MGMT / CONGRATULATIONS (2010) | 極私的洋楽生活

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豚袋でございます。また久々の記事となってしまいました。



しかし最近の天気予報というのは、まずはずれませんね。情報量の多さと予測の的確さゆえでしょうか。ひと昔前の当たらなさ加減から比べると、ホント劇的な進化だと思います。特に翌日の予報なんかまず外れませんし。でも思うんです。天気予報は当たってばかりでもつまらないんじゃないかと。「予報」であることは非常に不確定な要素を含んでいるからその言葉がなりたつのであって、限りなく確定的な「予報」はもう「予報」でなく、「情報」「報告」そのものではないかと思うんです。「誰かの予測や経験に裏打ちされたカン」のような博打的なものが作用しない、味気ない感じがするんですよね。もちろん災害や事故を未然に防いだり、備える事の大切さはあるけれども、たまには「ザマーミロ、外れやがったぜ」と喜んだり、「チキショー、天気予報の野郎ウソばっか」と怒ってみたりもしてみたい。天気予報を言い訳に楽しみたいというのは、屈折した感情なんでしょうか(笑)



音楽の世界でも、そうした確固たる安心、揺るぎない自信を提供するアーティストもいれば、不確定で予測的な要素をかかえつつ作品化するアーティストもいますよね。前者の作品は「報告書」であり堅実、後者の作品は「予報」であり博打。どうも私は後者が好きなタイプのようで、そうしたタイプのアーティストに魅力を感じる傾向があるようです。MGMTはそんなアーティストのひとつです。今回は最近リリースされたMGMTの新譜「コングラチュレーションズ」を取り上げたいと思います。



MGMTは2008年にデビューアルバムをリリースした、ニューヨークはブルックリン出身のバンドです。このデビューアルバム「オラキュラー・スペクタキュラー」は私もお気に入りで、当時記事にもいたしました。あまり肩に力の入らない、脱力系サイケという感じの音は懐かし新しのような不思議な感触があって好きでした。で、この手の音にしては異様なくらいの予測外の人気になってしまい、一躍注目の新人バンドとなったのも記憶に新しいと思います。約2年のブランクを経て先月リリースされたのがこのアルバム、というわけですね。





最初のこのチューンから「ああ、彼らだ」と思わさせられます。思いっきり懐かしサーフなイントロなのだけれどいきなりダブが咬んだりして、ボーカルも相変わらず全面に出ることがなく、少し奥から顔を出すようなバランス。こいつらはあんまり意識していないのだと思うのですが、「外し」や「タメ」のセンスが抜群だと思います。デビュー作があれだけ絶賛され、時代の寵児・ロック界の今後を左右するくらいにたてまつりあげられると、萎縮したり前作踏襲型になるのが普通ですが、彼らはまたこのアルバムでも楽しく遊んでいるように思います。



それは底抜けに明るいサーフではなく、ビーチボーイズの中でも「PET SOUNDS」を明らかに意識したような独特な影のあるサーフ。自分たちがまだ生まれてもいないサイケ&アートロックの時代の音に対するオマージュ。リアルを知らないからこそ、ものすごい距離感で俯瞰しつつ新しい解釈をしている。そういった印象があります。





ファースト全編に流れていた、彼らの「アイコン音」とも言えるあの質量の軽いオルガンっぽいシンセ音はなりをひそめています。まるであの音があったがゆえ、ニューウェイブ・エレポの旗手みたいに言われるのを拒絶しているかのようです。前作の予期せぬ成功は、きっと本人たちにいろいろな影響を及ぼしたのでしょう。前作の浮遊感とちょっと斜に構えたような、独特のシニカル感。明らかにアイロニカルで先人たちの音を「茶化し」と「リスペクト」の微妙なバランスで再現した音。そうしたものから変わってきているように思います。もっと音楽性の幅を広げたというか、遊びが確信に変わったというか、もっと遊んでみよう、もっとヴァリエーションを楽しもうという意味でのポジティブ感が感じられます。前作にあった「茶化し」はもはや意識にないような印象を受けます。



しかしながら全編通して聴いてみると、やっぱり不思議な事に「MGMTの世界」としか思えないんですよね。インスパイアはいろいろわかりやすいソースがあったとしても、それだけ持っているスタイルがオリジナリティの高いものだということでしょう。ファーストの成功でセカンドがどんなアルバムになるか興味津々でしたが、こちらの予想を遥かに上回る出来と言えると思います。この予測の裏切り方がとても心地よい。セカンドアルバムとしては文句のつけようがないと思います。ビーチ・ボーイズ、ヴェルベット・アンダーグラウンド、ドアーズ、シド・バレット、そうしたものからの影響がわかりやすいけれどもどれにも似ていない。それが彼らなりのリスペクトの仕方なのかも知れません。



タイトルの遊びも忘れていませんね。"Lady Dada's Nightmare"何て曲は明らかにレディ・ガガに対しての皮肉でしょうが、インストだったりするところがミソ。最後に彼らの歪んだリスペクトの表現の最たる曲を聴いて締めたいと思います。そのタイトルもずばり「ブライアン・イーノ」(笑)



それでは、また。