大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第22回~ヴィーナスの誕生 | 日々のダダ漏れ

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大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第22回~ヴィーナスの誕生

 

 

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昭和36(1961)年 春

 

知恵) これ人乗ってんでしょう?

美津子) びっくりした~。そうよ。

 ガガーリンが乗ってんの。

知恵) え~私無理。高いとこ駄目だから。

 背が高い男は好きなんですけどね~。

りん) 五りんは今日師匠と「てれび寄席」だよ。

知恵) 知ってますよ。えっ? 五りんがいない

 と来ちゃ駄目ですか? (チャンネルを回し)

 あっ、始まってた。ハハハ。

 

志ん生) え~ドサ回りから帰った私は、コロ

 コロ名前を変えておりました。え~主にです

 ね、借金取りから逃げるためですけど。

 ハハッ。え~朝太からですね、二つ目にな

 って圓菊(えんぎく)。師匠が変わって金原

 亭馬太郎(きんげんていうまたろう)。その

 あとはですね、朝馬(ちょうば)、武生(ぶし

 ょう)、志ん馬(しんば)で、真打と。

五りん) はい違いま~す。「なめくじ艦隊」

 によれば、真打ちは、馬きんで~す。

 もうちゃんとやって下さいよ!

志ん生) 嫌な野郎だな、本当に。

 

**********

 

大正10(1921)年9月

 

<上野鈴本亭>

金原亭馬生) おい…おい…おい!

孝蔵) えっ、あたしですかい?

馬生) そうだよこっち来なよちょっと。

 こっち…何をして…早くこっち来なさいって

 んだよ。ちょっとそこ座れ。真打にならねえ

 かって言って下すってるんだよ席亭が。

孝蔵) あっしがですかい?

席亭) ああ。だいぶ話もしっかりしてきた。

 嫌じゃなかったらうちで看板上げさせて

 もらうが、どうだい?

孝蔵) ヘッ。そりゃあ旦那、そりゃあね、

 上野鈴本って言やあ一流の席だ。

 嫌なやつなんざいやしませんや、ヘヘッ。

鈴木) じゃあ、決まりだな。

孝蔵) お断りいたします。

席亭) おい…何だお断わりとは! 

 えっ!? どういう了見だ!

馬生) まあまあ…。えっ? 披露目用の、

 羽織がねえってんだろ?

孝蔵) 羽織もなけりゃ、着物も足袋も女房

 もねえ。着るものったって、こんな寝巻き

 が格上げで高座着になってるってんだか

 らてえしたもんだ。

馬生) ちょっと待ちな。

 お前、万朝知ってるか?

孝蔵) 誰だ…え~あっ、小円朝…。小円

 朝師匠の時にはい、一緒でした。三度の

 飯より、落語が好きなやつでしたがね…。

馬生) 今は栃木で、たいこもちやってるっ

 ていうんだよ。ほら手紙に書いてある。

孝蔵) 手紙? あいつが?

馬生) 半年前届いたんだけどさ、えっ、

 お前のこと心配してるよお前。あの男は

 不精ですから、春を控えて、高座着にも

 困っているのではないかと思い、羽織を、

 こさえました。ただし、早く渡してしまうと、

 質にでも入れてしまうと思います。どうか、

 大事な時に、渡して下さい」。ねっ、半年

 寝かしといたよ。

(黒紋付の羽織を出し、羽織ってみる孝蔵)

席亭) いい羽織だ。ちょうどいいじゃねえか。

孝蔵) はあ…ありがてえ。

 ありがてえな、コンチクショー。

席亭) 袴や着物、足袋に襦袢は、私からだ。

馬生) ありがとう存じます。

 お前今度こそ、看板一枚でもって客呼べる

 ようなそういう芸人にならなきゃ駄目だよ。

 

**********

 

(着物の包みを手に、

 浅草十二階の通りを歩く孝蔵)

 

**********

 

(楽屋に座った寝巻姿の孝蔵)

孝蔵) 支度はできてます。

席亭) いやいやお前…「できてます」じゃ

 ないよ。羽織は? 袴は? 着物は?

孝蔵) へい。

席亭) 「へい」じゃねえよ!

 あんのかいねえのかい!?

孝蔵) ねえ方の「へい」で。

馬生) お前、曲げちまったのかい!?

孝蔵) すっかり飲んじまいましたね。ええ。

 あっ、吉原もやったし、こういうのもやったな。

 うん。ヘヘッ。浅草の質屋に行ってごらんな

 さい。一式そろってますよ、へへへ。これで

 誰でも馬きんになれる。

席亭) しょうがねえ野郎だな…。

孝蔵) しょうがねえっつったってしょうがねえ

 でしょうよ!しょうがねえ野郎なんだから! 

 えっ? あたしが頼んだわけじゃない。あん

 たが勝手にくれた金だ。ありがたくて飲んじ

 まいますよ。しょうがねえ野郎なんだから、

 えっ? しょうがねえやつは、ありがたくてし

 ょうがなくてしょうがねえことしちまうんだか

 ら、しょうがねえと思って、諦めやがれ!

 

**********

 

<真打お披露目>

(高座に寝巻姿の孝蔵)

 

志ん生) こんな調子だから、真打にな

 っても、さっぱりうだつが上がらない。

 

**********

 

小梅) どう?

孝蔵) 「どう?」って何だよ。

清さん) 高田馬場の下宿屋の娘でね、

 名を、おりんと言う。

(「おりん」の写真を見る孝蔵)

 

志ん生) 今更ですが、今日はですね、

 「オリムピック噺」じゃなくて、おりん噺」です。

 「ピック」の方は、後でたっぷりやりますんで。

 

小梅) 孝ちゃんがしょうがないのはね、独り身

 だからなの。いっつもそう。うまくいきそうにな

 ると、自分でしくじって台なしにして。気が小さ

 いのね。ノミの心臓、弱虫、ウジ虫…。

清さん) そんぐらいにしとけ。

小梅) 所帯持ったらそうはいかない。

 自然と腹が据わるもんなの。

孝蔵) それはどうかね。あ~。噺家が女房を

 持つと、所帯じみて芸が臭くなるって言うぜ。

小梅) じゃあ今はどうなんだい!? えっ?

 臭いよ! いつから風呂に入ってないの?

 えっ? こんな貧乏長屋でさ、垢まみれの着

 た切りすずめじゃないか。あ~臭い臭い!

 お前なんか、これ以上臭くなるか!

清さん) そんぐらいにしとけ。

小梅) ほっとけないんだよ。幸ちゃんには

 幸せになってほしいの。

孝蔵) あ~。

(もう一度写真を見る孝蔵)

清さん) 器量がいいだろ? 

 年は25と、ちょいといってるけど。

小梅) いってるってほどじゃないよ。

 何よりよく働くんだってさ。裁縫ができて、

 お琴が弾けて…。まあこの部屋でお琴

 弾かれても困るけど。どうなのさ!

孝蔵) 話がうますぎる。

 まとまるわきゃねえな。

清さん) 向こうはお前さんに会ってる。

孝蔵) えっ?

小梅) お父さんと2人で寄席に行ったんだって。

 

**********

 

知恵) な~んだ、

 おかあさんもその気だったんじゃ~ん。

りん) 違うわよ~。どんな男か見に行こうって

 父さんが言うから。怖かったわよ。だって寄席

 なんて行ったことないんだもの。

美津子) それで、どうだったのよ? 

 昔は芸風が違ったっていうじゃない。

 陰気でひねこびてたとか。

りん) そうね…何かつまんなそうな顔してたね。

 

(回想)

清水亀次郎) よさそうじゃないか。

 おとなしい男だ。

りん) まだしゃべってないだけよ。

孝蔵) 落語なんてえのは、え~小ばなし、

 なんてのから出来上がっておりまして。「うん、

 ほらほら、カニってのはよ、横に這う…」。

亀次郎) うん。真面目そうな男だ。

孝蔵) 「少し酔ってるんです」。…なんてのも

 ありますね。「雷様は怖いね」。「なるほど」。

 「芋屋の娘さん年取ったな」。「ふけたふけた」。

 

**********

 

<長屋の二階>

孝蔵) 芸人っつったって、あたしはちっとも

 売れてない。よすなら今ですよ。

小梅) 孝ちゃん。

 何も今そんなこと言わなくても。

清さん) そうだよ。今日限り博打はスパッと

 やめて、酒はかみさんの酌で飲むんだよな?

亀次郎) ふつつか者ですが…

 どうぞ、見捨てないでやって下さい。

(畳に両手をつき、頭を下げるりんと両親)

孝蔵) うん…まあ…よござんす。

小梅) ちゃんとやんなよ。人並みでいいからさ。

 ねっ? じゃあ、お開きということで。

 どうもご苦労さんでした。孝ちゃん、ちゃんと

 やんなよ。ねっ? どうも、ご苦労さんでした。

清さん) ご苦労さんでした。

 

**********

 

孝蔵) 「ご苦労さまでした」ときやがったぜ

 あの野郎。分かりゃしねえじゃねえか、

 苦労するかどうかなんて。

(立て膝で酒を飲む孝蔵)

(嫁入り道具の側で孝蔵の着物を繕うりん)

孝蔵) んっ! チョーマイ行くから金くれ。

りん) はい?

孝蔵) チョーマイだよチョーマイ。俺が行きてえ

 わけじゃねえんだよ。あ~でもね。この商売ね、

 仲間の付き合いっていうのが大事だからね。

 まあ…覚えといてくれよ。

りん) おいくらほど…?

孝蔵) あっ、流れでモートルってこともあるか。

(祝儀袋をつかみ袖に入れる孝蔵)

孝蔵) モートルも知らないかい?

りん) ごめんなさい。

孝蔵) とにかく、今夜は帰らないよ。

りん) 行…行ってらっしゃいまし。

 

**********

 

りん) チョーマイだモートルだって、

 毎晩出かけていくのよ。

知恵) 何なんですか? それ。

美津子) どっちも芸人用語で、モートルは、

 賭け事、チョーマイは、遊郭で女を買うこと。

知恵) はあ~? やだ最低。

 ちっとも心入れ替えてない。

りん) あたしゃうぶな素人だからさ、もうてっ

 きり噺家さんの勉強会か何かだと思って。

 

(回想・長屋の表)

りん) うちの人、今日は朝まで

 チョーマイなんですの。フフフッ。

 

(思い出し、小さく微笑むりん)

 

志ん生) 「東京おりん噺」、今日はここまで。

 

**********

 

敗戦国ドイツで、女性たちがたくましく運動

しているところに遭遇した金栗四三。

女子スポーツの普及を目指し、東京府立

第二高等女学校、通称、竹早へ赴任。

竹早といえば、名門のお嬢様学校。

女子スポーツの必要性を必死に説きますが…。

 

しかし、金栗先生の並外れた情熱が、

ついに、彼女たちの心と体を動かします。

 

**********

 

大正10(1921)年 秋

 

竹早のお嬢様たちも、

徐々にスポーツに目覚めていき…。

そんな彼女たちの憧れはってえと…

 

辛作) へえ~これを?

村田) フランス人テニス選手、

 スザンヌ・ランラン嬢ですの。

辛作) 悪いけど、おじさん、足袋で忙しい

 んだわ。ミシン勝手に使っていいから。

 いいよ、好きにやって。

 

(播磨屋でユニフォームを作る、村田と梶原)

 

**********

 

中でも、手作りのユニフォームに身を包んだ、

村田、梶原の2人は、各地のテニス大会にも

招かれ、運動界のアイドルになりました。

 

(ワンピースのような真っ白なユニフォーム)

一同) お~!

四三) あっ、いや、ちょっとこれ…。あの…

 学校の許可も取っとらんけん、手短に。

本庄) 我が国初のオリンピック選手である

 金栗氏が、女子の選手の育成をするとは、

 実に興味深いね。金栗先生は諸君にとっ

 て、どんな存在かな?

四三) いや~本庄さん、

 そぎゃんこつ聞かんで下さい。

村田) 初めのころは、オリンピック先生って

 呼んでおりました。でも近頃ではすっかり…

 パパと呼んでおりますの。

四三) いや、ハハハハ…。

梶原) 私たち、パパのおかげで、

 運動に、目覚めましたのよ。

本庄) ふ~ん、大人気じゃないか、パ~パ。

四三) いや~アハハ…参ったな~。

 うん、諸君、シャンに撮ってもらいたまえ。

(※)シャン=美人

カメラマン) では、まいります!

(歓声)

四三) うん、シャンシャン。

 

**********

 

<東京・日本橋>

 

手作りユニフォームは話題沸騰。

2人は、シマ先生の夫、増野さんが勤める、

日本橋の百貨店に招かれました。

 

増野) やあ。実は、ひっきりなしに問い合

 わせがあってね~。「あのユニフォーム、

 こちらで扱っていませんか?」と。

(ショーウィンドーに人だかり)

(商品名は「村田梶原式ユニフォーム」)

村田) うわ~! きれい!

 

**********

 

<ミルクホール>

 

このころ、体協の野口先生が、

「アスレチックス」というスポーツの専門誌

を発行しましたが、女学生の興味は専ら…。

 

梶原) あ~駄目だわ~。

 てんで比べ物にならなくってよ。

村田) 西洋人はスタイルシャンだもの。

 私たちみたいな大根足じゃアウトよね~。

野口) おっ! 参ったな~2冊も。

梶原) どうしたらシャンな脚になるのかしら?

白石) 米ぬかでもむといいそうよ。

梶原) それじゃ大根の糠漬けじゃない。

 アウトアウト。

村田) そういえば、

 陸上選手の脚って、シャンよね。

(カウンター席の野口が、斜に構えて脚を組む)

溝口) あらやだ。そんな目で見たことなくてよ。

 

**********

 

<播磨屋二階>

シマ) あの~…。

富江) ごきげんよう。

梶原) ごきげんよう。

あの~ごきげんよう。

シマ) えっ?

四三) おお…えっ?

村田) パパ、脚見せて。

スヤ) パパ?

四三) 脚? うん…えっ?

(着物をたくしあげる四三)

四三) まあ…まあ、よかばい。

村田) わ~!

スヤ) おとうちゃん、パパって呼ばれとると?

溝口) ごきげんよう。

村田) ねえ、ほら見て見て。やっぱりシャン!

溝口) 本当! スラッとしてまるで

 西洋のモデルさんみたい。

村田) 触ってもいい? パパ。

四三) えっ?

シマ) あっ、ちょちょ…あ~ちょっと…!

(ふくらはぎや足首を触りまくる女子たち)

一同) わあ…!

スヤ) パパって何か、

 嫌らしか~鼻ん下ば伸ばして。

溝口) 肉が詰まってゴツゴツしてます。

はい…そこまで、そこまで!

村田) 何か特別なことでもしてらっしゃるの?

 お手入れとか。

四三) いやいや…何も。

 ただ、毎朝走ってるだけたい。

スヤ) もう見とられん。どぎゃんつもりね、

 デレデレして!

白石) 走ったら、脚がきれいになりますの!?

四三) えっ? あ~…おおおお、

 マラソン選手は、全員、シャンばい。

梶原) え~! じゃあ私も、

 チャレンジしてみようかし、ら陸上。

村田) パパ、走り方、教えて。

四三) お~よかばい!

 なら、下で、足袋ば合わせよう。うん!

 

**********

 

(靴下を履いた富江の足を手にとるシマ)

(ハサミで、親指の横に切れ目を入れる)

 

**********

 

四三) 足首ば回して。

 よ~く回さんとケガするばい。

(足袋を履き、表に出た女子たち)

村田) ねえ、シマ先生は?

 一緒に走りましょうよ。

シマ) ええ…でも、今日はやめとくわ。

 

**********

 

四三) おっ、そろったね。ほんなら行くばい。

 竹原組~!

(四三に続き通りを走る富江たち)

一同) スッスッハッハッ…。スッスッハッハッ…。

 

**********

 

<播磨屋二階>

スヤ) おめでた? あらららら…そぎゃんね!

 よかったね~。おとうちゃんには?

シマ) まだ話してません。

スヤ) な~し? えっ、何? うれしゅうなかとね?

(首を横に振るシマ)

シマ) ただ…。何か…間が悪くて。金栗先生が

 竹早に来て、生徒たちが、ようやくその気にな

 って、これから大きく動き出すって時に…。

スヤ) シマちゃん。

シマ) 結局私…何も成し遂げてない。

(回想)

シマ) 教員としてもランナーとしてもこれから

 なのに、母親になるのか^って…。

スヤ) それはそれ!

シマ) えっ?

スヤ) 切り替えんとやっていけんばい。

 シマちゃんは、女子体育と結婚ばしたとね?

 違うでしょ? 増野さんと結婚ばしたとでしょ?
 だったら道理ばい。何の負い目もなか。

 丈夫な子ば産みなっせ。

シマ) 金栗先生喜んでくれますかね?

スヤ) そりゃそうたい。

シマ) ですよね。正ちゃんの時なんか、

 窓開けて、「でかした~!」。

 …って騒いで、もう大変でしたよ。

スヤ) アハハ、そぎゃんね。

シマ) もう、近所迷惑で、勝蔵さんが頭から

 水かけて、ようやくおとなしく…。

(戻ってきた四三が、

 汗だくの顔でシマを見据える)

スヤ) ほら。はよ言わんと。

シマ) あの…先生、私…。

(シマを抱きしめる四三)

四三) でかした~! シマちゃん…

 でかした~! ようやったばい。

スヤ) フフッ…ねっ? 言ったとおりばい。

シマ) フフフ…もう汗でビチョビチョ…。

四三) でかした…あ~ようやった…。

 ようやった! でかした!

シマ) ありがとうございます。

 

**********

 

五りん) え~シマさんの噺になると、私が

 しゃべるという決まりみたいですね。まあ

 いいや…。この吉報を知らせなくちゃい

 けない相手がもう一人おりました。それ

 は…恩師である、二階堂トクヨ先生です。

 

トクヨ) ご幸福ですか?

シマ) はい。ご幸福です。

トクヨ) それはようござんした。

シマ) すみません。

トクヨ) いよいよ私は、女子体育と心中する

 覚悟を決めたのです。というのもね…。

シマ) 新しく学校を創設なさるとか。

トクイヨ) 私が思いを捧げた男には…

 妻と子がいたんです。や~!

シマ) ああっ!

トクヨ) 私がやらねばいけないの。

シマ) ご立派です、先生。

トクヨ) ありがとう。ところで、

 誰に聞いたの? 新しい学校の話。

シマ) 野口先生から…。

トクヨ) はっ…野口…!

 

**********

 

四三) かつら!?

シマ) し~っ! 誰にも…決して

 誰にも言わないで下さいね。

四三) ばってん…よほどのことばい、

 おなごが頭ば剃るて。

シマ) それだけ一大決心をされたと

 いうことでしょう。

 

**********

 

女性) 校長先生が、

 間もなくお見えになられますので。

野口) 野口だ。二階堂校長たっての希望で、

 講義を行うことになった。よろしく頼む。

 

五りん) 1922年4月、二階堂トクヨは代々木

 に、全寮制の二階堂体操塾を設立します。

 現在の、日本女子体育大学。名だたる講

 師を外部から招いたそうです。

 

**********

 

五りん) さて、竹早組は、はるばる岡山の

 テニス大会へ招かれました。

 

<岡山高等女学校>

四三) おっ、来た!

(拍手と完成) 

四三) 二人とも、大変シャンばい。よかよか。

男性) 男じゃ男じゃ! ばっさい絹枝!

男性) 男みてえじゃ!

男性) 男じゃ男じゃ!

男性) でっかいのう!

(対戦相手が現れる)

シマ) でっか!

四三) あっ、あの体じゃろくに走れん。

 スピードじゃ、竹早が上たい。

シマ) ですね。

四三) うん。

(ネット越しに握手をする富江と女性)

男性) プレーボール!

(村田のサーブを剛速球で打ち返す女性)

村田) ええっ?

四三) とつけむにゃあ。

(サーブを打つ村田)

村田) くそったれ!

四三) よし! ああっ!

 

(第一セット完敗、第二セットも完敗)

 

男性) ゲームセット。

(武士のようにコートから去って行く女性)

 

**********

 

(村田と梶原の泣き声)

四三) うん、悔しかね。そん悔しさ、忘れちゃ

 いかんばい。負けた原因ばよ~う考えてみ

 んか。そっでこそ、岡山まで来たかいのある

 ったい。ええか? 敗戦から、学んだもんが、

 強うなれるとばい。なっ?

シマ) あなたすごいわね。お名前は?

絹枝) 人見絹枝です。

シマ) 人見さん、強さの秘訣は?

 練習時間はどれくらい? テニス以外には

 何かやってないの? 100m何秒?

絹枝) 勝ちたいと思うことがねえんです。

 勝つと決まって「ばっさいじゃ」とか、「ぼっ

 けえ男じゃ」とか「化けもんじゃ」とか言わ

 れるけ、勝ってもうれしゅうねえ。いっそ負

 けようかないうて思うけど、わざと負ける

 んもしゃくじゃけぇ、手は抜かんけぇ…また

 勝ってしもうた。それでしまいじゃ。

梶原) どういう意味!? 私たちが弱すぎる

 とでもおっしゃりたいの!?

四三) ちょっと…どぎゃんしたとね?

シマ) 彼女いかがでしょうか?

四三) い…いかがって、何が?

シマ) 陸上やったら、大成すると思うんです。

 この人、金栗四三先生、マラソンの。

 知ってるわよね? 卒業後の進路は決まっ

 てるの? まだでしたら、東京へ出ていらっ

 しゃいよ。走り方、金栗先生が一から教え

 て下さるわ。一緒に走りましょうよ!

 ほら、先生からも!

四三) うん。人見君、脚ば、見せなさい。

 脚ば見たら、君が、陸上向きかどがんか

 分かるけん。なっ? ほら…。

(袴をたくしあげる絹枝)

四三) いやいや…袴の上から、

 触るだけでよか。触るだけ。どれ…。

(かがんで手を伸ばす四三)

(股間を蹴り上げられる)

四三) ああ~! 痛…。

絹枝) 本が好きじゃけぇ、

 文学部へ進むつもりです!

四三) ああ…。

(走り去る絹枝)

 

人見絹枝、身長170cm。後に日本人初の、

女子オリンピック選手となります。

 

(絹枝を目で追うシマ)

 

**********

 

五りん) え~当然の結果ですね。

 え~さて、翌年大正11年春、スヤさんが

 熊本で長女、政子を出産。「えっ、いつの

 間に!?」って話ですが、え~このあと

 スヤさんは、東京出てきちゃ子を授かっ

 て、熊本に帰りを繰り返し、一男五女を

 もうけます。ほう~まあいちいちやりませ

 んけどね。え~一方同じ頃、シマさんは

 長女りくを出産。

 

シマ) まさか子ども同士が同級生になるとは。

 しかもどっちも女子。

四三) そんうち、スポーツさせんといかんね。

シマ) う~ん…フフフフ。

 あっ、ところで、あの子たちはどうですか?

四三) じゃじゃ馬ね? おう、期待以上ばい。

 今度、女子陸上の大会ばやろうと思ってる。

シマ) 女子の陸上?

四三) 夢の、オリンピック出場への

 第一歩たい。あっ…シマちゃんにも、

 出てほしかったばってんが。

シマ) それなら、私なんかより、

 人見絹枝さんを出場させて下さい。

四三) あっ…岡山の?

シマ) 彼女を初めて見た時、あ~世界で

 通用する選手は、こういう人なんだな~

 って思いました。

四三) ばってん…本人に勝つ気のなかけん。

シマ) 私手紙出してみます。

 

**********

 

(図書室の窓辺に絹枝)

 

手紙・シマ) 「人見絹枝様。

 先日は、突然お声をかけてしまって、ごめん

 なさい。増野シマと申します。私は、金栗先生

 に憧れ、走ることに夢中になりました」。

 

**********

 

大正11(1922)年 秋

 

五りん) 金栗さん主催の、女子陸上大会は、

 大正11年秋に開催されました。シマの思い

 は届かず、人見絹枝は不参加でしたが。

 

吉岡) いや~体育の普及は女性美を破壊

 するものだと思っていたが、違うね~。

 実にすがすがしい!

野口) 次!

四三) おっ!

梶原) いよいよですわ!

四三) おう!

シマ) さあ、みんなで応援するわよ!

(応援の歌声)

四三) ごめん、ちょっと待っとって。

野口) はい。

四三) どぎゃんした? 村田。

 新しかスパイクきつかね?

村田) うん…。

四三) ば~…参ったね~。しょんなか、

 今日のところは、足袋で走っか。ばばっ!

(靴下を脱ぎ、素足になる村田)

(女子の悲鳴と一斉に向けられるカメラ)

男性) あっ、脱いだ。

野口) 写真はご遠慮下さい!

 写真はやめて下さい!

四三) 村田…。おい、村田…。

野口) やめて! 金栗さん!

四三) 分かっとう。

(素足にスパイクを履く村田)

村田) まあ! フィットしますこと。

 パパ、これ持ってて。

(四三に靴下を渡す村田)

四三) ハハハハハ…。

 うん、よかよか! 集中して。

村田) はい。

男性) 支度して! よ~い…。

四三) 村田! そんまま…行け!

 行け、行け…そう!

 

五りん) この大会で村田富江選手は、

 50m、100m、50m障害の3つに出場し、

 全種目で優勝します。

 

四三) ようやった~! うん!

 

**********

 

<ミルクホール>

(新聞を見る治五郎)

治五郎) 「選手の多くは黒靴下をはいたが、

 中には、彫刻のような両足を冷たい風に

 さらして、平気でいる者もある」。フフフ…。

 う~ん。時代は変わった! なあ?

 フフッ。何々…。「女子学生の運動競技に

 腿を出させぬ算段、文部省から各学校へ

 通牒、厳重に取り締まる 」!? 何!?

 

**********

 

(浅草に美川の露天)

美川) 学生見てるね~。おっ! さあさあ

 ブロマイドだよ~。健康的なスポーツ

 少女だ。見よ、この、むき出しの美脚。

 病弱な女なんか、はやらないよ~。

男性) 全部売ってくれ。

 

**********

 

<女学校の一室>

男性) いらっしゃいました。どうぞ。

村田・父) 大切な娘を竹早に入れたのは、

 人前で脚をさらけ出すような、おてんば

 にするためではありません!

 

五りん) 本物のパパだったようです。

 

校長) どうぞお座り下さい。

村田・父) 浅草で、開業医をしておりまして、

 たまたま遭遇したんです。怪しげな露天商

 が、娘の醜態を売っているところに!

女性) 富江さん、なぜ靴下脱いだりしたの?

村田) はい。邪魔だったので脱ぎました。

女性) それが新聞に載ったのですよ!?

 困りましたわ…竹早の名前に傷がつきます。

四三) ばってん、今や竹早は、

 スポーツ女子の代名詞だけん。

男性) あんたがそうしたんだろうが!

 誰も望んでおらんのに。

男性) 解雇して下さい。このばってん男を。

 でなきゃ娘を退学させます。

村田) 自分の意志で脱いだんです。

 パパは何も悪くありませんわ。

村田・父) パパ?

四三) いやいや、あの…え~…誤解のない

 よう補足しますと、脱いだおかげで娘さんは、

 日本記録ば出したとです。お…お父さん!

村田・父) 何を考えとるんだ富江!

四三) 50で7秒8! 100で、14秒8!

村田・父) おなごが人前で脚を丸出しにるう

 なんて、もう嫁には行けんぞ!

四三) そぎゃんこつなか…

 そぎゃんこつなか! おなごが…! 

 おなごが脚ば出して何が悪かね!?

校長) 金栗君!

四三) 男子はよくて、女子が悪か理由ば

 お聞かせ願いたい。

校長) だから言ってるだろう。

 みっともないからだよ。

四三) それはおかしか! そもそもこん子らは、

 きれいか脚に憧れて、陸上ば始めたとです。

村田・父) 何?

四三) 西洋人モデルごたる、シャンな足になり

 たかけん、走っとっとです。見られても構わん、

 だけん出す! 何の問題もなかです。

村田・父) そうはいかん!

四三) な~しですか?

村田・父) 好奇の目に晒されるからだ、娘の体が!

四三) そりゃ男が悪か! 女子には何の非もなか!

 女子が、靴下ばはくのではなく、男が目隠しばし

 たらどぎゃんですか!

村田) さすがパパ。

四三) 私にも、娘がおります。ばってん、脚が見

 られるこつなんかいっちょん恥ずかしゅうなか。

 私なら、大いに出せと言います。

村田・父) いくつだ? 娘は。

四三) 4か月です。

村田・父) 富江は15だぞ! 一緒にするな!

 帰るぞ。

四三) お父さん…。脱いだ方が…脱いだ方が

 スピードの出っとです! 脱いだおかげで、

 娘さんは、日本一になったとですよ!

 な~しそこば褒めてやらん!?

 そこばな~し褒めてやらん!? 

 「よくやった!」ちゅうて、褒めてやってから、

 その後の、靴下云々の話は家でやって下さい。

 あんたらが…あんたらがそぎゃんだけん、

 女子スポーツはいっちょん普及せん!

 いつまっでん、ヨーロッパには勝てんとです!

 

**********

 

<校長室>

校長) 村田氏を敵に回したのは、まずかった

 な~。あの方が中心になって、署名運動を

 やったみたいです。

四三) すみまっせん。

 

**********

 

<教室>

梶原) 大ニュースでしてよ!

 パパ、学校を辞めさせられちゃうみたい。

一同) えっ?

 

**********

 

<校長室>

校長) 金栗四三先生の、依願免職を

 求めると。悪く思わんでくれ。

 

**********

 

<教室>

村田) 私のせいだわ、

溝口) しょうがないわよ。

 靴下脱いだ方が速く走れるんですもん。

白石) クビになったら、一体どう

 なっちゃうのかしら? パパ。

女性) 私たちは?

女性) また袴をズルズル引きずって、

 日傘さして植物園を歩くのよ。

(机を動かし、入り口に置く富江)

溝口) どうなさって? ムラさん。

 

**********

 

シマ) いた…金栗先生、早くいらして。

四三) えっ?

シマ) 先生の生徒が、教室に立てこもりました。

四三) はっ…?

シマ) いいから、早く! 急いでください!

 

**********

 

村田) 金栗先生は絶対辞めさせないわよ!

一同) はい!

村田) 不当解雇反対~!

一同) オ~!

(窓ガラスに抗議文をはりめぐらせ、積み

 上げた机の上に立ち、旗を振る富江)

男性) やめなさい!

男性) 一体何を考えてるんだ君たちは!

女性) パパは辞めさせないわよ!

シマ) 梶原さん? ねえ、バカなまねはよして!

校長) こんなことしてただで

 済むと思ってんのか~!

梶原) 処分は受けますわ! 退学でも何でも!

村田) 靴下を脱いだのは私です。どうして

 パパが辞めなくちゃいけませんの?

校長) 決まったことなんだよ。

 ご本人も納得されてる。ねっ?

溝口) 私たちは納得しておりません!

 走りやすい恰好で走るのがどうして

 いけないんですか!?

女教師) 女らしくないからです!

梶原) 女らしさって何ですか!?

 歯を見せず笑うことですか?

 腿を出さずに走ることですか?

男性) そもそも女は走らんでいいんだ!

白石) そんなのおかしい!

学生たち) そうよおかしい!

溝口) 女らしいらしくないって

 誰が決めたんですか!? 男でしょ!

梶原) 木陰で本でも読みながら、「あ~ら我

 が君~」とか言ってればご満足なんでしょ!?

白石) でしたら男らしさも女に決めさせるべき!

村田) そうよ! たかが靴下脱いだぐらいで

 ガタガタ騒いでるトンチキな文部省も、それ

 にビクビクしてる先生たちも、てんで男らしく

 ない! アウトアウト~!

学生たち) アウトアウト~!

梶原) パパを辞めさせるな!

学生たち) 辞めさせるな~!

校長) どなたかお答え下さい。

 反論ないんですか!?

シマ) 私はないです。

四三) 村田~! 梶原~!

(教室を見据える四三)

 

**********

 

パパ呼びは史実。ドラマの中でええっ!?って

思うことは大体史実だっていうのが面白いよね。

それにしても…クドカンは天才! 何度でも言う。

女子の苦難はいまだに続いている。アウト~!

昔の話は今の話でもある。最高だよ、クドカン!



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