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🍞 番外編 偶然マーケットの廃墟を発見する 

 

 

 

 

 

前回の平間でいったんキリをつけて今回は「番外編」を上梓する

 

何ゆえに番外編かというとサブタイトルを《川崎市中部ランダム紀行》としているため、今回は単一の物件の紹介なので「紀行」とは言いかねるからだ

 

 

ところで僕が個人商店が集まった、いわゆるマーケット形式の物件に強い思い入れがあることは、以前からの読者諸賢ならご存じのことと思う

 

このマーケット形式の物件は、昔はちょっとした町にはひとつやふたつは、必ずあるような、ありふれた物件であったが、消費者の志向が個人商店から大型スーパーやコンビニなどに移行してしまい、次々と姿を消して今や絶滅危惧種になっている

 

 

川崎市は比較的このマーケット形式の物件が多く残されていたがレトロ好きにはお馴染みの「昭和マーケット」は解体され、あとは、もはや伝説の領域にある「小向マーケット」を残すぐらいだ

 

先日訪れてみると「小向マーケット」の隣にある凸型看板建築の「小向日用品売場」は、どうやら最後のテナントが廃業してしまったのか真っ暗だったので、近日中には解体されてしまうのではないかと危惧している

 

 

今回のシリーズでも火災により消滅した「南武ストアー」を紹介したが、新丸子編で述べたように、僕が幼い頃、新丸子にあったふたつのマーケットも跡形もなく消え去っており、このままでは川崎市のマーケットは近いうちに滅びてしまうだろう

 

 

そんな危機感を抱いていたある日……

 

久しぶりに弟と川崎市中部から横浜市のリサイクルショップ巡りをすることになり、待ち合わせのコンビニで弟の車に乗って、まずは川崎市内のセカンドストリートとトレファクを攻めて、次は横浜市都筑区方面に向かった

 

 

横浜市都筑区と川崎市高津区は隣接しており、目当てのリサイクルショップを巡るには中原街道を使うのが便利だ。高津区、都筑区を回ったあとは、中山→今宿→瀬谷を回り藤沢から茅ヶ崎、最後は平塚という走行距離150キロの強行軍である

 

 

しかし回りはじめたらすぐに弟が……

 

「あっ、悪りぃ。この裏手に住んでる後輩にリーバイスの赤耳をあげる約束してるから、ちょっと寄り道する。10分もかからないから」と言って、中原街道から路地に曲がった

 

 

その路地は、とくに商店街のような場所ではなく団地の裏手の普通の路地ではあるが、ドラッグストアや居酒屋、床屋、イタリアンや和食屋、居酒屋などの飲食店、郵便局と何軒かの店が集まっていて、プチ商店街的な雰囲気であった

 

郵便局の隣には現在も営業中の床屋があったが、その隣にある物件を見たとたんに、思わず「おおっ」と、声が出てしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと、その路地に入ってすぐの団地の横に「久末ストアー」という、大好物のマーケットがあるではないか!

 

弟に「これ、いつまで営業してたのか知ってるか?」と、訪ねると「うーん、何年か前に見たときはヤマザキデイリーストアーがあった気がする」と、曖昧な記憶しか残っていないようであった

 

 

まあ、こんな物件に思い入れのある変人は、僕のほかにはあまりいないものと考えられるので、覚えていなくてもしかたない

 

しかし、この「久末ストアー」は、僕の脳裏に深いインパクトを与えたので後日、単独で訪れて今回の記事のために撮影してきた

 

 

 

 

 

 

 

 

再び訪れてみると、やはりシャッターは閉ざされ営業しているような雰囲気ではなく、有り体に言って廃墟寸前の様相を呈している

 

軒先のクレハロンテントは日除けの部分がズタズタになり、昆布のようにぶら下がっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥のほうに見えているのが隣接する団地。そこから建物の後方に回ってみても、やはり現役の雰囲気はまったく感じられなかった

 

しかし、手洗い場の水道の蛇口を見ると片方がまだ使えるようになっているので、もしかしたら現役なのか?

 

 

一瞬、ひねって確認しようかと考えたが、当ブログはコンプライアンスを遵守する方針なので、怪しい行動はやめておく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに奥を見るとシャッターは閉ざされているが、先ほどの路地に面した部分が正面の入り口で、そこから「L」字型の回廊形式になっていて、通路を抜けた突き当たりが「手塚精肉店」という店になっていたようだ

 

シャッターの前にある蛍光灯には明かりが灯っているから、完全に廃墟というわけではなさそうである

 

 

こういうときはマップをタップするかググるのが早い

 

さっそく実行してみるとマップには「営業時間外」翌日の9:00から営業とあり、口コミも一件出ていた。ええっ、これで現役なの!?

 

ところがGoogle検索では同じ店名の荒川区東尾久の「手塚精肉店」ばかりヒットして、まったく情報が出てこない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして現役なのかどうなのか……

 

考えこんでいると、こんな廃墟みたいな建物をしつこく撮影している僕を不審者と思ったのか、通りかかった近所のおばさんが立ち止まり訝しそうな視線を送ってきた

 

こういうときは、逆に質問責めにするのにかぎるので……

 

「すいません。こういうマーケットの調査をしているのですが、ここがいつまで営業していたのか覚えてませんか?」

 

 

と、訊ねると、つい最近までは右端でインドだかパキスタンだかのカレー屋みたいなのが営業していたが、客が入っているのを見たことがない。精肉店は惣菜が美味しかったけれど、最近はやっているのを見たことがない、とのことだった

 

そして、以前は八百屋とかヤマザキショップがあったとの証言が!

 

 

ヤマザキショップ! 弟の曖昧な記憶は、あながち間違いではなかったようだ。そこで今度は検索条件を変えてググってみると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不動産情報のサイトに物件の近隣情報として、こんな店があるという項目に現役時代の写真が残っていた

 

ネット上には、これ以上の情報はなさそうなので、いつもの最終手段、過去のビューを順次見てゆくと……

 

 

 

 

 

 

 

 

2009年には「ヤマザキショップ 喜久屋商店」の隣に「お食事 啓屋」という定食屋らしき物件が確認できた

 

ところが……

 

 

 

 

 

 

 

 

2015年に「お食事 啓屋」は廃業して軒先の屋号などが外されてしまい……

 

 

 

 

 

 

 

 

通りかかった近所のおばさんの証言どおり「インディアンハウス」というインド料理屋になっていた

 

どうやら近所のおばさんの記憶は、弟よりも正確なようだ。今度はビューで裏手に回ってみると

 

 

 

 

 

 

 

 

現在は更地になっている場所には、こんな小屋があり証言どおり2018年まで八百屋が営業していた。なるほど、あの手洗い場は、屋外にあったのではなくこの八百屋が使用していたのだ

 

 

これで何となくテナントの大まかな変遷は判明したが、このマーケットの発祥とか由来がよくわからない

 

そこで今度は「久末 ストアー」ではなく「久末 マーケット」で検索すると川崎市の「ふるさとアーカイブ」というサイトの地元の古老(当時84歳)に思い出を語ってもらうという項目のなかに「久末マーケット」の名前が出ていた

 

全文を読むにはPDFデータをダウンロードするしかないので、さっそくダウンロードしてみると、こんな談話が

 

 

 

 

 

 

 

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以下、談話からの抜粋

 

 

この地域にお店がなくて不便だったので地域住民で出資して株式にして「久末マーケット」を作りました。
 今も八百屋さんとお菓子屋さんは残っています。歩いていけるお店は有難くて、お菓子屋さんで食べたいパンを買ったりしていますよ。魚屋さん、乾物屋さんも以前はあったけどなくなってしまいましたね。

 

 

 

この談話の収録は平成28年の11月。少なくともその時点では八百屋とお菓子屋が残っていたようだ

 

談話では「お菓子屋さんで食べたいパンを……」との記述がある。お菓子屋にパンでは辻褄が合わないが、ヤマザキショップなら矛盾しない

 

 

しかし「ストアー」と「マーケット」では名称が異なるが、この地域は商業地区ではなくいまだに畑が残る谷戸ばかりの僻地なので、「ストアー」と「マーケット」のふたつがあったとは考えにくく、おそらく同一の物件を指したものと思われる

 

 

かつては交通の僻地であった谷戸だらけの場所に、住民が出資してマーケットを開設し近隣の人びとの役に立ったが、冒頭で記した消費者の志向の変化に対応することができず、こうして、またひとつのマーケットがその歴史に幕を閉じようとしている

 

 

商店街やマーケットの終焉に立ち合うのは、これでいったい何度めのことだろうか。そのたびに言い様のない寂しい気持ちになるのに、昆虫が暗い夜道の街灯に惹き寄せられるように、こういうマーケットをつい探してしまう

 

 

いずれにせよ、少なくともこれで「久末ストアー」というマーケットが、この場所にたしかに存在していた

 

--という事実を歴史に刻むことができた。たとえそれが墓銘碑であったとしても

 

 

 

 

 

 

 

 

“Wish you were here”は、言わずと知れたピンクフロイドの名曲だが、権利にうるさいのかライブ映像がYouTubeに貼ってないから、ギルモアのソロライブからアンプラグドを

 

 

 

 

 

 

と、ここで終わればカッコよく決まったのだが……

 

後日再び訪れてみると驚いたことに「手塚精肉店」は、Googleマップに出ていたとおり現役で営業していた。ただし業務を縮小したようで午前中だけの営業のようだ

 

 

 

 

 

 

 

†PIAS†

 

 

 

 

 

 

 

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