プロフェッショナル 仕事の流儀「生きづらい、あなたへ」~脚本家・坂元裕二~(後半) | 日々のダダ漏れ

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プロフェッショナル 仕事の流儀
「生きづらい、あなたへ」
~脚本家・坂元裕二~(後半)

 
 
 
この日、坂元さんは、奈良の実家を訪ねた。
母の清美さんが見せてくれたのは、
坂元さんが小学生の頃に書いた、ノート。
 
坂元) ドカベンがね、好きだった。ドカベンの
 登場人物の名前をいっぱい書いているの、
 俺。頭悪い。セリフ書いてるよ、俺。うわっ。
 
物語を空想し、
それを書くのが大好きな子どもだったという。
 
坂元) 「ユニークな日記だ。なんとなく話して
 いる二人のことばが文章になっています」
 ハハハハ。褒められてるよ、セリフを。
 
脚本を通し、生きづらさを抱える人たち
の背中を押したい、という坂元さん。
だが、若き日の作風は、
今とは全く違うものだった。
 
**********
 
坂元さんは高校卒業後、
フリーターをしながら、
脚本家を目指していた。
 
19歳の時、応募したテレビ局の
シナリオコンクールで、大賞を受賞。
すぐに上京し、
テレビ局のアシスタントをしながら、
脚本の腕をみがいた。
 
そして23歳で、あの大ヒット作、
「東京ラブストーリー」を、世に送り出す。
「放送日にはOLが街から消える」、
と言われ、最高視聴率、
32%の記録を打ちたてた。
 
一躍、テレビドラマ界の寵児となった
坂元さんには、ラブストーリーを
書いてほしいという依頼が殺到。
トレンディドラマの名手と、
言われるようになった。
 
だが、その声に一番戸惑っていたのは、
坂元さんだった。
 
坂元) こうやればウケるんだからそれで、
 数字さえ取ればそれでいいんだよみた
 いな。そういうことに対してはね、僕は、
 やっぱりすごく、強い嫌悪感があったか
 ら、漠然と、俺が書きたいのは、僕が作
 りたいのは、こういうものじゃないんだっ
 ていう気持ちがずっと常にあって。本当
 に、逃げ出すことをすごく考えていたし。
 
自分は、何がしたくて、
この仕事をしているのか。
27歳の時、
坂元さんは、テレビ業界を去る。
 
違う経験を積みたいと、
企画を売り込み、映画監督に挑んだ。
愛と死をめぐる、難解な物語を書いたが、
評価は厳しく、失敗に終わった。
ならばと、32歳の時に、自宅に籠もり、
小説を書き始めた。
だが、3年間書き続けたものの、
物語を完成させることすら、できなかった。
 
生活のため、
再びテレビの現場に戻った坂元さん。
原作がある作品の脚本や、
海外でヒットしたドラマのリメイクを、
請け負った。
書きたいものが見えないまま、
8年の歳月が過ぎていった。
 
転機が訪れたのは、35歳の時、
娘が誕生した。共働きの妻は、
仕事で家を空けざるをえず、
一人で娘の面倒を見る時間が長かった。
自宅で執筆をしながらの子育ては、
想像以上に大変だった。
 
坂元) 怒鳴ってしまったこともあるし、
 手は出さなかったけど、さすがに。
 頼むから黙っていてほしいという
 ときも、あるんですよね。
 
だがその中で、坂元さんは、
あることに気付いていく。
 
坂元) 子ども生まれるまでは、やっぱり、
 自分は、作家だと。だから、遊ぶことが
 大事なんだとか、友達とお酒を飲んで、
 刺激を受けたり、それが作家としての
 生き方なんだって思っていたんだけど。
 自分は生活しているんだっていうこと
 がね。やっぱり、実感したし。日常って
 いうのは絶対追いかけてくるし。それ
 を捨てちゃいけないんだなっていう。
 こっちのほうがよっぽど、大事なこと
 だっていうことが分かったんですよね。
 
そして43歳。
坂元さんは、子育ての経験をもとに、
一本のオリジナルドラマを書き上げた。
 
「mother」。
育児放棄された女の子と、その子を救う
ため、誘拐犯になることを決意する女性
教師の、心の軌跡を描いた作品。
 
放送が始まると、思わぬ声が届いた。
 
坂元) 女の子が、虐待を受けているお話
 なんですけど。その母親に対して、罵倒
 の言葉が、たくさんあったんですよね。
 見ていた人の中から。でも、自分は違う
 なと思ったんですよね。その母親もちろ
 ん虐待という事実は、当然否定すべき
 ことだけど、何も知らずに簡単に、あの
 女性を、否定することはできない。やっ
 ぱり自分も、子育てする中で、もう耐え
 られなくて、大きな声をあげてしまった
 こともあるし。逃げ出したくなったことも
 ある。結果だけ見て、手を出したひどい
 女だ、ひどい母親だって、断罪すること
 は僕にはできなかった。
 
坂元さんは、完成していた第8話の
ストーリーを白紙にし、育児放棄をし
た脇役の母親の人生を書くと決めた。
 
娘を愛していた母親が、
なぜ、虐待に至ってしまったのか。
 
いっときでも、
子育てから解放されたいという母親
の思いや、逃れられない現実。
自らの子育ての日々を思いながら、
無心で書いた。
 
放送後…「決して他人事と切り捨て
ることはできなかった」「救われた」
…など、大きな反響があった。
ついに坂元さんの中で、道が、見えた。
 
**********
 
~生きづらい、あなたへ~
 
たとえ、それほど視聴率は取れず、
シリアスで暗いと言われようと、
生きづらさを抱える人たちのことを、
丁寧に描く。
一人でも、救われる人がいればいい。
16年の回り道を経て、見つけた、
自分が脚本を書く理由だ。
 
**********
 
6月中旬(6月14日)。
坂元は、プロットを終え、本格的な
脚本の執筆に取りかかっていた。

ひと言ずつ、登場人物のセリフを
つぶやきながら、書き進める。


**********
 
(6月21日)
 
Q.昨日は何時に寝たんですか?
 
坂元) 昨日ね、9時、朝の9時。
 で書いたのは結局これだけなんですよ。
 バカバカしくなるんですよ。5時間睡眠
 時間削って書いたのがたったこんな、
 1ページにも満たないのかと思うと、
 ゾッとしますよ。

表現の制約が多い舞台にあえて
飛び込み、新たな作風や境地を
生み出したいと考えての挑戦。
しかし、その道筋は、
全く見えていなかった。
 
Q.全然書けないんですか?
 
坂元) 書けないですね。こういうときは
 こうやって書けば、面白くなるんだっ
 ていう、自分の、過去の、ストックの中
 から出してきちゃうから。やっぱりね、
 集大成とか言われたらもうダメなのよ、
 やっぱり。それはもうね、自分の、
 未知なる、泉が枯れちゃっているから、
 汲んである水で作っているから、
 集大成とか言われちゃうんです。
 できることなら集大成とか言われない
 ように作りたいなあって思うんだけど。
 最近ちょっと言われる。
 
**********
 
(7月10日)
 
そのまま、ひと月が、過ぎてしまった。
自分の意思とは裏腹に、
やってはいけないことをしてしまう
主人公の近杉と、異母兄弟の兄。
長い間、弟に心を開けず、
ぎこちなさを抱えてきた自分。
兄としての深い後悔を、どう表現するか。
だが、セリフが全く立ち上がってこない。
書いてはみるものの、
違和感だけが増していく。
 
坂元) 言葉が生きてこない。生きた言葉
 が出ない。感情が生まれない。長セリフ
 が書けない。もしそこに、僕の心が動く
 ものとか社会に通じそうな気配を感じた
 ら、言葉が出てくるはずなんですよ。
 退却するか。
 
1か月後に迫った、舞台の稽古。
中止さえも頭をよぎる。
 
突然、坂元が音楽のボリュームを上げた。
おもむろに紙を取り出し、線を引く。
登場人物たちの関係性を、一から見直す。
 
彼らはどんな状況で出会い、
何を話すだろうか。
その会話で、主人公は何を思い、その心の
動きは、相手をどう動かすことになるのか。
頭の中で繰り返す、無数のシミュレーション。
 
一枚の紙が、残った。
 
**********
 
坂元) この人こっち向いた、こっち向いた、
 引き返した、こっち向いた、今度はこっち
 から来たとか。それがうまくできると物語
 っていうのは、物語っていうか登場人物
 の気持ちの感情がわ~っとうねっていく
 んですけど。何枚か書いて、やっとそれ
 が、しっくりきて、まあ何となく、見えてき
 たかなあと。やっと見えてきた。
 
**********
 
坂元の中で、登場人物が動き出した。
 
あふれでる声。
 
坂元は、登場人物の設定に、
大きな変更を加えていた。
 
主人公の兄の職業を、
中学校の教師から、小説家にした。
自分と同じ職業に、引き寄せた。
 
**********
 
(8月18日)
 
そして、執筆に取りかかって、3か月。
 
坂元) うまくハマった気がするけどな。
 
**********
 
坂元) やっぱりね、弟のことが、兄弟の話
 だから。ずっと弟の顔は浮かんでました。
 自分の身近にいた、弟っていうすごく近い
 存在が、いいお兄ちゃんじゃなくてごめん
 ねみたいなものね。いいお兄ちゃんじゃ
 なかったなあというね、ことを書いた。もう
 それ以上でもそれ以下でも特にないんで
 すけどね。
 
**********
 
9月下旬、舞台が開幕した。
 
「またここか」(舞台)
 
衝動を抑えることのできない主人公は、
その衝動ゆえに、父を殺してしまう。
 
弟) 怖い…怖いよお兄ちゃん。
 殺して…。怖いよ。
 
兄は、その事実を告白されるが、
逃げ出してしまう。
 
兄) ごめんなさい。ごめんなさいね。
 お邪魔しました。
 
弟が、ガソリンをかぶり、
火をつけようとしたその時。
 
兄) お~い。お~い!
 お~い! おい! しっかりしろ!
 お兄ちゃん来たよ!
 お兄ちゃん来たから。もう大丈夫。
 お兄ちゃんの言うとおりにしろ。
 
弟を抱きかかえ、小説家の兄は、
共に苦しみと向き合うことを選ぶ。
 
兄) お前、字、書ける? 書けるなら、
 今日から頭に浮かんだこと、
 全部、ノートに書き留めな。
 やっちゃったらダメなこと、
 人に迷惑かけそうになった時、
 そういうの、書いて、そこに全部。
 全部そこに書いて、小説みたいにする。
 俺はずっとそうしてきたし、
 お前にもできるよ。
 
そのセリフは、
弟への思いが、あふれ出たものだった。
 
兄) うん、そう…書く。書く。
 なあ、何が「心の病」だよな。
 人間が心なんかに負けるかよ。
 
坂元) こうやって2時間の、劇場でかけるも
 のを書いたら、まあ分かんないことだらけで、
 見えないものだらけで。すごくね、やっぱり、
 大海原に出た感じが、ありますね。すごく怖
 いです。でもこの感覚は、ちょっとうれしい。
 
**********
 
坂元) 人がごはん食べているのを
 見るのが好きなんです。
 
生きづらさを抱えるあなたへ。
坂元はこの先、
どんな物語を届けてくれるだろうか。
 
**********
 
プロフェッショナルとは、
 
坂元) 才能とかそんなのってあんまり当て
 にならないし、何か、ひらめくっていうこと
 も当てにならないし…。そういう時に本当
 に書かせてくれるのは、その人が普段生
 活してる中から出てくる美意識とか、自分
 が、世界とちゃんと触れ合っていないと生
 まれないから。やっぱり、パソコンに向か
 ってるだけとか、飲んでるだけとか、そう
 いうことじゃ、生まれないと思います。
 
**********

ゼロから物語を生み出す大変さが伝わってくる。
ベテランになればなるほど、新しいもの、今まで
書いていないものを見つけ出すのは難しくなる。
書けない時の坂元さんの言葉が印象に残った。
 
こういうときはこうやって書けば、面白くな
るんだっていう、自分の、過去の、ストック
の中から出してきちゃうから。やっぱりね、
集大成とか言われたらもうダメなのよ、や
っぱり。それはもうね、自分の、未知なる、
泉が枯れちゃっているから、汲んである水
で作っているから、集大成とか言われちゃ
うんです。できることなら集大成とか言わ
れないように作りたいなあって思うんだけ
ど。最近ちょっと言われる。
 
過去のストックはもちろん、過去の自分体験全部
てんこ盛り、集大成上等で脚本を書いた人のドラ
マを思い出したくもないのに思い出してしまった。
人それぞれだし…本人がそれでいいならそれで
いいのだろうけど…。何もかも真逆な姿勢を見せ
られると、自分がどういうドラマが好きなのか、好
きになれないか、その理由が分かった気がした。
 
才能とかそんなのってあんまり当てになら
ないし、何か、ひらめくっていうことも当て
にならないし…。そういう時に本当に書か
せてくれるのは、その人が普段生活してる
中から出てくる美意識とか、自分が、世界
とちゃんと触れ合っていないと生まれない
から。やっぱり、パソコンに向かってるだけ
とか、飲んでるだけとか、そういうことじゃ、
生まれないと思います。
 
非日常的な物語も、もちろん好きなのだけれど、
身近な世界、すごく細かい日常も面白いなあと。
普段は忘れている、あるあるな出来事をドラマ
の中で上手に見せられると、やられたって気分
になる。「カルテット」がまさにそうで、極端なよう
で、誰もが持っている極端な部分でもあって…。

多数派か少数派かっていったら少数派
の為に書きたい。それが一番大きいで
すね、僕は。少ししかいない。こんなふう
に思う人は少ししかいないっていう人の
為に書きたい。ああ私だけが思っていた
んじゃなかったんだって。10元気な人が
100元気になる為の作品は多分たくさん
あるけど。やっぱりね、僕は、マイナスに
いる人が、せめてゼロになる。マイナス
5がマイナス3ぐらいになるとか、そこを
目指しているから。
 
生きづらい人に向けての物語。それは時に重く、
フィクションと分かっていても、ドラマを見るのに
体力が必要になる。坂元作品は、心が揺さぶら
れつつも、リアルな痛みに辛くなることも多い。
それでもやっぱり生きづらさを抱えた人に向け
た思いが感じられるから…最後まで見てしまう
のかもしれない。また、ドラマの世界に戻ってき
てくれますように。「カルテット」2とか…とか…。
 
 
 
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