DTMのソフト音源の世界で1番遅れているのは何といってもエレキギターです。 V-metal やELECTRI6ITYのような良質のエレキギター音源はありますが、生演奏に肉薄するか?と言われるとある部分ではそうだけれど、トータルで見ると実際の演奏には今一歩という感じが否めないのが私個人の感想です(使い方も難しいですし)。

 

少なくともギタリストが不要というところまでは進んではいません。

 

 

 

音色やピッチのの微細な変化のバリエーションが極めて多いギターやベースはリアリティーを求めた場合にPCM方式が通用しない分野なので、単音をサンプリングしてそれを鳴らすだけならリアルではありますが、実際にそれらを組み合わせてフレーズを作っていくとどうなるのかはギター音源を使っているDTMerのみなさんならお察しのはずです。

 

 

この分野においては圧倒的に物理モデリング音源が得意なためIKのMODO BASSみたいに物理モデリングギターが出ないかとずっと期待していたのですが、Plugin Allianceからかなりリアルなハードロックやメタル向けエレキギター音源「WEDGE FORCE Matcha」が出たのでさっそく体験版を使っています。

 

 

WEDGE FORCE Matcha

 

 

Matcha=抹茶?というよくわからない名前ですが、半分サンプリングでもう半分は「Synthetic Force Engine」というサンプリングされた音をリアルタイムで音色、ピッチなどを合成して音を作るハイブリッド音源です。

 

 

DI HEAVY METAL SYNTHというサブタイトルの通り、アンプは付属しておらずDIのみです。メタル系を念頭に作り込まれたギター音源で、メタルやハードロックのリフやバッキングが得意です

 

 

 

 

 

さらなるデモ演奏はこちら

 

 

デモムービーを見るとなかなかリアルです。まぁこの手のものはデモ音源やデモムービーでは宣伝ですから滅茶苦茶リアルでも自分で使ってみたらそうでもない…というのが定番なのですが、このMatchaはかなり良く出来ていて、簡単な操作性とリアルな音は今まで一番良いエレキギター音源なのではないでしょうか。

 

 

〇実際の操作性

 

・ベロシティマップ、ピッキングニュアンス、デチューン

 

説明書を見ると「たったこれだけ?」と思うほど内容は少ないですが、従来の問題点である要所を抑えた素晴らしい出来になっています。

 

ELECTRI6ITYの説明書は分厚くて覚えるのも大変ですが、Matchaは多くの部分をAI化しており、元のギターのサンプリング音に対してリアルタイムの自動シンセ合成を行っているので、操作性がほかの音源に比べてかなり良いです。

 

言い方を変えれば初心者に優しいとも言えます。

 

 

多段階のベロシティー、アタック感の変化、デチューン

 

 

エレキギターの音源化の難しいところはなんと言っても実際の演奏における微妙なピッチの揺らぎ、ピッキング角度、強弱による音色の多彩さ、そして音同士の繋がりです。

このバリエーションがあまりにも多いのでサンプリング音源ではどうにもリアルにしきれないのですが、Matchaには自分で調整出来る10段階のベロシティマップがあり、ベロシティの強弱による音色の変化が自由に設定出来ます。

 

DAW側で少しベロシティをずらしておけば、それだけでかなりリアルになります。これはMIDI CCで予め設定しておいたプリセットの切り替えが出来ます。

 

 

 

ピッキングよるアタック感もbrightからdynamicまでの幅があり、ニュアンスを変化させることが出来ます。これはなぜかMIDI CCに対応していないです。

 

brightとdynamicは英語のマニュアルなのでいまいちよくわからないのですが、

 

Brighter attacks always use samples with higher articulation which sounds great when all notes are with similar velocities. 

 

brightはすべてのベロシティーの強さで高い明瞭度のサンプルを使う?

 

Dynamic attacks use mellow samples when you play at low velocity and bright samples when you play harder.

 

dynamicは低いベロシティではまろやかな、高いベロシティでは明瞭な音ののサンプルを使う?

 

英語に自信がないので、大体の意訳です。

 

 

実際に鳴らせばたしかにbright側の設定の場合弱いベロシティでも明瞭な、明るい、強い、アーティキュレーションのハッキリした音が出ます。

コンプを掛けた音みたいに強弱のニュアンスをある程度まで均一化している印象でメタルでゴリゴリのリフやバッキングではこの設定が良さそうです。

 

 

dynamicは本物のピアノのように強弱のニュアンスがはっきりとあり、弱いベロシティでは優しい、丸い、ニュアンスの音が出ます。あまり歪ませないでエレキギターのメロディアスなフレーズを弾く場合はこちらの方が向いています。

 

 

デチューンも選択した範囲でこれはAIによってランダム化されたリアルなバリエーションを生み出します。sharpとrandomがあり、sharpはピッチの揺らぎが少なく、randomは逆です。

 

 

・ピッキングニュアンス

ピッキングのニュアンスは上記のパラメーターのほかに倍音の量をモジュレーションホイールで動かすことでなんとなく出せます。

 

薄い緑の線が倍音の量です。

 

上のgifはデモ曲を演奏している際にピッキングと同時にモジュレーションホイールを動かしてピッキングのニュアンスを変えています。ピックが斜めジャリっと当たった感じやそうでない感じなどを出すために行っていることですが、本来このように使うパラメーターではなくあくまで「それっぽい」という範疇を出ません。

 

しかし一律一平になるよりはずっと良いですし、メーカーのデモでもこのように使うことでピッキング時の音の微細な変化を出しています。

 

 

・フレット指定

 

MIDI CCでコントロール出来るネックポジションによってリアルなフレーズを鳴らすことが出来ます。

 

巻き弦のローポジでリフを鳴らしたい時

 

 

 

 

ギターソロをハイ保持で鳴らしたい時

 

 

ローポジでリフを作るときに音が高くなった際にプレーン弦を使うと巻き弦の音色の太さが損なわれてしまいますが、その当たりの問題点をカバーすることも容易です。

ELECTRI6ITYなどのほかの音源でもポジション指定はありますので目新しい機能ではありませんが、Matchaでももちろん可能です。
 

 

ただハイフレットで12フレット以上のポジションで2弦、3弦を使うような設定は出来ません。これはリフやバッキングを主体に設計されているからだと思われます。しかしソロフレーズでもかなりリアルな音を出すことが出来ます。

 

 

・ピッキング、ベンド、同時発音数

 


 

UP、DOWN、ALTERNATEのピッキングやベンドの設定

 

 

ピッキングの種類ももちろん設定出来ます。何もなければAuto AIにしておけばかなりリアリティーがあります。MIDI CCで動かせるので特定の場合のみUPやDOWNにすることも出来ます。

 

 

ハンマリングやプリングはなんとMatchaには現時点ではないのですが(将来的に追加されるかも)、Slideで似たようなニュアンスが出せます。

Slideはフレットありの階段状の半音移動、Bendはチョーキングです。これもMIDI CCで動かせるので任意で演奏中に切り替えます。

 

 

発音数は自分で決めることが出来て、ソロモードにしておけば鍵盤によるレガートの音被りなどは起きません。

 

 

・倍音(音色)の変化

 

 

倍音の変化を自由に出来る

 

 

この音源の最大の目玉の一つはギターにおける倍音の変化をコントロール出来ることで、ロングトーン中に変化もさせられますし、8分の連打の最中でも微細にニュアンスを変えていくことが出来ます。本来は主にピッキングハーモニクスで使うものですが、ニュアンスをMIDI CCの変化でいくらでも作れるのが凄いです。

 

 

予め決めておいた最大値と最低値の範囲内で(MIDI CCで変更可能)モジュレーションホイールで変化させることが出来るのは画期的で個人的にはこれが非常にリアルであると感じています。 

 

ロングトーンで伸ばしている際の比較音源を作ってみました。

 

伸ばしただけ場合

MP3はこちら

 

 

 

ハーモニクスを変化さた場合

MP3はこちら

 

ハーモニクスを変化さた場合の方はフィードバックのように「キィィィーン」となりますが、これをもっと微妙に演奏に混ぜていくことでピッキングのニュアンスの多彩さを増やすことが出来ます。普通のピッキングハーモニクスでもMIDI CCの値でニュアンスにバリエーションが作れます。

 

 

これをやらなくてもAIによる様々なバリエーションの設定で十分リアルではありますが、珍しい機能と言えるでしょう。


 

 

・ミュート奏法

 


 

ミュートはかなりパワフルで、特にPUNCH MUTEはノンミュートで鳴らしている最中にペダルを踏むと右手の腹で押さえつけたようなニュアンスが出せます。

 

 

・LAST NOTES

LAST NOTESというパラメーターはピッチとハーモニクスの両方に用意されています。


これはちょっとややこしいのですが、ピッチベンド側のLAST NOTESで設定した数値が1の場合に例えばドを全音符で伸ばしながら、3度上のミを弾いたとします。

 

 

 

ベンドレンジの設定が2の場合、上の譜面のようにドの音が伸びている状態でミを鳴らし、ピッチベンドを上げれば従来のPCM音源ならドもミも鳴っている状態なので両方とも2半音上がってレとファ#のように両方の音が2半音高くなります。

 

 

しかしMatchaではLAST NOTESで設定した数値が1であれば最後の1音(この場合はミ)のみにベンドが掛かりドとミが伸びている状態でピッチベンドを上げるとドはそのままで後で弾いたミだけが2半音上がりドとファ#になります。

 

これは実際のギター演奏で用いられるテクニックであり、ある弦で音を伸ばしつつ別の弦でチョーキングする、ユニゾンベンドなどに活用出来ます。

 

LAST NOTESの設定を2にすれば上の譜例のドもミも両方の音にベンドが掛かります。ユニゾンベンドはどうやるんだ?という疑問があったのですが、これで解消することが出来ました。

 


ほかにも6弦解放のミを伸ばしながら5弦で弾いた音のみをチョーキングするなどの奏法も可能になります。

 

 

・MIDIコントロール一覧

 

 

全部ではありませんが、ほぼすべてのパラメーターをMIDIコントロール可能です。

 

 

・その他

 


LIVE AUDITION

 

LIVE AUDITIONは名前の通りデモ演奏をパラメーターの動きを実演しながら見せてくれますので使い方の参考になります。

 

 

またドロップチューニングはどうなるのか?というとそこは半分シンセですので、6弦開放のミからどれだけでも低音が出ます。88鍵盤の一番低いラよりも低い音を出すことも出来ます。

 

ですのでメタルなどである最低音C音などの曲も普通に演奏可能です。

 

多分レスポール?ピックアップはハムバッカーです。

 

 

ピックアップはハムバッカーなのでそれらしい太い音が出ます。見た感じはレスポールっぽいデザインですが説明書には何のギターかはカスタムメイドで詳細は秘密と書いてあります。

PRSっぽいですが…。

 

 

 

・まとめ

 

2週間の体験版がありますので使ってみればメタルやハードロック系のギターリフやバッキングを作るのに非常にリアルな音源であることがわかるはずです。

 

 

万能エレキギター音源というわけではなく、どちらかというとV-metalの強化版みたいな立ち位置でシンセによるリアルタイム音色合成を活かした生々しいメタル系エレキギター音源です。

 

 

ブラッシングミュートやハンマリングなどの機能は現時点では付いておらず、メタルやハードロック系のギターリフやバッキングに焦点を絞って作られています。

 

 

その分だけ動作も軽く値段も抑えられ、使う側としても実際に作曲するとき一本のギターに万能を求めないので、用途別に最適化してVSTを作るという方向性は正しいのではないかと思います。

 

 

値段は定価で199ドルとギター音源の中では低めで、V-metalを買うならMatchaをお勧めします。

今後は私も多分メタル系のギターはMatchaを主体で使うことになると思われます。

 

 

アンプやエフェクターなどはなくDIのみなので、別途自分で好きなアンシュミを用意すればスーパーリアルなタルやハードロック系のギターリフやバッキングを得られる素晴らしい音源です。

BIASやAMPLITUBEやGUITAR RIGなどがある以上、好きなものを使ってねということなのでしょう。

 

実際にELECTRI6ITYみたいに中途半端なアンシュミやFXで値段が上がり、読み込みも動作も重くなるくらいなら、アンシュミやFXは別途専用のプラグインに任せた方が良いはずです。

 

 

 

待ちに待ったギタリストが要らないレベルの万能型物理モデリングギター音源というわけではないのですが、従来のサンプリングオンリーのギター音源とは一線を画す新方式音源であり、今後のWEDGE FORCEの活躍に多いに期待です。本物のギタリストが弾いているのか、それともVSTなのかの区別が付かない時代に一歩近付いた感じで、フレーズによっては Matchaで生演奏と誤認するようなフレーズが作れるはずです。

 

 

おそらくIKからもMODO BASSに続きMODO GUITAR?みたいな物理モデリングギターが将来的に出るはずですが、この手の分野が一番遅れているので個人的には待ち遠しいです。

 

 

このギター音源はPlugin AllianceのMEGA BundleかMUSICIAN Bundleのサブスクに入っていれば無償提供されます。単体で買っても良いくらい素晴らしい出来で、これは爆売れの予感です。

 

 

 


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