大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第38回~長いお別れ | 日々のダダ漏れ

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大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第38回~長いお別れ

 

 

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「日々のダダ漏れ」

 

 

昭和36年12月 1961

 

アナウンサー) 「今日午後4時ごろ、落語家の古今亭

 志ん生さんが、脳出血で倒れ、病院へ、搬送され

 ました。志ん生さんは、読売巨人軍の、祝勝会の

 余興で、落語を披露する予定でしたが、壇上に

 上がって間もなく、急に倒れたということです」。

 

<病室>

五りん) 師匠…。

美津子) 五りん、お父ちゃんのお気に入り。

 妹の喜美子。

(お辞儀をし、ベッドに近づく五りん)

(志ん生の顔に酸素マスク)

今松) 待たされちゃったんだよ。

 川上監督の、到着が遅れて。

 

(回想・巨人軍優勝祝賀会)

志ん生) 美津子。

美津子) えっ?

志ん生) 出ちゃおうよ。俺が出りゃ静かになるから。

美津子) そうね。うん。出しちゃって。

(お囃子)

(会場に用意された高座にあがる志ん生)

男性) お待たせしました~!

(歓声)

 

今松) 酒と、料理と志ん生、同時に出ちゃって。

 

(回想)

男性) 待ってました~!

(拍手と歓声)

志ん生) いや~…。え~昔、あの…

 まだ、江戸といわれた時代に…。

男性) かんぱ~い!

一同) かんぱ~い! かんぱ~い!

(志ん生の体が傾く)

(悲鳴)

男性) 空けて! 空けて空けて空けて!

美津子) お父ちゃん、起きて…。

今松) 師匠!

男性) 起こしちゃ駄目だ!

美津子) えっ?

男性) 脳出血かもしれない。動かさないで!

今松) すああっ、すみません。

美津子) 脳出血って…?

男性) せ~の!

 

美津子) 左のね、ここら辺の、血管が切れちゃった

 んだって。最悪言葉がしゃべれなくなるかもって。

今松) ああ、俺のせいだ…

 俺が、無理やり起こしたから…ああ…(泣)

喜美子) 助かっても、大好きなお酒は、

 一生…飲めないって。

 

**********

 

今松) ご存じのとおり、師匠が、ひっくり返りまして…

 ご心配なく。万が一くたばっても、引きずり出して、

 カンカンノウ躍らせます。(手拍子)

 カンカンノウ治五郎…な~んて。ヘヘッ…。

 ウケない。フッ。え~嘉納治五郎という大黒柱を

 失った、日本スポーツ界。

 

**********

 

昭和13年 1938

 

(横浜港に降ろされる、五輪の旗がかけられた棺)

(駆け寄る四三)

四三) 嘉納先生…。(泣)

可児) 先生…。(泣)

 

(回想)

平沢) 田畑さんですよね?

 嘉納先生がこれ(ストップウォッチ)を。

 動いてるんです。いつ押したんでしょうね?

 

(人力車を引いた清さんが棺に駆け寄る)

清さん) ライトマンの旦那…。

男性) やめなさい…。

清さん) おい何だよ…俺たちに、オリンピック

 見してくれんじゃねえのかよ! おい…。

四三) 清さん…。

清さん) 起きろ!

四三) 心配なか。

清さん) 起きてくれ、旦那!

四三) オリンピックはやるけん必ず。

(棺を車に運ぶ四三たち)

(クラクション)

(清さんの叫び声)

四三) オリンピックはやる…必ず。

(秒針の音)

(政治の手の中にストップウォッチ)

(動く針を見つめ、顔を上げる政治)

 

**********

 

<病室>

(古い絵葉書を見ている五りん)

五りん) 「志ん生の『富久』は絶品」。

(ベッドで眠る酸素マスクを付けた志ん生)

 

**********

 

永井) 我々は、嘉納先生の苦労を見てきた、体協設立時

 からつぶさに。今では私は、発言力を持たぬ、ただいた

 ずらに背筋のピンと伸びた老いぼれだが…。ハハッ。

 あの頃は違った。何度も投げ飛ばされ、それでも食って

 かかった。嘉納先生が、元気旺盛なればこそ…。

政治) ねえ…まだ誰か来るよね?

野口) えっ?

政治) 嘉納さんを偲ぶ会って聞いて来たんだけど、

 偲ぶの3人じゃないよね?

野口) 3人じゃない! 4人だ。

政治) だったら帰ります…いくらか置いて。

可児) 見たかね野口君、校長の、死に顔。

野口) ええ…見ましたとも。ただの、おじいちゃんでした。

可児) ただのおじいちゃんだったね。

 あんなに手のかかる、おじいちゃんが…。(泣)

永井) 死んだらただの、いい人になってしまう。それが悔しい!

可児) (泣)

永井) いい人なんかじゃないよ、嘉納治五郎は!

可児) はい!

(ストップウォッチを握った政治)

政治) ずるいよ全く。さっさと死にやがって。

永井) 何?

政治) やりゃあいいんでしょ!? 嘉納治五郎が、いかに

 偉大でめんどくさかったか、証明してやりますよ!

野口) おい、 いくらか置いてけ!

 

**********

 

<オリンピック東京大会組織委員会>

政治) コースに関しては、こちらをご覧下さい。

 聖火は、ギリシャ・アテネから、イスタンブール、アンカラ…。

牛塚) なぜ、ギリシャなんだね?

政治) それは…古代オリンピック発祥の地ですから。

梅津) 東京オリンピックは、紀元2600年の、記念行事である。

 ギリシャのごとき異国から、火を借りるなど言語道断。

 そこで、提案ですが…神火(しんか)ではいかがですか?

政治) シンカ?

梅津) 宮崎の高千穂から、出雲大社、伊勢神宮に立ち寄り、

 明治神宮を目指す。聖火ならぬ、神火リレーです。

(拍手する梅津の部下たち)

牛塚) 東京市は、改めて、駒沢競技場を提案します。

 あそこなら、12万人収容の競技場が造れる。

平沼) 1000トンの鉄骨があればという話ですね。

梅津) 1000トン…駆逐艦、何隻造れますかな?

副島) 文部次官、政府の考えを、お聞かせ願いたい。

 開幕まであと2年、いかがするおつもりですか?

梅津) 兵器製造の資材として、鉄は何より貴重です。

副島) 文部次官に聞いています。政府のお考えを。

 1000トンの鉄骨は、承認できますか?

梅津) いっそ、木で造ったら、いかがですかな?

政治) はあ!?

梅津) 木製のスタジアム…風情があって、よいと思うが。

 

**********

 

<準備室>

東) 木のスタジアムって…「三匹の子豚」じゃあるまいし。

副島) ラトゥール伯から、私信が届きました。

 イギリスとフランスが、正式にボイコットを申し出たそうです。

 「支那事変が継続する限り、東京の味方はできない」。

(秒針の音)

副島) 何の音だね?

政治) あっ…すいません。

(上着のポケットを掴む政治)

副島) 返事をしよう、田畑君。

東) 残念ですな~。あっ、何です?

副島) 総理に直談判して、

 政府による中止決定に持っていきます。

政治) ちょちょ、ちょちょ…ちょっと待って!

 いいのかな~? 本当に。

副島) 全て私の独断。お二人は、黙認してくれれば結構。

政治) いやいや、いやいや…。やらないってことは

 ゼロじゃんね? 何も、学ばない、何も残らない。

東) 残念ですな~実に残念です!

政治) 招致の苦労も水の泡。あんたが熱出してぶっ倒れて、

 ムッソリーニに会ってまた倒れて…それも、無駄! いいの

 かな~? 嘉納さんはやってほしいんじゃないかな~?

 俺はいいけど嘉納はどうかな~?

副島) 嘉納さんは…もういません!

政治) いるんだよここに!

 動いてるんだよストップウォッチが。

 気持ち悪くないかね? 東龍さん。

 腰の曲がったジジイがよ、手ぶらでエジプト行って、

 年下の西洋人に、ボロクソ言われて吊し上げられて、

 それでも守り通したオリンピック! 

 いいのかな、止めちゃって!?

 副島さん、総理大臣に頼むんだったら戦争の方じゃ

 ないの? 戦争をやめてくれって、電話して下さいよ!

 オリンピックの間だけでもさ…一時停戦にならないの?

副島) 今の政府には…できないだろうね。

東) 残念です…。

政治) あんたそればっかりだな!

副島) それは、君が持っていたまえ。

 機が熟せば…いつかやれるさ、東京オリンピック。

(秒針の音)

(ストップウォッチを見つめる政治)

(壁に貼られた1940東京オリンピックのポスター)

 

**********

 

7月14日、政府が、東京オリンピックの中止を決定。

 

木戸幸一) 今や支那事変の推移は、長期戦の備えを

 一層固くするがために、ついにこの際、オリンピック大

 会の開催も、これを取りやむるを、妥当なりとするに、

 至ったのである。

 

**********

 

手紙・副島) 「親愛なるラトゥール伯。日本中で、最も評判

 の悪い男になる危険を冒して、東京オリンピックの中止を、

 政府に働きかけました。総会の席上、私の両隣には、誰

 も座ろうとしなかった。売国奴、非国民と罵られても、私の

 自分のとった行動を、後悔してはいない。返上が半年遅れ

 たら、どの国でも開催できない」。

 

**********

 

<明治神宮外苑競技場>

政治) 金栗さん!

四三) ああ。スッスッハッハッ、スッスッハッハッ。

 スッスッハッハッ、スッスッハッハッ…。

(泣きそうな顔で四三を追いかける政治)

(四三の前に立ちはだかる政治)

政治) もう走らんでいい! 

 金栗さん、頼む…走らんでくれ。

四三) な~し?

政治) 言わなきゃ駄目か?

四三) いや…よかです。大体察しのつきますけん。

(頭を下げる政治)

四三) そぎゃんですか。

 ばってん…彼にはどぎゃん言うたらよかですか?

(無心に走っている小松)

四三) お…。

政治) 東京オリンピックは中止だ! おしまい!

(小松に駆け寄る政治)

政治) 返上! なっ? だからもう…走らんでよか。

小松) 返上?

政治) うん。

小松) 返上…。

 返上なら…オリンピックはやりますよね?

政治) ああ…やるんじゃないか? ヘルシンキで。

小松) はあ…アッハハハハハ!

政治) えっ?

小松) たまがった~!

政治) えっ?

小松) 中止っておっしゃるから…。そぎゃんこつなら、

 俺はヘルシンキに出るばい。それだけの話たい。

(走る小松)

政治) おい…。

四三) おい小松君! 

 戦争の収まらんと日本人は出られんぞ!

(小松を見る政治の目に涙が滲む)

 

**********

 

手紙・副島) 「いつの日かこのアジアで、願わくばこの

 東京で、オリンピックが開かれることを、夢みて…」。

(世界地図の中の日本を見つめるラトゥール)

ラトゥール) (ため息)幻の、オリンピック。

 

**********

 

<朝日新聞社>

(「オリンピック東京大会、遂に中止に決定す」。

 記事を書き、ストップウォッチを見つめる政治)

(ストップボタンに指をかける)

(秒針の音)

(机の引き出しにそっとしまう政治)

政治) 誰かこれ、印刷に回して!

男性) はい! はい、俺やります!

 

**********

 

昭和36年12月 1961

 

(秒針の音)

(引き出しを開ける音)

岩田) 何だ、これか…。

(引き出しからストップウォッチを取り出す岩田)

岩田) う~ん…これはどうやって止めるんだ?

政治) (叫び声)

岩田) はいはいはいはいはい?

政治) 止めるな! 止めるんじゃないよ!

岩田) あ~「止めるな」っておっしゃたんですね。

政治) バカ野郎ね! 嘉納先生の形見だぞ。

 ずっと動いてんだから。

岩田) あ~すいません。

政治) あ~もう…。

(政治の机の上にカップラーメン)

政治) 3、2、1…よし、3分たった。

岩田) えっ、止めちゃうんですか?

政治) あっ、駄目だ止めちゃ! 危ねえ危ねえ…ハハ…。

 こういうとこあるね俺はね。いや~気を付けてね岩ちん。

岩田) はい分かりました。

政治) 危ねえ…。

岩田) いつ押したんでしょうね? 実際。

政治) うん?

岩田) ストップウォッチのスタート。

政治) ああ…岩ちんどう思うよ。

岩田) あ~…ベルリンで、東京招致が決まった瞬間とか。

政治) あ~。ストックホルムの、マラソンからだったりしてな。

 熱っ! うまいなこれ。選手村で配ったらどうだい? えっ?

岩田) あっ、そうだ…古今亭志ん生が倒れたそうです。

政治) 何!? 死んだのか?

岩田) いや…。

 

**********

 

<病室>

五りん) 今日、誰か来ました?

今松) いや…。…ったく、仮にも落語協会の会長が、

 意識不明の重体だってえのに。

五りん) あれ? それ誰からですか?

(おならの音)

五りん) ちょっと~あにさん。

今松) 俺じゃねえよ、お前だろ。じゃあな。後をよろしく。

五りん) ご苦労さまで~す。

 ちょっと、おならは勘弁して下さいよ!

志ん生) 生きてる証拠じゃねえかバカ野郎。

 酒買ってきたか?

五りん) 駄目です。

志ん生) しょうがねえから…これ飲んじまう…。

五りん) いやいや駄目駄目…。

志ん生) あっ…チクショー。

(薬用のアルコールを隠す五りん)

志ん生) 体の半分動かねえし、ろれつも回らねえし、

 酒くらい飲まなきゃ…。

五りん) 飲んだら高座に上がれなくなくなりますよ、

 二度と。ひどかったら、言葉しゃべれてなかったって。

 よかったと思わなくちゃ。

志ん生) お前、大塚の足袋屋、また行ったのか?

五りん) 今はハリマヤスポーツです。そこの、辛作さん

 ってじいさんからいろいろ聞いてきました。親父が、

 オリンピックを目指してたこととか…。結局中止に

 なって、兵隊に取られて、満州に行ったこととか。

志ん生) ああ…。

五りん) そういえば師匠、

 そのころ行ってたんですよね? 

 慰問で、満州。

志ん生) ああ…。

五りん) 覚えてないんですか? 本当に。

志ん生) 一杯飲んだら思い出すよ。ヘッ。

五りん) (ため息)またまた…。

志ん生) 出せ、一杯。

 

**********

 

1939 昭和14年

 

1939年、ナチスドイツ軍は、ポーランドに侵攻。

これに対し、イギリス、フランスが宣戦布告し、

第2次世界大戦が勃発。

もはや世界中が、戦争当事者でした。

 

<ハリマヤ>

四三) どぎゃんする? 小松君。

 ヘルシンキも戦争で恐らく中止ばい。

 4年後もあるかどうか分からん。いよいよ

 君が、東京におる理由ののうなった。

 熊本に…帰ったらどぎゃんね?

(ミシンを踏むりくの足が止まる)

小松) オリンピックだけが公式レースじゃなか。

 箱根駅伝もあるし…。

四三) スポーツなどやっとるもんもうこん国には

 おらん! 例えば、神宮でやった、戦技競技会。

 一生懸命な学生さんたちには悪かばってん、

 スポーツとは、どぎゃ~んしても呼べん。

 精神総動員、大いに結構…ばってん、

 スポ-ツでやったらいかん。

辛作) 辛気くせえな~!

四三) そういうご時世ばい、辛作さん。

辛作) 金栗さん、あんただよ! 何だよ、辛気くせ

 え顔して辛気くせえことばっか並べ立ててよ! 

 あんたみてえな役立たず、家賃も取らねえで何

 年も置いてやったのは何のためか分かるか!?

四三) はあ?

辛作) 楽しいからだよ! 

 あんたがいると家ん中明るくなるからだよ!

 戦争だろうが何だろうが、あんただけは

 バカみてえに笑ってなきゃ駄目なんだよ!

(辛作に国民服をぶつけるスヤ)

スヤ) 役立たずは言い過ぎばい。

辛作) ああ…そりゃすまねえ。

スヤ) あとはおおむね同意。

四三) ばっ!

スヤ) おとうちゃんだって、オリンピックの中止

 になった時、部屋に籠もって泣きよったとばい。

小松) そぎゃんですか?

四三) いや、泣いとらん。

スヤ) それに、勝さんが東京に残りたか訳は、

 なんもオリンピックだけじゃなかとたい。

 ねえ、りくちゃん?

(ミシンを踏むりく)

辛作) えっ…えっ!? えっ、えっ、えっ、お前ら…。

小松) すいまっせん!

辛作) そうなの!?

四三) ハハハハ、鈍感ですな~辛作さんは。

 盛りのついた、肥後もっこすばい。

辛作) お前…。

りく) 私…私は…。ごめんなさい…。

(加速するミシンの音)

辛作) ちょっとりくちゃん? ちょっと…危ねえよ!

四三) りくちゃん…。

小松) すいまっせん! ちょっと、走ってきます!

辛作) えっ?

四三) おい…。

辛作) りくちゃん? 危ねえ…危ねえよ。

スヤ) りくちゃん、行かんでよかと?

りく) あっ、ごめんなさい…。すいません…。

 

**********

 

(道を走る小松)

りく) 勝さん、早く早く。

(自転車で小松を追い越すりく)

小松) りくちゃん!

 俺と一緒になってくれんね~!?

(ペダルをこぐりく)

小松) りくちゃん? りくちゃん?

 ちょっと待って、ちょっと待って…どぎゃんね!?

 りくちゃ~ん、ちょっと待って! どぎゃんね!?

(猛スピードの自転車)

小松) りくちゃ~ん!!

 

**********

 

<ハリマヤの2階>

(りくと小松が杯を交わしている)

辛作) よっ!(拍手)

四三) おめでとう。

辛作) おめでとう!

四三) おめでとう。

スヤ) もう、増野さん、そぎゃん鬼瓦のごたる顔せんと…。

増野) 僕はね、勝君…妻を、震災で亡くしてるんですよ。

りく) お父ちゃんそれ今日4回目。

増野) 幼いりくを背負ってね、がれきの中歩いてね…。

スヤ) 泣くとでしょ?

増野) 妻の名前。叫びながら…。バラックで…。

スヤ) 怒鳴るとでしょ?

増野) その絶望が…悔しさが分かんのか君に!

スヤ) はい、歌いましょう。せ~の!

 ♪逢いたかばってん 逢われんたい

 たった一目でよかばってん

四三) ハハハ…! もう、増野さん! 小松君なら心配なか。

 ちゃ~んとりくちゃんば、大切にするばい。のう?

小松) はい。約束します!

一同) ♪今朝も今朝とて田のくらで 

 好かん男に口説かれて

増野) 大切にされても腹が立つよ。

 大切にしなかったら…殺すよ!

(頷く小松)

(互いの顔を見つめあう小松とりく)

 

**********

 

<病室>

五りん) …で、次の年、僕が生まれました。東京に

 オリンピックが来るはずだった、昭和15年、秋。

志ん生) なるほど…それで、五りんって付けたんだ。

五りん) いやいや、

 五りんは師匠がつけてくれたんじゃないですか。

 もうしっかりして下さいよ。本名は…金治です。

志ん生) 金治?

五りん) まあ…金メダルの「金」に、

 「治五郎」さんの「治」じゃないですか?

志ん生) 金栗の「」金じゃないのかい?

五りん) あっ、そっちか…はい。

志ん生) 昭和15年ってのは…

 俺が志ん生を襲名した頃だな。

 

**********

 

(名の入った幕を張り巡らせた部屋で、

 キセルをくゆらせ、酒を飲んでいる孝蔵)

おりん) あたしゃ反対ですね。志ん生って名前は、

 代々短命だっていうじゃありませんか。

孝蔵) そうなのかい?

万朝) 先代は、長いこと患って50で逝った。

おりん) 50って…あと1年じゃないか!

 ようやく内職しないで人並みの生活ができる

 くらいになったのに、あと1年なんて…。

 あたしと子ども4人、どうやって…。

孝蔵) 何を泣いてやがんだべらぼうめ! えっ?

 志ん生になったら患うだの早死にするだの

 そんな法律でもあんのかい? えっ!?

 そんなものは俺がご破算にしてやる!

 

りん) 俺が志ん生になって、長生きして、う~んと看板

 大きくしたら、早死にした師匠たちだって喜んでくれる

 だろう…フフッ。それで文句ねえだろって。

美津子) 大きくしたね、看板。偉いよおとうちゃん。

(酸素マスクを付け、意識がないフリをした志ん生)

りん) 志ん生名乗って22年、よく頑張ったよね。

 おとうちゃんよく頑張った…。(泣)

喜美子) やだ…泣かないでよお母ちゃん。

美津子) ほらお父ちゃん、黒豆。ねえ、起きてよ。

 おうち帰ろうよ、ねえ。

 (匂いを嗅いで)お酒臭い。

五りん) そんなことないですよ。

美津子) えっ?

五りん) ただの思い込みですよ。いつも飲んでたから。

美津子) そうだよね…

 お父ちゃんといえばお酒だもんね…。(泣)

りん) あの世行ったら…好きなだけ飲んでちょうだい。

 

**********

 

<夜・病室>

五りん) この世で飲んじゃってるよ。

志ん生) うまい!

五りん) こんなことしてんのバレたら破門ですよ破門。

志ん生) 師匠の言うことを聞いてるん

 だからいいんだよ。もうちょっとくれ。

五りん) 駄目です。

志ん生) んん…。

五りん) 飲ませても全然しゃべってくんないし。

 

**********

 

1941 昭和16年

 

<寄席の楽屋>

孝蔵) よう万ちゃん。

万朝) 志ん生師匠、ヘヘッ。

孝蔵) 何言ってんだい。

男性) これをお客に渡そうという…。

 「主、一服、のみなまし」。

孝蔵) 「紺屋髙尾」かい? へえ~。

 やけに艶っぽい太夫だね。誰だい?

万朝) 山崎の松っちゃん。

 今度圓生を襲名するんだってよ。

山崎松尾) 火玉躍るぐらい吸っちゃいましてね。

 このキセルを花魁へ返す。

 「主、今度はいつ来てくんなますか?」。

孝蔵) うまいね。

万朝) けどいいのかね?

 このご時世に廓噺(くるわばなし)なんて。

(客席に軍人)

松尾) 「会われねえんでございます。

 実はあっしは、紺屋の職人で…」。

 

**********

 

席亭) ここにある演目は、当分の間、禁演落語だよ。

(一覧を見る孝蔵)

孝蔵) 「付き馬」…。おい、「疝気の虫」もかい!?

 虫が、金の袋に、逃げ込む噺のどこが不謹慎なんだ!

 冗談じゃねえや…お上の顔色伺いながら、芸人なんか

 できねえや!

万朝) 孝ちゃん…。

松尾) 私はようがす。

孝蔵) 「がす」?

松尾) このご時世、こうでもしなけりゃ、寄席開け

 ねえんでしょう。まあ、これぐらい葬ってもネタに

 は困りませんよ。ねえ? あにさん。

孝蔵) …おう。屁でもねえや。

 

**********

 

昭和16年12月8日

 

昭和16年12月、真珠湾攻撃により、太平洋戦争が勃発。

大本営発表では、連戦連勝と報道されましたが、戦況

が正確に伝えられることは、既になくなっていました。

 

<朝日新聞社>

一同) ばんざ~い! ばんざ~い!

緒方) 田畑…嘘でも喜べ。ばんざ~い!

一同) ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!……。

(「新聞も兵器なり」の貼り紙)

政治) ばんざ~い! ばんざ~い!……。

 

**********

 

開戦と同時に、箱根駅伝は2年連続中止となり、

昭和18年正月、靖国神社箱根神社間往復関東

学徒鍛錬継走大会って、え~恐ろしく長え名前

で復活して、小松勝君も、走りました。

 

小松) スッスッハッハッ、スッスッハッハッ…。

 

ところが、兵力不足が深刻化し、ついに、20歳

以上の文化系大学生が、徴兵対象となりました。

学徒出陣です。

 

**********

 

<ハリマヤ>

辛作) こっちのことは、何にも気にするな。

 立派に戦ってこい!

小松) (頷く)

スヤ) まさか、学生さんまで、召集されるとは…。

四三) 無理してでん、熊本に連れて帰っときゃよかった。

小松) ばってん…そしたら、こん子も生まれんかったけん。

(りくの隣で雑炊を食べている2歳の金治)

ラジオ) 「学徒諸君、往くものもまた残るものも、よく国家の…」。

小松) あ~…ちょっと何か、すいまっせん。暗かね、ムードが。

 スヤさん、あれば歌いましょう。あの…「自転車節」。ねっ?

スヤ) そぎゃんね。

四三) うん。

スヤ) ♪逢いたかばってん 逢われんたい 

 たった一目で よかばってん

四三) そ~れっ。

一同) ♪あの山 一丁越すとしゃが

四三) どうした?

一同) ♪彦しゃんおおらす村ばってん 今朝も

 今朝とて田のくろで 好かん男に口説かれて

四三) よっ!

りく) お父ちゃん?

辛作) ちょっと…。

(土足で上がり、小松を蹴り倒す増野)

辛作) あああ!

りく) やめて、お父ちゃん!

四三) 増野さん!

増野) 約束…破ったな。

四三) 増野さん、いかん。

増野) 約束! 君…破ったで…勝君!

四三) 増野さんいかん!

増野) 勝君!

りく) お父ちゃんやめて…。

増野) 約束!

りく) やめて…。

増野) 勝君! ねえ、破ったよね!?

四三) 増野さん…。

増野) 勝君!

子どもたち) ばってん! ばってん! ばってん!

 ばってん! ばってん! ばってん!……。

金治) ばってん! ばってん! ばってん!……。

増野) 金治…。

子どもたち) ばってん! ばってん! ばってん!……。

増野) 勝君…。立派に戦ってくるんだぞ。お国のために。

小松) はい。

りく) 勝さん。

(千人針を渡すりく)

小松) ありがとう。

(金治を抱くスヤ)

スヤ) 心配なか! あんたのお父ちゃんは韋駄天だけん、

 走って弾よけて…よけてよけて、必ず生きて帰ってくるばい。

小松) 金治…。

(金治を抱き締める小松)

小松) (泣)

 金栗先生、こん子は、体の弱かけん、どうか、3つに

 なったら…冷水浴ば、させてあげて下さい。(泣)

四三) うん…うん…。

増野) 小松勝君…ばんざ~い! ばんざ~い!

(金治も小さな手で万歳をする)

一同) ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!……。

(涙をこらえ、金治と一緒に笑って万歳をするりく)

一同) ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!……。

 

**********

 

<志ん生の病室>

(絵葉書を見ている五りん)

(りく宛てに書かれた小松の文字)

 

**********

 

昭和18年10月21日。出陣学徒壮行会が、

明治神宮外苑競技場で、開かれました。

 

一同) ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!

 ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!……。

(雨の降る中にらみつけるようにスタンドに立っている政治)

 

オリンピックを呼ぶために、嘉納治五郎先生が

建設したスタジアムから、学生が、皮肉にも

戦地へと、送り出されたのです。

 

政治) 4万人しか入らんのじゃなかったのか?

 おい東龍さん、今日何人入ってんだ?

東) 出陣学徒が3万人、スタンドに5万!

政治) こんなに入るんだったらオリンピック

 出来たじゃねえかバカ野郎め!

 オリンピックやってれば…こんなことには…。

東) 残念です! 残念でなりません!

一同) ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!

 ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!……。

(スタンドから去って行く河野を見つける政治)

 

**********

 

<通路>

政治) これで満足かね? 河野先生。

河野) 田畑…。

政治) 俺は諦めん。オリンピックはやる。必ず…ここで!

 

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(泥水を跳ね上げグランドを行進する学生たち)

りく) ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!…。

(スタンドに金治を抱いたりく)

四三) ばんざ~い! ばんざ~い! ばんざ~い!…。

(四三の横で目を閉じて祈るスヤ)

(銃を担ぎ、行進する小松)

男性) 天皇陛下、ばんざ~い!

一同) ばんざ~い! ばんざ~い!

男性) ばんざ~い!

一同) ばんざ~い! ばんざ~い!

小松) ばんざ~い! ばんざ~い!

 

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戦争は駄目! 絶対駄目! 万歳で若者を戦地

に送り出すようなことは2度とありませんように。

一番近い過去の歴史を一番知らない私たち…。

若い人たちにこそ、見てほしい「いだてん」!!

 

 

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