木偶の眼のかたりとねむる寒夜かな
/郡司正勝
                           
作者は、歌舞伎研究家として著名。句集が二冊あることを、大岡信の著書で知った。「木偶(でく)」は、あやつり人形。この場合は、文楽の人形のことだ。舞台で生命あるもののごとく動く人形に、寒夜思いを馳せていると、舞台を下りてもなお、吹き込まれた生命のままにある姿が浮かんでくる。さながら実景のように心に沁みる。『かぶき夢幻』所収。(清水哲男)
増殖する俳句歳時記より。



冬の夜/ふゆのよ
三冬
 

冬の夕/冬の宵/寒暮
冬夜/寒夜
 
「寒き夜」「夜半
の冬」などともい
う。冬の夜はさえ
ざえと空気が澄ん
で、星や月も美し
く見える。


冬の夜や我に無芸のおもひ有 
几董 「井華集」
何となく冬夜となりを聞れけり
其角 「五元集」
冬の夜や針うしなうておそろしき
梅室 「梅室家集」
冬の夜をまん丸に寝る小隅かな
一茶 「七番日記」
提灯で戸棚をさがす冬夜かな
村上鬼城 「鬼城句集」
冬の夜や柱暦の望の影
尾崎紅葉 「紅葉句集」
(きごさい)より。



クロッキー 寒夜




寒き夜のなぜか針もつ女たち

いたつきの身を抱いて寝る寒夜かな

星ひとつふたつと落ちてくる寒夜

みしみしと肺の鳴り出す寒夜かな

異生物の肺をうごめく寒夜かな

老いの背にぞくりぞくりと寒夜かな

をんな睡る天女の仮面鬼女に換へ

極まるや直ぐに縮みぬ寒夜の棒

米中の貿易戦争寒夜かな

末期の眼あいて寒夜の星うつす

牛小屋に嬰児の叫ぶ寒夜かな




寒夜で一句どうぞ。