「わかった。じゃ行く」そうして私たちは歩きだす。ここからなら30分はかかるだろう。三鷹市自体は狭い町。だから移動も楽だ。

 

「あの、裕美さん、今日はどこに泊まりましょう?」

 

「そうだな、どうせならウチ来る?」

 

「え、裕美さんの家にですか?」

 

「そう。お金もかからないしゆっくりできる。母がいるけどね」

 

「え、吉瀬美智子にですか。また何ていうドラマチックな」

 

「吉瀬美智子?誰それ」

 

「『ブラッディ・マンデイ』に出てた女優さんです」

 

「知らないな、そんな人」

 

「まぁいいです。でも裕美さんのお母さん私が来て嫌がりませんか?」

 

「それはないよ、あの人上辺だけは優しいから」

 

「じゃ寄らせていただこうかな?」

 

「うん、来なよ。で、泊まりなよ、母も喜ぶ。盲腸の時以来だよね会うの?」

 

「そうですね、何だか懐かしいです、虫垂炎も裕美さんの家でなったんですし」

 

「そうだね、懐かしいね」

 

「お母さん料理はできます?」

 

「いや、駄目だね」

 

「じゃ私たちで何か作りましょう。あ、じゃどこかのスーパーで買いだめしましょう」

 

「うん、それいい!」

 

「スーパー駅の近くにあります?」

 

「業務スーパーがあるよ」

 

「そうですか、そこなら安いし美味しいもの作れますね」

 

「じゃ何作ろうか?」

 

「ハンバーグとポタージュはどうでしょう?」

 

「うん、それでいい。しょうちゃん作ったことある?」

 

「ありません」

 

「そっか。私はある。よく作ったな。まぁ材料はわかるからしょうちゃんはポタージュ作ってね」

 

「その、即席のポタージュじゃ駄目ですか?」

 

「ん、別にいいけど。それで満足できるなら」

 

「十分です、あの粉末のポタージュで」

 

「そう、ならそれでいい。じゃもう行きましょう、私の家に」

 

「井の頭公園はなしです?」

 

「もういいよ、暑いし。しょうちゃんも早くウチに来たいでしょ?」

 

「そ、そうかもしれません」

 

「じゃ行こう」こうして私たちは三鷹から豪徳寺へと向かうことになった。ずいぶんと急な展開。でも吉瀬美智子は私が来ても文句言わないだろうか?あの人には嫌われたくないと思ったのだ。最も浮気相手の子供なら知ったとたんに出て行けって言われるだろうけどね。泊まれと言われたらどうしよう?