「不幸だね。毎日辛いね」

 

「本当に不幸なんですか?」

 

「不幸だろうね、旦那の浮気で一家族が終わちゃったから」

 

「終わったってホントですか?」

 

「翔ちゃん、もうそれ以上は訊かないで、いずれ私も出ていくんだから」

 

「裕美さん・・・でもまだ終わりって訳じゃないと思います」

 

「どういうこと?」

 

「裕美さんのお父さんをこちらに向かせれば済むんじゃないでしょうか?」

 

「それってどういうこと?」

 

「まずはお父さんに話しかけるんです、最初は一言でもいい、『おはよう』とか『おやすみ』とか。で、その一言が二言三言になってく、それが大きいことです。それと・・・」                                                                    

 

「それと?」

 

「お兄さんここに帰ってこさせるんです。ブロキャスっていう大企業だから職は変えられない、連通(富士通)転職は諦めてください、でも家で会話するんです、お父さんに。そうすればお父さんも元に戻ると思います」

 

「翔ちゃん、連通ってどういうこと?」

 

「はい?」しまった、ウチにはお馴染みの連通でも裕美さんにとっては別物だった、父が連通行ってるなんて裕美さん知らないこと、何とかしないと・・・、ええい、ままよ、

 

「以前裕美さんからお父さんは連通の社長さんて聞いたことあったから話してるんです」

 

「そんなこと言ったっけ?」言う訳ない、でもバレないでね、お願い!

 

「私が覚えてるんですからウチの家族も覚えてますよ、ほら、札幌の飲み会で話したじゃないですか」

 

「そうだったかな、ま、いい、さっきに戻るけど・・・」良かった、バレなかった。

 

「お父さんとの会話でしたね」

 

「ええ、できるかしら?」

 

「できるできないじゃなくやるんです、やっていくんです。ふぅー、横山さん、お酒お代わりお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「あ、えぇ、どんどん飲んで頂戴」

 

「わかりました」私は席を離れてお代わりしに台所へ。裕美さんにさせるわけには行かない、このくらいは私がする。それでいい。氷入れて食卓に戻る。 ウィスキーも美味しい。

 

「でも、本当にできるかしら?ね?」                                                                                                    

 

「もし昔に戻れたら・・・・どうなるんだろ?」

 

「是非やってください、そうしたらお父さんも気持ち入れ替えると思いますから」

 

「わかった、やってみる、明日から」

 

「私もやる!昔に戻せるならとことんやってみる」

 

「これでお兄さんも帰ってきたら万々歳でしょうね」

 

「翔ちゃんありがとう、ここまで私達励ましてくれて。嬉しい、とっても!」

 

「そうね、小山内さんて優しい人ね」

 

「待ってください、こんなこと、誰でも考えることでしょ、誰でもです!」誰でも考えつくことだと思うんだけどな。

 

「誰でもか、私達の頭も固まってたんだね、どうしようもない位に」アドバイスしてくれる人いないのかもね。

 

「これで良くなってくれたら嬉しいです、そろそろご飯にしましょう」呑んべの私が言うなんてね。だってもう9時だからね。