大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第7回~おかしな二人 | 日々のダダ漏れ

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大河ドラマ 
「いだてん~東京オリムピック噺~
 



第7回~おかしな二人

 

 

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<校長室>

治五郎) 金栗君が、自費で、オリンピック

 に行きたいと、言いだしてね…。

弥彦) そうですか。

治五郎) 本人は、実に謙虚なんだが…

 何せ、世界記録だからね~。

 確実に、メダルは、狙えるだろう。

 …で、どうする?

弥彦) はい?

治五郎) 君のような、日本の未来をしょって

 立つ若者に、先進諸国の、スポーツ文化

 を見てもらいたい。これは、遊びじゃない。

 視察だ。文部省にも、文句は言わせん。

 返事は急がん。

弥彦) いやいや、返事してますよね。

 先ほどから何度も。

 行きません。学業を優先します。

治五郎) まあ、記録がね…。

弥彦) えっ?

治五郎) いやいや…。

弥彦) えっ…えっ、記録が、何ですか?

治五郎) いや…確かに、羽田の決勝では、

 君が12秒で、群を抜いておった。

 しかし、世界レコードが…

 あ~10秒5分の4だもんな~。

弥彦) いやいやいや…。

治五郎) 君の優勝に、異議を申し

 立てる抗議文が、少なくなくてね。

 「そもそも、審判員の、三島弥彦には、

 出場権が与えられていない」。ああ…。

 「記録とて、実に怪しい」。「天狗か何か

 知らないが、まぐれじゃないのか?」。

(煙草を加え、ライターの火をつける弥彦)

(火を消し、煙草を握りつぶす弥彦)

(壁にかけられた、オリンピックの

 ポスターを見る弥彦)

 

**********

 

明治45年(1912)2月

オリンピック出発まで3ヵ月

 

四三) 便りの…来んとです。

可児) 何?

四三) 金の無心ばしたばってん…。

 いっちょん返事の来んとです。

可児) (ため息)

四三) 兄も母も、自分が走ることをよく

 思っていません。それでなくとも、1800

 円もの大金出せるわけがありません。

可児) しかしどうする?

 出発まで、3月を切ったぞ。

四三) 学校は、休学します。

 金は…ひとまず借金します。

可児) そんな…そんなにまでして君…

 オリンピックに出たいのかね?

四三) はい。嘉納先生のお言葉ですから。

 厳格な…いや、崇高な…

 いや、偉大な…いや、と…。

可児) と?

四三) と…。

可児) と…?

四三) と…。

可児) あっ、都会的な?

四三) とつけむにゃあ人です!

 その、嘉納先生が行けとおっしゃる。

 断る理由はなかです。

 

**********

 

<校長室>

治五郎) 何を言ってるんだ君は。そんなこと

 言われたって、ないものはないんだよ!

(振動で傾くオリンピックのポスター)

可児) すいません!

3人) ああ…。

治五郎) 辛亥革命の借金もある。積もり

 積もって10万! 今や私は10万の男だぞ!

可児) はい! いや、しかし、一度は出す 

 と言った手前、せめて、旅費の500円だ

 けでも、我が体協が…。

治五郎) 出せるのかね?

可児) あいにく、手元に、現金が…。

治五郎) だったら黙っていなさい!

 

嘉納先生が怒るのは無理はない。

10万といえば、

今の貨幣価値でざっと、数億円。

 

大森) 三島君はどうなりましたか?

安仁子) 赤ゲットの四三だけでは

 ホームシックになりかねない。

 …というのが、ヒョウの意見です。

大森) 引率する監督がいれば別だがね。

(引率する監督がいれば別だがね)

永井) 弥太郎氏が許可せんでしょうな。

 横浜正金銀行は弟の弥彦に任せ、本人は

 近々、日銀総裁に就任するということだ。

大森) 金があるのに、行けない三島に、

 行けるのに金がない金栗か。 

治五郎) 三島君は、行くよ。

 

**********

 

<三島邸・芝生の庭>

弥太郎) どういうことだ?

 分かるように説明しなさい。酒とタバコ

 をピタリとやめたそうじゃないか。

 俺は許さんぞ。断じて三島家…。

(座って、芝生に両手をつく弥彦)

(手の向きを変え、クラウチング

 スタートの姿勢を取る弥彦)

(ゴールテープを用意する女中たち)

(シマが手を叩き、走り出す弥彦) 

(テープを切り、ゴールする弥彦)

弥彦) よし!

弥太郎) 何をしてる?

 弥彦は何をしておるのだ!?

 

**********

 

手紙・実次) 「前略、四三よ。

 あっぱれ。よくやってくれたぞ。

 家中の者も、皆喜んでおる。

 お前は、家門の誉れだ。

 お前が外国に行けるのは、

 千載一遇の好機だ。行ってこい。

 行って、力いっぱい走ってこい。やはり、

 お前は、とつけむにゃあ男ったい」。

(手紙を抱きしめる四三)

可児) 金栗?

四三) あっ…可児さん…。

可児) えっ?

手紙・実次) 「兄ちゃんは、毎日、陰膳を

 据えて、お前の武運長久を祈っておる。

 母さんも、神棚に手を合わせて、健闘ば

 祈っておる。金のこつは案ずるな。必ず

 俺が、なんとかする。お前は何も心配せ

 んでよか。たとえ、田畑を売ってでも、必

 ず、外国へ行かせてやる。お前には、そ

 れだけの価値があるったい」。

四三) な~し可児さんが泣くとですか。

可児) だって…だって…。

 よかったな~金栗。

四三) はい…はい~。

可児) (泣)

四三) はい~!(泣)

(抱き合う二人)

四三) あ~!(泣)

可児) (泣)

 

**********

 

手紙・四三) 「前略。兄上様の、本当の優しさ

 ば存ぜず、ただわからず屋のコチコチだと信

 じ込んでいたこと、どうか、お許し下さい」。

四三) ありがとうございます。

(手紙をポストに入れ、登校する四三)

手紙・四三) 「兄さんの力で育てられ、東京

 高師にまで行かせてもらい、外国にまで行

 かせてもらえる。四三は、幸せ者です」。

 

**********

 

<校長室>

治五郎) 金栗四三君だ。

 紹介するまでもないが、韋駄天だよ。

(ソファーから立ち上がる弥彦)

弥彦) 改めて、三島弥彦だ。よろしく頼むよ。

四三) はい!

治五郎) 韋駄天と、痛快男子の、

 そろい踏みだ。フフフ。

(握手をする四三と弥彦)

弥彦) 座りたまえ。

治五郎) 座らんのだよ、金栗君は。

 ハハハ。さあ、可児君、いいかね?

可児) はい、もちろん。

治五郎) さあ、こちらへ。

(テーブルにエントリーシートを置く可児)

可児) お願いします。

(椅子に座る弥彦)

(四三を椅子に座らせる治五郎)

(署名をする弥彦の姿ににっこりする治五郎)

(神妙な顔で署名する四三)

治五郎) よし。これで君たちは、

 オリンピックの日本代表だ。

(立ち上がる四三と弥彦)

治五郎) 金栗君、三島君。勝てとは言わん。

 精一杯、闘ってきてくれたまえ。

弥彦) はい!

四三) はい!

 

**********

 

志ん生) ハハハ…。あたくしの出番か。

 え~断っておきますが、今日、わたくし、

 あんまり出番がないんです。この間ちょ

 っと頑張り過ぎちゃったんで、調整日に

 なっております。

 

**********

 

<校長室>

可児) ストックホルムへは、陸路で向かいます。

 シベリア鉄道で、2週間かけて、ロシアを横断

 するコースです。

弥彦) 僕ら2人だけですか?

可児) それは…。

治五郎) もちろん、私のほかに、1名ないし、

 2名の同行者は付ける。その上で、2人には、

 英会話のレッスンを受けてもらう。

 安仁子さん、ちょっとこちらへ。

安仁子) はい。

四三) あっ…。

安仁子) 安仁子。

(ためらいながら握手をする四三)

安仁子) (英)私と、楽しく英会話しましょう。

治五郎) 西洋式の礼儀作法、

 食事のマナーも、身につけてもらう。

四三) えっ…飯の食い方まで?

大森) ハハハ…

 洋食は、箸は使わんからね。フフフフ。

弥彦) それなら、我が家に、

 コックも給仕もおります。

 差し支えなければうちでやりませんか?

治五郎) あっ、それは助かる。

 是非、お言葉に甘えて。なあ? 可児君。

可児) えっ? あっ、すいません。

 ちょっと、聞いてませんでした。

弥彦) あとで、地図を描いてあげよう。

四三) あっ、あの~…お世話になります!

弥彦) ヘ~イ! かしこまるな金栗天狗!

 僕と君は、盟友なんだぜ?

(四三の肩を抱く弥彦)

四三) あ~…。

 

え~お茶の間の皆さんは、

彼の暑苦しさに慣れて来た頃でしょうが、

四三君にとっては、これがほぼ、初対面。

 

(相撲を取り出す2人)

治五郎) おいおい…怪我するなよ。

弥彦) や~!

(四三を投げ飛ばす弥彦)

一同) ああ…。

 

**********

 

<寄宿舎>

野口) 金栗さん、オリンピック、自費で

 参加するって本当なんですか?

橋本) 国から金は出ないのですか?

野口) 世界記録ですよ!?

 国を背負って闘うのに、自弁とは。

平田) 一体いくらかかるんですか?

男性) ざっと…1800円とか。

一同) 1800円!?

男性) 心配せんでよか。国の兄さんが、

 ちゃんと、援助ばしてくれるらしか。

美川) それはいかにも眉唾物ですね~。

野口) 美川さん。

美川) とにかく、厳しい…。

 鬼のような倹約家で、石頭の頑固者。

 そのくせ、野心の塊で、誇大妄想狂。

 とても、快く金を出すような種類の

 人間じゃあ、ありません。

 びた一文、出さんでしょうな~。

 

**********

 

<春野家>

実次) 出すて、言うてしもうたとです。

 ご承知のとおり、うちは、酒蔵も潰してし

 もうて、先立つもんも、なか。ばってん、

 何としても、行かしてやりたか。

 金ば工面してやりたかとですたい!

キヨメ) また見栄ば張りおって!

実次) 世界記録、出したとよばい四三は!

 こぎゃん名誉なことは、なかととばい!

春野) まあまあまあまあ、実次さん、

 いや、俺も力になりたかばってん、

 そぎゃん大金は…なあ。

スマ) こうなったら、田んぼば、

 手放すしかなかね。

キヨメ) 田んぼ…。

実次) 田んぼは、最後の手段ばい!

 これ…春野先生、こん、魔よけば刀、

 買うて下さい!

春野) 「魔よけ」て、ばってんそれ、

 効き目なかったもんね。お亡くなり

 になったでしょう、お父さん。

スヤ) お父さん、

 池部さんはどぎゃんやろか?

実次) えっ…池部さんってあの…

 玉名の、庄屋さんですか?

春野) いや…スヤ、よかね?

 

**********

 

<三島邸の庭>

(羽を広げるクジャク)

四三) ばば~っ!

(仕込み杖を構える和歌子)

四三) ば~…。

(逃げる四三)

(なぎなたで四三を囲む女中たち)

四三) あっ、ああ…いや、あの…。

 いや…違う違う…。

弥彦) お~い、金栗く~ん!

四三) あ~!

弥彦) 玄関は遠いから、庭から入りたまえ。

四三) すいまっせん!

(和歌子に向き直り)すいません…。

和歌子) ご無礼をば。

 

**********

 

<三島家・客間>

(一同に背をむけ、離れて座っている和歌子)

可児) お母様は了承しておられるの

 だよね? オリンピックの件。僕から

 正式に、ご挨拶した方がいいのかな?

弥彦) ピアノでも弾きましょうか?

可児) えっ? いやいやそんな…。

 えっ、君が? ピアノ…どこに?

弥彦) 金栗君、君趣味は何かね。

四三) しゅ…しゅ…しゅみ?

弥彦) 僕は、最近、

 キャメラに熱中していてね。

可児) ピアノじゃないのか。

(ピアノを弾き始める弥彦)

弥彦) 自分で現像もするんだ。

 食事を終えたら見せてあげよう。

弥太郎) 母上、おいででしたか。

可児) ご無沙汰しております!

 大日本体育協会の可児です。

弥太郎) シマ、紅茶を5つ、

 テラスに頼む。大至急。

シマ) はい。

(出て行く弥太郎)

可児) ハハハ…透明人間になった気分だ。

弥彦) そろそろ始めましょうか。

 金栗君おなかすいただろ。

四三) 趣味は、走ることです。

(安仁子と可児の笑い声)

四三) すんまっせん。ばってん、

 走る以外、何も楽しみはなかです。

和歌子) 熊本人じゃ。

弥彦) 母はね、薩摩人なんだよ。

四三) うわ~そぎゃんですか!

 いや、うちは、田原坂の近くで、

 西南戦争の話ば父からよう聞かされ…。

和歌子) 意味んなか話、まだ続けやっとな。

可児) いやいや…ハハハ…。

安仁子) ハハハハ!

四三) 便…。いや…厠へ。

 

**********

 

<厠・手洗い場>

(立てかけてあるサーベルに気付く四三)

四三) あっ…。あの~これですか?

(戻ってきた軍服の男性に差し出す四三)

男性) 失敬。

四三) えっ乃木さん?

 

そうです。日露戦争における悲劇の将軍、

乃木希典大将がたまたま居合わせる、

当時の三島家は、政財界の要人たちが

集う、サロンだったのです。

 

**********

 

<客間>

(四三の前に置かれたコンソメスープ)

四三) 頂きます。

可児) お母様も、立ち会われるのかね?

安仁子) フォーティースリー。ポッポ~。

可児) フォーティー…何?

安仁子) スプーンは、手前から向こう。

四三) 手前から…。すんまっせん。

(コンソメスープの皿を持ち上げて飲む四三)

(スープをすする音)

安仁子) オ~!(英語)

 

**********

 

(鮭のムニエルが出される)

四三) 頂きます。

安仁子) ノー! ノーノーノー。フォーティー

 スリー。ナイフの、持ち方は、こう!

可児) あっ、「四三」。

 つまり、43という意味ですな。安仁子…。

安仁子) ああっ! Mr.Crab(カニ)!

 ナイフで人を指さない。

可児) あっ、すいません。

 

**********

 

(次は、ローストビーフ)

四三) 頂きます。

和歌子) そん、「頂きます」は、

 毎度毎度言いやっとな?

安仁子) フォーティースリー、

 英語で、「頂きます」は、何ですか?

四三) あ…え~っと…何でしたっけ?

安仁子) そんな言葉ありません。その

 テーブルで、一番目上の人が手をつけ

 たら、食べ始める。それがマナーです。

四三) すんまっせん。

(泣きそうな顔であちこちに頭を下げる四三)

 

**********

 

(素足にすり減った下駄を履き外に出る四三)

シマ) 金栗さん…金栗さん。あの…これ

 私たちが食べるものですけど、よかった

 ら、寮に帰ったら召し上がって下さい。

(四三に包みを差し出すシマ)

シマ) あっ、ごめんなさい。ほとんど

 お口にされてなかったので…。

四三) すいまっせん。

シマ) あっ、いや、私じゃなくて、

 弥彦坊ちゃまが。

(屋敷に向き直り、頭を下げる四三)

四三) すいまっせん。何もかんも違うな~。

 ピアノ、写真機…乃木大将…。こぎゃん

 裕福なうちの子じゃなきゃ、出られんと

 ですな、オリンピックは。

シマ) 私はうれしかったです。

四三) えっ?

シマ) 頂きますって言ってもらえて、うれ

 しかったです。あっ…ここは日本だし、

 日本人だし、言っていいと思います。

(竹の皮の包みの中に、白米の握り飯)

四三) 頂きます。

(頭を下げ、去って行く四三)

シマ) 10里も走るって、どんな気持ちですか?

四三) えっ?

シマ) 疲れるだけなら、走らないと思うんで

 す。疲れた先に、何か、10里走った人にし

 か分からない喜びっていうか、ご褒美みた

 いなものがあるんじゃないかなって。

四三) いっちょん分からんです。

シマ) えっ?

四三) 分からんけん、走っとっとです。

 失礼します。

 

**********

 

<校長室>

永井) まだ、反対しとるのかね?

可児) ええ。仏頂面でにらまれて、

 マナーどころじゃないですよ。

 で、また、安仁子が…。容赦ないんだ。

永井) 出た、安仁子。大体何なんだ

 あの出しゃばりな女は。

可児) もともと大森氏はアメリカ滞在中、

 安仁子のハウスボーイだったとかで。

永井) その、ハウスボーイってのは?

可児) 小僧ですな。

永井) そりゃあ尻に敷かれるわ。

可児・永井) (笑)

永井) ところで、ミスタークラブは、

 なぜくっついていったのかな?

可児) あ~いや、校長に、

 行けって言われたんです。

永井) やはり可児君が選ばれたのか。

可児) いえいえ、いやいや。もう、金栗君

 一人じゃ劣等感で縮み上がっちゃうだろ

 うから、君がアメとムチのアメをやれと。

永井) そりゃ、私には務まらん。

 私じゃ、ムチと肋木だ。

可児) ハハハ…いえいえ、

 いや永井さん思い出して下さい。

 校長は、1人ないし2人の同行者を

 考えてるとおっしゃいましたよ。

永井) いやいや…。

(せきこみ)

可児) 永井さん…永井さん永井さん。

永井) 誰だ…あっ!

(衝立の奥に、大森と安仁子)

可児) あっ…。

大森) アイム ソーリー。

永井) か…可児君、可児君…。

安仁子) 何も聞こえなかった。

(永井と可児をにらむ安仁子) 

大森) (せき)

 

**********

 

オリンピック出発まで1ヵ月

 

兄の実次からは何の音沙汰もないまま、

2ヵ月が過ぎていった。

 

美川) これ、届いたのいつ?

四三) う~ん…一月…いや、二月近く前?

美川) はあ…金栗氏、

 催促した方が、よくないかい?

四三) そぎゃん厚かましかこつできんばい。

 そんに、ほら、手紙には、「たとえ、田んぼ

 ば売ってでも」…。

美川) 売るわけないだろう! 

 田んぼは、命の源!

四三) 兄上に、負担ばかけとうなかけん。

 ほら、こぎゃんして、本やら家具やら

 売ろうと思うとるばい。

美川) はあ~…そこまでして君は、

 オリンピックに…。

四三) ばってん、ほかに、売れるもんは…。

美川) これでしょ。

四三) 地球儀か~。

美川) いや、これだよこれ(優勝カップ)。

 どう見てもこれが一番高く売れる…。

四三) これは売れん!

  売っては、いかん気のする。

美川) (ため息)そもそも金栗氏、体協が

 支弁するという話だったのに、いつ、

 なぜ、自腹を切ることになったのかね?

四三) 校長先生の、ご提案たい。

 

(回想)

治五郎) 君が、君の金で、ストックホルム

 に行って、思う存分走るのであれば、

 勝とうが負けようが、君の勝手。

 

美川) そぎゃん話があるかね!

四三) 分かっと~。

美川) だまされてるよ。まんまと

 口車に乗せられてるよ、金栗氏。

 校長に、直談判すべきだ。

 

**********

 

(校長室の前に立つ四三)

四三) 失礼…。

 

**********

 

<校長室>

治五郎) 私を誰だと思っとる!?

 10万の男だぞ、私は! 100人近い

 留学生の学費を、肩代わりしたん

 だよ? 払えるのか君に。100円

 200円の利息でガタガタ騒ぐな!

可児) あの…誤解をなされると困るので

 言っておきますが、10万持ってる男のこ

 とを10万の男と言うのであって、先生の

 10万は借金です。

治五郎) 何?

可児) いえいえ、その…額が大きくなると、

 感覚がまひするもので、いや無論、校長

 ほどの器がなければ、10万の借金は、

 やろうと思っても…。

治五郎) 返さんとは言うとらん。

 返さんとは言うとらんぞ!

可児) すいません! ああっ!

(部屋から出てきた可児に驚く四三)

四三) ああっ、ばばば…!

治五郎) おう、韋駄天。

四三) あっ…。

治五郎) 入りたまえ。

四三) 失礼します。

治五郎) ハハハ…英会話と、マナー講座で、

 だいぶ搾られてるそうだな。ハハハ…。で、

 何だね? 今日は。

四三) あっ、その…私はその…。

 本当に、オリンピックに行くとでしょうか?

治五郎) 行くよ。行かんでどうする?

 ハハハハ。

四三) は…はい。ばってん…。

治五郎) 可児君! ここを片付けておいて。

可児) はい。

治五郎) ちょっと、つきあいたまえ。

四三) はい。

 

**********

 

<浅草・通り>

治五郎) 私が海を渡って、欧米視察へ

 行ったのは29の年だ。その際、はなむ

 けにと、ある人が、これ(フロックコート)

 を譲ってくれた。誰だと思う?

(内ポケットの刺繍を見せる治五郎)

治五郎) 勝、海舟だよ。

四三) ばばばっ!

治五郎) ハハハハハ…。

 

言わずと知れた幕末の大スター、勝海舟。

あっ、「大河」っぽいのでもう一回言います。

勝海舟! 嘉納治五郎に多大なる影響を

与えた、いわば、ライトマンの親玉。

講道館の看板も、勝海舟によるものです。

 

**********

 

志ん生) 「ヨーロッパへ行くそうだね、嘉納君」。

 

治五郎) 「そうなんです、勝先生。

 何かアドバイスを」。

 

志ん生) 「うん。欧米ではね、

 家の中で靴を脱いじゃいけないよ」。

 

四三) えっ!?

 

志ん生) 「えっ!? 欧米では、

 土足なんですか?」。「そうだよ」。

 

治五郎) はだしは、マナー違反だよ。

 

志ん生) 「じゃあマラソンのアベベ

 なんてのは、はだしになって外走

 って、とんでもねえマナー違反だ」。

 

治五郎) 以来、験を担いで、ここ一番の

 勝負には必ず、これを着ることにしてい

 る。フランス大使館に出向いて、オリン

 ピック出場を決めたのも、この服だ。

四三) 質に入れるとですか?

治五郎) 勝負の時にしか着んからね。

 何しろ、勝海舟の刺繍入りだ。

 値打ちが下がらん。

(質屋の主人が出した金と、

 持ち合わせの金をまとめる治五郎)

治五郎) これを持って、三越へ行きたまえ。

 ここに書いてあるとおりに言えば、

 仕立ててくれる。これは、体協からでは

 なく、私個人からの、はなむけだ。

四三) 校長…。校長…ありがとうございます。

 ありがとうございます!

治五郎) うん。さあ、早く行け。

四三) はい!

 

…と、その足で、

日本橋は、三越呉服店へ行きました。

まさに、その足で行きました。

 

**********

 

2週間後、立派なフロックコートと、

背広が届きました。

 

<三島邸・庭>

(カメラの前に四三)

弥彦) はい。

(写真を撮る音)

 

**********

 

<校長室>

可児) えっ? 決まってる?

治五郎) そうかまだ言ってなかったか。

 同行者は2名。

 そう決まってIOCにも伝えてある。

可児) 2名?

治五郎) すまんが、よろしく頼むよ。

可児) はい! 

 その…もう一人は、永井さんですか?

治五郎) ハハハ、永井君は行かんよ。

可児) えっ?

治五郎) 彼がいないと、学校も体協も、回らん。

可児) えっ…では誰が?

治五郎) 安仁子夫人だよ。

可児) えっ!?

治五郎) 通訳も必要だし、身の回り

 の世話も、女性の方が、こまやかな

 気遣いができると思ってね。

可児) ほう…。

(ノック)

治五郎) 入りたまえ。あっ、ちょっと

 待ってて。すぐ行くから。安仁子さん。

 (英)いつも、お綺麗ですね。

安仁子) サンキュー。(英)あなた、

 気をつけて。彼に盗られちゃうわよ。

(笑い声) 

安仁子) ヒョウ!

可児) あ~そうですか。

 いや~予想だにしませんでした。

 いや…安仁子さんと私が、ハハハハ。

治五郎) なぜ君が、安仁子夫人と行くんだね?

可児) えっ?

治五郎) 監督は大森君。

 つまり、大森夫妻に行ってもらう。

可児) えっ? では、可児は何を

 よろしく頼まれたのでしょう?

治五郎) 留守番をよろしくという意味だよ。

可児) あ~2人って…ああ!

(ドアが開く音)

永井) どうも。

治五郎) 永井君にも、伝えておいて。

可児) あっ、はい。

 立派に、務めさせて頂きます。

治五郎) うん。

永井) 何か、あったのかね?

 奮発しちゃったよ~。シベリア鉄道で、

 途中下車するかもしれないからね。

(新品の外套を着て回ってみせる永井)

永井) カンフォタブル。

 

**********

 

<三島家・暗室>

(現像した四三の写真)

弥彦) う~ん、様になってるじゃないか。

四三) 様になってもしょんなかです。

 形ば~っかり出来上がってくばってん、

 実感のなかです。

 本当に、行くとだろか?オリンピック。

弥彦) ご家族は喜んでるそうだね。

四三) そっがまた…つらかです。

 いらん苦労ば~っかりかけてしもうて。

 母上は、氏神様にお祈りばしよるて。

 兄上は、田畑売っても、金ば送るて

 言うてくれました。

弥彦) 羨ましいな。

四三) そぎゃんですか?

弥彦) うん。シマ、後を頼む。

シマ) はい。

(暗室から出る弥彦と四三)

 

**********

 

弥彦) 祝福されて、激励されて走る方が、

 心強いだろう。うちは駄目だね~。話が

 通じない。「三島家の名を汚すつもいじ

 ゃったら、親子の縁をば切りもす」とさ。

 母は、兄にしか関心がない。兄は金に

 しか関心がない。

四三) ばってん…我が子に関心のなか

 親が、おるとでしょうかね?

弥彦) 期待に応えんでいいから、

 気楽だがね。これ、里に送りたまえ。

四三) はい。

(写真を受け取る四三)

 

**********

 

(暗室に入る弥彦)

弥彦) お~よく取れてるな~。

シマ) 本当ですね。

(現像した和歌子の写真を見る2人)

弥彦) ハハハ…。

(そっと弥彦を見るシマ)

 

**********

 

<寄宿舎>

(ナイフとフォークでぎこちなく握り飯を

 食べる四三とそれを見守る学生たち)

 

**********

 

(日本橋ですれ違う四三と孝蔵)

孝蔵) 「おいお前さん、

 何だってそんなに走るんだい?」。

 火事なんだよ、火事」。

 

**********

 

<播磨屋>

四三) な~して擦り切れっとですかね?

辛作) 走るからだよ。外走るもんじゃ

 ないからね、足袋は。

四三) な~して走っとですかね?

辛作) 知らねえよ。

四三) 清さんは、なして走っとですか?

清さん) フフッ、それはおめえ…

 金になるからだよ! ハッハッハッハッ!

四三) はあ…そん…そん金のなかけん…

 走られんとですよ、俺は。

清さん) 俥屋は走ると、金になる。

 マラソンは、走るのに、金がかかる、か。

 

**********

 

(寄宿舎に戻り、優勝カップを見つめる四三)

四三) 嘉納先生…すいまっせん!

 

**********

 

(路地のほこらに向かい手を合わせる四三)

 

**********

 

<電車道>

徳三宝) 募金を、よろしくお願いします!

 ありがとうございます。

 募金をお願いします。募金をお願いします。

 

**********

 

(ほこらの前で優勝カップを抱きしめる四三)

(乗客を降ろし、発車する電車のベル)

四三) あっ、しもた。

徳三宝) 募金を!

四三) 失敬。あ~ちょっ…。

(乗りおくれ、電車を見送る四三)

実次) あ~! 韋駄天のお出ましたい!

四三) 兄上! なして!?

 なして東京におっとね!?

実次) 金、1800円、持ってきたばい!

 アハハハハ!

四三) 兄上?

実次) たまがったか~韋駄天!ハハハハ!

四三) 何…?

実次) 何も言うなお前は~!(泣)

(泣きながら四三を抱きしめる実次)

四三) あ~!

 

**********

 

「おかしな二人」があちこちに。今回も隅から

隅まで面白くって切なくて…笑って…泣けた。

 

金があるのに、行けない三島に、

行けるのに金がない金栗。 

 

俥屋は走ると、金になる。

マラソンは、走るのに、金がかかる。

 

金はあっても愛がない三島家と

愛はあっても金がない金栗家。

 

何もかも正反対な弥彦と四三。恵まれていて

も恵まれていなくても、誰にでも足りないもの

はある。持てる者、持たざる者。切ないね…。



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