ごちそうさん(145)~下衆の極み、室井の小説「阿呆の佛」 | 日々のダダ漏れ

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ごちそうさん 第145回
「とんだごちそう」
~下衆の極み、室井の小説「阿呆の佛」


藤井) 知り合いが先日、満州から引き揚げてきまし
    て。終戦の時に、西門君見た言いますんや。
    えらい事大きいて、眉毛の濃い人やったから、
    こちらの西門君で間違いないと。
静) ああ…。よかったな。
藤井) けど、そのあとどうも、
    抑留されたんやないかて。
静) 抑留て…。
め以子) 生きてるんですよね?
藤井) はい。それはそうやと思います。
め以子) ほな…。私は、待っとったら、ええだけです
     よね。ここで。

**********

【一年後】

め以子は、復員列車が着く度に、
悠太郎の姿を探しに行く日々を、送っておりました。


泰介) ほな、頂きます。
静・め以子) 頂きます。
静) 学校どうやって?
泰介) うん。4月から復学して、別に問題ないて。
静) はあ~こないに休んだのに、すんなり戻れて、
  よかったな。
泰介) うん。戻れてる奴、
    そんな多なかったみたいやし。
静) 人捜しの方はもう大丈夫なん?
泰介) 尋ね人は、
    もう、かなり減ってきたみたいやけどね。
静) あっ、この間、新聞に、アメリカが、子供んため
  のホームちゅうん作ったて。
  …ラジオでも聞こか。なあ?
ラジオ・希子) では、次の曲をお送りします。
        グレン・ミラーの、イン・ザ・ムード。

静) 銀座てな。
ラジオ) ♪「イン・ザ・ムード」
静) あっ!
泰介) アハハハハ。

(静の操作でラジオのボリュームが大きくなり…)
静) いや、何で? どないなって…。
  銀座言うてたやん…。
泰介) ああ!
    今日の、「阿呆の佛」、おもろかったで。
め以子) このお富士って主人公、アホすぎてイライ
     ラするんや。こんなん、いるわけないやろう。


**********

源太) お前は、ホンマんとこは、どないしたいねん?
泰介) こっちの仕事も、完全に片ついた訳やないし。
    お父さん戻ってくるまでは~て思ってるんです
    けどね。
源太) お前の仕事は、
    アメリカさんと、関わっとるしな。
泰介) 僕がいる事で、ピリピリさせてるところもある
    気ぃがして。何か、抑留の事で、新しくわか
    った事とかないですか?
希子) あ…相変わらず、ようわからん状態で。
室井) まあ、どっかで諦めなきゃいけない日が来る
    のかもねえ。
源太) ホンマにしばくぞ、お前!
室井) いや、だってさ、来ない人を待って待って人生
    棒に振るってのも、もったいない話じゃない?
    明日に向かわなきゃね! ハハハハハ。
    明日に向かわなきゃね! ハハハハハ。
源太) せや。あいつ、そろそろ気ぃ付いてるか?
    室井さんにいろいろネタにされてる事。
泰介) 全くの他人事やと思て読んでますね。
源太) アホやなあ。相変わらず。
泰介) まあ、そこは、阿呆の佛ですから。

**********

復員兵) 大ききなったなあ。
女性) おいしいもん食べようか。
子供) おばちゃん、どないしたん?
め以子) うん? おばちゃんとこ、
     おっちゃん、まだ、帰ってきてへんのや。
子供) えっ、まだ?
め以子) うん。まだ。はい。
子供) それって、生きてはるん?
め以子) そんなん、生きてるに決まっとるやんか。

**********

この年の1月、アメリカの救済物資によって、
全国的に、小学校の給食が始まりました。

戦災孤児を引き取る、
アメリカ人夫婦などもおり、
め以子としては、アメリカに、
よい所も多分にあるとはわかりつつ…
活男のことを思い起こすと、
やはり、許す訳にはいかないと、
思ってしまうのでございました。

室井) めいちゃん。
め以子) 室井さん。
室井) お願いがあるんだけどさ。
め以子) 何ですか?
室井) 僕に、蔵座敷使わせてもらえないかな?
め以子) えっ!?
室井) 来週のどっか、6時くらいから。
    2人でお願いできるかな?
め以子) あ~来週…。ここで、ええですか?
室井) ああ、うん。
め以子) おおきに。ほな、承ります。お料理の、
     ご希望ありますか? 苦手なもんとかは?
室井) う~ん。あんまり気にしなくていいんじゃない
    かな~? どっちかって言うと料理より、会話を
    楽しみたいって風だし。
め以子) ああ、ほな、お好きなもんとか。
室井) う~ん。あっ、最後は何か甘いものでも出し
    てもらえると。
静) 女か。
め以子) えっ!?
静) 女やろ。あんた、あいびきする気ぃやろ。
室井) 僕のファンだって言うからさあ。
    どうしても会いたい言うからさあ。
め以子) 桜子は、どうするん? 知ってるん?
室井) もう、2年近くになるしもういいんじゃないかな。
    お互い新しい人生をさ。
め以子) いや、新しいって…。
室井) とにかく、よろしくね~。この人だから。
め以子) うわ~。
静) あぁ! もったいな!

**********

め以子) ちょっと、電話、借りるで。
     あっ、もしもし。
     …いいの?
     相手、すっごい可愛い子だったわよ。
桜子・電) あら、よかったじゃない。
め以子) いやいや…
     文女ちゃんとか、生活どうすんの?
桜子・電) 実家だしね。まあ、よろしく言っといて。
め以子) いや、桜子?
     もう~知らないからね。

**********

諸岡) もう1回いくで。ほい。
め以子) 来てたん?
ふ久) うん。納品あったから。
静) どやった? 桜子ちゃん。
め以子) 全く、どうでもええ感じでした。
静) 人の気持ちは、変わるからなあ。
め以子) そうですけど…。
     駆け落ちまでしてきたのに。
静) おお~。
ふ久) 大吉。いくで。せ~の、ほい。
め以子) あんたも変わったもんな。
     すっかり、お母さんになって。
ふ久) 子供はおもろいしな。飽きへんし。
め以子) 学校は、もうええの?
     新聞で読んだんやけど、アメリカのおかげで、
     男女共学になって、早速帝大にも、女学生が
     入ったんやて。工場も回り出したんやし、ちょ
     っと、考えてみてもええんちゃう?
ふ久) 私の中の、問題なんや。昔みたいに、居ても
    たってもいられんような、そういうもんが、もう
    ないんよ。
め以子) 大ちゃんに、あげてもうたんかなあ。
ふ久) そうかもしれんわ。


けど、何か寂しいね。
あのふ久はもう、どこにもいないのかねえ。
戦争と同時に、どこかへ…。

**********

「いろんな事が、変わっていきます。」

め以子) 私だけ、そのままです。

**********

め以子) どうぞ。
室井) 何? どうしたの?
め以子) やる気が、服着て、歩いてるみたい。
室井) そう? えっ? そうかな?
    あっ、でもほら、僕一応、先生だしさ。
め以子) はあ…。
室井) いや~文面から察するとねえ、どうも学のあ
    る人みたいで。ハハハハハ。

(女性からの手紙をめ以子に見せる室井)
め以子) ディケンズを彷彿させる風刺とユーモアの
     精神と…。
室井) ディケンズだよ~。ディケンズ。
め以子) 人間のさがを西鶴のごとくいとおしみ…
     阿呆の佛は、まさに先生の集大成と呼ぶに
     ふさわしい。
室井) フフフフフ。みっちゃん。
    ん~まっ(写真にキス)。
め以子) ほな、ごゆっくり。
室井) はい。
め以子) いらっしゃいませ。


**********

やっぱり、この物語は、下衆の極み、室井の創作、
「阿呆の佛」という小説のドラマ化、ということで正解
なのかもね…。それなら、下衆で下品で浅はかで、
バカバカしい限りを尽くす主人公でも何ら不思議で
はないから…。一種の夢オチの変形だとでも思って
観るほうが、精神衛生上いいのかもしれないなあと。

誰が読んでもめ以子がモデルだとわかるだろう、あ
からさまな小説を読んだめ以子に、自分とは気づか
ず、「アホすぎてイライラするんや。こんなん、いる
わけないやろう」と、わざわざ
自虐台詞を言わせ…。
イライラするのが正解なんですと、言い訳する作家。

今日は室井の小説を感想代わりに載せておきます。


阿呆の佛 作 室井幸齋

第百五十六回
お富士のカレー 三-四

「阿保やない」ぐつぐつ煮たつカレーなべを前にして、
そうつぶやくのがもはや習慣と化してゐた。週に何
度ライスカレーを作るのであらうか。もはやそのこと
そのものがあほうの所業であることに疑ひはなかっ
たが、お富士本人だけがそのことに気づかずにゐた。
  息子を亡くしてより二年の歳月が流れようとしてゐ
る。その流れに抗うやうに、必死にカレーを煮てきた。
カレーを作らずにはをれなかったのだ。カレーだけ
にはとどまらぬ。あらゆるものを煮、焼き、揚げてき
たのがこの女である。その姿をカレーの女神と称す
る者もかつてゐた。五尺七寸ほどの体?を大きく使
ひ、むんずと杓子を持ち上げて、鍋をかきまぜる。
ある意味では神々しかった。一心不乱なその姿を陰
から眺めていた
太は「あほか」とつぶやいた。「夫
はもう帰ってこぬかもしれぬのだぞ」「阿保やない」
とお富士。聞こえていたかと気まづくなったがどうや
ら獨り言らしい。權太はつゐにこの日、ずっと気に
かかってゐたことを訊く決心をした。「お富士。なぜ
そんなにカレーばかりなのか」言はずと知れた事、
そんな顔でただただお富士は權太の顔をまじまじと
みるばかりである。再び訊く。「なぜカレーばかりな
のか」「夫はな、この香りにつられて歸ってくるんや」
太は訊いたことを後悔した。お富士のそのけなげ
さにでは勿論ない。ただただその譚しか彼女の心の
内に持ち合はせてゐない、その阿呆さ加減に後悔
の念がふつふつと湧いて来たのである。カレーごと
きで夫が歸ってくるものか。
 「お富士さん、今日もまた煮てゐるのかい」蔵介が
顔をのぞかせ、挨拶代はりに聞いた。カレーの女神
はまたしてもその夫を吸ゐ寄せることはかなはなか
った。集ってくるのは
知の仲間ばかりである。
 「あかん」突如お富士は肌身離さず持ち歩いてい
た夫の手紙を氣にしだした。「カレーの汁が夫の手
紙に跳んでしもた。」權太はあきれた。「あほか。支
度の時ぐらひ、大事な手紙は余所にやっとかなあ
かんやろ。」「せやけど。」大きな女が大きな聲をあ
げて泣き出した。阿呆の佛は聲をあげて泣く。所構
はず聲をあげて泣くのがこの女の習いである。「ま
たあほや言ふんやろ。もうえんねん。泣かしたって
くれたってええやろ。」「まだ何も言ふてへんで」蔵介
はすぐさま返した。この女を泣かしたままにしておい
ては手がつけられぬ。しかし、次に權太が発した言
葉は、蔵介の努力を無にするものであった。「ああ、
あほやあほや。付き合ふてられへん。飯つくるか、
泣くかどっちかにしいや。」聲をあげて泣いていたお
富士は次の刹那にはもう怒りの様を露はに權太と
向かひ合ってゐた。まこと忙しい女である。


室井=脚本家の図。悪趣味が過ぎて気持ちが悪い。
ある意味、阿呆の佛を演じきったとも言える杏ちゃん。
いっそ途中降板してやればよかったのに、って、思う。
あなたを愛してくれる脚本家だったらよかったのにね。
とことん、私とは感性が合わないドラマだと、痛感…。


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