春もややけしきととのふ月と梅
芭蕉


月も潤みを持ち、梅の蕾もふくらみはじめて、春らしい景色になってきたなあ。


一句の要は《けしきととのふ》にある。自然の膳立てが調えられてきた気配が、表現されているのである。


麗しき春の七曜またはじまる
誓子

春を病み松の根つ子も見あきたり
三鬼

バスを待ち大路の春をうたがはず
波郷

女身仏に春剥落のつづきをり
細見綾子

少年や六十年後の春の如し
耕衣

春ひとり槍投げて槍に歩み寄る
登四郎

人は影鳥は光を曳きて春
永方裕子


《春》
陽春/芳春/三春/九春

立春(二月四日頃)から立夏(五月六日頃)の前日までをいう。
旧暦は一、二、三月。新暦では二、三、四月をいう。



クロッキー



かたくりの花たよりなき日暮かな

花万朶すみに追はれて空の青

幾ひらの花を飾りや深大寺

夜桜やライトアップの裏は闇

初蛙そのひと声の恋心

立春の風はや春の波立てて

陽春の日ざしに少し老い深む

春の月いささかの黄を孕みたる




春の一句をどうぞ。