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🐢 ① 亀の子束子西尾商店の洋館と看板建築
もうお気づきとは思うが今回からサブタイトルを《滝野川・旧中山道の町並み》に変えた
というのは、今まで散策してきた滝野川二丁目、六丁目は文字通り「迷宮」のように入り組んだ細い路地が錯綜していたが、今回から旧中山道沿いの町並みを散策するため、ほとんどの場所はわかりやすい街道と横の路地だからだ
したがって「迷宮」という単語は、いささかミスマッチになるので変えたわけだ。暗喩的な意味合いにおいて「迷宮」という単語を使うことはできるが、まあ一種の気分転換だと思ってほしい
ということで旧中山道を巣鴨方面に向かう。前回も説明したように、旧中山道の巣鴨駅方面は、おばあちゃんの原宿として知られる「地蔵通り商店街」という繁華街になっている
そこを抜けると店舗の数が少なくなり、滝野川あたりから再び店舗が並び出して板橋駅に出る。その先は国道17号線付近でまた店舗が減るが少し先で旧道の商店街が復活し、そこが江戸四宿のひとつ、かつての中山道板橋宿である
今回はあくまでも「滝野川」という“くくり”なので、巣鴨や板橋宿は省略して滝野川界隈のみを紹介する
旧中山道と直角に交わっていた「御代の台仲通り商店街」は、戦前物件の長屋などは残っていたけれど、新しい建物に建て替えられてしまっている場所が多い印象であったが……
旧中山道も同様に次々と古民家は失われてはいるが、それでも看板建築の町並みという印象が強い
僕は高校生の頃から古書店を巡ることが趣味だったが、同じ趣味を持つ漫画家のえのあきらと友達になってから、さらにのめり込み近所だけではなく掘り出し物が期待できる杉並区、板橋区、練馬区あたりにはよく通った
余談だが昔は所沢や入間にもよい古書店があり、川越などは蔵造りの町並みはオマケで古書店目当てに通っていたぐらいだ
その当時もやはり旧中山道は、なんとなく垢抜けない昭和中期の面影を強く残した看板建築が並ぶ町並みという印象で、その印象は現在も維持されていた
おそらくその頃からここにある「光陽樓」という中華料理屋は、オレンジと白の目立つポリカーボネート製軒先テント(テントではないが)の上部の擬煉瓦風の錆び付いたトタンに味わいがある
不思議なのは、その並びにある看板建築で、どの窓もやけに小さくしかもよく見ると、かつては普通の大きさのだったものを、後から板などでふさいで小さくしていることがわかる
しかも建物の横の部分には、かつて開口部があったのに、それを完全にふさいでモルタルを吹き付けて“なかったこと”にしているのがユニークで、入り口の庇は残されたままなのでトマソン物件になってしまっていた
日当たりをよくして明るい屋内に改装するなら理解できるが、この物件は真逆のことをしており、日光が苦手なヴァンパイアでも住んでいるのだろうか? などと可笑しな妄想が膨らむ
2017年に散策したとき、この建物も撮影していたが向かって右側の「出前迅速」と記されている当時はまだ現役だった「文巻寿司」は写っているが、残念ながら窓小型化物件は見切れてしまっていたので、どのような店だったのかわからなかった
念のため過去のストリートビューも見てみたが、もっとも古い2010年の段階ですでに廃業してしまっているような雰囲気で、結局、謎は謎のまま残された
こちらの写真もそのとき撮影したものだが、この建物は跡形もなく消え去ってしまっていて、やはり旧中山道でもじわじわと古い建物は消滅しつつあるようだ
この界隈は五街道のひとつの中山道なので当然、江戸時代から町があったわけだが、その当時は板橋宿以外は疎らな町並みだったとしても、昭和初期頃には商店街になるぐらいには発展していた
その頃、明治時代に本郷で創業したが関東大震災により、ここに移転して本拠地を構えた企業があり、その企業が販売する目玉商品は、そのジャンルでは現在も日本を代表する優れた製品という評判を維持している
僕も自炊していた頃は、その会社の製品を使っていたが「別に百均にも似たような製品はあるし、(そのジャンルにしては)高いそれじゃなくて良くね?」
と、邪な考えが浮かび安物を使ってみたが、使い心地、そして何よりも耐久性に天地の差があり多少値段は高くとも結果としては安い……という真理を学んだ
あえて、もったいぶった書き方をしたが、その優れた製品とは「亀の子たわし」で、その製品を製造しているのが
「株式会社 亀の子束子 西尾商店」である。洋館造りの本社の建物は現在は直営店であると同時に、歴史ある会社の象徴にもなっている
どちらかというと「和」の印象の亀の子束子という製品と洋館は、なんとなくミスマッチだが、つまり当時は洋館の社屋を構えるほどの勢いがあったということだろう
それにしても、せっかく撮影したのに前述したとおりこの日はクレイジーに強すぎる陽射しのため、建物の細部は白飛びし影になる部分は真っ黒に潰れてしまい、建物を撮影するには最悪の状況であった
それは、あまりに陽射しが強く日陰にゆかないとカメラのモニターも見えないぐらいの激しさだったが「モニターは見ない主義のオレには関係ないぜ」と、余裕綽々で撮影したにも関わらず、何故かことごとく勘が狂い建物がフレームからはみ出した絵ばかり撮れていた
どうやら強烈な陽射しは、そういった直感も狂わせるようなので、薄曇りという最高のシチュエーションで撮影した7年前の写真を、参考のため貼っておく
うんうん。見比べると、やはり建物の撮影には薄曇りが最適ということがよくわかる--と、この亀の子タワシだけでも見応えがあるが、このすぐ向かい側には、さらなる見所がある
その見所とは、東京が発祥の建築様式なのにも関わらず減少の一途をたどる……
銅板葺き看板建築だ。もしかしたら解体されてしまったかも……と、若干の不安はあったけれど、無事に残っていたので胸を撫で下ろす
この店は前回の散策のときにも寸分違わぬ姿でここにあったが、開口部の少なさから僕はてっきりショットバーなどのコジャレた飲み屋だとばかり思っていた
ところが、この日も閉まっていたので何気なくGoogleマップでこの建物のピンをタップしたら「美容室」と出てきて驚く
というのも、床屋は細かい作業をするため広い窓という先入観があったためで、よくよく考えると美容室は、どちらかというと外から見えないことを優先するのではないか? ということに思い当たった
マップの記載によるとまだ現役で営業しているらしいから、この「マシュー」という美容室が頑張っているうちは、看板建築も取り壊されたりしないだろう
この銅板葺き看板建築から少し巣鴨方面にすすむと
このように完全に住居仕様に改装されてしまった出桁造りの元商家が左手に見えてくる
こちらの物件は建物の間口が不自然に狭いことから、おそらく二軒長屋の造りだったものが、向かって左の建物がマンションに建て替えられてしまったいわゆる「ぶった切られ物件」だと思われる
建物の外装は、モルタルに変えられてしまっているが、おそらく昔は簓子下見板張りだったのではないだろうか?
こちらの建物も強烈な陽射しのおかげで、屋根庇の影になる出桁造りの特徴的な部分が黒潰れしてしまっているので、最高の条件で撮影した写真を貼っておく
ところで、常々書いているように僕は散策する予定の町のことは、できるだけ下調べしないで現地におもむくことにしている
というのは、予習してしまうと発見する喜びがなくなり、「散策」ではなく事前に調べた物件を確認する「観光」になってしまいがちになるからだ
しかし、その方法だとわかりにくい場所にある物件を見逃すというミスを誘発する危険性を秘めており、実際、その町では知られた名物を見逃してしまったという事例が何度もある
そこで今回は、中山道沿い以外の場所にある物件を事前にリサーチしたところ、この通りは十回以上は確実に通過しているのに、路地裏にあるため完全に見逃していた物件が存在することに気がついた
その見逃していた(というより存在すら知らなかった)物件は中山道から横の路地を入ったところにあるので、その路地に初めて足を踏み入れることにしたが、これが思わぬ発見に繋がるなどとは、このときの僕はまだ気づいていなかったのである
続く
†PIAS†
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