クラシックデジタルリバーブとして特に評価の高いLexicon 224はUAD-2に限らず色んなメーカーからプラグインがリリースされており、愛用なさっている方も多いと思いますがかくいう私も個人的に大好きだったりします。 

 

 

実機のLexicon 224

 

 

 

リバーブはコンボリューションタイプ演算タイプに大別され、演算タイプはどのようなアルゴリズムが組まれているのか?コンピューターのCPUパワーでどれだけ緻密な演算を行うのか?操作できるパラメーターの種類の多さなどがポイントですが、Lexicon 224のリリースはなんと1978年です。

 

当時の演算能力は現代とは比べるべくもなく弱いものではありますが、その優れたアルゴリズムと操作性はリリース当初から評価が高く、いまだに実機を愛用なさっているエンジニアさんもいるくらいです。

 

 

ミキシングの世界はいくらか保守的な側面があり、新しい機材が出てもすぐに飛びついたりはせず、現状ヒット曲が作れる環境が構築されているならそれを無理やり変えたりするようなことに対してはある程度慎重です。

 

 

Lexicon 224が未だに使われているのも長年ヒット曲を量産してきた伝統と信頼によるものなのかもしれません。プラグイン化されたものを含めて普通に考えれば1978年の機材が未だに現役で通用するというのは凄いことだと思います。

 

 

〇ちょっとおさらい

 

半導体が一般製品化され我々の生活での中で普通に用いるようになり始めたのははちょうど1970年代あたりからです(発明自体はもっと前からです)。

 

今ではスマホやパソコンを始め我々の生活から半導体を切り離して考えることがほとんど出来ないレベルまで普及しましたが、今の我々が当たり前のように行う「後から残響を付ける」という行程は昔は非常に面倒で、 Lexicon224、AMS RMX16 、EMT250などによる初期のデジタルリバーブが開発されるまでは巨大で重いプレートリバーブを使ったり、それより前であれば一部屋残響付け用に作ったエコーチェンバーを使うなどとにかく非常に費用のかかる、かつ面倒な行程でした。

 

AMS RMX16 

 

EMT250

 

 

エコーチェンバーというリバーブ用に一部屋用意するという非常に贅沢な環境を用意できるのは大手スタジオだけでしたし、それよりも安価とはいえプレートリバーブもとにかく大きく、そしてまた重量も凄まじく、とても自宅スタジオレベルの小規模なシステムで手軽に導入出来るものではありませんでした。

 

 

そういうわけで以前よりも小型で、安価であり、さらにはバーチャルとはいえ高い自由度を持ったデジタルリバーブの登場はミキシング業界にとって革新的な出来事であり、あっという間にデジタルリバーブは業界に普及しました。

 

 

 

〇優れたアルゴリズムと操作性

 

Lexicon224の売りは優れたアルゴリズムと操作性の高さです。私はプログラミングには詳しくありませんがLexicon 224が長年音楽業界で愛されているということはよほど優れたものなのでしょう。 事実私も操作性や音質の面から愛用しています。

 

 

近年の技術進歩は凄まじく単純にクラシックのオーケストラなどで求められるようなリアルな残響ならコンボリューションリバーブの方が有利ですが、ポップスやロックでは本物に近いリアルな残響というよりは2mixにまとめるという作業工程の中で他のトラックとの関係性や空間的な配置、質感が重要になります。つまりどれだけ自分の望む残響が作り出せるのか?がミキシングでは重要になり、リアルかどうかよりも上手くミックス出来るかどうかが重要になります。

 

 

そういう意味においては当時のエンジニアさんたちの心を掴んだ痒い所に手が届く素晴らしいリバーブでした。

 

 

全8種類のリバーブタイプ+コーラス

 

リバーブタイプは全部で8種類あり Large Concert Hallが2つ、Small Concert Hallが2つ、Acoustic Chamberが1つ、Roomが1つ、Percussion用とVoca用のPlateが各1つです。

 

デジタルで色々な残響の種類をシュミレートするという考え方は今日のリバーブプラグインにそのまま受け継がれています。Lexicon224のそれぞれのアルゴリズムには個性があり、単純に技術的な側面だけなら今はもっと良いリバーブもあるかもしれませんが、これらの優れたアルゴリズムは多くのエンジニアさんたちに支持されてきました。

ボタン全点灯のコーラスもあるのですが個人的にはあまり使っていません。

 

 

 

優れた操作性(当時としては画期的で今でも通用する)

 

 

今日のDTMの世界においてはリバーブプラグインは珍しくもなんともありませんが、Lexicon224は多少特殊な設定になっています。

 

リバーブタイムはCROSS OVERのフェーダーで設定した周波数より上下別に2つの異なるリバーブタイムを設定することが出来ます。 例えばCROSS OVERを1kHzした場合は、1kHzより上はMIDのフェーダーで2秒のリバーブタイム、1kHzより下はBASSのフェーダーで0.5秒のリバーブタイムという設定が可能です。多くのリバーブプラグインは1つのディケイしか持っていないことが多いので珍しいかもしれません。

 

 

さらにTREBLE DECAYで高域の残響の減衰量を調整することができます。コントロール可能な周波数の上下で異なるリバーブタイムを設定できるというのが他のリバーブにはあまり見られないLexicon224特有のパラメーターと言えます。

 

 

DEPTHはリバーブ音とソース音の間の見かけの距離で数値が上がると遠くで鳴っているように聞えます。PRE DELEYは説明の必要がないかもしれませんが、初期反射の秒数です。

ディフュージョンはリバーブでのエコー密度でオールパスフィルターを使うことで反射の密度を擬似的に作り出しています。

 

 

次にLexicon224の特色ともいうべきMode Enhancementを見てみます。こちらは視覚的に確認したほうがわかりやすいので GIF を作りました。

 

Mode Enhancementとピッチのパラメーター

 

Mode Enhancementの数値最大(効果は最小)揺らぎが小さい

 

 

 

Mode Enhancementの数値最小(効果は最大)揺らぎが大さい

 

Mode Enhancementの効果はリバーブにモジュレーションをかけるものです。 ネットのどこかのサイトで倍音を付加するという説明を見たことがありますが、少なくとも私が確認する限りそのような効果は認められませんでした。

 

軽量化したGIFだとどうしてもコマ落ちしてしまうのでちょっと分かりにくいかもしれませんが、上下の二つのGIFの動きを見比べて下さい。 Mode Enhancementの数値を最大にすると揺らぎが小さく、逆にMode Enhancementの数値最小にすると揺らぎが大くなります。

Mode Enhancementは数字の大小と効果が逆なのでわかりにくいです。

 

 

パネルの上部をクリックすると出てくるピッチのパラメーターは2次的なパラメーターで、Mode Enhancementの設定された数値の状態からの効果の強弱をさらに追加でコントロール出来ます。ビッチが高いほど効果が高く、低いほど効果が弱くなります。

 

例えばMode Enhancementの数値を最小にして揺らぎを大きくし、さらにピッチを最大まで上げれば最も大きな揺らぎを作り出すことが可能です。

 

 

DTM 関係の本でリバーブプラグインの後ろにモジュレーション系プラグインを後段に掛けることを勧めるエンジニアの方がいらっしゃいますか、おそらくLexicon224の効果を別のプラグインで擬似的に出そうという意図なのではないかと思います。ちょっと強引ですがトレモロを後段に入れれば似たような効果を作り出すことが可能です。

 

 

ただLexicon224のモジュレーションはギターのストンプエフェクトのようなLFOのゆらぎではなく恐らくもっと緻密に組まれたアルゴリズムで音を揺らしていると思われますので、エフェクターで揺らせばOKのような単純な話ではないとは思いますが、効果としては似たような感じになると思われます(Lexicon224を持っているのでやったことはありません)。

 

 

 

Decay Optimization

 

Decay Optimizationは直訳すると余韻の最適化です。実機ではあまり触らない機能だそうですが、プラグインでは一応触れるようになっています。残響をよりナチュラルにしてくれるパラメーターなのですが、いまいち具体的にどういう処理を内部でしているのかわかりにくい部分です。

 

 

〇まとめ

 

どのようなサウンドを目的としているのかによって必要なプラグインは違うので必ずしもLexicon224が最も優れたリバーブであるとは言えません。しかしポップスやロックの分野においては残響を緻密にコントロールという出来るという意味では最も高い評価を持つリバーブの1つであり、実際使いやすく音も適度にオケに馴染みます。ヒットソングを長年支えてきた音というのはそれだけで選択の理由になり得ます。

 

 

他のトラックに対して上手く音が馴染むかどうかを度外視して残響のリアルさだけを求めるならコンボリューションリバーブの方が音質の面では有利ですが、ミキシングでは音像のコントロールが重要になります。そういう意味ではSonnox OxfordのOxford Reverbも愛用してきました。

 

 

 

Sonnox Oxford Oxford Reverb

 

 

残響の質や操作性の高さではOxford Reverbの方が有利な面もあります。ぱっと見てパラメーターがいっぱいあるので触ったことが無い方でも「何か色々弄れそう…」と思われるかもしれません。実際かなりの面において残響のコントロールをすることが可能なので今でもまだまだ出番はあります。

 

 

私は実機のLexicon 224が欲しいとは欠片も思いませんが(プラグインで十分です)、リバーブでお悩みの方にとっては1つの回答になりえるプラグインです。少なくとも色々なジャンルの音楽を作るのであれば持っていて損になるプラグインではありません。

 

これより上のクラスになると価格帯が半端ないので、自宅DTMで使うプラグインとしては現実的な選択肢と言えます。

 

 

私はUAD-2のLexicon 224を使っているので一応それで満足していますが、他のメーカーからも出ていますので色々比較してみるのも良いかもしれません。

 

しかしプラグインだけ買っても結局うまく使いこなせるかどうかは別の問題であり、もしかしたら新しいプラグインを買わなくても現在の手持ちのプラグインを使いこなすことによって問題が解決する可能性も十分にありえます。 

 

リバーブプラグインはプリセットが最も通用しない種類のエフェクトであり、使い方をしっかり勉強することがとても大切です。逆に言えばデジタルリバーブの様々なパラメータを理解せずに、またミックスにおけるリバーブの基本的な使い方も上手く理解出来ていない場合はプラグインだけを買ってもあまり良い結果が得られないということも十分あり得ます。

 

 

もちろん良い道具があるのに越したことはないのですが、半分くらいは使う人の技術がものを言います。 時と場合によっては半分を大きく超えることすらあり得るのですが、リバーブは特にその種のプラグインであると個人的には感じています。

 

 


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