政治・政策を考えるヒント! -2ページ目

 政治・政策を考えるヒント!

   政策コンサルタント 室伏謙一  (公式ブログ)

 石破政権は「地方創生2.0」と銘打った地方創生の更なる強化を掲げ、毎年度の地方創生推進交付金の予算額をこれまでの1000億円から倍増させるとともに、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を設置することとし、同本部は10月11日に閣議決定により設置されている。

 

 石破総理と言えば地方創生、地方創生と言えば石破総理というのが多くの一般国民のイメージのようだが、筆者は全くそうは考えていない。石破総理がかつて初代の地方創生担当大臣であり、しかも約2年間その職にあったことによるところが大きいと考えられるが、地方創生自体は安倍政権の肝入り政策の一つであり、地方創生という政策の知名度が先にあって、その上での担当大臣としての知名度という順番で考えるのが妥当だろう。

 

 さて、石破総理が地方創生の専門家でもなんでもないことについては、別稿で詳しく解説することとして(チャンネル桜では20分程度で解説したことはあるので、ご興味のある方はそちらをご覧いただきたい。)、本稿では、なぜ地方創生は期待したような成果が生まれなかったのかについて、考察していきたい。

 

 まず、地方創生という政策はどのようなものなのかと言えば、簡単に言えば、地域再生法に基づき、地方公共団体(以下、「地公体」という。)が地域再生計画を作成し、これを国に提出して認定を受ければ、当該計画に記載した金額の地方創生推進交付金の交付を受けて、計画記載の事業を行うことができるというものである。事業期間は原則として3年であるが、その内容によっては5年という場合もある。そして、その目的はと言えば、人口減少に悩む地域を人口増加に転じさせることである。各地域で人口減少や過疎が進む背景としては、移動や各種サービスの利便性が著しく低下したことや、その地域で暮らしていたいと思っていても仕事がないこと等があるが、地方創生においては後者が重視された。

 

 人口が減少して需要が収縮、それに伴って事業所や店舗がなくなり、仕事も減っていったわけだから、まずは人口を増やして地域の需要を増やさなければいけない、そういうことなのだが、地域における利便性の低下を事実上無視していては、地方創生策としては片手落ちである。

 

 加えて、地域における人口の増加は、自然増よりも流入による増加が重視された。いわゆる移住・定住である。言い方を変えれば、各地域に人口の奪い合いをやれということである。

 

 さて、この地方創生、事業期間が3年ないし5年であるということは、つまるところ、その期間内に何らかの成果が得られなければならないということなのだが、そんな短期間で人口減少、人口流出問題の解決につながるような解を得ることなど極めて困難である。無論、計画期間の3年を基盤整備期間として位置付け、そこから具体的な事業を走らせていくというのであれば、基盤整備という成果を得ることは可能である。しかし、それでも4年目以降、つまり地方創生推進交付金の交付を受けられる期間の終了後以降は、事業資金は自ら調達しなければならなくなり、それに失敗すればおしまいである。したがって、事業期間内に事業主体の設立や資金調達にめどをつけておかなければならなくなる。そこまで実施するとなると、専門家を入れての検討・準備となるので相当程度の額の交付金の交付を受けなければならないが、計画の提出主体及び交付金の交付を受ける団体は地公体のみであるから、一義的には地公体がそこまで考えなければならない。そうした知見を、深刻な人口減少・流出問題を抱えている地公体は持ち合わせているだろうか?結局、多くの場合、その段階から外部の専門家等に頼らざるを得なくなるというのが実情だろう。

 

 しかも、地域再生計画にはKPI、Key Performance Indicator、重要業績評価指標と呼ばれるが、それを細かに設けなければならない。目標を設けること自体はいいだろう。しかし、3年で人口増加につながるような成果を出すことは極めて困難であることは先に述べたとおりであり、そうなると、地公体としては3年で成果が出やすい事業、KPIが設定しやすく達成しやすい事業を選ぶということになる。具体的には、イヴェントや特産品を使った商品開発であり、筆者がざっとこれまでの地方創生の取組を見た限りにおいては、この手のものが非常に多かった。そうなれば、申請する交付金の額も小さいものとならざるをえない。

 

 要するに、地公体が短期主義に陥って、本来の人口増加による地方創生ではなく、地域再生計画に記載した目的、KPI達成のための地方創生に堕してしまっているということである。そうなれば地方創生推進交付金が毎年度余るのは当然である。

 

 まとめると、地方創生制度の問題は、①計画期間が短すぎること、②KPIによる管理があることでかえって内容が矮小化してしまっていること、③現場の地公体に責任を押し付けすぎていること、であろう。

 

 したがって、こうした問題を解決しない限り、地方創生推進交付金の総額を増やしたところで、余る額が増えるだけで、地方創生の推進にはほとんどつながらないだろう。

 

 一応断っておくが、地方創生推進交付金の総額が大きいこと自体を問題視しているのではなく、制度の中身と地方創生推進交付金の総額が釣り合っていない、整合的ではないと言っているのである。

 

 そもそも地方創生推進交付金は、地方交付税交付金に上乗せして自由に使って貰えばいいのであるし、それが足りていないから住民の利便性を高めるような事業、必要な事業が十全に実施できないのであるから、それが人口減少・流出の大きな原因の一つなのであるから。