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🍡 ②点在する土蔵造り商家と鍾馗様
岩槻の駅前通り、そして日光御成道は大々的な区画整理が行われているため、旧街道の風情といったものは皆無に近い
町並みの印象としては、何もないところを開発したニュータウンや、埋め立て地とさほど変わらないという、ダメな再開発の見本のような風景であった
これでところどころに古い商家が残っていなければ、わざわざ訪問する価値はゼロといってよいだろう
しかし、町並みとしてはダメダメだけれど、残っている古い商家は土蔵造りの立派なもので、脳内Photoshopを駆使して周囲の景色を消去すれば、楽しめないこともなかった
日光御成道に出て最初に目に入ってきたのは、こちらの幕末期に建造されたと言われている土蔵造りの和菓子店である
ネットで検索しても和菓子のメニューしかヒットせず、いつどうして建造されたのか、さっぱりわからなかった
そこからさほど行かないうちに、こんな立派な建物が目に入り……
一瞬、「おっ!」と、なるが、よく見てみるとやけに直線的だし、古民家の特徴のひとつである“分厚い屋根、ぶっとい破風”ではなく、妙にペラペラなことがわかる
近くに行ってみると、やはり古民家風にデザインされた現在の建物で、古い建物をぶち壊して、わざわざこんな建物を建てる意味がわからない
このような物件を目にするたびに、百歩譲って雰囲気を再現したいのならば、モダンな要素は控えめにして、もう少しそれっぽいデザインにしろよ! と、モヤモヤした気持ちになってしまう
それでもまったくの現代的な建物よりも、古い町並みを意識しているだけ“良し”としておこう
その先に、洋風建築のパロディのような、やたらと細長い建物があった
これなどは、おそらくかつての街道沿いに見られた「間口が狭くて奥行きのある鰻の寝床」の典型的な例であろう
この間口が狭くて……というのは、往古の時代に間口の幅で課税された名残と言われているが、武州ではそのような制度があったという話は聞いたことがなく、間口の広い平入切妻の商家が多い
したがって、このように妻側が街道に面している建物は、少数派と言ってよいだろう
やたらと細長い建物と更地を挟んだ隣には、またしても立派な土蔵造りの商家があった
それにしてもこの町並み、ニュータウンを開発するようなやり方で、ただ拡幅しただけのようで、あちこちに駐車場という名前の更地が多い上に、せっかくの古い建物も真っ白にされてピカピカなので、ほとんど風情が感じられない
こんなやり方でしか古民家を残せないというのは、担当した者に古い町並みや建物に敬意がなく、やる気がないとしか思えなかった。少しは川越を見習えと言いたくなる
どうやら岩槻の町は、人形だけではなく和菓子も名物だったようで、こちらの土蔵造り商家も、先ほどのものと同じように「田中屋本店」という和菓子店のようだ
入り口の暖簾には創業嘉永年間とあるので、先ほどの藤宮と同時期に建造された建物かもしれない
壁面は、すっかりピカピカにされていたが雨樋などは古色があり、なかなか渋い雰囲気だ
建物だけではなく車やバイク、古着などのレストアは、高度な技術だけではなくセンスが重要で、そのセンスに欠ける者は、とにかくピカピカにしたがるのが困りものである
以前カーグラフィックの故・小林彰太郎がアメリカのクラシックカーのレストアは、過剰にピカピカで品がないと評していたが、この町に残っている古民家も過剰にピカピカで、むしろ格を下げているように見える
などと嘆いていると、なんとも不可解な建物が見えてきて、思わずギョッとした
なな、なんじゃこりゃ。建物は明らかに戦後、それもさほど古い時代のものではないのに、看板建築がまるで伊豆の商家のような見事な海鼠壁になっている
しかも軒先の屋根庇には、またしても鍾馗様がおられるではないか!
屋号を見ると「かべ将」とあるので、どうやら壁の専門業者なので、この海鼠壁は、持てる技術を駆使して看板にした、要するに自社の建物の壁自体が一種の「サンプル」なのだろう
銅板葺き看板建築を直せる業者は消滅してしまったが、この業者がいるかぎり少なくとも海鼠壁は、破損しても修復可能というわけだ
海鼠壁看板建築という、かなり異質な物件の斜め向かい側にあるこちらの建物が、日光御成道に残っている古民家の白眉と言ってよい素晴らしい建物である
先ほど武州では妻入の商家が少ないと述べた、その妻入の土蔵造り商家だ
妻入といっても間口が狭いわけではなく、ご覧のように「△」三角を上から押し潰したような形状になっており、妻入にする経済的メリットはなく、おそらく当時としては珍しくデザイン優先で建造されたのではないだろうか?
--と、盛り上がってきたところで。続く
†PIAS†
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