政治・政策を考えるヒント!

 政治・政策を考えるヒント!

   政策コンサルタント 室伏謙一  (公式ブログ)

 6月20日に告示された都知事選挙、既に終盤戦となり、熱闘いが繰り広げられている、ようである。今回は史上最多の56人が立候補しているが、その多くは売名行為か選挙ビジネスかと疑いたくなるような候補ばかりであり、その主張も荒唐無稽なものばかり。ハンナ・アーレントの「政治は子どもの遊び場ではない」という名言が浮かんでくる。

 

 結局のところ、実質的には政党の支援を公式にせよ非公式にせよ受けている候補による選挙戦、ということなるわけだが、では投票行動においては何を考えて投票先を選べばいいのか?各候補の好き嫌いもあるだろうが、ここはやはり政策的に考えてみたい。

 

小池都政8年の評価という争点

 まず、今回の大きな争点の一つとして、2期8年の小池都政の評価がある。具体的には、小池候補が公約として掲げた政策はどこまで実現されたのか、新型コロナ禍における対応は妥当だったのか、小池知事の下で東京都政は良くなったのか、悪くなったのか、都民の生活は良くなったのか、悪くなったのか、それとも変わらないのか、これは都民としての実感も含めて考えることになるが、政策的にはこうしたことだろう。

 

 なお、小池候補の学歴を巡る疑惑は、政策的争点ではないにせよ、候補者本人の資質や信頼性を巡る問題であるので、投票行動を考える上での材料にはなる。勿論、小池候補がこの問題にどう対応してきているのかもまた然りである。

 

 一方で、自民党のいわゆる派閥の裏金問題、これは自民党に対するイメージの問題としては関係するだろうが、都政とは関係のない話。つまり都知事選の争点にはなり得ないのであるから、これをさも争点であるかのように大手メディアが報じるのであれば、それは都民の判断を歪めることになるのではないか。

 

東京都は地方公共団体である

 さて、政策的な争点、各候補はそれぞれがそれぞれの主張をしているが、その比較ではなく、東京都という地方公共団が抱え、直面している政策的課題という観点から考えてみたい。

 

 まず、東京都は首都であり、首都機能を要しているが、あくまでも一つの地方公共団体であり、東京都の事務事業は地方自治法他、地方制度関係法令、個別の分野に係る法令、更にはそれに基づいて制定された東京都の条例に基づいて処理されている。東京都は地方交付税交付金の不交付団体であり、財政的な独立性は高いが、これは東京都に多くの大企業の本社が所在していること等により法人事業税及び法人都民税の、いわゆる法人2税収入が大きいことが寄与しており、歳入に占める地方税収の割合は8割近い。東京都を除く多くの地方公共団体では、地方税収が歳入に占める割合は概ね4〜6割であり、いかに東京都が高いのかが分かる。もっとも、法人2税は景気の変動に左右されやすく、今後もこの状況が続く保証はない。

 

 そしてその予算規模は、一般化会計に特別会計及び公営企業会計を足し合わせた合計で、令和6年度予算ベースで16兆5584億円であり、東京都の資料によれば、スウェーデンの19兆円に近く、チェコの14.5兆円を超える。つまり、中小国並みということである。

 

小さな東京、巨大な東京

 一方で、東京都は面積としては大きくはないものの、その中に首都機能に業務機能、商業機能に巨大な団地を含む住宅地域、山林、そして島嶼部を抱えているのみならず、多摩川や荒川といった一級河川に加えて、中小の数々の都市河川が都心の高層ビル群を縫うように東京湾に向かって流れている。更に、東京港に羽田空港といった国際的に重要な港湾、空港等の交通・物流施設が所在しているし、4路線の高速鉄道が発着し、幹線鉄道、都市鉄道が高い密度で都心を中心に張り巡らされ、いまだに新線の整備が進められている。そこに1400万人弱の人口が住み、生活している。東京の近隣の県から仕事や通学、買い物等でやってくる人口、いわゆる昼間人口は、令和2年の国勢調査の結果によると、336万人であり、これを単純に加えれば1700万人を超える。

 

 これだけの様々な機能も抱え、巨大な人口を擁し、自然環境も多様で変化に富む東京都、予算規模も大きいが、その分だけやらなければならないことが多く、多岐にわたるということ。もちろん国が担う部分もあることはあるが、東京都民に直接間接に関係ある事務事業のほとんどは東京都と、都下の市区町村が担っている。とういうことは、東京都としての課題も非常に多いし多岐にわたるということである。そうした中で最も重要視されるべきは、都民の生活の安心安全、そして命に関わる防災である。

 

日本の安全保障にも関わる東京の防災

 先ほど、東京都には数々の都市河川が流れていると書いたが、これは東京、特に23区が台地と谷によって構成されていることによるものである。その台地の先端(の一つ)が江戸城、現在の皇居である。そして、ご存知の方もいると思うが、皇居の先の日比谷は江戸時代以前は入江であり、その先の半島のような江戸前島を越えたところは海であり、江戸時代以降に埋め立てられた埋立地である。明治以降も埋め立てが続いてきたが、要するに地盤が頑丈であると言える状態ではないということ。無論、昨今建設されたビルやマンションはそうした地質的条件を踏まえて整備されているので、個別の建物自体がどうこうとは言わないが、地盤としては地震をはじめとする災害には必ずしも強いとは言えない地域である。また、こうした地域には住宅や商店等の建物が密集している地区もあり、地震のみならず火災にも注意が必要である。

 

 東京が巨大地震やそれに伴う大津波で壊滅的な打撃を受ければ、首都機能が麻痺して、その影響は日本全体に波及する。自然災害によって国家としての機能が麻痺したり制限されたりしている時、復旧や救助に多くの資源を割かなければならない時というのは、その国を侵略したい、強い影響下に置きたい、そうした国家、勢力にとっては絶好の機会である。つまり、防災は安全保障を確固たるものにすることにもつながるということ。

 

 こうしたことまでしっかりと考えている候補はいるのだろうか?

 

産業、商業、交通、格差・・・問題山積の東京

 産業振興、特に都下の中小企業振興も重要である。東京というと港区や中央区を思い浮かべる人が多いかもしれないが、非常に多くの中小企業が様々な事業を行っており、富を生み出すのみならず雇用も生み出しており、それが東京都の活力の源泉ともなっている。東京=大企業ではないのであるし、中小企業が東京という地域経済を支えているのである。

 

 そして地域の商業振興。地域の商店や商店街は、地域住民にとっての生活の場であり、必要なものを手に入れることが出来る身近な存在である。また、地域の商店は、地域の中小企業とともに地域の活動等を通じて地域そのものを支えている。その一つの例は祭礼であるが、祭礼は地域内を結びつける重要な行事であり、地域に関心を持つきっかけともなるものであり、地域の問題を考える入り口ともなるものである。

 

 交通が高度に発達しているというイメージを持たれがちな東京であるが、幹線道路には未開通区間が存在するし、地下鉄等の延伸、駅等の交通施設の改善、道路の拡張、混雑の緩和、羽田空港に係る問題等様々な交通問題を抱えており、東京都はその解決を引っ張っていかなければならない。

 

 格差問題。東京都も地域によって多くの貧困世帯、生活保護世帯を抱えているが、単に彼ら彼女ら金銭的に支援するだけでなく、貧困から抜け出せるように、生活保護が不要なように、生活的に自立できるようにする支援も必要である。貧困問題、格差問題は他人事ではなく、地域の経済を縮小させる問題でもあるし、治安の問題にもつながるし、地域の紐帯が崩れる問題でもある。加えて、格差問題と言えば、地域間格差の問題もある。中山間地域や島嶼部と都心の格差、23区内の格差・・・こうしたことを上手に調整して、底上げしていくことも都の重要な役割である。

 

 人口問題。これも流入人口が再び増加に転じていることもあれば、都内に実は空き家が多数存在しているように、人口の偏在の問題もある。東京への過剰な人口流入を防ぐためには、各地域で東京に出て来なくとも安心して豊かな暮らしができることが必要であるので、これは国の役割であるが、東京都はそれを強く求めていくことが必要である。

 

 教育問題。教育格差の問題もあれば、貧困児童・生徒対策の問題、更には、最近小学校の運動会で競争をさせないとい悪癖が一部で罷り通っている問題、過剰にリベラリズムを押し付ける教育の問題、それを是として進める教職員や教職員団体の問題、こうした問題への的確な対処も求められる。

 

雰囲気や空気に流されない冷静な判断を

 その他、凶悪化する犯罪等の治安の問題、コストプッシュによる物価高問題等問題は山積である。耳障りのいいスローガンやなんとなくの雰囲気、軽薄な言葉、カルト教団のような刺激や勢い、そうしたものに騙されることなく、地に足のついた政策を語り、それを実現できるのは誰か、そもそも東京が抱える問題や課題を正しく認識しているのは誰か、有権者の皆様には冷静に、良識を持って判断いただきたいものである。

 

 「とりあえずやらせてみてダメなら替えればいい。」などという発想は禁物である。やらせてみてダメになった4年間は返ってこないのであるから。