「カーネーション」
第67回～第12週 「薄れゆく希望」
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糸子） お父ちゃん何て言うたん？
美代） 「糸子を、よろしゅう頼む」て…。
（道の先に善作の姿を見る糸子）
糸子） 待って。
行かんといて、お父ちゃん！
（消える善作）
糸子） 待って、お父ちゃん！
お父ちゃん、待って！
行かんといて…お父ちゃん！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜朝・小原家＞
清子） 姉ちゃん！ 母ちゃん！
（骨壺を手にした木之元）
栄作） お父ちゃん…帰ってきたで。（泣）
（骨壺を差し出す木之元）
（受け取ろうとする糸子から奪い取る千代）
千代） （泣）
保男） 堪忍やで、千代さん！
堪忍してや～！
（泣き声）
温泉旅行に行ったはずのお父ちゃんが、
お骨になって戻って来ました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜二階＞
（布団の上で泣いているハル）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
保男） 上機嫌やったんや、善ちゃん。
なあ？
栄作） うん。ほいでも、
かなり酔うちゃったさかいなあ。
わしも、「今風呂なんか入ったら危
ないで。もうちょっとあとにしいや」
ちゅうて、止めたんやけど…。
保男） いやちょっと待てや。
栄作） ああ？
保男） お前、
止めたりなんぞしてへんやないか。
栄作） 止めたわ。
保男） ほんまの事言えや。
わしら３人さんざん酔うて、何も考えんと
風呂ついていっただけやないか。
栄作） わしゃ、止めたっちゅうんじゃ！
保男） 嘘つけ～！
栄作） 止めた！
奥中） ちょっとやめえや！
糸子） やめて！
栄作） 止めた～！
（千代の泣き声）
糸子） お父ちゃんが、世話になりました。
（頭を下げる糸子）
糸子） 元はちゅうたら、
うちが持たせた酒や。
うちの失敗や。（涙）
おっちゃんらには、迷惑かけて、
申し訳ない事でした。
奥中） 糸ちゃん、そらちゃうで！
保男） 糸ちゃんのせいなんかと違う！
昌子） すんません。
先生。あの～町内会長さんが、
「お葬式はどないしますか？」
ちゅうて、聞きに来はりました。
（千代を見る糸子）
（善作の骨壺を抱きしめて泣き叫ぶ千代）
糸子） ちゃんと祭壇組んでやんで。
静子） 姉ちゃん、けど、そんなお金…。
糸子） お金の心配なんかしてる
場合ちゃうやろ！？
お父ちゃんの葬式やで！？
何があったかて、
きっちり立派なもん出さな！
出さんでどないすんや！（泣）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（通夜の手伝いに来た近所の人たち）
女性） へえ～何でここだけ
こない食べもんあんの！？
女性） なあ！
女性） ちょっと…これ、お酒とちゃう！？
女性） いや、ほんまや！
女性） いや、すごいなあ！
美代） ちょっと！
（近所の人をにらむ美代と節子）
美代） はよせんと、お客さん来てまうで。
３人） へえへえ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜夜＞
（部屋で善作の通夜が行われている）
（弔問客の相手をする糸子）
（片隅で酒を飲む木之元たち）
奥中） おう、これこれ。
善ちゃんが写ってんの、
全部持ってきたんやし。
（写真を取り出す奥中）
保男） 懐かしいのう！
栄作） ちょ、ちょ。
奥中） 善ちゃんちゅうたらだんじりや。
栄作） 善ちゃんの前 前デコのう。
ごっつ格好よかったんや～。
奥中） いや～見事やった～。
栄作） 若い。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（表で客を見送る糸子）
女性） 小原さん、この度は…。
糸子） はあ…どうも…。
女性） あの～うち、神宮司の娘です。
糸子） ああ…そらわざわざ、おおきに。
まあ、どうぞ、入って下さい。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜祭壇の前＞
神宮司・娘） 小原のおっちゃんには、
うち、小さい頃から、「別嬪さん、
別嬪さん」て、呼んでもうちゃったん
です。子ども心に、「お世辞やわ！」
って、思っとったかて、何ややっぱし
うれしいて、おっちゃん来るん、よう
楽しみにしてました。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜台所＞
女性） やっぱし、闇やろか？
女性） 決まってら。
せやないと、おかしいやろ。
ここの家だけこない食べもんあんの。
女性） そないゆうたらここの人が、
配給所にもらいに来んの見た事
ないわ。
女性） うちも。
（節子のせき払い）
（近所の人をにらむ節子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜部屋＞
靖） こん度は、急な事で…
何ちゅうたらええか…。
糸子） ああ、お父ちゃんがよう
ごちそうになったちゅう、やっさん！
靖） へへへ…ちゃうんや。
世話んなったんは、こっちなんやで。
昔わし、借金で首回らんようになった
事があってな。そん時お宅のお父ち
ゃんがそら、親身になって、仕事かき
集めてきてくれたんや。
糸子） そうでしたか。
靖） なあ、こんなん言うて、
余計な事やったら、堪忍してよ。
わしんとこ今、工場で軍服作っててな、
仕事やったらなんぼでもあんやし。
もし、この先、洋裁屋の商売が、難儀
するような事があったら、いくらでも仕
事、下ろしちゃるさかい、遠慮せんと
言うてきてや。
糸子） はい。おおきに。おおきに。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（祭壇の前に座る糸子）
お父ちゃん、
みんなほんまに優しいわ。
お父ちゃんが、そんなけみんなに
優しいしちゃあったちゅう事やろな。
（懐から写真を出す糸子）
（笑顔の善作）
（祭壇に写真を飾る糸子）
おおきにな、お父ちゃん。
（手を合わせる糸子）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
＜深夜＞
美代） ああ、おおきに、おおきに。
静子） あんな、おばちゃん。
美代） ん？
静子） 糸子姉ちゃんが
言うちゃったんやけどな。
美代） うん。
静子） おばちゃん、お父ちゃんの
幽霊としゃべったってほんま？
光子・清子） 幽霊？
美代） フフッ…おばちゃんも
あんなん、初めてやった。
静子） 怖なかったん？
美代） 怖い事あるかいな。
そん時は、何も知らんかったけど、
ひょっと見たら、あんたらのお父ち
ゃんがいつもどおりに、「毎度！」
ちゅうて、ニコニコしながら入って
きただけやからなあ。
節子） え、何てしゃべったんですか？
美代） ん？ 小原さんな、
「いや～ほんでも、奥さんにもよう
世話になってるなあ」言うさかい、
まあ珍しい事言うわ思て。
光子） 機嫌とってる。
静子） 幽霊やのにな。
清子） なあ。
美代） 「これからも、よろしい頼むで。
うっとこの糸子は、とにかく、
馬力だけのアホやさかい」。
静子） ほんまそんなん言うたん？
美代） うん。
とにかく「糸子を頼むで」ばっかし、
何回も言うてなあ…。
静子） そら、
ほんまにお父ちゃんやなあ。
美代） うん。
静子） お母ちゃん。
清子・光子） 大丈夫？
千代） まあ、こんな遅まで、
お世話になって…。
（頭を下げる千代）
美代） あ、いや…
ゆっくり寝ててええんやで。
千代） はあ。うちはもう、
十分寝さしてもらいましたよって。
どうぞちょっと休んで下さい。あとは、
うちがお父ちゃん、見ときますさかい。
（祭壇の前で寝ている糸子）
千代） はれ、糸子、
こんなとこに寝てしもて…。
寒ないやろか…
もう一枚毛布掛けとこか。
静子。毛布取って。
節子） 疲れてたんやなあ、糸ちゃんも。
（糸子に毛布を掛けてやる千代）
（糸子の顔についた涙の跡を見て、
頭を撫でる千代）
（祭壇に飾られた善作の写真を見る千代）
千代） （涙）
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
善作の幽霊が、千代ではなく、美代さんの前
に現れたというのがね、頼りになるのは誰か
をよ～く分かっている善作さんらしいなあとｗ
美代） 「これからも、よろしい頼むで。
うっとこの糸子は、とにかく、
馬力だけのアホやさかい」。
静子） ほんまそんなん言うたん？
美代） うん。
とにかく「糸子を頼むで」ばっかし、
何回も言うてなあ…。
静子） そら、
ほんまにお父ちゃんやなあ。
悲しい中でも、近所の人たちの冷ややかな
目線が描かれるところが容赦ないなあと。
あのはじめの頃ぎこちなかった節子さんが、
今やすっかり力強い味方になっている事に
胸が熱くなる。お付き合いって、ホント大事。
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