作業中、いつものように、いつの間にか座ったまま眠っていました。
きゅいーぃぃぃーん
屋外の機械音で目覚めました。
「あー……どっかの家で庭木切ってる……」
まだ頭がぼんやりしていて、コタツに突っ伏したまま考えていました。
「もし……お隣だったら……、」
隣家の場合はいつも、造園業者さんが撤収する際に、
ウチの敷地内に飛び散った枝葉まで回収しに来て下さいます。
「寒いだろうし……人数分の缶コーヒーか何か温めておくか……」
と外を確認しに起きようとした時、突然気付きました。
こんな季節に剪定なんてしない
っていうかこの音 業務用のヘッジトリマーじゃない
「ってことは、お向かいか、裏か、……いや、」
きゅいーぃぃぃーんごごごごごご ご ごごっ ごごごがごごごが
コレ ウチのバリカンだ
しかも今 シャーブレードに何か詰まった
急いで外に飛び出してみると、玄関先で、
中型サイズの家具であったと思われる何かが
解体されている最中でした。
「あー、道具、使わしてもうとるで」
いやあのね一言断ってからにしてくれませんかいやそれより
木屑詰まらせた上に無理矢理動かしてますよね
いいからちょっとソレ止めなさい
「ばあちゃんの棚、捨てなあかんねんけど、金取られるやん?」
あー、大型ゴミは悩みの種ですよね分かります。
だからバラして可燃ゴミにしようとしてるんですよね分かります。
で、何故ここで解体してるのですか分かりません。
「ばあちゃんち、道具あらへんもん。
それに、ここに置いといたら片付けてもらえるし」
うんその片付けはねいつも言ってますが
妖精さんやこびとさんがやってくれてるわけじゃないんですよ
そもそもそのバリカンは、生け垣を整える程度の細い枝専用で、
そんなゴツい板や棒を切るような機械では……って、
「この板、黒檀ですよね!?」
「せやで」
そんな馬鹿硬いモノ
安物バリカンで切ろうとするなっていうか
そんなのゴミに出すような金持ちは普通にお金払って回収してもらえ
とにかく、バリカンを没収して、普通の鋸を渡しました。
木屑や破片が散乱しているから、ポリ袋と箒とチリトリも渡したところ、
「えー、俺がするん?」
とか抜かすので放置して、刃の詰まりを取ることにしました。
すると、家の中から、微かな音が。
しゅ しゅおぉぉぉぉぉ しゅ しゅおぉぉぉぉぉ
……どうして換気扇が回ってる?
急いで中に飛び込みました。
無断で火を使おうとしてるの誰ですか
その換気扇 摩耗がヒドくて“弱”だとちゃんと回りませんよっていうか
何か温めたいならレンジ使って下さいって言ったでしょう
いっぺん勝手に アジの開きを直火で炙って
豪快に煙充満させて 警報機鳴らして
全員キッチン出禁にしましたよね
「あー、ごめーんそうだった。シチューあっためようとしてたんだけどー」
適当に食べるのは構いませんが
食い尽くしていいわけじゃありません
保存食の鍋がどれもこれも空っぽなんですが
あなた達はイナゴの群れですか
あと昨日開けたばかりのマヨネーズも空っぽなんですが
誰が飲んだんですか
別の場所で、別の音が。
ぽふ かたた ずどしゃざざざ
「悪い、ボールペン取ろうとしたら、崩れた」
ボールペン1本引き抜くだけで何故
ペンスタンドとその中身と
半径30㎝以内のモノを全てぶちまけるんですか
さっきのバリカンが収納してあった場所も
周囲にあった掃除道具やバイクの工具などが散乱してましたが
あなた達は目的のモノだけを手に取ることが不可能なのですか
フリーダムな人々の後片付けをしていると、廊下の向こうから音が。
き きぃー
あー、誰かがトイレのドア閉め忘れてる。
きちんと閉めt
……
…………
床 が 水 浸 し
これは……まさか……
おい待てこら誰だぁぁぁ
フリーダムにも限度ってもんがあるわぁぁぁ
「あー、俺かもしんない。
飲み過ぎて夜中に行った時、目測誤ったような気がする」
百歩譲ってそれは不幸な事故だとしても
後片付けくらいしていけぇぇぇ
ウチには妖精さんもこびとさんも居ないって言ってるだろぉぉぉ
……まぁ、彼らは常に不審な音を発しながら動き回るので、
洒落にならない事態になる前に気付けることだけが
不幸中の幸いです。
出来れば一歩も動かずに大人しく
漫画読むかアニメ観るかゲームするかしていて欲しいところですが、
さすがに今日はこれ以上の爆弾は無いだr
ぎ ぱさ ぎぎ ぱさぱさ
……どうしてその部屋から物音がする?
「なぁ、封筒見なかった? この前、ここに置いた気がする」
この前って何ヶ月も前ですよね、いえ見た覚えはありまs
「今日、必要なんだけど。マジで知らない?
俺のマイナンバー入ってるヤツ」
ぎゃあぁぁあぁぁぁ
鍵だの実印だのキャッシュカードだののキングオブ貴重品を何故
そこら辺に置き忘れるんだどいつもこいつもぉぉぉ
部屋じゅう引っくり返して、紙の束の間から本当に出てきました。
泣きたかったです。
「よ、良かった……あのね今度からはそういうモノはきちんと管理を」
「管理とか無理」
あー、そうでしたあなたには
管理や分類や整理整頓などの機能がついていないんでしたね。
「部屋、またぐっちゃぐちゃになってる。また片付け手伝って」
はい、いいですよでもそのためにはまず
人間が二人歩ける状態にしておいてもらえますか。
「そうだ。大事なもん全部、ここにまとめて置いとけば、」
いいわけがないでしょう
真顔で何言い出してんだ貸金庫行け。