大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第35回~民族の祭典 | 日々のダダ漏れ

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大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第35回~民族の祭典

 

 

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昭和36(1961)年、秋。

 

五りん) ごめんください。

男性) 前はこっちが店だったそうですが、

 手狭になっちゃって…。

(ガラスケースをのぞく五りん)

五りん) 金栗足袋…。

(壁に飾られた足の型紙)

五りん) おっ…えっ? あっ、あっ、金栗。

男性) 店舗は大通りに移転したんです。

五りん) あの…2階は?

男性) 倉庫ですね、今は。昔は人に貸してたみたい

 ですけど。すいませんね。社長がいりゃ分かるんで

 しょうが、あいにく…。先代も、近頃足があれで。

 ねえ辛作さん?

(奥でミシンを踏む、眉毛も白い辛作)

五りん) あっ…。

(足袋を手に取る五りん)

五りん) ひもだけどゴム底がない。

 ということはストックホルム以降かな?

 東海道駅伝から、ゴムですもんね?

 箱根で、滑り止めの溝が出来たんですよ。

 あ~これこれこれこれ!

知恵) 詳しいでしょ?

 「オリムピック噺」っていうのやってるの。

 あっ、ご存じありません? 「てれび寄席」、はい。

五りん) あっ、すいません…。すいません…。

 あっ…。昔の写真だ…。

知恵) えっ?

(店先に並んだ、四三や辛作、増野たちの写真)

知恵) あっ…お母さん写ってない?

五りん) う~ん、写ってないね…。

知恵) えっ、お父さんは?

五りん) 親父の顔覚えてないからな~。

 

**********

 

<ハリマヤの向かいの電気店に白黒テレビ>

男性) あっ、志ん生さんだ。

志ん生) 「え~昭和11年春に話を戻します。

 韋駄天が、5年ぶりに東京へ帰ってきました。

 『ごめんください!』。

 

**********

 

昭和11(1986)年 春

 

<ハリマヤ>

四三) ごめんください! あれ? おかしかね。

 8時には、職人の方が見えて、ミシンの音で

 起こされよったばってん…。辛作さ~ん?

小松) こん2階に、先生は住んどったとですか?

四三) 17年間、お世話になったつばい。…にしても

 不用心ばい。辛作さ~ん? ちょうさ~ん?

女性) 遅くなりました。あっ…。

 どうも。勝蔵さん、お客様です。

(女性の顔を見る四三)

小松) お留守のごたるですよ。

女性) あっ、本当ですか?

(真正面から女性の顔を見る四三)

四三) シマちゃん…。

女性) はい?

四三) シマちゃん…生きとった…!

女性) えっ? ちょっと…。

四三) ああ…よかった!

(女性を抱き締める四三)

四三) 生きとったとね~! よかった~!

女性) えっ、えっ…ああ…。

四三) 心配しとったとばい! 方々…方々捜したとばい!

女性) いやいや、違います…。

四三) 第二高女の、シマちゃん。

 震災でな、行方不明になっとった…。シマちゃ~ん!

女性) あっ…違うんです、違うんです!

小松) あっ、違うて言うとりますよ?

四三) 何が違うか! はあ~よかった…

 シマちゃん、まだ、走っとると?

女性) 母です! 金栗さんですよね?

四三) うん。

女性) 娘の、りくです。増野りくです。

四三) えっ!?

 

(回想)

増野) りくっていう名前、シマが付けたんです。

 陸上の…陸上の…「りく」。

 

四三) あの…あの、あのりくちゃん?

りく) (頷く)

 

**********

 

(笑い声)

四三) びっくりしたば~い…。

りく) そんなに似てます?

四三) 似とるも似とる! うり二つ! ねえ増野さん?

増野) えっ?

(結婚式の妻の写真を見る増野)

増野) まあ、私よりは多少妻に似てますかね。

四三) いや、あんた1%も入っとらんばい。

(笑い声)

ちょう) 私たちは、毎日顔見てるから

 りくちゃんはりくちゃんよね。

辛作) うん。

増野) 家内も生きていたら、40ですからね。

四三) そぎゃんね。あのりくちゃんが、お針子さんとは。

増野) 何となく離れづらくて、親子で大塚に越してきち

 ゃいました。あっ、金栗さんはこの度はなぜ東京へ?

四三) 4年後の、オリンピックばい。

辛作) おお…来るのかついに、東京に!

勝蔵) えっ!?

四三) はい!

勝蔵) まさか金栗さん、出るんですか?

男性) よっ、金栗!

四三) いやいや…いやいや…

 あっ、おるが走っとは、聖火リレー。

 嘉納先生の頼みとあらば、断れんけんね。

増野) あ~今度のベルリンオリンピックでやるそうですね。

一同) あ~!

四三) あっ、それが一つ。もう一つは…こん男。

一同) うん?

小松) あっ、小松勝です。

四三) こぎゃん見えて、九州一周ば達成した、健脚だけん。

辛作) おお~!

四三) 彼ば、東京オリンピックの、

 マラソン日本代表に育てて…金メダルば取らす!

(拍手と歓声)

小松) こっちの学校に入る手続きばしました!

辛作) 大丈夫か? 選手の数もレベルも

 金栗さんの時代とは違うぞ。

 

そのとおり! 韓国併合から26年、朝鮮出身のランナーが、

マラソン界を席けんしておりました。その代表格が、

孫基禎(そんきてい)と、南昇竜(なんしょうりゅう)。

なんと、2人とも、金栗足袋を履いて、ベルリンオリンピック

に出場します。つまり、この店に来て、作ったわけですな。

 

辛作) ほれ…。

(2人の足の型紙を小松に見せる辛作)

小松) うわ~。これが、孫さんの足型か…。

四三) 速かもんね~。おう、負けられんな、小松君。

小松) はい! あの~俺も…足に合った足袋ば

 作ってもらえませんか?

辛作) 当たり前だ。うちの足袋で走る以上、

 勝ってもらわねえと営業妨害になるからな。

(笑い声)

小松) よろしくお願いします!

りく) お父ちゃんビール。

小松) りくちゃん、お代わり!

りく) はい。

増野) 「ちゃん」?

小松) あっ…。

(小松を睨む増野)

小松) す…すいまっせん。

勝蔵) 皆さん、記念写真撮りませんか?

辛作) お~いいな!

りく) 私、押します。

男性) はい、金栗さん真ん中。

りく) 皆さんギュギュッと。いきますよ。はい、にっこり笑顔で。

(シャッターを押すりく)

 

**********

 

知恵) お母さん写ってない?

五りん) う~ん、写ってないね…。

知恵) お父さんは?

五りん) 親父の顔覚えてないからな~。

(仕事の手を止め、五りんを見ている白い眉毛の辛作)

 

**********

 

1936年7月31日。ベルリンオリンピック開幕の前日。

ついに、1940年のオリンピック開催都市が、決まります。

 

(ホテルのサロンに各国の委員やマスコミ)

 

ローマが辞退し、ヘルシンキと東京の、一騎打ち。

 

NHKアナウンサー・山本照) いよいよですね~。

治五郎) 今さらじたばたしても、しかたない。

副島) 「人事を尽くして、天命を待つ」、ですな。

政治) ちょっとごめんなさい。ごめんなさいよ、ごめんなさい…。

 いや~シベリア鉄道の旅は地獄でしたわ! 失礼、失礼。

 (咳き込み) 何が? ケツが、バカになっちゃって。

治五郎) 田畑。

政治) 食堂は高い、しかもまずい。また便所が混むんだわ~。

治五郎) 田畑。

政治) 外人は、肉食だからクソが硬いんだろうね。

治五郎) 黙れ田畑! 黙るか、どっか行ってろ。

政治) 怒られた。

ガーランド) ミスター カノー。

治五郎) お~ミスター ガーランド。

 

IOCアメリカ代表の、ガーランドとブランデージです。

 

ガーランド) ハロー ソエジマ。

 (英) アメリカは東京に投票するよ。

治五郎) サンキュー…サンキュー ベリー マッチ。

副島) (英)感謝にたえません。

ブランデージ) (英)ロサンゼルス大会において、

 日本は、世界で一番熱心な協力国だった。

 特に水泳は、鮮烈だった。

政治) うん? 今、スイミングって聞こえましたけど?

ガーランド) ミスター カノー…。

 (英)あなたは委員の中で、最古参だ。功績をたたえ、

 一度、アジアでやってみようじゃないか。

治五郎) サンキュー。

ブランデージ) (英)日米で、ヨーロッパを負かしましょう。

ガーランド) シー ユー レイター。

治五郎) オーケー シー ユー。ガーランド、サンキュー。

 アメリカはツーね。

政治) ツー ツー。

副島) これで、22票です。

政治) ここに出席してる、48名の半分、

 つまり、24票取れば、ヘルシンキに勝てます。

治五郎) あと2票か…。

政治) わっ! 王正廷(ワン ジェンディン)。

 

IOC中国代表の、王正廷(ワン ジェンディン)。

あの満州事変の、交渉担当者です。

 

副島) 中国は、入れんだろう。

 

中国の出方が、勝敗を左右します。

 

治五郎) 万が一、取り損ねたら、

 私としては、ある覚悟を持ってる。

副島) 覚悟?

治五郎) 脱退だよ、脱退。日本はIOCから脱退する。

政治) 黙れ…黙れ、嘉納…。

治五郎) 何?

政治) 後ろ後ろ…。

治五郎) おお…。(英)ラトゥール、我が愛しき友。

ラトゥール) ミスター カノー…。

 (仏)一番目に演説してもらうよ。

治五郎) オーケー オーケー。

 

**********

 

男性) (英)みなさん、最初の演説者をお呼びしましょう。

 東京代表、おねがいします。

(拍手)

(演台に立ち、一礼する治五郎)

治五郎) (英)日本はもはや、”Far East(極東)”ではない。

 陸路で、二週間で行けます。

 私のような、腰の曲がった老人でなければ。

(笑い声)

副島) (英)シベリア鉄道は五割引き、さらに、選手

 一人につき、150ドルの補助金を用意します。

治五郎) (英)古代オリンピック発祥の地、ギリシャから

 運ばれた聖火が、まもなく、ここベルリンへ到着する。

 その火が、欧州から飛び出す日を、私は心待ちにして

 いる。アフリカ、オセアニア、そして、アジアに。

(治五郎を見ている王正廷)

治五郎) (英)オリンピックは、開放されるべきである。

 全ての大陸、全ての国、全ての民族に。

 極東は今、戦争と平和の狭間にある。だからこそ、

 平和の祭典を、日本の東京で開催したい。

(拍手)

政治) よしよしよしよし…。

 

**********

 

男性) (英)投票を開始します。

(各国の委員が木箱に票を入れていく)

 

**********

 

(サロンで待つ政治が、灰皿で煙草をもみ消す)

 

**********

 

(王正廷が治五郎を振り返り、票を投じる)

(目で追う治五郎)

 

**********

 

(サロンで貧乏ゆすりをしている政治と河西)

 

**********

 

男性) ヘルシンキ。

男性) トウキョウ…。

男性) ヘルシンキ…トウキョウ…。

 

そして3時間後。

 

(会場の扉が開く)

(政治たちが一斉に見る)

(役員が出てきて、国名が書かれたカードを掲げる)

男性) トウキョウ!

(歓声)

 

1940年、東京!

 

治五郎) 田畑、やったな!

 

ここに、アジア初のオリンピック開催が、決定したのです。

 

治五郎) 王さん! 王さん!

(王正廷に握手を求める治五郎)

王正廷) 同じ、アジア人として、私、東京を、支持する、

 しかなかった。スポーツと、政治、関係ない。

(握手をせず立ち去ろうとする王正廷)

治五郎) 王さん…ありがとう。

 (王の手を握り) ありがとう、本当に。

 シエシエ シエシエ シエシエ シエシエ!

(立ち去る王正廷)。

政治) ヘイ、ミスター ラトゥール、ラトゥール!

 サンキュー サンキュー。

ラトゥール) (政治の耳元に)

 アイ シンク ヤポン シュッド サンク ヒトラー。

政治) えっ、何? えっ、えっ、えっ…?

 えっ…? 何か、大事なこと言ったよね、今。

男性) 日本を代表して、ヒトラーに、お礼を言いなさいと。

政治) えっ、えっ、えっ?

男性) ヒトラーに、お礼を言いなさいと。

政治) お…俺が? ヒトラーに? 何で!?

治五郎) 田畑、持って帰るぞ、オリンピックを! 東京に!

政治) は…はい…。

治五郎) ハハハハ! 

政治) 何で…?

(ラトゥールを目で追う政治)

 

**********

 

ラジオ・河西) 「東京36票、ヘルシンキ27票」。

一同) ばんざ~い、ばんざ~い!

 

**********

 

<ハリマヤ>

(ラジオの前で喜び合う四三たち)

ラジオ・河西) 「第12回オリンピック大会が、

 東京市で開催される…」。

 

**********

 

(ハリマヤの外で歓声を聞くりく)

りく) 決まったんですか? 決まった? 決まった? えっ?

 

**********

 

辛作) 金栗さん、よかった、よかった!

りく) 東京決まったんですか!?

四三) あ~りくちゃん、決まった決まった! 決まったばい。

辛作) いいとこ来たよりくちゃん。勝の足型とってみるか?

四三) お~!

りく) いいんですか?

小松) はい、お願いします!

りく) わ~お願いします! では…。

ラジオ・治五郎) 「36票の重みをかみしめ…」。

 

**********

 

<ラジオ実況ブース(アドロンホテル)>

治五郎) 世界に、手本を示す覚悟でやらなければなら

 ない! 24年前…僅か2人の選手をストックホルムに

 連れていって、その時は、まるで、勝海舟が渡米した

 時のような、気持ちだった。金栗、三島君、ありがとう。

 

**********

 

(ハリマヤでラジオを聞いている四三)

四三) 治五郎先生、ありがとうございます。

りく) 失礼します。

(小松の足を計測しているりく)

ラジオ・治五郎) 「前回の、ロサンゼルスには大軍

 を送り、好成績をあげた。中でも水泳は、世界を

 圧倒する強さを誇った。田畑君、ありがとう!」。

 

**********

 

<ラジオ実況ブース>

副島) (すすり泣き)

治五郎) しかし、我々の力など、ごく僅かです。

 全ての国民の皆さんの…。

副島) 国民の皆さん~!(泣)

(感極まる副島)

副島) 日本は…世界のこの信頼に背かず…

 1940年の大会を~意義あらしめねばなりません~!

治五郎) そこだよそこ!

河西) え~では、総務主事の、

 田畑政治さんからもひと言、お願いします。

政治) え~…。あ~やはり、アレでしょうな。米国の

 アレや、ドイツのナニに負けない、日本のソレを

 目指すべきでしょうな。やはり、選手村でしょうな。

 

**********

 

<ハリマヤ>

辛作) こいつ何言ってるか分かんねえな。

四三) …はい。

(足型を取るりく)

りく) 我慢して下さいね、あと少しですよ。あと少し…。

 はい、ありがとうございます。出来ました!

辛作) じゃあ、生地持ってこっち来な。教えるから。

四三) そぎゃんなら、俺たちは、走ろうかね。

小松) はい。東京まで、4年しかなかですもんね。

四三) お~そぎゃんたい。よし! よし行こう!

小松) うっし! 行ってきます!

りく) 行ってらっしゃい!

辛作) 行ってこい行ってこい!

小松) よっしゃ~!

四三) よっしゃ~!

小松) よっしゃ~!

四三) お~い!

 

東京は3日間、お祭り騒ぎ。

二・二六も戒厳令もすっかり忘れ…

花火を打ち上げ、提灯行列で祝ったそうです。

 

**********

 

第11回ベルリンオリンピック 昭和11(1936)年8月1日

 

五りん) 翌8月1日、

 聖火ランナーがブランデンブルク門に到着。

 熱狂とともに、ベルリンオリンピックが開幕します!

 しかし、田畑さんの目に、

 それは異様な光景として映りました。

 

(大通りを行進する一糸乱れぬ隊列)

 

五りん) 街中に、五輪の旗と、ナチスの旗が並んで

 はためいていたのです。

 

(ラトゥールの囁きがよみがえる政治)

ラトゥール) (英)日本はヒトラーに感謝したまえ。

 

(回想)

河野) ヒトラーだよ。ヒトラーがラトゥールに圧力をかけ、

 東京支持を要求し、日本に恩を売ったんじゃないかなね?

 

五りん) かつてオリンピックを、ユダヤの汚れた芝居、

 と揶揄した総統アドルフ・ヒトラー。側近ゲッペルス

 の助言によって、態度を急変。総力を挙げて、オリ

 ンピックの準備に取り組みました。自然石を使った

 10万人収容のスタジアム、そして平和の鐘、事務

 総長カール・ディーム発案による、聖火リレー。記録

 映画を、著名な監督に撮らせたのも、ベルリンから

 だそうです。レニ・リーフェンシュタール(映画監督)、

 いやいやいやいや…美人ですな~。ヒトラーがその

 才能に惚れ込み、莫大な予算を投じて作らせた、

 不朽の名作、それが映画、「オリンピア」。

 

志ん生) そんないいもんじゃねえや。

今松) 師匠、映画見たんですか?

志ん生) みんな、だまされちゃってな。

 日本も、ドイツみたいに強くならなきゃいけねえって、

 あれだよあの…フロ…フロってのあんだろ?

今松) 風呂釜?

 

五りん) プロパガンダ! ナチスの大宣伝です。

 

今松) そう、それ。

(コマを盗む志ん生)

今松) いや、ちょっと…今、師匠…。

志ん生) えっ?

今松) 何? 今…。

志ん生) 曲がってたから直してやろうと思っただけだよ。

今松) あっ、そうですか。そりゃ、どうも…・

志ん生) 曲がってるよ…。

 

**********

 

<ベルリン選手村>

 

五りん) 選手たちは、日本軍の戦闘帽をかぶり、

 開会式に臨もうとしていました。

 

政治) はいご苦労さん、ご苦労さん…。支度はいいかい?

松澤) いやいや…。冗談はよしとくれよまーちゃん。

 それロサンゼルスの帽子じゃない。

政治) 何をかぶって歩こうが俺の勝手だ。貴様らこそ

 何だ、その戦闘帽は。ドブネズミじゃあるまいし。

小池) かっこいいでしょ、こっちの方が。

宮崎) 何か田畑さん一人だけ浮かれてるみたいですよ。

政治) 浮かれて何が悪い!

 俺はスポーツをやりに来たんだよ。

 歩くのは戦場じゃない、競技場だ。ナチスに媚び

 てんのか、日本軍に気遣ってんのか知らねえが、

 こんなものは、オリンピック精神に反する!

(ナチスの男の前に立ち、胸を張る政治)

 

**********

 

五りん) いよいよ開会式!

 

(「前へ進め」と軍人に号令をかけられ、暗い通路

 から日の当たる巨大なスタジアムに出る戦闘帽

 をかぶった日本選手団)

ヒトラー) (独)第11回オリンピック競技大会の、

 開会を宣言します。

(聖火台に火が灯る)

 

五りん) 何もかも絢爛豪華。そのスケールと完成度、

 ドイツ人らしい統制のとれた演出に、嘉納さんはじめ、

 日本人はただただ圧倒された。

 

**********

 

<ホテル>

治五郎) すごかったね~。

副島) ええ…すごい。

ラトゥール) スゴー カッタ モンネー。スゴー カッタ モンネー。

治五郎) ハハハハ…ラトゥール。

ラトゥール) マイフレンズ…。

 (仏)ベルリンに張り合うことはない。神宮はいい

 スタジアムだ。期待しているよ。オーケー?

治五郎) (英)心から感謝します。

(ラトゥールに向き直り、頭を下げる治五郎と副島)

(ラトゥールも2人にお辞儀をし、去って行く)

治五郎) …とはいえ、責任は重い。私はね、副島君、

 中国の委員が、支持してくれたことを、重く受け止

 めておるんだ。ありえんだろう。昨今の日中関係の、

 悪化を考えたら。

副島) 恐らく彼は、祖国で非難の的になるでしょうな。

治五郎) そこだよそこ。スポーツに政治を介入さ

 せないという、強い意志だ。東京オリンピックは、

 アジア共通の、悲願なんだよ。

 

**********

 

<選手村の食堂>

政治) まずい…。あ~何かな…息が詰まるじゃんね~。

宮崎) ハイル ヒトラー!

政治) うわっ。

 

五りん) 若い選手の間では、「ハイル ヒトラー」が

 ちょっとした流行語になっていました。

 

宮崎) あ~小池、醤油取ってくれ。

小池) ハイル ヒトラー。

宮崎) ハイル ヒトラー。

(笑い声)

宮崎) カクさん、それ一人で全部食べるんですか?

松澤) まだまだハイル ヒトラー!

(笑い声)

政治) いい加減にしたまえ! 朝から飯がまずくなる。

松澤) ほんの冗談だよ。

政治) 冗談でもやめてくれ。あんな独裁者をもては

 やすのは。えっ?大体、何で日本人しかいないの? 

 選手村なのに。

松澤) 特別待遇だそうだよ。

 西洋人に囲まれて、気疲れしないように。

政治) いやいやいや、あれがよかったじゃんね~ロスは。

 白人も黒人も一緒になって大騒ぎしてさ。ねっ?

 ヘイ ヤーコプ! カム カム カム カム…。

通訳・ヤーコプ) オハヨウゴザイマス。

政治) コックに言っとけ。薄いんだよ味が、ミソスープの。

 しょうゆとソースは、分かるように目印をつけろ。つい

 でに、検閲か何か知らんが、郵便物を、開封するな。

 気分が悪い! 分かったか!

(軍人に向かい、右腕を真っ直ぐ斜め上に伸ばすヤーコプ)

ヤーコプ) ハイル ヒトラー!

政治) お前か! お前がはやらせたのか、ヤーコプ!

 行け! 早くほら…ほら。

ヤーコプ) スイマセン。

政治) ミソスープの味が薄いって言ってこい、

 ほらほら。すぐ言えよ。仕事しろ、お前は。

河西) 彼はユダヤ人でしょう。

政治) えっ? あっ、そうなの?

河西) ヒトラーは、大会期間中に限り、差別を緩和し、

 わざとユダヤ人を各所に配置してるようです。

 期限付きの平等です。

政治) はあ…あっ、出発ですか? 早いですね、陸上ですか?

山本) ええ。吉岡君の100の予選。あっ、新聞社は

 競技場に、電話を引いてるそうですね~。

政治) ラジオの実況生中継には負けられませんからな。

河西) 田畑さん、次の東京は、テレビジョンの時代です。

政治) えっ?

 

**********

 

五りん) ベルリン大会のテレビジョンはまだ試験段階でした。

 

一同) おお~!

(画像が悪いテレビ画面)

政治) うん? んっ、んっ? どれが吉岡君だね? 

 えっ? あっ…これかね? これ?

男性) え~っと…それは…清掃員ですね。

一同) あ~。

 

五りん) その吉岡選手が出た100m走で金メダルを

 取ったのが、アメリカの、ジェシー・オーエンス。

 世界が注目する陸上競技、最大のスターです。

 10秒03という世界記録で、100を制すと、200m、

 400mリレー、走幅跳、4つの金メダルを獲得します。

 これじゃあ、白人至上主義のヒトラーは面白くない。

 だからでしょうか、ヒトラーは、オーエンスと握手し

 なかったそうです。

 

政治) 気持ちの問題だからさ…。

ヤーコプ) ハイル ヒトラー。

(敬礼する通訳のヤーコプ)

(スタジアムの通路を去って行くヒトラーの一団)

政治) 何かな~…。

(うんざりした顔の政治)

 

**********

 

五りん) フィールドでは、走幅跳銅メダルの

 田島直人選手が、三段跳で見事、日本最

 初の金メダルを獲得します! 棒高跳では

 西田修平選手と大江季雄(すえお)選手が、

 5時間を超える死闘の末それぞれ、銀と銅

 を獲得! そしていよいよ、孫さん、南さん

 たちが走るマラソンです。

 

**********

 

<ハリマヤ>

日本時間 夜11時(ベルリン 午後3時)

 

辛作) お~い、金栗さ~ん。始まっちゃうよ~!

四三) は~い!

ラジオ・山本) 「夜11時になりました…」。

辛作) りくちゃん、ミシンちょっとやかましいよ。

りく) すいません。

ラジオ・山本) 「お待ちかね、マラソン競技です」。

男性) よ~し始まるよ~!

ラジオ・山本) 「第11回オリンピック大会、陸上競技の

 最後を飾る、マラソン競走は、祖国の名誉を賭して

 の一戦であります。日本からは、孫君、南君、塩飽

 (しわく)君…」。

四三) よしいけ!

 

**********

 

<スタジアムの実況ブース>

山本) 9日、午後3時。号砲一発、折からのベルリン

 としては珍しく、暑い天候のもと、スタートしました!

 足取りも軽く、大トラックを2周し、前回ロサンゼルス

 大会優勝の、アルゼンチンのザバラを先頭に、たっ

 た今、マラソン門を通過。42.195kmの難コースへと、

 脱兎のごとく、姿を消したのであります。

 

**********

 

ラジオ・山本) 「ベルリンにある日本人は、今日こそ、

 苦節二十数年の実を結ばんものと、総動員いたし

 まして、コース中、最も難関とされている、ビスマ

 ルク坂付近にたむろし、必死の応援に努めており

 ます。コースは、坂また坂の、前代未聞といわれ

 る、難コースであります」。

 

<バー・ローズ>

緒方) ママ、混んでるね~。ハハッ。ウイスキー。

マリー) オリンピックで、毎晩寝不足よ。

緒方) ハハハ…アルゼンチンのザバラ

 っていうのが、優勝候補だってね。

マリー) 日本は、孫選手よね。

緒方) 孫基禎、世界記録出してメダルも期待されてるんだ。

ラジオ・山本) 「我らが孫選手、南選手、胸の日章旗も一段

 と鮮やかに、必勝を期して、参加しております。それでは、

 放送を終了いたします」。

一同) えっ!?

男性) えっ、どうなってるんだ…?

 

**********

 

<ハリマヤ>

一同) ええ~!?

ラジオ・山本) 「午前0時になりました。放送は、ここで

 一旦終了いたします。結果は明朝、6時半にお伝え

 します。日本の皆さん、おやすみなさい」。

辛作) お~い!

ちょう) 何で?

辛作) 朝まで起きてろってか?

(ミシンを踏むりく)

 

**********

 

<スタジアム>

治五郎) やっぱり、待ってるしかないんだよね。

山本) ええ…。

 

五りん) 当時の実況はここまでなんですが、それじゃあ

 あんまりなんで…。え~私が…。アルゼンチンのザバ

 ラが1位で折り返す頃、孫選手は3位! 力走です。こ

 の日のベルリンは、異例の猛暑。暑さにやられ、途中

 棄権する選手が続出します。

 

**********

 

<ハリマヤ>

四三) う~ん…。

辛作) どうなってんだよ! …ったくよ~。

四三) よ~し! 走るぞ小松勝! 伴走ばい。

小松) そぎゃんですね! 

 孫さん南さんに、エールば送りましょう!

四三) おう!

辛作) 届かねえよ。

りく) ちょうど出来ました!

小松) あっ…。

四三) ばっ! 軽か! これ全部りくちゃんが?

りく) はい! 生まれて初めて型から全部。

辛作) お~てえしたもんだよ! ほれ!

りく) 履いてみて。

一同) おお~。

(うれしそうに見ているりく)

小松) おお~…ハハハハ!

りく) どうですか?

小松) りくちゃん、ありがとう!

りく) よあ~かった~。

小松) しゃっしゃっしゃっしゃっ…。よ~っしゃ~! うお~!

 

**********

 

(うれしそうに走る小松)

四三) スッスッハッハッ、スッスッハッハッ…。

(四三の脳裏に甦る、ストップウォッチオリンピックのマラソン)

四三) スッスッハッハッ、スッスッハッハッ…。

小松~ 孫さ~ん、南さ~ん! 

四三) 負けんな~!

 

**********

 

(ベルリンの地面を蹴る金栗足袋)

 

**********

 

<スタジアムの実況ブース>

(受け取ったメモを見るNHKアナウンサー山本)

山本) えっ?

男性) (外国語)なんてこったザバラのバカ野郎。

 放送は中止だ。アディオス ヤマモト!

治五郎) どうした? 山本君。

山本) あの…これを。

治五郎) あっ、ザバラ棄権?

山本) はい。

(「ザバラ 33kmで棄権」)

 

**********

 

<バー・ローズ>

ラジオ・山本) 「午前6時30分です。おはようございます。

 マラソンはその後、2時間20分を経過いたしました」。

緒方) えっ、うそだろ、6時間たってる。

マリー) えっ?

ラジオ・山本) 「スタジアムは、

 マラソンの1着を待ち構えております」。

 

**********

 

<ハリマヤ>

四三) 辛作さん…辛作さん…。

ラジオ・山本) 「ついに、拍手が起こっております。

 満場に、拍手が起こっております」。

四三) ちょうさん、はよ起きて。

 辛作さん…辛作さん、起きて。

(拍手と歓声)

 

**********

 

山本) スタジアムは、マラソンの1着を待ち構えてお

 ります。あっ、今、スタジアムの中に現れました!

 孫君です! 孫君です! マラソン堂々、

 孫君はやがて、テープを切ります! 

 

**********

 

<ハリマヤ>

小松) やった~!

四三) おい! えっ!?

りく) 勝った? 勝った?

ラジオ・山本) 「孫君、ついに1着!」。

四三) 勝ちました! ついに金メダルばい!

 

**********

 

<スタジアム>

(拍手と歓声)

山本) 孫君です! 孫君です! 孫君1着! 孫君1着!

 あと、50mでテープを切ります。

治五郎) やったぞ~!

 

**********

 

<バー・ローズ>>

ラジオ・山本) 「40m、30m、20m…」。

緒方) いけ!

 

**********

 

<スタジアム>

山本) 10m!

(歓声)

山本) ついにテープを切りました!

治五郎) やったぞ~金栗君!

 

**********

 

<ハリマヤ>

辛作) やった~!

 

**********

 

<スタジアム>

治五郎) ついにやったぞ、金栗君! 

 わ~金栗君! 金栗君、やったぞ!

 やったやったやったやった!

 

**********

 

<ハリマヤ>

ラジオ・山本) 「続いて、2着のハーパー。そして、3着の

 南昇竜! 我が日本は、苦節二十数年にして、堂々今、

 孫君によりまして、マラソンのテープは切って落とされ

 たのであります」。

四三) (涙)

(孫基禎の足の型紙を見て、涙を流す辛作)

(合掌する四三)

四三) ありがとう~。

 

**********

 

五りん) しかし表彰式で、優勝した選手の出身国の

 国旗が掲げられ、国歌が演奏されることを、孫選手

 と南選手は知らされていませんでした。

 

♪(「君が代」)

ラジオ・山本) 「日章旗よ、メインマストに高々に揚がれ。

 日章旗よ、メインマストに高々に揚がれ。ついに我が

 マラソン、孫君によりまして、堂々、優勝いたしました」。

 

勝蔵) どんな気持ちだろうね…。

小松) 2人とも、朝鮮の人ですもんね。

ラジオ・山本) 「今、メインマストに、高々と日章旗が翻りました」。

辛作) 俺はうれしいよ。日本人だろうが、朝鮮人だろうが、

 アメリカ人だろうがドイツ人だろうが、俺の作った足袋履いて

 走った選手は、ちゃんと応援するし、勝ったらうれしい。

 それじゃ駄目かね? 金栗さん。

ラジオ・山本) 「この、十数万の観衆の拍手を、お聞き願います」。
ラジオ) (スタジアムの拍手と歓声)

四三) よかです。そっでよかです。

 ハリマヤの、金メダルたい! ありがとうございます!

辛作) おい…よしてくれよ。おい…。

りく) 胴上げしましょう! 皆さん胴上げしますよ~! 

 胴上げですよ! 胴上げしますよ。

男性) よっしゃ~!

男性) 胴上げだ!

辛作) やめてくれやめてくれ…。

男性) せ~の! 

一同) わっしょい!わっしょい!

辛作) ああ~! やめろ~! 下ろしてくれ…やめてくれ…。

四三) ばんざ~い!

辛作) もうやめてくれ…。

(胴上げされた辛作の体が晴れた空に跳ね上がる)

 

**********

 

(思いを馳せる五りんが感極まっている)

五りん) さて、え~陸上の大勝利に続きたい水泳チーム

 ですが、肝心の総監督がどうも本調子じゃない…。

 

(練習用プールに政治が来る)

(スタート台に腰掛ける政治)

 

(回想)

ラトゥール) (外)日本はヒトラーに感謝したまえ。

山本) 日本を代表して、ヒトラーに、お礼を言いなさいと。

 

政治) 何で俺が…冗談じゃない。

 あんな野郎に礼など言わん…。

(水をかく音)

政治) うん? えっ? えっ?

(プールの中から、何かが迫ってくる)

政治) えっえっ? 

 ちょっ…あっ、ごめんなさい、ごめんなさい…。

 うん? 前畑君? あっ…おい、待て、前畑君! 

 前畑君! おい! 駄目じゃないかこんな時間に。

 就寝時間とっくに過ぎてんだぞ。

前畑) 眠れません。

政治) 前畑君…。俺もだ。

 何だか…好きじゃない、このオリンピック。

前畑) 私は好きになる、このオリンピック。

 日本は嫌いやけど…金メダル取ったら、

 このオリンピックのこと、好きになれると思う。

政治) 前畑…前畑~。そうだよ前畑! うん!

 頑張れ! 頑張れ! 前畑頑張れ!

 

五りん) えっ? それ言っちゃう?

 

**********

 

もうもうもう! お願いだから脚本どおり、演出した

とおり、編集なしのバージョンで見せてくれ~!!

視聴者が見たいのは、ドラマ! ドラマの中の人!

中の人のやらかしなんてどうでもいいから、ドラマ

はドラマとして見せてくれ~! そもそもこのドラマ

が好きで見てる人はそう願ってる。文句を言う人

はそもそもドラマを見てない人なんだから、見てる

人ファーストでやってよ~! アレをナニする必要

なんてないから! そのままのいだてんを返して!



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