プロフェッショナル 仕事の流儀「生きづらい、あなたへ」~脚本家・坂元裕二~(前半) | 日々のダダ漏れ

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プロフェッショナル 仕事の流儀
「生きづらい、あなたへ」
~脚本家・坂元裕二~(前半)


この男、脚本家。
生み出すセリフは、鋭く、生々しい。
 
描くのは、
犯罪加害者の家族や、育児放棄など、
連続ドラマでは希有な、難しいテーマ。
 
逆境で生きる人間の、切なさや、
たくましさを深く掘り下げ、
日本中を魅了してきた。
 
大の人見知り。
これまでテレビ出演は一切断り、
その素顔は謎に包まれてきた。
 
Q.なぜ受けてくれたんですか。
 
坂元) 自分の中では、ちょっと前まで絶対あり
 得なかったんですけど。なんか自分の、嫌な
 ことをしてみたいのかなと、思ったのかもしれ
 ないです。
 
坂元裕二、51歳。日本を代表する脚本家。
 
高橋一生) 坂元さんの脚本力と、その世界観
 って、なんだかとても繊細で、それでもすごく
 勇気があって。全部が全部、素晴らしいっす
 ね世界ってっていう風になっちゃうんですよね。
 
若干23歳で、
ドラマ「東京ラブストーリー」の脚本を執筆。
一躍脚光を浴びたが、作品を愛せなかった。
 
坂元) 俺が書きたいのは、こういうものじゃな
 いんだっていう気持ちがずっと常にあって。
 
3月、坂元は突然、
テレビドラマの脚本作りに、ピリオドを打った。
その陰で、始まっていた、苦闘。
 
坂元) 本当に違うところに行きたいですね。
 でも、「ちょっと俺は違うところへ行きたいんだ」
 とか、かっこいいこと言っている人って、なんか
 見えてない人だと思うだよね。今俺たぶん見え
 てないの。だからなんか、「何か…」とか、「探し
 てる」とか、「別の場所へ…」とか。ひと昔前の
 J-POPみたいなことを、口にしてしまっている。
 恥ずかしい。そんなの一番だめだと思っていた
 のに。
 
孤高の脚本家、思索の記録。
 
Q.天才派、努力派、といったら?
 
坂元) あがき派ですよね。忍耐派ですよ。

**********
 
撮影初日(5月11日)。
 
妻と子どもと3人暮らしの坂元だが、
365日、この仕事場に来ては、1日を過ごす。
 
ディレクターが1人で来ることを条件に、
密着取材が許された。
 
この2か月前、坂元は、テレビドラマ
の執筆を休止すると発表していた。
環境を変え、経験したことのない
舞台の脚本に挑むという。
 
だが…。
 
この2か月、ずっと物語の種を探していた。
 
坂元) もう2002年とか2003年から(連続ドラマ
 を)ずっと書いているから、書いてないシーン
 とか書いてないセリフないんじゃないかと思う
 くらい、思ってきちゃって。もう何書いてもこれ
 書いたなって思っちゃうんですよね。底打っち
 ゃたんじゃないかって不安があるから、それ
 一番つらいですよね。書いたことあるなあっ
 て思うものをもう1回書くっていうのはさ。テレ
 ビじゃない、自分にとって、違う容器のところ
 に行けば、何か、生まれるんじゃないかって。
 
**********
 
ようやくこの日、坂元がパソコンに向かった。
舞台の脚本は、連続ドラマと比べ、
役者の人数や場面転換が限られるなど、
表現の制約が多い。
 
まず、登場人物の人となりを考え始めた。
 
坂元) 始める時にどういう人なのか決めて書
 くわけじゃないから、この人どういう人なんだ
 ろうなあってことを、書きながら、考えるんで
 すよね。
 
生い立ちや性格だけでない。その人物が、
家族のどういうしぐさを好きだったか。
恋人とどうつきあってきたか。
脚本には反映されないような関係性まで、
緻密に描き込んでいく。
 
Q.重要な作業?
 
坂元) もうほぼこれでできているんですよね。
 ドラマは大体僕がやる時は。人間ってこう、
 明るい人なのかとか、暗い人なのかとか、
 性格とかそういうことでできてるんじゃなくて、
 関係性みたいな。やっぱり、人は、誰かとの
 関係の中にあるものだと思うし。特にドラマ
 っていうのは人と人の関係を描くもんだから。
 
**********
 
書き始めてから、1週間。
主人公の人物像が、
浮かび上がってきた。
 
25歳の、近杉大伸(ちかすぎひろのぶ)。
自分の意思とは裏腹に、
衝動を抑えられず、
やってはいけないことをしてしまう。
普通でないことに戸惑い、
生きることに苦しんでいる。
 
坂元が物語を生み出す時、
大切にしていることがある。
 
代表作の一つ、
「Mother」で描いたのは、
育児に行き詰まり、
娘を虐待してしまう母親。
 
「それでも、生きてゆく」では、
後ろ指を指されて生きる、
犯罪者の家族を主人公にした。
 
「カルテット」で描いたのも、
いい年して夢を諦められずにいる、
二流の音楽家たちだった。
 
**********
 
高橋一生) 俗に言う、「落ちこぼれている」
 とか、「ちゃんとした職に就いていない」と
 か、「あの人性格がアレだよね」って言わ
 れてしまう、その人たちすらもたぶん、包
 んでいこうとする、坂元さんの世界ってあ
 るんですよね。決して否定しなくて。その
 人たちはその人たちでしょうがないの、っ
 ていうのを描いてしまうので。でもそういう
 何かこう、生きることを肯定していくみたい
 な、力は、坂元さんの脚本には、とてもあ
 るような気がして。
 
満島ひかり) なんかどっかみんな、かわい
 らしくて、さみしくてみたいな。何か、つた
 なさとかもあって。すごく、ちゃんと優しく、
 いろんな人たちの痛みとか悲しみに、寄り
 添っている言葉がいっぱいあるので、一
 生懸命コツコツ生きている人が好きなん
 でしょうね。そういうセリフですよね、全部。
 
**********
 
坂元) すごく簡単に言うと、多数派か
 少数派かっていったら少数派の為に
 書きたい。それが一番大きいですね、
 僕は。少ししかいない。こんなふうに
 思う人は少ししかいないっていう人の
 為に書きたい。ああ私だけが思って
 いたんじゃなかったんだって。10元気
 な人が100元気になる為の作品は多
 分たくさんあるけど。やっぱりね、僕
 は、マイナスにいる人が、せめてゼロ
 になる。マイナス5がマイナス3ぐらい
 になるとか、そこを目指しているから。

**********
 
坂元はこの日、
東京の郊外へ向かっていた。
 
舞台の設定を、
小さなガソリンスタンドにするという。
 
思いがけないことを、語り出した。
 
坂元) 自分の子どもの頃を思い出します。
 車の工場だったから。車の部品を作る。
 同じ匂いがしてね、やっぱり、こう。
 
Q.じゃ、ゆかりのない話じゃないというか。
 
坂元) いや、全部ねらいで。
 
実は今回、これまで一度も書いてこなかった、
自分の家族をモチーフにするという。
 
坂元は、自動車の整備工場を営む両親
のもと、3人兄弟の長男として育った。
中でも、年の離れた弟に対し、長年抱え
込んできた複雑な思いがあるという。
 
坂元) ずっと、
 優しくないお兄ちゃんだったからね。
 弟が追いかけてきているのが分かって
 いるのに、僕はもう、遊びに行って、道路
 渡ったら弟が「お兄ちゃーん」って追いか
 けてきて、車走ってきてバーンって飛んだ
 んですよ、うちの弟が。その時の、光景は
 ね、今でも忘れられないですね。弟とそれ
 で、なんか、もう1回やり直したいなあと思
 って弟とスキー行ったりしても、なんかうま
 く話せなかったりして。
 
踏み込むことを避けてきた、家族の記憶。
向き合うことで、新たな境地を開こうとしていた。
 
**********
 
~プロフェッショナルのこだわり~
 
坂元さんの脚本の特徴。それは、
長い時は10分以上に及ぶ会話劇だ。
 
例えば、「カルテット」でのワンシーン。
 
から揚げをめぐるやり取りだけで、
登場人物4人の個性や感情が、
自然と浮き上がってくる。

いかにして、直接的な表現を用いずに、
人物の個性や感情を伝えるか。


坂元) こう紙に、「スキです」って、書いても、
 スキですっていうのは伝わらないんですよね。


坂元さんは、何気ない会話や、ささいな
しぐさなど、日常を徹底的に書き込む。


坂元) ここを書くんですよね。ここを。周りを、
 どんどんどんどん塗りつぶしていって、これ
 が脚本を書くっていう作業で。「私、この人
 のこと好き、目キラキラ」みたいなのは、や
 っぱりそこには、本当はない気がするんで
 すよね。バスの帰りで雑談をして、バスの
 車中で、「今日は風が強いね」とか、「前の
 おじさん寝てるね~」とか、「うとうとしてる
 ね~」とかそんな話をしながら、「じゃあね」
 って帰って行って、家に着いて。1人で、テ
 レビでも見ようかなって思ったけどテレビ
 を消して。こうやって、紙を、折りたたんで
 いるときに、「ああ、私あの人のこと好きな
 のかもな」って気が付くのであって。小さい
 積み重ねで、人間っていうのは描かれる
 ものだから。僕にとっては大きな物語より
 も、小さい仕草で描かれている、人物を、
 テレビで見る方が、とても刺激的だなって、
 思うんですよね。
 
**********
 
~物語は、日常の細部に宿る~
 
だからこそ、
坂元さんが大切にしていること。
どんなに忙しくても、
毎朝5時に台所に立ち、
娘の弁当を作る。
 
妻と交代で、12年間、
一日も休まず、続けてきた。
 
日常へと立ち返る時間が、
感情を揺さぶる物語を、
生み出している。
 
**********
 
坂元は、プロットと呼ばれる、物語の
骨組みを作る作業に取りかかっていた。
 
自分の意思とは裏腹に、やってはいけない事
をしてしまう主人公の近杉は、小さなガソリン
スタンドを経営している。そこに、異母兄弟で
教師の兄が、訪ねてくる事から物語は始まる。
 
兄は、ふとした事から、ガソリンスタンドの地下
に埋められた、父の死体を見つけてしまう。
その死に、疑問を抱く兄に対し、近杉が理由を
明かす場面。坂元は、書けずにいた。
 
坂元) 物語が、転換する地点ってのがある
 んですよね。あっと驚く展開にしたいけど、
 思い浮かばなくて。
 
なぜ、父親は死んだのか。
坂元は、衝動に逆らう事のできない弟が、
父親を殺してしまったと考えた。
だが、殺そうとしたものの、
実は殺していないというほうが、
意外性があり、興味をかきたてる。
 
何度も、消しては書き直す。
 
Q.父親を殺したか
 殺してないかっていうところは。
 
坂元) 悩みどころなんですよね、確かに。
 父の死体が見つかるっていうところから始
 まる、お話だから。実は生きてましたとか、
 全然関係ない人が、やったことですとかっ
 ていうのは、うそだから。
 
Q.フィクションなのにうそをつかないって
 いうのはどういうことなんですか?
 
坂元) お話の都合、作者の都合で、お話を
 作ってしまう。僕の話じゃないじゃないです
 か。この人たちの話だから。どんな面白い
 ストーリーより、本当にその人たちが生き
 ているように見えることが、僕は一番、好
 きだし。自分でもそういうの作りたいから。
 
いつも難しいテーマを扱い、
社会派と言われることも多い坂元。
だが、脚本を書くとき、テーマや劇的な
展開ありきで物語を作ることは、ないという。
 
坂元) 自分が書きたい人物像を描いている
 うちに、これはこういう部分で社会とつなが
 ってたんだって気付くというか。社会ありき
 で、人物を書くんじゃなくて、この人は何を
 葛藤しているんだろうっていうことを考えて
 いるうちに、社会とか、世の中と、つながっ
 てきて。人が、人のことをいろいろと広げて
 いくと、やっぱりどうしても、社会が、そこで
 待ってるっていうか。
 
丸一日考え、
坂元は、主人公の近杉が、
父親を殺したと、書いた。
 
 
(後半に続く)
 
**********

坂元裕二脚本のドラマで、トレンディドラマ時代
の作品で印象に残っているのは、やっぱりあの
「東京ラブストーリー」と「二十歳の約束」ぐらい。
それよりも、ここ数年の社会派ドラマ、「Mother」
「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」「Woman」
「問題のあるレストラン」「いつかこの恋を思い出
してきっと泣いてしまう」「カルテット」「anone」と
いった作品の方が印象深い。個人的には、「最
高の離婚」、そして、「カルテット」が本当に好き。
 
なので今回の「プロフェッショナル 仕事の流儀」
出演はとても興味深かった。最初は気になった
ところだけ抜き書きしようと思っていたのだけれ
ど、途中で、もう少し、もっとと思っているうちに、
結局、ほとんどの台詞を書きたくなってしまい…
前半、後半と、書き起こすことになってしまった。
 
いや、でも、脚本家をめざす人はもちろん、物語
を生み出そうとしている人にとって、とても参考
になる話だったと思う。もちろん、いろんなタイプ
の脚本家さんがいると思うけれど…私は、坂元
さんのような考え方で物語を作る人が、ドラマが
嫌いじゃないというか、好きなんだなあと思った。
 
人間ってこう、明るい人なのかとか、暗い人
なのかとか、性格とかそういうことでできて
るんじゃなくて、関係性みたいな。やっぱり、
人は、誰かとの関係の中にあるものだと思
うし。特にドラマっていうのは人と人の関係
を描くもんだから。
 
そうそうそう! ドラマはそういうところが見たい。
この人はどう思うのか、そしたら、あの人はどう
思うのか、動くのか、関係性が見たいんだよね。
 
いかにして、直接的な表現を用いずに、
人物の個性や感情を伝えるか。
 
行動や、そのリアクションでその人なりが見えて
くる。そこが面白い。そういうのが見たいのよね。
台詞は重要だけれど、そこから生まれる関係性
が描かれてこそ、ドラマは面白くなるんだと思う。
(…というわけで、感想も、後半に続きます)
 
(後半の記事はこちら↓)
 
 
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