前回の続きです。

 

 

〇前回の復習

ちょっとだけ前回の復習ですが、ワブルベースの原理はフィルターのカットオフや音量に対してLFOやエンヴェロープで作り出した動きを割り当てるものでした。

 

 

LFOの揺らぎが段々速く(遅く)なる

 

    ↓↓↓

 

LFOの可変動作をフィルターのカットオフ(音量でもOK)に割り当てる

 

 

これがわかればあとは手持ちのシンセの設定の問題です。シンセによって複雑なマトリックスを組めるものと組めないものがあり、視認性の高い物や低いものもあり色々です。GIFはSERUMで作っていますが、この手のタイプのように「今何が起っているか?」を見られるのは特に初心者にとってシンセへの理解を深めるのに多いに役に立つはずです。

 

 

 

〇ワブルベースの譜例

 

コードは2つだけ

MP3はこちらです。

 

ベースラインに使われているコードは2つだけです。

KEY-Cmで♭Ⅱはナポリとも取れますし、EDMであればこれをフリジアンモードと解釈することもあるかもしれません。

どちらであっても♭ⅡであるD♭はリディアンスケールになりますので、2小節目のように♭レ→♭ミのようになります。

 

コード理論が得意な方は色々と面白い音使いが出来そうですが、多くのEDMはあまり複雑なコードを理論を駆使せずに、特にドロップ部分ではダイアトニックコードか、モード(旋法)か、エキゾチックな音階かのどれかであることが多いように思えます。

 

 

モード(旋法)やエキゾチックな音階は複雑なことをしているというよりは、この珍しいことをしているといった方が正しく、インドやアラビアや東南アジアなどの珍しい音階を使っている曲も見受けられます。それだけでも十分興味深い音になります。

 

 

ワブルベースの一番のポイントはなんといってもLFOのレイトをMIDI CC(大抵はモジュレーションホイール)で動かすことで、これによって音がワブります。

+αとしてワブった時にシンセのほかのパラメーターを同期させて動かすと良いかもしれません。例えばワブり加減が増えてきたらビットクラッシャーやFM変調やリングモジュレーターやウェブシェイパーなどが同期するという方法です。

 

 

LFOレイトのMIDI CCと同期して音色が変わるようにします。

 

 

ワブりと同時に音色もより攻撃的で激しいもに変わっていくわけですが、これはそのままLFOのレイトに送るMIDI CCと同期させれば良いだけなので簡単です。

 


このように音を2分音符なので伸ばしてる時にMIDIコンのツマミを上げていくと音がどんどん震えていって典型的なワブルベースが出来上がります。

 

譜例ではピッチベンドを±1octでギターのグリッサンドのように使っています。ほかにもテープストップやグリッチ系の各種エフェクトを織り交ぜても面白いと思います。この辺りはアイデア次第でしょうか。

 

 

無限とは言いませんが、実に色々なパターンが考えられ、これはシンセの機能によって何がどこまで出来るのかが変わってきます。

 

 

 

〇ダブステップ的?EDM的な?音色。

 

自然現象ではあり得ないような波形の動き

 

私が勝手にイメージするEDMやダブステップの「ソリッド」「冷たい」「良い意味でのデジタルサウンド」はウェーブテーブルシンセの自然現象では絶対にあり得ないような動きで生み出されているように思えます。

 

上のGIFのような動きは自然界にはなさそうであり、こういう動きから生まれる音はやはりデジタル的な乾いた、冷たい、硬い音になり、それが硬質な倍音現象を生み出していわゆる私のイメージするEDMサウンドになっているような気がします。

 

SERUMに至っては倍音の分布まで弄れますので、本当にシンセは何でもありになってきました。

 

自分で倍音分布を書けます。

 


なんと512倍音まで書けます。

 

こういった自然現象では絶対にあり得ないであろう機械的な波形や波形の動きや倍音構成によって作り出される音色は「ソリッド」「冷たい」「良い意味でのデジタルサウンド」になりますので、典型的なEDM風の音を作りやすいです。

 

 

Arturiaから出ているmoogのMini V

 

一昔前のソフトシンセではこういう波形は作れないものもありますし、そもそも波形が見られないタイプもあります。

オシレーターシンクで出来る波形への変化が多彩だったり、外部からWAVEデータを取り込んでそれをオシレーターとして使えたりといった現代的な機能は昔のシンセには付いていないので、全く駄目というわけではないのですが、そういったシンセではどうしても今風の音が出しにくいという場面もあったりします。だからこそ色々なシンセサイザーが次々にリリースされ、流行廃りもあるわけです。

 

 

omnisphereのanalogのつまみ

 

シンセによってはアナログシンセの振る舞いをデジタルで敢えてエミュレートする機能が付いているものもあります。アナログシンセはピッチが安定しなかったりするので、ピッチが微細に揺らいだり、オシレーターが2つある場合はそれによって天然のダブリング効果が生まれたりするなどして、太い音が出たようですが、デジタルではそういった不安定な要素が一切ゼロに出来るため敢えてアナログっぽくしたりしなかったりと言った効果を選ぶことができますが、典型的なEDMの「ソリッド」「冷たい」「良い意味でのデジタルサウンド」といった音色ではこういうのはむしろこういった機能は使わない方が良いのではないかと思います。omnisphereを使う時は必ずゼロにしています。

 

 

SERUMやSPIREのような後発のシンセはこういうのが得意ですが、古いアナログシンセではそもそもこうオシレーターシンクは出来ないので、オシレーターから出る音が全然違えば当然出来上がる音も全く変わってきます。

 

 

 

EQではあり得ないフィルターの動き

 

シンセのVCFは言ってみればフィルター=イコライザーと言えます。どんなフィルターを搭載しているのか?フィルターに対してどんな変調を与えられるのか?はオシレータ同様にシンセの心臓部分とも言えますが、SERUMなどの最近のシンセを見ていると「なんだこりゃ?」と思うようなメカニカルで変態的なものがあったりします。

 

 

当然出てくる音もフィルターとフィルターの変調に伴った音になり、これもシンプルなHP、LP、BPしかないような古いアナログシンセでは出来ない効果なので、今風の音を作るのに適しています。適しているというよりは今風の音を作っているアーティストたちがこういったシンセ(の機能)を使っているといった方が正しいかもしれません。

 

 

SERUMのフィルターを順番に選ぶ

 

後発のシンセになるほど複雑なフィルターが搭載されているものが多いですが、さらにこれに(時には付加機能を持った)LFOやエンヴェロープで変調を与えられるので、音作りの可能性はとても広がり、従来では出しにくかった(または出せなかった)音も出せるようになりました。

 

 

音の好みは色々でヒットソングで鳴っている音も色々ですが、こういった機能を積極的に使っていくのがEDMやダブステップのポイントのように感じています。

SERUMやSPIREなどのシンセはプリセットを選ぶだけでそういった音が出ますが、シンセの仕組みに理解を持てればプリセットからの改変やオリジナルで面白い音を作っていくことが出来るようになります。

 

 

〇EDMのハーモニー的側面

 

EDMのほぼ全体に感じることですが、敢えて複雑なコード進行を使わずにコード3つとか4つのみで作っていることが多いように思えます。平歌は1コードだったりすることもあります。

 

 

これは多分ハウスやテクノなどの名残で、元々ハウスなどの初期のダンス音楽は音楽理論を知らない人たちが作ったものなので、一曲通して1コードなどの曲も初期のハウスやテクノなどを聴くと珍しくありません。

EDMはハーモニー的な難しさとは無縁のジャンルであり、代わりにシンセやリズムパートの音作り、MIDI CCなどによるギミック、あるいはミックスなどに注力しているように思えます。

 

 

敢えて複雑なハーモニーを持つEDMを作るのもありなのかもしれませんが、いわゆる一般的なEDMの概念?は崩れていくように思えます。やろうと思えば出来ますので、ひょっとしたらそういう時代がくるのかもしれません。

 

 

しかしそもそも私の知る限りですが、DJさんたちはあまり音楽理論に興味がなさそうであり、例えばよくこのブログで紹介しているようなドビュッシーとかブルックナーとかのような複雑なハーモニーはあまり関心がないように感じます。

 

 

代わりにシンセやリズムマシンに対する音作りは上手ですし、MIDIコンを使ってグリグリ音を動かしたり、ミックスで面白いテクニックを使って曲を仕上げていき技術に特化しています。

 

 

ただハーモニーに対する工夫があまりにもないとつまらないと感じるのか、1コードだけれどもモードを使ったり、エキゾチックな民族音階を使ったりしている曲も珍しくありません。複雑なことをするとパワー感がなくなっていくのでそれが嫌なのかも?EDMというダンスフロアの音楽に合わないのかも?とも思います。

 

 

現実問題としてはシンプルなハーモニーでヒットソングが山ほどあるわけですから、少なくとも当面のところはEDMやダンスミュージック全般ではそこまで複雑なコード理論は必要では無いように思えます(例外はありますが…)。


 

以前私が書いた作曲の基礎理論本の1/10くらいのことがわかればハーモニーの部分だけを切り取って考えるなら行けそうです。やはりポイントはシンセやリズムマシンの音作りやミックスでしょうか。

 

 

 

 

ダブステップの上物に付いて何も書いていませんが、最低限リズムパートとワブルベースでなんとなくダブステっぽくなったと思います。もう1回くらいおまけで上物について書くかもしれません(書かないかもしれません)。

 

 


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