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🐔 ⑩次々と歯抜けにされる旧道の町並み
前回の記事の最後では旧中山道の町並みを紹介しているのに、気になった路地裏の「鈴よし」という精肉店と「ビスポークテーラー 洋服のマツイ」に寄り道してしまった
細い路地を抜けると裏手には、それまでとは対照的な広々とした空間があり驚いたが、そこにあったのは撮影しても面白味がない都営住宅だったので、旧中山道に戻ろうとしたら……
ビスポークテーラーの建物の後ろ側に、ひと目で古そうだとわかる建物が見えた
表に回ってこの建物を見ようと思ったが私道の奥にあり、辿り着くことができなかった。私道に入ろうかとも考えたが、当ブログはご存知のようにコンプライアンスは遵守する方針なので諦める
ところで現地では、軽自動車も通れないような細い路地の裏に、広々とした空間があったことに驚いたが、この付近の地図を見るとそれは大して驚くようなことではないことがわかった
付近の地図を見ると「鈴よし」とは旧中山道を挟んだ向かい側に「◯号館」という文字がたくさん記されている広い敷地があるが、これは大正大学のキャンパスである
「鈴よし」の上にはさらに淑徳巣鴨中高等学校があり、その他にも巣鴨北中学校、西巣鴨小学校などの学校や、東大の寄宿舎など広い土地を必要とする施設が目白押しになっている
その理由は単純で以前の滝野川のシリーズで解説したように、旧中山道沿いを別にすると、この界隈に町が拓けたのは明治以降、多数の軍事施設が設けられた以降のことで、それまでは田園地帯に過ぎず大きな施設を造りやすかったからだ
解説が長くなったので話を本題に戻す
前回の記事にて紹介した向かって左端の部分が、看板建築の床屋に魔改造されていた出桁造り商家の少し先にも
こんな出桁造りの建物が残っていた……が、この建物を見た瞬間、荒廃した雰囲気に、なんとも言えないショックを受けた
店舗の部分はガランドウにされており、安っぽいブリキの雨戸というか板で封鎖されている
腰部分のベニヤ板は雨に打たれ黒ずみ腐食して、ところどころが破れているので、もう何年も放置されているような雰囲気だが、これは現役の頃からこんな感じであった
せっかくオリジナルの状態で残っている簓子下見板張りの2階、向かって右側の凝った造りの窓は、あちこちが割れていて、ベニヤ板のようなものが嵌め込まれているようだ
無住になり荒れ果ててしまった建物などは東京にはたくさんあるけれど、この物件を見てショックを受けたのは、前回この建物を撮影した2017年当時は……
このように現役で営業しており「KOKUYO」という看板も掲げられ、僕が通りかかったときは、お店のひとと近所の住民と思われるおばさんが立ち話をしている
という、いかにも商店街らしい長閑な光景に和んだ記憶が、ハッキリと刻まれていたからだ
ここで例によって過去のストリートビューで、いつ頃まで現役だったのか見て見ると
2021年の3月までは日用品雑貨店として営業していたが、次の5月からあとは、営業している姿が写っていなかった。ということは2021年の4月頃に店を閉めてしまったらしい
こちらの建物は元々は紙を扱う「伊勢屋紙店」という業態だったが、僕が初めて見た頃には日用品雑貨の店のような店になっていて、店先にはトイレットペーパーなどが積まれていた
その当時は4軒長屋の出桁造りであったが、90年代頃に半分にぶった切られて駐車場にされてしまった。その隣は十字型看板建築で、庚申塚電停方面に向かって賑やかな商店街が続いていたが、廃業が相次ぎ今は閑散としている
この建物の様式は木造二階建て平入切妻の典型的な武州スタイルの出桁造りで、建物の後ろ側に台所などが収まる平屋の部分がくっついたデザインになっている
武州スタイルには僕の勝手な分類では、このような後方に平屋のお勝手がつくもの、片流れのもの(それぞれの派生型を含む)の2パターンがあり、こちらは前者ということになる
後方に回ってみると、7年前には物干し台などの増築された部分があったが、跡形もなく撤去されていたので廃業しただけではなく完全に無住になってしまったようだ
これが7年前に撮影した写真である。物干し台には目隠しされた部分があり、ちょっとしたバルコニーになっていたことがわかる
現在の姿と比較すると物干し台や給湯器は撤去され、金網で囲まれてしまっているので、旧中山道の面影をわずかにとどめた最後に残った町並みは、風前の灯といった状況にあるようだ
東京大空襲、バブルと、数々の危難を乗り越えて残った旧中山道の面影を残す風景が失われてしまうのは、日本にとって大きな文化的損失であろう
そんな危機的状況でもクダラナイ区画整理や再開発にばかり血道を上げて、こうした文化的損失には見向きもしない。そんな低いレベルの日本の政治家は、政治家ではなく土建屋と仲良しの政治屋と言われてもしかたあるまい
建物のこちら側を見ると「ぶった切られ物件」に特有のケーキの切り口のようなスパッと切られた平面に、ブリキ波板を張った東京の下町ではお馴染みの姿を見せていた
もはや手入れされることのない植物が傍若無人に繁茂して、美しい花を咲かせている後ろ姿が、なんとも言えない寂寥感を掻き立てる
ということで、次回はこの隣にあるもう1棟の素晴らしい出桁造り商家を取り上げる
続く
†PIAS†
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