「カーネーション」
第34回~第6週 「乙女の真心」
<ロイヤルの裏庭>
(洗い物をしている糸子)
暑い!
今年の夏は暑いです。
糸子) ああ、暑い…。
**********
店主) そやから、
わしは言うちゃあったんや。
うちが、いつまでも岸和田で、田舎
もん相手に服作ってる訳ないやろ。
そのうち、心斎橋か東京にバ~ン
と店出さあてよ。
男性) さすが大将!
店主) ああ、ハハハ。そもそもな、わし
のおふくろは、東京生まれなんや。
男性) そうなんですか?
店主) ああ、そうなんだよ。
男性) せやから大将そんだけ
洗練されてるんですわ。
店主) まあ、ここだけの話やけどな。
サエ) こんにちは。
店主) は~い! いらっしゃい。
**********
<ロイヤル・裏庭>
勝) 小原さん、小原さん。
糸子) はい。
勝) あんた、ごっつい客連れてきたな。
糸子) はあ?
勝) ちょっとおいで。何してん、早く!
**********
<店内>
店主) ああ、来た来た。
糸子) ク…クビですか?
店主) え?
糸子) クビちゃうんですか?
店主) 何でクビやねん?
糸子) けど…あの…うち…あの…。
この人知ってます。
店主) そらそやろ。お前から聞いて、
うちの店、わざわざ探して来てくれ
たらしいど。
糸子) 何しに?
サエ) イブニングドレス、
作ってほしいんや。
糸子) いぶにんぐどれす?
サエ) そうや。
うちの一番上等なお客さんがな、
「岸和田は後れてるよっていまだ
にダンスホールの踊り子も着物に
エプロンや。けど東京辺りやった
らもうみんなイブニングドレスや」
て言うんや。
店主) そら、イブニングドレスの方が
ず~っと見栄えよろしいで。
サエ) そうなん?
店主) ええ、そらもう。
サエ) うち見た事ないんや、
イブニングドレス。
店主) あ、ああ、何ちゅうかこう、
ピャ~ッとしたもんですわ。
こう、わあ~っとした。
サエ) ふ~ん。
店主) 小原。お前作れるな?
イブニングドレス。
糸子) はあ、イブニングドレス…。
店主) こいつは、こう見えても、心斎橋
百貨店の制服作るぐらいの腕持って
んですんわ。そやな?
糸子) はい。婦人物やったら、
一とおりの事はできるつもりです。
店主) イブニングドレス、作れるやろ?
糸子) 作れます。
サエ) ほな頼むわ。
あ、さっきも言うたけど、値段は
少々高なってもええよってな。
店主) おおきに。
**********
<試着室>
(サエの採寸をする糸子)
糸子) 後ろ向いて。
勘助の事なんやけど…。
サエ) え?
糸子) 勘助と、もう会うてへんな?
サエ) 会うてないわ。あんな子支配人
の言いつけ破ってまで会わなあかん
ほどの男ちゃうやん。
糸子) はぁ…。
サエ) あんたは余計な事考えんと、
ええドレス作ってくれたらそんでええ
んや。うちはとにかくそれ着て、あの
お客さんビックリさせちゃりたんや。
岸和田にかてこんな冴えた踊り子い
てんのかて、見返しちゃりたいんや、
あの男を!
糸子) 分かった。
**********
店主) ほな、10円確かに。
サエ) 前金やさかいな。
もっとかかったらもっと払うし。
とにかくええもん作って。
糸子) はい。
店主) おおきに! ほな、また、
お知らせしますよってに。
サエ) さいなら。
糸子) おおきに。
(店を出て行くサエ)
糸子) あのう…大将。ところで、
イブニングドレスてどんなもんですか?
大将) ああ? 知らんのか?
糸子) 知りません。見た事もありません。
大将) ど…どないすんねん!?
糸子) いや、
大将が知ってんとちゃうんですか?
店主) わしが知るか!
わしは、紳士服専門じゃ!
お前が知ってるやろ思たんや!
糸子) うちかて知りませんやん!
店主) はあ? 何や? お前。
「婦人物やったら一とおりできる」
て、あらホラか?
糸子) ホラやないです!
けど、うちが縫えるんは、洋服でもその…
ワンピースやらスカートやらで…。
店主) 知らん! 自分でどないかせえよ。
今更、断る訳にいくかい。
ああ…行ってしもた。
**********
<安岡家>
玉枝) イブニングゆうのは確か、
夕方ちゅう意味やけどなあ。
糸子) 夕方…。夕方に着るドレス。
黒いんかな?
玉枝) 黒やったらもう、夜やさかいな。
もうちょっと、夕焼けみたいな色
なんちゃうか?
糸子) 夕焼け…。
玉枝) うん、まあ八重子に聞いて
みい。そろそろ戻るやろ。
糸子) うん。
八重子) ただいま~。
玉枝) おお言うてる間に帰ってきた。
お帰り。
糸子) お帰り!
八重子) あ、糸ちゃん。
糸子) ちょっとちょっと。八重子さん。
八重子) うん。
糸子) イブニングドレスて知ってる?
八重子) イブニングドレス?
イブニングドレスちゅうたら、確か、
夜の正装のドレスやろ?
糸子) 夜の正装?
八重子) うん。
糸子) どんな形? どんな生地?
八重子) どないしたん?
今度はイブニングドレス作るんけ?
糸子) そうやねん。ダンスホールの
踊り子さんの作らなあかんねん。
八重子) ダンスホールなあ。
あ~確かこないだ新聞に載ってたと
思うから、ちょっと待ってや。ほら、
太郎ちゃん。太郎ちゃん、お父ちゃん
とこ行くよ。さあおいで。
玉枝) あ、そうや。こないだなあ、
奈っちゃん来てんで。
糸子) えっ、どんなやった?
元気にしちゃあった?
玉枝) まあ、そない落ち込んでるふうも
なかったけど、やっぱしお父ちゃんは、
倒れてからずっと寝込んでんやて。
糸子) ほんま。そうか…。
玉枝) まああの子はな、
弱いとこ見せへん子やよって…。
糸子) ほな、吉田屋は奈津と、
お母ちゃんでやってんの?
玉枝) そやねん。奈っちゃん、見合いが
うまい事いって。で、結納も済んでたん
やけどな。結婚式はもうちょい先に延
ばすて。
糸子) はあ…。
結婚話そんな進んでたん?
玉枝) え、聞いてへんかったんけ?
糸子) 聞いてへん。
八重子) ああ、あったあった。
糸子) あ、見せて見せて。
八重子) あんなあ、この「新しい婦人の
職業」ちゅう特集で、ダンスホールの
踊り子さんが載ってんやけど…。
糸子) ああ、普通のドレスやな。
やれん事ないな。
えっ!?
(記事を読む糸子)
糸子) 「脚二本で、月に三百円
稼ぐというダンサー」。
玉枝) いや!
糸子) ああ、そやからあの子
あんな羽振り良かったんじょ。
玉枝) そんなええの?
糸子) ごっついでえ。若いのに10円
ポ~ンと出して、「これ前金やさかい、
ええもん作ってくれたら、もっと払うし」
ちゅうて。
玉枝) うわ~そんな羽振りのええお客、
よう糸ちゃんとこ来てくれたな。
どないして知ったんよ?
糸子) え? あ…。
いや…うん…何でやろなあ?
あ、勘助は?
玉枝) あ、勘助、
買い物行ってくれてる。
糸子) 買い物?
玉枝) おかげさんでだいぶ反省し
たみたいでなあ。何やかんやよう
手伝うてくれるわ。
糸子) ほんま。続いたらええのにな。
玉枝) そない続けへんやろけどな。
あの子の事やさかい。
**********
<小原家>
(夜、宴会が開かれている)
善作) ♪よも尽きじ~
**********
(木之元電キ店で
電話をしている糸子)
電・糸子) うん、うん、うん、
分かった。ほなな。
(扇風機の風で遊んでいる光子)
光子) あ~!
糸子) やっぱし神戸のおばあちゃん
持っちゃあったわ、イブニングドレス。
3人) へえ~!
糸子) 明日、神戸に見せて
もらいに行ってくる。
静子・清子) えっ?
糸子) 何や?
静子) またお父ちゃんに怒られるで。
糸子) ふん。かめへん、怒ったかて。
静子) え?
糸子) この頃お父ちゃん酒飲み過
ぎてるよって、どなったかて大して
でかい声出えへんで。
静子) 姉ちゃん。
糸子) 何や。
静子) お父ちゃんの事
そんな風に言うたら…。
糸子) ほんまの事や!
**********
<翌朝>
(酔い潰れて寝ている善作)
(二階から下りて善作を見る糸子)
うちが思うに、間違いのう、
お父ちゃんには、ガタがきてます。
ハル) あんた、えらい早いな。
糸子) 神戸行ってくるわ。
ハル) ん? 神戸、何でまた。
糸子) ちょっと、仕事の事でな。
ハル) はあ。ほな、気ぃ付けてな。
糸子) うん。行ってきます。
ハル) ああ、行っちょいで。
奈津のおっちゃんも倒れたしなあ。
**********
<電車の中>
うちのお父ちゃんも、
年取ったんと、
呉服屋が潰れかけてんのと、
期待した娘がいまひとつ、
パッとせえへんのと、そら、
お酒も飲みたなるか知らんけどなあ…。
**********
<松坂家・玄関>
糸子) こんにちは~!
こんにちは~。
女中) ああ、糸子様。いらっしゃいまし。
糸子) こんにちは。おばあちゃんは?
女中) ちょっと、
お部屋で休んでらっしゃるんです。
糸子) え? 具合でも悪いん?
女中) あ、いいえ。
まあ、お風邪やと思うんですけど。
**********
<部屋>
糸子) おばあちゃん!
おばあちゃん!
どないしたん? 風邪か?
大丈夫か? なあおばあちゃん!
おばあちゃん。大丈夫…。
貞子) 糸子…。
糸子) うん?
貞子) ちょっと…
あんたの声、頭に響く…。
糸子) うん。
エヘヘヘ…堪忍。エヘヘ…。
**********
(イブニングドレスを見る糸子)
糸子) はあ~きれいやなあ! ふ~ん。
そやけど、やっぱり難しそうやなあ。
貞子) それもな、舶来の生地で…。
(せきこむ貞子)
貞子) はあ…高かったんやでえ。
ウフフフフ…。
「ただの風邪や」て
おばあちゃんは言うてたけど、
今日は、あんだけ好きなお菓子も、
あんまし食べんと、あんまし、
しゃべりもしませんでした。
**********
(風呂敷包みを手に、通りを歩く糸子)
あっこのおじいちゃんかて、
ちょっと前は、
あっこまで年寄りちゃうかった。
あっこのおねえちゃんは、
よう見たら、もうおばちゃんや。
うちらが大人になった分だけ、
大人も年取っていくんやな。
**********
勘助が縁の踊り子さんからイブニング
ドレスのオーダーが。店主も糸子も分
かっていないのに、注文を受ける調子
の良さに苦笑い。いつもの事だけどw
糸子が少しずつ大人になっていくごとに、
大人はその分年を取っていく。当たり前
のことなんだけど、それが目に見えて感
じられるようになると、寂しいんだよね…。
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