雪催



妖村正二尺四寸雪催/稲島帚木
                           
村正(むらまさ)の作った刀を、実際に見たことはない。妖刀と言われるだけあって、チャンバラ映画や小説ではお馴染の刀だ。なぜ妖刀なのかは、『広辞苑』にゆずる。「(村正は)室町時代の刀工。美濃系と見られる。伝説多く、鎌倉の正宗に師事したが破門され、伊勢国桑名郡で刀剣を製作したという。徳川家康の祖父清康がこの刀で殺害され、また、嫡子信康がこの刀で介錯されたなどの伝えから、その作は徳川幕府の禁忌にあい、妖刀視された。同名が数人ある[広辞苑第五版]」。付け加えれば、家康も村正で手に傷を負ったという伝説がある。友人の父親が刀剣のコレクターで、学生時代に何振かを見せてもらった。「(刀身に)息を吹きかけるな」にはまいったが、正座してそろそろと抜き眼前に構えると、不思議な気持ちになる。殺人の意識が伴うせいか、息詰まるような緊張感がわいてくるのだ。そのうちに、刀身の輝きに吸い込まれるような感覚も生まれてくる。作者のように妖刀と承知して眺めれば、なおさらだろう。ましてや、表はどんよりとした雪催(ゆきもよい)で、何かドラマでもはじまりそうな雰囲気である。雪が来る前は、どういうわけか血が騒ぐ。さて「妖村正二尺四寸」、いかなる嵐を呼ぶか血を呼ぶか……。漢字だけの作意も、この気持ちにはぴったりだ。実感の強さが、よく出ている。ちなみに、囲碁にも「村正」という定石があって、少しでも対応を間違えると危ないところから名づけられたらしい。「俳句研究年鑑」(1995)所載。(清水哲男)
増殖する俳句歳時記より転載。


雪催/ゆきもよい/ゆきもよひ
三冬
 

雪気/雪雲/雪曇/雪模様/雪暗/雪意
 
いまにも雪が降り出しそうな天気のこと。雲が重く垂れこめ、空気も冷え冷えとしてくる。
(きごさい)より転載。



クロッキー⑩


老妻の米借りにいく雪催ひ

雪催ひ耶蘇のふどしも二千年

老人のあふれし街よ雪曇り

原発の村あの日から雪催ひ

にはとりの股を噛み切る雪催ひ

千噸の鋼は雪の雲翔べる

雪催ひ河原に棄てし鶏の足

安達太良の頂きにある雪催ひ

野沢菜を刻む音
して雪催ひ





雪催で一句どうぞ。