ヒンデミットの作曲の手引きに載っているアイデアでメロディー作りに役に立ちなそうなアイデアがあるのでちょっと述べてみます。
ヒンデミットは旋律の中の和声的に重要な音を2度で結びつけると良い旋律になると作曲の手引き中で述べています。
○最も単純な例
ショパン、ノクターン9−3
上のショパンの例では旋律が冒頭のアウフタクト以外完全に全部2度(半音階含む)で動いていて非常に流暢な旋律になっていますが、このような2度だけで構成される旋律は最も単純な部類にして流暢ではあるが興味深い、また和声を連想させる旋律とは言えません。
こういった旋律はクラシック音楽にも山ほどありますし、ポピュラーの歌ものにも多数存在します。
決してそれが悪いわけでは無いのですが旋律の構成要素としては単純であります。
○2度の転回と拡張
2度進行の単純さを拡張するために2度を転回して7度に、あるいは拡張して9度にして用いても広い意味での2度進行と考えることができます。
2度から7度への転回
こういった2度から7度への転回は作曲家が意図的に動きを作り出すために行う場合と単純に楽器の音域が足りなくなって行われる場合がありますが、どちらにせよこの7度は本質的に2度の順次進行に準ずるものと言えます。上のような譜例は鍵盤の数が現代よりもずっと少なかったバロック時代や古典時代の作品によく見られるものです。
逆に9度の拡張は特にロマン期において多く見られるようになった旋律の動きをより豊かにするためのものです。
ブルックナー交響曲9番 第3楽章
上の譜例は12音全部出てくる有名なブルックナーの主題ですが、最初に短9度の跳躍があります。ほかにもオクターブやそれに近い跳躍が見られますがブルックナーはこういうのが大好きで彼の曲でよく見られます。
冒頭のシドは短2度を拡張した短9度であってやはりは本質的には2度の順次進行に準ずるものと言えます。4小節目の7度跳躍もシド#の長2度を短7度に転回しています。こうすることで古典時代にはあまりなかった旋律の動きを生み出しているわけです。
こういった動きは広い意味で2度進行と言えます。
○ヒンデミットの述べる2度進行
前提条件がわかったので次にヒンデミットの述べる2度進行を見てみましょう。それは必ずしもつながった音同士を2度で結ぶのではなく、音同士が離れていても旋律の多彩な動きの中に2度進行が内包されていると言うものです。
旋律が和声を内包し還元された状態で滑らかに和音連結されているものと言ってもいいかもしれません。
バッハ 平均律1-2フーガ主題
上のバッハの例は赤い音符が音を跨いでソラ♭ソファミ♭レドレドとオクターブ転回を含んで2度進行になっており、青い音符もドレドレドと同じく2度進行になっています。
この2度進行は間に音を挟んで離れていても良く、1つの旋律の中に2つ以上の2度進行が含まれています。
バッハ 平均律1-3フーガ主題
平均律1-3の例も同じです。ミ#レ#ド#シ#ド#とソ#ファ#ミ#レ#ド#レ#の2つの2度があります。
ブラームス 6つの小品 Op.118-2
ブラームスの例ではド#レド#シラ、シラソ、ミレド#シの赤、青、緑の3つがありますが、赤と青を同音連打ありで繋がっていると解釈しても構いません。
ヒンデミットは良い旋律はこのように複数の2度進行を持っていると述べています。色々な旋律を研究するときにこのような視点から見るのも一つの参考にはなるはずです。
どのような旋律を美しいと思うかは個人の審美感の問題ではありますが、少なくとも旋律を作るのに苦労している初学者の方にとっては一つのアドバイスになるのは事実です。
冒頭のショパンのようにたった1つの2度進行がずっと続く旋律が絶対に悪いというわけではありません。ただ単純で工夫がないというだけであって、その旋律をカッコいいとか美しいと思うかどうかは趣味嗜好の問題であり最終的な決定は作曲家の胸先三寸です。
しかしある程度抑揚があり、複数の距離を跨いだ2度進行が生き生きとした旋律であるというのも事実です。
○おまけ①重要な2度の動きが複雑さの中にある
ベートーヴェン ピアノソナタ1番第1楽章
このヒンデミットの述べる2度進行は実はもっと単純な形でバロックた古典時代から存在します。
上のベートーヴェンの譜例は重要な2度の動きが複雑な動きの中に埋まっています。上の譜例の赤い音符こそがこの主題の重要な動きでほかの分散和音や経過音などの音を変えることは出来ても赤い音符の動きは骨格なのでこれを変えてしまうと音楽の根本が崩壊します。この2度進行こそがこの主題の生命とも言えます。
最も重要な2度のライン
ここさえ変えなければほかの部分を多少弄っても音楽の根本は維持されますし、主題展開されるにしてもこの部分は守るべきコンセプトになります。
こういった例は最高音や最低音として曲の随所に作曲家が意図して配置しており、いくつかの音を跨いでも重要な音は2度進行になっているという点ではヒンデミットの述べる意図とは全く違っていますが似ているとも言えます。
○バッハの反復進行
バッハ : インベンション 第13番
最も重要な2度のライン
2度の反復進行も同じになります。バッハのインベンションの13番ではソプラノとバスに2度進行があり、この赤と青の2度進行さえ守れば幾らでもこのフレーズを作り変えることが出来ます。
重要な2度のラインは書き出してある通りであり、リズムや音型などは多少変えてもこのフレーズの生命は損なわれません。ヒンデミットはあくまで抑揚のある美しい旋律を作るための手段として、2度進行を述べているのであって、こういった情報は彼の意図ではありませんかが、ベートーヴェンの例と同じくパッと見て分かりにくい2度進行のという意味では似ています。
○まとめ
多くの作曲家が多かれ少なかれこのようなことを意図しています。必ずしも2度進行のでなくてもごく短いミクロの見地から、あるいは何十小節、何楽章などのマクロの見地まで色々で、楽章間の場合は楽章の主音が特定の音程度数で旋律を作っていると言えるでしょう。旋律ではなくても意図的なコンセプトで調性を配置する例はクラシックに存在します。
以前書いたヒンデミットの記事で述べた第一音列に沿ってルードゥス・トナリスの楽章は配置されていますが、これもそういった例の1つと言えます。
過去の大家の作品にどのような2度進行が隠されているのか?を知ることは自分が良い旋律を作るときに役に立ちます。
本当はポップスの歌ものの楽譜でやってみたかったのですが、著作権的に問題がありそうでしたのでクラシックの譜例のみに留めました。しかしポップスの曲にもある程度までは(作曲者が意図していなくても)こういった2度進行の流暢さは認めることが出来ます。
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