続き物行きますね。
今回は#006です。
1回めはこちらです。
初めておいでの方、
最初から読んでいただけると、メッチャ嬉しいです。
また今夜も、BGMを聴きながら読んでいただけると…。
文章だけでは、自信がない。
ホント、お助け音楽です。
j.d.souther smoke gets in your eyes
「ねぇ、アタシに触れて…」
そのカケラは、また、話かけてくる。
続いて、Mさんの声。
「アイダさん、飲み物、いかがしましょうか。
コーヒー、それとも、紅茶にします」
Mさんには、聞こえてないみたいだ。
「すみません、お気遣いなく…
で、そう言っておいてなんなんですけど、
紅茶…
できれば。
でも、魔女の薬、入れないでくださいね」
「アハハハ
入れちゃうぞ。
ちょっと待ってね、
今、入れてくる」
彼女はそう言い、部屋を出て行く。
ボクは、そのカケラと対峙した。
しっかり、見つめる。
手に取り、手の平に乗せてみる。
丸いカケラ。
昔、ワインの瓶だったカケラ。
記憶…
遠い遠い、遥かに遠い日の記憶。
手紙が入ったワインの瓶、投げちゃったんだっけ。
ユキちゃんのワインの瓶。
月が空で見てた。
遠い日のユキちゃん、それからボク。
記憶はあの夜へ飛ぶ。
しっかり、憶えてる。
「何書いたんだか、教えてくれない」
「やだ。ナイショ…」
「アイダ君さ、投げてくれない、この瓶。
アイダ君が、投げたらさ、きっと、きっと、
アメリカに着くような気がする」
「何書いたんだか、教えてくれたら、投げてもいい」
「あ~、アイダ~、なんだぁ、オマエ、交換条件を出すかぁ…。
まぁ、いいか…。
でも、なんか、恥かしいな。
でも、いいよ。
教えてあげる」
ふいに、
ガラスのかけらから、何かがやってきた。
そして、その何かは、
ボクの手から、腕を伝い、やがて、ボクの全身を包んだ。
ボクは思わず目を閉じた。
なんだかわからない何かは、除々に形を取り出す。
暗い海を、漂う瓶。
アメリカまでなんて、とてもじゃない、行けっこない。
ただ、夜の海をさまよって、そして、壊れ…。
あの日のユキちゃんの願いはどこに行ってしまったんだろう。
何かは、完璧な形を取った。
寂しさだった…メチャクチャ、透き通った哀しみ。
その哀しみに、ボクは共鳴する。
ボクは、その哀しみと同化する。
哀しかった。
とても哀しかった。
ボクは、思わず目をあける。
目の前に、ユキちゃんがいた。
あの日のままのユキちゃん。
彼女は、
ボクを見つめ…
それから、
笑顔を見せ、
ボクに触れようとする。
愛しい。
ユキちゃんのぬくもりを感じた。
あの頃、決して、触れることがなかったユキちゃんのぬくもり。
彼女の感情がボクにやってくる。
「やっと…
また、会えたね。
長かったね、ね、アイダクン」
彼女の透き通った哀しみは穏やかな安らぎに変わっていく。
ユキちゃんの涙がボクの胸に…。
涙は、ボクの胸から心の深いトコロへと染みてく。
そして、
ボクは気づく。
ユキちゃんが、希薄になって行く。
ちょっと、待ってくれ。
消えないで…。
ユキちゃんは
徐々に、
徐々に、
薄くなって…。
待てって。
な、ユキちゃん。
消えていく。
「ね、アイダクン、また会えるよね」
よく聞き取れなかったけど
そう言ったような気がした。
でも
ボクもユキちゃんも、
ホントは、さ、
そんな日が、昔みたいに
もう二度と
絶対に、来ないことを知っている。
ユキちゃんは、
消えちゃった。
ボクの手の平に、昔、ワインの瓶だったシーグラスが、残った。
彼女の瓶は…
ユキちゃんは、
長い時の流れの中で、海の涙になった。
「でも、なんか、恥かしいな。
でも、いいよ。
教えてあげる。
また、大切な人に会えますようにって…」
〔to be continued〕


