どうした?

知恵) 師匠倒れたって…脳出血!

五りん) えっ!?

 

**********

 

治五郎先生ぇ~~~(T_T) 全然知らなかったよ~。

治五郎さんが東京オリンピック招致に成功していた

なんて! かなりの力業だけど、治五郎さんの人柄

で押し切った感じだったけど…逆らわずして、勝つ!

 

これから、一番面白いことをやるんだ。東京で!

 

来年のオリンピックも、東京でやる、今、一番面白い

ことを、治五郎さんに見せられたらいいなあ…(涙)。



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