DEAD KENNEDYS / FRESH FRUIT FOR ROTTING VEGETABL | 極私的洋楽生活

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豚袋でございます。

本当にこのところの首都圏は気温がジェットコースターのように上がったり下がったりで、みなさま着る服の種類や枚数を毎日考えるのに苦心していませんか?急激な温度変化に対応しにくい体質のワタクシにはこういう気候はとっても困るのですよね。ところで皆さんの平熱って何度くらいですか?前にテレビをみていたら、人間の活動に適した体温は36.8度くらいだと言っていてちょっとびっくり!高くない?自分の平熱は低く35.8度くらいで、朝一で計ると35度くらいしかない。低体温症か変温動物かも知れません(笑)

と言う事で、今回は体温が上がりそうなバンドを取り上げようかと思います。デッド・ケネディーズの「フレッシュ・フルート・フォー・ロッティング・ベジタブルズ」です。邦題がまったく原題無視で「暗殺」。。。そりゃバンド名からの連想だろって突っ込みたくなるほど愚題(笑)デッド・ケネディーズはアメリカは西海岸サンフランシスコのパンク・バンドです。このアルバムが1980年発表ですから、アフターピストルズ、ハードコア直前前夜という時代背景でのアルバム。西海岸パンクと言えば、前に記事にしたLAパンクの始祖ブラック・フラッグが有名ですが、このデッド・ケネディーズもおそらくアメリカではもっとも有名なパンクバンドだったのではないでしょうか。このバンドの存在は相当前から知っていましたがアルバムを聞いたのは実は結構後追いで、「ハードコアの歴史的な部分を振り返って」的な入り方で2000年代に入ってから聴きました。

最初に興味を引くのは、何と言っても曲名でしょう。このアルバムの収録曲は過激で政治的でインモラルなタイトルがずらりと並びます。ちょっと面白いので全部並べてみましょうか。
Kill the Poor               – 「貧乏人を殺せ」
Forward to Death            – 「死にむかって」
When Ya Get Drafted         – 「徴兵される時」
Let's Lynch the Landlord    – 「地主をリンチにかけよう」
Police Truck                – 「警察トラック」
Drug Me                     – 「クスリをくれ」
Your Emotions               – 「お前の感情」
Chemical Warfare            – 「化学兵器戦」
California Uber Alles       – 「カリフォルニア州ユーバー・アレス」
I Kill Children             – 「子供を殺す」
Stealing Peoples' Mail      – 「他人の手紙を盗む事」
Funland at the Beach        – 「浜辺の楽園」
Ill in the Head             – 「頭の病気」
Holiday in Cambodia         – 「カンボジアの休日」
Viva Las Vegas              – 「ラスベガス万歳」

パンクなんだか右翼団体なんだかテロリストなんだかわからんようなタイトルに目を奪われます。おどろおどろしい、ガナリと叫びと激しく拒絶的な歪んだ音がよく似合うような、ハードなタイトル。ちょっとした緊張感を強いられつつ聞きました。


貧乏人を殺せ!という常識人たちの神経を逆撫でするようなメッセージは、サウンドとしては実にキャッチーでファミリアなメロディーを持っておりました。インモラルなメッセージなのに何て覚えやすいメロディーなんでしょう、つい「キルキルキルキルキルザプア~」と口ずさんでしまう魔力。そしてボーカルのビアフラのわざとらしくおどけたような歌い方。この逆説さ加減がメッセージはアイロニカルなものである事を気付かせてくれます。歌詞の内容を要約すると、「中性子爆弾が手に入ったから建物を壊さずやっかいなヤツだけ始末できる。スラムもキレイになるし福祉税なんて払わなくてすむ、百万人の失業者だっていなくなる。さあ乾杯だ、貧乏人を殺しながら踊り明かそう」という富裕支配層の暴走を歌っております。こうしたハードなパンク精神を持ちながら、サウンドはどこかアメリカ的なサーフ&ロカビリースパイスを残しつつ、スピード感溢れるパフォーマンス。かなり独特な世界を持っています。想像以上にポップで聞きやすかった事にびっくりしたものでした。


彼らは演奏自体もヘタでないと思います。ラモーンズ直系のスピード感を感じます。他のハードコアと決定的に違うのは、歌詞を重視するがゆえ、きちんと「歌」が聴けることです。ゆえに安心して聞けるし、詩の世界の不安感とその調和的音楽性の相反はひとつの個性と言えるでしょう。この歌は「ぼく、ジェリー・ブラウン知事。笑顔で陽気だからすぐに大統領になっちゃうよ、カーター・パワーは去ってすぐにぼくが独裁者…」ジョージ・オーウェルの「1984年」を彷彿とさせるシチュエーションと世界を描いております。1980年当時は「あと4年」というタイムリミットに似た終末感があったのかも知れません。

彼らのこのアルバムにおけるスタンスは、強者・独裁者や富裕層への賛歌・賛辞をおくりながら、反対の立場を主張するという、アイロニカルで逆説的なアプローチで徹底しています。リアルな言葉でバッサリ遠慮なく斬りつけ、目の前に突き出される現実の断片は否が応でも心のどこかにひっかかります。この「ぶった切ったものを虚飾なく晒す事」がパンクの精神そのものではないかと思います。また、相当に政治的な内容を擁しておりましたようです。政治的無関心の続く日本の状況では、こうした内容でもそこそこのヒットをするという事実ががいまいちリアルに感じられませんが、そこがアメリカという国が持つ懐の大きさというものなのかも知れませんね。彼らのこうしたアティチュードは、音楽性は違えどレイジ・アゲインスト・マシーンやパブリック・エネミーなどに受け継がれていったように思われます。

パンクのD.I.Y.精神にのっとり、「オルタナティヴ・テンタクルズ・レーベル」を立ち上げ自分たちのレコードと他のマイナーバンドのアルバムを出す事を実践したり、85年のアルバム「フランケンクライスト」に挿入したポスターで猥褻罪に問われたり、サンフランシスコ市長選にビアフラが立候補したりと何かと「思想的」話題な行動を重ねつつも人気を維持していたようですが、バンドの崩壊はビアフラと他のメンバーとの「金」をめぐる確執であったことは非常に残念な気がしています。彼らがまだ、おそらくそんな「金」のことなどどうでもよかった頃、初期衝動と行き場のないエネルギーが渦巻いていたこのファーストアルバムは、今も色あせない輝きを持っているような気がしています。最後に「カンボジアの休日」を聞いて締めたいと思います。それでは、また。