米原万里のハルヴァ | 日々のダダ漏れ

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グレーテルのかまど (11月8日放送)
米原万里のハルヴァ




ロシア語の同時通訳者として活躍した米原万里さん。
来日した要人と共に、歴史の転換期に立ち会ってきま
した。後に、作家へ転身。数々の名著を発表した彼女
が、食べ物について書いたエッセー、「旅行者の朝食」
の中に、ハルヴァが登場します。



米原さんとハルヴァの出会いは、1960年代のプラハ。

父親の仕事の関係で、9歳から14歳までを、ここで過
ごしました。当時、この町で彼女は、旧ソビエトが作っ
た学校に通っていました。授業はすべてロシア語の、
インターナショナルスクール。



さまざまな国の子どもたちが学んでいましたが、初め
は、言葉が全く通じず、孤独を味わったといいます。



異国での生活になじんだ頃、旧ソ連から来た女の子、
イーラが、故郷のお土産としてくれたのが、ハルヴァ
でした。



蓋を開けると、ベージュ色のペースト状のものが詰ま
っていた。イーラは、紅茶用の小さなスプーンで、こ
そげるように掬うと、差し出した。
~中略~
美味しいなんてもんじゃない。
こんなうまいお菓子、生まれて初めてだ。



見た事も、聞いた事もないお菓子、
ハルヴァとの出会いでした。



初めてなのに、たまらなく懐かしい。噛み砕くほどに、
いろいろなナッツや蜜や神秘的な香辛料の味がわき
出てきて混じり合う。
~中略~
十五カ国ほどの国々からやって来た同級生たちによ
って、青い缶は一瞬にして空っぽにされた。
                    「旅行者の朝食」より

**********

同じ学校に通い、
一緒に食べたという、妹のユリさんは・・・



(井上ユリ)
とにかく初めて食べる味で、濃厚ですよね。ふわっと
口に溶けて、ああ美味しいってみんな思ったけど、あ
っという間に消えました。

しかし、その味の記憶が、
消えることはありませんでした。

(井上ユリ)
手に入らないからというのはあるんじゃないですか?
だってチョコレートだったらねえ、あちこちで手に入る
し。ある時期から、日本って何でも手に入る、ところに
なっちゃったけど、手に入っちゃえばね、もうそこで、
終わりですよね、夢はね。

簡単に手に入れることができないからこそ、米原万里
さんの、ハルヴァへの思いは、募っていったのです。



**********

ハルヴァとはどんなお菓子なのか?
手がかりを求めたのは、イーラの故郷、旧ソ連。

ロシア語の語学番組でもおなじみ、ハルヴァが大好き
という、オクサーナさんに聞きました。



(オクサーナ・ピスクノヴァ)
ハルヴァはやっぱり、手間ひまがかかるせいか、あん
まり家で作るよりは、どこの店でも売っていたので、み
んな買って食べてたと思います。

そう言って、見せてくれたのは・・・

(オクサーナ・ピスクノヴァ)
これは家にあった、ハルヴァなんですけれども、ちょ
っと開けてしまいまして。私も一切れ、味見を、してし
まったんですけれども。こんな感じです。





これがハルヴァ。
不思議な姿ですが、どんな味なんでしょう?



旧ソ連の国々では、ひまわりの種をペーストにして砂
糖を入れたハルヴァが一般的だとか。イーラがくれた
缶のように、容器に入ったものもあるんです。



(オクサーナ・ピスクノヴァ)
友だちのうちに、親戚のうちに遊びに行く時は、手土産
として持ってったり、人を招いたりした時も、それを出し
たり、まあ、お茶の友ですね。同じようなもの、似たよう
なものはあんまりないので、何かこう代わりになるもの
は、ないから、やっぱりハルヴァの味は特別ですね。

**********

実はハルヴァは、ゴマやナッツ、小麦粉で作るものな
ど多種多様で、モロッコから中国まで、広い地域で食
べられているとのこと。

ハルヴァという名前も、そもそもは、
ハルワというアラビア語が、基になっているとか。



イスラムの食生活の歴史に詳しい専門家に伺うと・・・。

防衛大学校 外国語教室 准教授
(尾崎貴久子さん)
ハルワは、アラビア語で、「甘いもの」を意味します。
1000年前からは、「砂糖を使った菓子」を、ハルワと又
呼ぶようになります。そのハルワという砂糖を使った菓
子は、職人の技によって、作り上げられるものでした。

11世紀に書かれた書物にも、「ハルワは、作り方も種
類も様々。但し、砂糖が使われる」と、記されています。

では、中東生まれのハルワが、なぜ広い地域で食べ
られるようになったのでしょうか?

(尾崎貴久子)
イスラム教徒であった人々が、東西交易に、乗り出し
たという事が挙げられます。

イスラム商人が各地にもたらしたハルワは、その後の
イスラム王朝の支配によって根づいていったと考えら
れるそうです。1000年前、最先端の文化を誇ったイス
ラムのお菓子。

(尾崎貴久子)
ハルワに出会った人たちにとって、ハルワとは、まさに、
洗練された、イスラム文化、そのものであったと思われ
ます。



当時の人々の目に、ハルヴァは、オシャレで、ぜいたく
なお菓子として、映ったのではないでしょうか?

**********

子供の頃に食べた、一口のハルヴァに魅了された米原
万里さん。仕事で、イーラの故郷、旧ソ連を訪れる度に、
記憶の味を探しました。



探し求めること、およそ20年。
米原さんは、ついにその味に再会します。

それは、ギリシャのハルヴァでした。



あの味だった。イーラが食べさせてくれた、ハルヴァ
のまぎれもないあの味だった。  「旅行者の朝食」より

**********

思い出の味に重なったという、ギリシャのハルヴァとは、
どんなものなのでしょうか?

アテネから50kmほど離れた、ドラペツォーネという町に
ある、老舗のハルヴァ作りの様子です。



熱した砂糖水を強く混ぜ、白いキャラメルを作ります。



110度になったキャラメルを、ゴマのペーストに注ぎ、
熱い状態のまま混ぜていくと・・・。



ペースト状だった生地が、次第にふんわりまとまってき
ます。この時に、抱きしめるように混ぜるのが、ポイント
だとか。



ギリシャでは、宗教上、動物性の食品を避ける時期に、
よく食べられというハルヴァ。確かに、ゴマと砂糖で作ら
れたハルヴァは、栄養満点のスイーツですね。





**********

ハルヴァについて調べるうちに、パリから上海まで自転
車で旅しながら、各地のお菓子を研究しているという方
のホームページを発見。

調理師専門学校で学んだあと、パンやケーキの職人を
していたという、林周作さんに、各国で出会ったハルヴ
ァについて聞いてみました。



(林周作)
私のハルヴァとの出会いは、フランスの、とある市場で
した。トルコ菓子が売られていて、その中に見覚えのな
い、薄茶色のかたまりを見つけまして、それが、ゴマペ
ーストから作られた、タヒンハルヴァでした。

その後、ボスニア・ヘルツェゴビナへ移動した林さんは、
カフェで、フランスと同じゴマペーストのハルヴァを発見。



その後、訪ねたトルコでは、
何と、ハルヴァの専門店があったそう。



(林周作) 
タヒン味をはじめ、カカオ味、ピスタチオ味など、大きな
かたまりで、並んで売られており、それをカットして、量
り売りで買うことができます。

こちらもトルコのハルヴァで、
ウン・へルヴァというのだとか。



(林周作)
ハルヴァの作り方の基本は、バターやベジタブルオイ
ルで、粉類をじっくり炒め、シロップを加えて作ります。
使う粉を、小麦粉にすれば、ウン(小麦粉)・ハルヴァ、
セモリナ粉を使えば、イルミク(セモリナ粉)・ハルヴァ、
それにチーズを加えれば、ペイニル(チーズ)・ハルヴ
ァと、名前が変わるのと、もちろん味も変わるのです。



旧ソ連の、アルメニアで出会ったのは、やっぱりひま
わりの種を使ったハルヴァ。クローブとハチミツが利
いた、個性的な味だったそう。



アゼルバイジャンでは、温かいピタパンに包んで食べ
る、小麦粉と、クルミのハルヴァ。



(林周作)
バターの香る、素朴なハルヴァですが、遺族の命日に
食べられる、少し変わった文化があります。

ウズベキスタンでは、コットンオイルとミルクのハルヴ
ァ。とっても滑らかな口当たりだったとか。



(林周作)
タジキスタンでは、ベジタブルオイルと小麦粉から作ら
れた液状のハルヴァを、熱いまま、フワフワのナンに
つけて食べています。



そして、インドにもありました。



(林周作)
カルダモンとギー(バターの一種)の香るニンジンのハ
ルヴァや、南インドには、バナナやパイナップルを使っ
たハルヴァもありました。



(林周作)
使う食材によって、ハルヴァにも、お国柄が表れてきま
す。更に、家庭にも様々な味があるので、ハルヴァの
世界は、深くて興味深いですね。



林さん、どうもありがとう!
まだ旅は続くとのこと。くれぐれも、ご無事で!

**********

米原万里さんが、子供の頃に出会った、
未知のお菓子ハルヴァ。







ロシア風に、ひまわりの種を使ってみたら、
香ばしさとこくもひときわ。
彼女が、長年捜し求めた味に、
少しは、近づくことが、出来たかしら?

**********

ロシア語同時通訳者、そして、作家として活躍した米原
万里さん。何事も、とことん調べつくして妥協しない、そ
れが、仕事に対する、一貫した姿勢でした。思い出の味
に再会した後も、彼女のハルヴァへの興味は衰えず、
ついに、一冊の、料理辞典に出会います。



そこには、最良のハルヴァは、イランやアフガニスタン、
トルコにあること。カンダラッチと呼ばれる職人の、秘伝
の技によって作られることが、記されていました。

イーラがくれたハルヴァより、もっと美味しいハルヴァ
がある。旅は、まだまだ続くはずでした。

2006年、米原さんは、がんで亡くなります。56歳でした。



しかし、彼女がまいたハルヴァの種は、
今も育ち、読者の興味を、かきたて続けています。



(井上ユリ)
作家冥利ですよね。あんな、みんな知らないものを書
いて、それをみんな食べたいと思ってくれるっていうの
はね。ああ、だから万里、やったなって思いまして・・・。
すごく嬉しかったです。



異なる文化を持つ人間同士の交流を見つめ続けた、
米原万里さん。

(米原万里)
どの言葉もすごい膨大な、文化というものを抱えてて、
その民族の歩んできた歴史とかね、今の政治状況と
か、全部入っている訳ですよね。それぞれ、違う。違う
からこそ、共通なものを発見した時の喜びってのがあ
るんですね。



1000年という年月をかけ、各地に広がっていったハル
ヴァ。その土地ごとの個性を放ちながら、今も、人々
に、愛され続けています。

**********

旅する青年、林周作さんのホームページはこちら↓
郷土菓子研究社

「ハルヴァ」・・・今回まったく初めて聞いた、初めて知っ
たスイーツなのですが、これはホント、気になりますね。
番組を観たあとでも、わかったようなわからないような。
何となく想像はできるけれど、そんな想像を軽く超えて
しまうものなのか、何にしろ、ものすごく、その味に期待
が高まってしまう、ロマンあふれるスイーツだなあと・・・。

ビジュアル的に、ナッツがゴツゴツ見えているものなら、
見た目でも美味しそうに見えるのだけれど、どう見ても
地味~な、お世辞にも美味しそうに見えない地味色の
ハルヴァが、一体どれだけ魅惑の味を隠し持っている
のかと、否が応でも、その味に対する期待は膨らむば
かりで。な~んだ、こんな感じかぁになるんだろうなあ
と思いつつ、うわ~何これ美味しい~となったら、凄い
なあと、あれこれ妄想が止まらないスイーツというのも
初めて。ああ、一生のうちに、ハルヴァを食べる機会が
あればいいなあと、今から、ちょっと、心の片すみに覚
えておきたいスイーツになってしまっていたりして・・・。

未知のものって、世の中にはまだまだあるんだなあと、
なんだか、嬉しくなってくる・・・ハルヴァ物語でした♪


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