大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第8回~敵は幾万 | 日々のダダ漏れ

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大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第8回~敵は幾万

 

 

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実次) 韋駄天のお出ましたい!
四三) 兄上! なして!?
 なして東京におっとね!?
実次) 金、1800円、持ってきたばい!
 アハハハハ!
 

志ん生) 何だ? 

 声がでけえな田舎もんは。ええ?

 羽田予選の優勝カップを質に入れ、

 ストックホルムオリンピックの、

 渡航費に充てようとしたやさき、

 兄実次が東京へやって来ました。

 

**********

 

<寄宿舎>

野口) あっ、来た!

 あれが、うわさの誇大妄想の鬼か。

橋本) らしいな。しかし何しに来たのか。

野口) 決まってるじゃないですか。

 弟を連れ戻しに来たんだ。

橋本) 何だって?

(窓から覗き2人の動きにアフレコする野口)

野口) 「かけっこなんかにうつつ抜かし

 おって、このごくつぶしが!」。

 「兄上、許してくれんですか兄上」。

 「ええいならん!熊本に連れて帰るぞ!」。

橋本) なんと無理解な。

野口) 橋本さん平田さん、いざとなったら、僕

 らが身をていして、我らが金栗さんを守ろう。

橋本) よし。

 

**********

 

四三) それにしたっちゃ兄ちゃん、

 な~しいきなり。

実次) な~しって。ぬしが遠方に行きなさ

 る前に、日頃から世話になってる、諸先

 生方や、ご学友に、挨拶せんといかんし。

 金も、渡さんと、いかん。

四三) 金…ばっ!

実次) 大事な弟の渡航費だけん、

 郵便為替じゃ、送れんばい!

四三) 兄上~!

 

**********

 

野口) お~金栗さん泣いておるぞ。

 

**********

 

実次) 泣くな!

四三) まさか…

 田んぼば売ってしもうたつね?

 ねっ? そぎゃんね?

 

**********

 

1か月前 <熊本・玉名>

 

<池部家>

重行) ばってん金栗さん、スト…

 ストックホルムオリムピックですか?

 そぎゃん立派な大会でしたら、国が

 金ば出すとでしょうが。

実次) あ~オリンピックは、

 アマチュアの競技会で。

スヤ) アマチュアは、

 本職じゃなかって意味です。

重行) 本職じゃなかったら、遊びじゃなかね。

 金栗さん、すまんが、こぎゃん得体の知れ

 んもんに金ば出す人は、こぎゃん田舎には

 おらんとばい。

実次) 弟のためなら、田畑は売っても

 よかと俺は思うとります!

 四三は、そんだけの価値のある男たい!

スヤ) お義母さん。

実次) あ~お邪魔してます。

 金栗です。今日は…。

幾江) 声の大きかですけん

 あらかたは聞こえておりました。

実次) どうもすいません。

幾江) ばってん金栗さん、田んぼの

 のうなってどぎゃんすっとですか?

 家族も大勢おっとに。

実次) 幸い私は、役場にも勤めており

 ますし、稼ぎのありますけん。

幾江) ばってん酒蔵ば潰して、土地ば手放し

 て、そぎゃんしてまで行かせたかですかね? 

 その…スト…スト…ストリップ?

スヤ) ストックホルムオリンピックです。

重行) たかがかけっこでしょうが。そぎゃん

 もんのために、財産手放すとですか?

幾江) どぎゃんしても行かにゃいかん

 とですか? それは。

実次) 行かせてやりたかです! いや…10里

 も、走ったそん先に、何のあるかは知らん。

 いや、何もなかかもしれん。ばってん、そん

 景色ば、見る資格ば、四三は持っとる。

 兄として…見せてやりたかです!

幾江) あ~もう分からんけん、こうしましょ。

 買った田んぼ貸しましょ。

実次) えっ、貸すって誰に?

幾江) あぁたよ、金栗さん。

重行) お母さん!?

幾江) 1800円で、田んぼば買いましょ。そ

 れを、タダで貸しましょ。あぁたは今までど

 おり百姓ばして、米ば作って暮らせばよか。

実次) 幾江さ~ん!

 このお礼は何と申したらよいか…。

幾江) あぁたを信用したわけじゃなか。

 スヤさんばい。こん人の頼みとあらば、

 力にならにゃいかん。なあ重行。

スヤ) お義母さん。

実次) スヤさん、ありがとうございます。

幾江) はい。こん話はおしまい!

 

四三) ほんなら、売らんで済んだつね?

実次) ああ。売ったばってん、暮らしは変わ

 らん。お~そのほかにも、春野さんやら、玉

 名中学の校長先生やらの餞別もあるけん、

 これで思いっきり、闘ってこい!

四三) 兄上…なんと礼ば言うたらよか…。

実次) これ…四三。ほれ。

(戸が開く音)

野口) ちょっと待った~!

(窓から入る野口)

野口) 金栗君、ちょっといいかな?

実次) どちらさんですかね?

四三) あっ、野口君、橋本君、友達。

野口) ただの友達じゃない。お兄さん、

 僕ら、寄宿舎の総務で、金栗さんの

 後援会を作りました。

実次) 後援会!?

福田) そぎゃんですたい。遠征には、

 たいぎゃな金のかかると聞いて。

野口) この度、寄付金が、1500円に達し

 ましたので、持ってきました!

(金の入った樽を置く徳三宝)

四三) ばっ!

福田) 全国の師範学校から集まったとです!

徳) お兄さん! 行かせてやって下さい!

(実次に向かい、頭を下げる一同)

四三) 皆さん、なんとお礼を言うたらよかか…。

実次) ちょちょちょ、待ってくれんかね。

 こっちはこっちで、1800円、持ってきたけん!

一同) えっ!?

四三) あ~そぎゃんたい。わざわざ、

 熊本から届けてくれなはったけん。

平田) えっ? おいおいおいおい…。

 誰だ? お兄さんが、びた一文も

 出さないって言ったやつ!

野口) あっ、そうですよ!

 そぎゃんこつ誰が…。ぬしか?

四三) いやいや…。

実次) 何じゃこらお前。

福田) どぎゃんしますかね? お兄様。

実次) どぎゃんもこぎゃんも、こっちは

 田畑ば売ってこさえた1800円、持って

 帰るわけにはいかんばい!

福田) ばってん、こっちも誰がいくら出した

 かも分からんですし、どぎゃんでしょう? 

 雑費として、300円ほど寄付して頂いて、

 残りはお納め頂くわけには…?

実次) そぎゃんですか? 

 そぎゃんなら…お言葉に甘えて。

野口) あっ、よかった!

(本で顔を隠し、コソコソ逃げる美川)

四三) ありがとうございます!

 

**********

 

志ん生) 全国の学生、数千人からの

 寄附金、よく集めたものです。

 

(寄附金の名簿を見ている四三)

四三) あ~もう…ありがたか~。

(フロックコートを着る実次)

実次) 四三。

四三) うん?

実次) こん背広、どぎゃんしたと?

四三) あ~嘉納先生が、

 餞別に買うてくれたつばい。

実次) ばばっ!

(内ポケットに「嘉納」の刺繍)

実次) ばばっ、えらいもん着てしもうたばい。

 

**********

 

<食堂>

可児) いや~納得いかんですな~。

 私はともかく、スウェーデンといえば

 永井さんでしょう。

永井) うん。百歩譲って、大森氏は

 よしとしよう。問題は…。

可児) 安仁子!

永井) あに図らんや安仁子だよ。

可児) アハハハハ! あに図らんや…。

永井) 何だあの青い目の年増はよう!

可児) たった4人…うち2人は選手ですよ。

 あと2人…妻、入ります?

(戸が開く音)

永井) 誰だ!?

実次) すんません。

 あっ、申し後れましたばってんが私、

 金栗四三の、兄でございます。

可児) ええっ? これはこれは…。

実次) こん度は、皆さんのおかげで!

可児) いえいえ…そりゃもう、弟さんの、

 努力のたまものでしょう! いやお兄さん

 お兄さん、どうぞどうぞどうぞどうぞ。

実次) あっ、よかですか? どうもすんません。

 

**********

 

(部屋で手紙を書いている四三)

手紙・四三) 「前略、春野スヤさん

 におかれましては」…。

 

**********

 

<食堂>

実次) やはりあれですか。人間は25歳まで

 に、大成するか否かの片がつくとですか?

永井) えっ?

実次) いや~相撲取りだって、25歳過ぎたら

 横綱にはなれんばい。その点四三は偉か~。

 まだ、21だもんねえ。熊本から出てきて僅か

 数年で、東京のど真ん中で、こぎゃんしっか

 り根っこば張って。今度は…えっ? スウェー

 デンだもんねえ。とつけむにゃあ男ばい!

可児) アジアを代表して、世界の大舞台で

 闘うんですから、ねえ。

永井) 例えば、4年後、8年後、100年後、

 何千何万人のオリンピック選手が日本

 から出ても、誰が何と言おうと第一号は、

 金栗四三!

可児) そう!

永井) これだけは、

 未来永劫動かんのですよ。

可児) ハハハ…。

実次) ありがとうございます。

可児) いや~…。

実次) あっ、ところでお2人さんは、守衛さん?

可児) えっ?

実次) 嘉納治五郎先生の部屋は

 どこですかね? 守衛さん。

 

**********

 

次の日、四三と美川君は、実次を

東京見物に連れ出しました。

 

四三) 念願の、凌雲閣ばい。

美川) 財布スられて、上れなかったんですよ。

実次) そぎゃんね!

 

**********

 

(凌雲閣の12階に上がる、赤ゲット

 を羽織った実次と四三と美川)

実次) うわ~どこまっでも街が続いとるばい!

四三) お~!

実次) こぎゃん都会で四三は、

 毎日走りよっとか。

四三) あ~毎日じゃなかばってん、浅草から…。

 え~芝、芝…あ~芝。あん芝の方まで。

実次) うん? 

(窓の外を見る実次)

実次) あっ! あ~ハハハ! 

 富士山の見えてるねえ! こぎゃん遠くから

 見ても、大きかね~富士は。絶景ば~い!

 阿蘇までは、見えんねえ。

(スヤのことを思い出す四三)

四三) 兄上、俺は…生きて帰れっとだろか。

実次) えっ?

四三) ストックホルムまで8200km。片道、20日

 もかかっとばい。な~しそぎゃん遠くに、言葉

 も通じん国に行かにゃいかんとだろか。フォー

 クとナイフで、飯ば食わにゃいかんとだろか?

美川) あっ、アハハハ…金栗氏、

 さては、高いとこ上ったもんだから、少々、

 ナーバスになったのかな?

四三) た~だ丈夫になっために、走っとった

 つに…。丈夫になったところで…。やめとき

 ゃよかった。な~し俺だけ、異国に…。

実次) 今さら~弱音を吐くな四三!

美川) うわっ、出た、鬼。

実次) お前が、行かんかったら後が続かん!

 お前が、そぎゃん弱虫やったら、100年後の

 韋駄天も弱虫ばい。心配するな! 母ちゃん

 も、俺も、みんなも、無事ば祈っとるけん。

四三) うん。そぎゃんたいね。

美川) さてお兄さん、このあと

 どうしましょうかね? 吉原に…。

 

**********

 

小梅) あっ、そこの赤ゲットのおにいさん、

 まあ、目の覚めるような赤だねえ。

実次) えっ、そぎゃんですか?

小梅) ええ。

実次) ハハハハハ…。そぎゃんでしょう?

小梅) そうよ。

 ねえちょいとちょいと遊んでかない?

美川) 小梅!

(美川を見て立ち去る小梅)

えっ? 何や…。

美川) 金栗氏、僕はここで!

四三) えっ?

美川) ちょい待って…

 お兄さん、道中、お気を…小梅、小梅!

四三) ちょっ、美川君、美川君!

 あっ…兄ちゃん、よか。よかよか。行こう。

 

**********

 

<通り>

四三) あの~兄ちゃん。

実次) うん?

四三) 金ば工面してくれた、池部さんって…。

実次) あ~春野先生んとこの娘さんの、

 嫁ぎ先たい。

四三) あ~やっぱり、スヤさんの。そぎゃんね。

実次) 熊本に戻ったら、その足ですぐに、祝言

 たい。あ~東京でお前に会うって言うたら、

 くれぐれもよろしゅうって言っとったばい。

四三) そぎゃんね。

(汽車の四三を自転車で追うスヤを回想)

四三) 池部っちゅうたら、玉名一ん、

 庄屋さんだもんね。ハハッ。玉の輿たい。

実次) ここで、よかけん。

四三) えっ? 

 いやいやいや、新橋まで送るけん。

実次) よか。オリンピック選手に、

 そぎゃん無理ばさせられん。

四三) ばってん…。

実次) 一人で行けるけん。

 田舎者だと思って、バカにしよっとか。

四三) いや、そぎゃんつもりは…。

(路面電車に乗り込む実次)

実次) ああ…来てよかった。

 嘉納先生にゃ挨拶ばできんかった

 ばってん、それはまた今度。

四三) うん。あっ、兄ちゃん。

実次) ああ?

四三) スリに気ぃ付けんといかんよ。

実次) えっ? じゃあ。

四三) 兄ちゃん。

(電車から顔を出す実次)

実次) 勝とうなどと思うな!

 何も考えんで行って、走ったらよか。

 順道制勝の精神たい! なっ?

(まっすぐ右手を上げ、実次を見送る四三)

 

**********

 

<路地>

美川) 君速いね。

 金栗氏といい勝負だ。さあ…。

小梅) だから余計なお世話だって

 言ってんじゃないかい。ああ田舎者。

 私がどこでどんな商売してても、

 あんたにゃ関係ないよ!

美川) いいや、何と言われようと、

 僕は、君を、救いたい。

(美川の頬を叩く小梅)

美川) あいたっ!

小梅) あんたに私の何が分かんのさ。

 はっ、田舎者。

美川) 分かるさ。こんなところにいちゃ

 もったいない女性なんだよ君は。

 こんな路地裏の、どぶ板の上で。

小梅) どぶ板の上は今たまたま!

 あんたが追いかけてくるから。

美川) ストレイシープ。

小梅) はあ? 何?

美川) 僕たちは、ストレイシープ。羊なんだ。

(Stray Sheep = 迷える羊)

小梅) ねずみだけど。

美川) 干支じゃない。知らない?

 夏目漱石「三四郎」。迷える羊。

小梅) フンッ、迷ってないよ。

 ここ出てどん突きのタバコ屋をぎゃん

 行ってぎゃん行ってもうぎゃんぎゃん

 行ったら、市電の停車場。

美川) そうじゃなくて…漱石の…。

 えっ、「ぎゃん」!?

孝蔵) ああっ! あ~うるせえな。

 ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん

小梅) 孝ちゃん。

孝蔵) あ~あ、こりゃ寝過ごしたな。

 またしくじったか、くそ~。

小梅) 師匠んとこ、行かなくていいのかい?

美川) ぎゃん? 

 ぎゃんって今言ったよね? 君。

孝蔵) おい、そこのぎゃんぎゃん

 吠えてる学生。

美川) 熊本? えっ、君、

 東京のおなごじゃなかとね?

孝蔵) お~い。

美川) 東京? 熊本?

小梅) そうたい。

美川) 熊本のどこさ。

小梅) 阿蘇さ。

美川) 阿蘇さ? えっ、阿蘇って、

 えっ、君…山じゃない。

孝蔵) 聞いてんのか学生。

美川) はい。

 

**********

 

<播磨屋>

辛作) つま先とかかとを3枚重ねに

 しといたぜ。それなら軽いだろう。

四三) おお…こりゃよかです。

辛作) それだけありゃ、足りるだろ?

四三) はい。

(四三に包みを差し出す勝蔵)

勝蔵) はい。

四三) うん? これは…?

辛作) 持ってけ。日本代表が裸で

 走るわけにはいかねえだろ?

(包みをほどく四三)

(真白な丸首のシャツ(胸に日の丸))

四三) ああ…。ありがとうございます。

(袖を通す四三)

四三) ああ…ありがとうございます!

 ありがとうございます!

 

**********

 

<寄宿舎>

治五郎) この度に、金栗君の遠征には、

 諸君の多大なる、後押しがあったと聞く。

 その友情に、惜しみない拍手を送りたい。

 ありがとう!

 

ストックホルム出発まで、

あと2日に迫りました。

 

**********

 

<羽田・競技場>

一同) TNG! TNG! TNG!

吉岡) レディ…ゴー。

(走る弥彦)

 

**********

 

中沢) 卒業年だろ。

 大学はどうするんだね?

弥彦) 落第してやるさ。こうなったら

 とことん、兄貴とは別の道を行くよ。

 

**********

 

<三島家・サンルーム>

シマ) 奥様。そろそろ中に入られては?

和歌子) 弥彦はな?

シマ) 今日は遅くなると。

和歌子) ほんのこて、弥彦は…。

(縫い物をしている和歌子)

和歌子) 三島家ん、恥じゃ。

 

**********

 

<寄宿舎>

可児) はなむけに、古代ギリシャの

 勇者の母が、息子を、戦場に送り

 出した時の言葉を、引用する。

一同) おお…。

可児) 我らの希望に、

 大いなる道を開く、金栗四三よ! 

 勝たずんば、盾に乗って帰れ! 

 勝利か、しからずんば、死を与えよ!

橋本) 金栗君、

 ありゃ負けたら生きて帰れんぞ。

野口) 校長がいなくなると必ず暴走

 するな。あっ、美川さん。ちょっと!

福田) 美川、黙って部屋行くとか?

永井) おい美川。お前、今日が金栗の

 壮行会って知ってただろ。同郷だろ?

 言葉をかけてやったらどうだ?

 おい、美川! 美川!

美川) はいはい、分かってますよ~。

 肋木でしょ? あっ…。

四三) ず~っと言えんだったばってん、

 美川君。思えば、君が高師ば受ける

 ことを勧めてくれんかったら、

 俺はここにはおらんばい。

美川) いや、僕は別に…。

四三) オリンピックはもちろん、

 マラソンに興味を持つことすらなかった。

 全て美川君のおかげたい。ありがとう!

(頭を下げる四三)

美川) あの、そぎゃんこと…

 あの、金栗氏…頭ば上げて。

四三) …と、帰ってきて言えるよう、

 精一杯走ってくるけん、美川君も、

 自分の道ば極めてくれ。

美川) あっ、ありがとう。

四三) どうぞ。

美川) ど…どうぞ?

(食堂に戻っていく四三)

美川) 入っちゃうよ? どうぞ…?

(1人残される美川)

 

**********

 

<三島家>

シマ) 弥彦お坊ちゃま。

弥彦) おう、シマ。

シマ) お帰りなさいませ。奥様には、

 いつお話しされるおつもりですか?

弥彦) 何を?

シマ) 「何を」って…洋行の件です。

 ストックホルムオリンピック。

 まさか黙って行かれるおつもりですか?

 「親子の縁を切る」とまで言われたのでし

 ょう? 一度きちんとお話しされた方が…。

 余計なお世話かもしれませんが。

弥彦) 余計なお世話…だね。

シマ) お坊ちゃま…。

弥彦) 話しても話さなくても、結果は同じさ。

 

**********

 

<寄宿舎>

永井) では、最後に、本日の主役、

 金栗四三君からひと言!

(拍手)

四三) え~皆様の、ご厚意、ご支援に

 感謝し、精一杯、闘ってきます!

男性) 金メダル!

(拍手)

四三) ありがとう!

男性) 歌え、歌え~!

四三) えっ?

男性) 歌え。

四三) では、一曲。

野口) 金栗さん、本当に歌うんですか?

四三) うん。

福田) ばってん金栗お前音痴…。

四三) 音痴ば克服せんと、

 ある人の教えてくれた歌です。

野口) (小声で)台なしになる。

四三) 決してうまくはなかばってん、

 気分のよかけん、歌います!

(手拍子)

四三) ♪逢いたかばってん 逢われんたい

 たった一目でよかばってん 

 あの山一丁越すとしゃが

 彦しゃんのおらす村ばってん

 今朝も今朝とて田のくらで 

 好かん男に口説かれて

 ほんに彦しゃんのおらすなら

 こぎゃん腹も立つみゃあばってん

 千代八千代 どうしたもんじゃろかい

 

(みかん畑の道を行くスヤの花嫁行列)

 

四三) ♪ちりりんりんと出て来るは

 自転車乗りの時間借り

 曲乗り上手と言われては 

 両手離した洒落男

 あっち行っちゃ危ないよ 

 こっち行っちゃ危ないよ

 危ないよと行ってる間にそらずっこけた

 千代八千代 どうしたもんじゃろかい

一同) ♪どうしたもんじゃろかい

四三) ♪どうしたもんじゃろかい

一同) ♪どうしたもんじゃろかい

四三) ♪どうしたもんじゃろかい

一同) ♪どうしたもんじゃろかい

四三) ♪どうしたもんじゃろかい

一同) ♪どうしたもんじゃろかい

 

**********

 

(池部の屋敷で三三九度の盃を交わすスヤ)

 

**********

 

(寄宿舎の井戸端で、水浴びをする四三)

四三) よし!

 

**********

 

明治45(1912)年5月16日

 

志ん生) 明治45年5月16日。

 初夏の朝は、上天気。金栗四三選手と、

 見送りの大行列は、徒歩で、新橋へ向か

 います。小石川の大通りを、伝通院前に

 出て、富坂を下りまして、造兵廠脇を通っ

 て、和田倉門前に。二重橋前では、皇居

 に向かって整列し、永井道明教授の音頭

 で、万歳三唱。「汽笛一声新橋を」でおな

 じみ、新橋駅は、黒山の人だかり。ストッ

 クホルムに向け、大森兵蔵監督と、安仁

 子夫人、そして、嘉納治五郎先生も姿を

 現わしました。

 

**********

 

志ん生) うん? あれ? 1人足りねえな。

 出ました、痛快男子、三島弥彦。

 カンカン帽にダブルカラーの、

 粋なスタイルでございます。

 

一同) 奮え~! 奮え~!

 て・ん・ぐ! ててんのぐ!

 

**********

 

<プラットホーム>

永井) この日章旗は、

 我が大日本体育協会から。

(四三と弥彦の前に広げられた日の丸)

永井) 金栗君、三島君! ばんざ~い!

一同) ばんざ~い!

 ばんざ~い! ばんざ~い!

四三) ありがとうございます!

(頭を下げる四三と弥彦)

治五郎) よ~し、行ってくる!

四三) 行ってきます!

(汽車に乗り込む四三たち)

 

志ん生) この日の新橋駅の興奮は、大変な

 ものでして、当時の新聞に、こう書かれて

 おります。汽笛にわかに起こり、高師生徒

 などが、声を限りに歌う「敵は幾万」。金栗、

 三島、大森夫妻のために、万歳、万歳。

 

シマ) お待ち下さい!

四三) 三島さん、三島さん!

シマ) 道を開けて…あっ、あっ!

弥彦) シマ!

シマ) 弥彦坊ちゃま! お母様…。

弥太郎) ほら! 弥彦お前、母上に、

 ちゃんと挨拶せんか! 早く!

(デッキへ走る弥彦)

(弥彦の手を掴む和歌子)

弥彦) 母上…弥彦は、精一杯闘ってきます。

和歌子) 当たり前じゃ!

 おまんさぁは、三島家ん誇りなんじゃから。

シマ) お母様。(風呂敷を和歌子に渡す)

(風呂敷から真っ白なユニフォーム(胸に

 日の丸)を出し、弥彦に差し出す和歌子)

弥彦) えっ…。

和歌子) 弥彦、体ば大事にしやんせ!

(汽笛)

弥彦) はい!

(動きだす汽車)

車掌) 時間です! 離れて!

弥太郎) 母上。母上。

弥太郎) 弥彦!

シマ) 弥彦坊ちゃま!

和歌子) 弥彦! 弥彦!

(窓から顔を出しユニフォームを広げる弥彦)

シマ) お母様!

和歌子) 弥彦!

(泣きながら汽車を追いかける和歌子)

和歌子) 弥彦! 弥彦!

弥彦) 母さん!

和歌子) 弥彦!

弥彦) 行ってきます! 行ってきま~す!

一同) ばんざ~い! ばんざ~い!

 ばんざ~い! ばんざ~い!

弥彦) 母さん! 行ってきます!

 行ってきま~す!

四三) やっぱり、我が子に関心の

 なか親はおらんですよ。

弥彦) (すすり泣き)

(泣きながらユニフォームを見つめる弥彦)

四三) (泣)

 

**********

 

志ん生) え~それではここで今回の

 旅の行程を、ざっと説明しましょう。

 担当は、東京高師、地理歴史科教諭、

 福田源蔵さん!

福田) はい。地歴科の、福田です。

 

**********

 

福田) え~明治45年5月16日、新橋から寝

 台車ば乗り、福井県敦賀で降りた、金栗は、

 鳳山丸に乗って、ウラジオストックへ。そこ

 からシベリア鉄道に揺られること、2週間。

学生たち) ええっ!?

福田) ロシアの首都、セントピータース

 バーグに入り、船でバルト海ば渡り、

 ストックホルムに着くのが、6月2日。

 実に、17日間の、長旅ばい!

 

**********

 

<汽車の中>

本庄) 16歳から無敗の三島君、

 世界へ羽ばたく心境は?

弥彦) これといって、感慨はないね。

 うんと暴れてくるつもりさ。

本庄) 西洋人に交じって走ることに、

 気負いはないかい?

弥彦) むしろ、楽しみだね。

 

**********

 

<汽車の中>

本庄) 洋行は初めて?

四三) …はい。

本庄) じゃあ昨夜は眠れなかったろう。

四三) はい。

男性記者) 日本運動界の、全責任を

 負って、出場するのだからね。

四三) はい。

男性記者) 「倒れて、後止む」

 の、大決心で臨んでくれ。

四三) はい。

男性記者) 決して国体を辱めざる

 ことを期す、という心境かな?

四三) はい。

男性記者) じゃあ金栗君、

 カメラの方を向いて。

 

それは後日、

そのまま記事になりました。

 

**********

 

(新聞記事を読む実次)

実次) 「日本運動界の全責任を負って、

 出場するからには、倒れて後止むの

 大決心をもって、臨み、決して国体を、

 辱めざることを期すという心境ですと、

 金栗君はそう宣言し、爽やかに笑った」。

一同) わ~

実次) 四三! 

 頑張ったな~! よかったよかった。

 

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<汽車の中>

(トイレから出てくる可児)

可児) あっ、しまった。

四三) か…可児先生? ちょ…可児先生?

可児) 違う違う違うんだよ。か、か…彼らが。

四三) えっ?

野口) あっ!

四三) ばっ! 橋本君…野口君!

 何しよっとっとですか?

橋本) いやちょっと新橋では人が

 多すぎて、ちゃんと見送れなくてな。

野口) 気付いたら、汽車に飛び

 乗ってました。すみません。

可児) 頼む! 校長には…

 嘉納先生には、どうか、内密に。

四三) そぎゃんこつ…もう、俺はうれしか

 ですた~い! いや、うれしかよ~!

野口) 金栗さん?

四三) あんもう誰か分からん、大勢の人に

 見送られるより、何倍もうれしかですたい!

 ようついてきて下さった~!

 (おにぎりを食べて) ああ…うまい!

 あっ…ところで、嘉納先生は、

 どこに乗っておられるとですか?

可児) あっ、乗ってないよ。

野口) えっ!?

四三) ばっ…ばってん、新橋駅には。

可児) いやそれが、直前になって…。

 

(回想)

治五郎) 永井君、止まってもらいなさい! 

永井) 可児~!

治五郎) 止めろ!

永井) 可児~! 校長、可児…可児!

治五郎) 待ちなさい!

 

四三) な~て嘉納先生は乗って

 おられんとですか!? あああ…。

 

(回想)

(プラットホームに治五郎)

治五郎) 乗れなかったよ!

 

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あ~もうこういうのホント上手いよね、クドカン。

和歌子様に泣かされた。振り返れば…確かに

描写されていたことが分かる。普段、縫い物な

どしないだろう彼女が縫い物をしていた場面。

弥彦のユニフォームを縫いながら口から出て

いたセリフは「三島家ん、恥じゃ」だもんね~。

ツンデレがすぎるよ、和歌子さんたらもう~!

 

本当はあれもこれも書きたいところだけれど、

よかったところがありすぎて書ききれないとい

う毎度お馴染みの展開。良かったところはみ

んな書き起こしているっていうことで…。大変

だけど、書き起こしておかずにいられない…。

だってホント、マジで脚本がいいんだもの~!



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