◆やすませてもらふ切株冬あたたか/宮澤ゆう子

                      
座ることができる大きさの切株とは、どれほどの樹齢なのかと調べてみると、松の場合、直径10センチで樹齢50年、40センチで100年~200年が目安という。大きな切株であればさらに樹齢を重ねており、掲句の「やすませてもらふ」に込められた擬人観もたやすく理解できる。大木であった頃に広げていた枝に羽を休める小鳥や、茂る葉陰を走り回っていたリスは消えてしまったが、今では旅人が憩う切株として姿を変えた。本格的な冬を間近に控えた明るい空気のなかで、数百年を過ごした歳月に、今腰掛けているのだという作者の背筋の伸びるような思いが伝わる。長い時間をかけ大木となった幹はあっけなく切り倒され、年輪をあらわにした切株となり果てた。とはいえ、無惨な残骸とはならず、あたたかな日を吸い込みながらまた長い時間を過ごすのだ。『碧玉』(2009)所収。(土肥あき子)
~増殖する俳句歳時記より。



◆冬暖/ふゆあたたか
三冬

冬ぬくし/暖冬

冬のさなかの暖かい日のこと。つめたい風も吹かない穏やかな日和。冬の恵まれた一日である。


冬ぬくし海をいだいて三百戸
長谷川素逝「定本素逝集」

~きごさいより。



◆クロッキー(21)
冬あたたか
冬ぬくし



呵呵大笑大悪人虚子の冬ぬくし

酒倉の径に酒の香冬ぬくし

鮟鱇や冬あたたかの大あくび

丘の上いつも父母居る冬ぬくし

婆が婆の車椅子押し冬暖か

生きもせずくたばりもせず冬あたたか

川底の石に日差しや冬ぬくし




◆芭蕉の言葉

俳諧は三尺の童(七、八歳の子供)にさせよ。



真白な心で万象に 相対せよ。 一句どうぞ。