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🚃 ①のどかな駅前から銅板葺き看板建築
船橋の取材を終えて、ひとり焼き肉を堪能したあとは、下総中山に移動する。いささか余裕をぶっこいて、のんびりし過ぎたせいか、あたりは意外と暗くなってしまった
でもまあ、最初からソニーのRX 100の低照度モードを当てにしているので、焦ることはない。むしろ夕暮れの光線が、雰囲気のある風景を写してくれる……はずだ
ところで、なぜ下総中山かというと、この町には千葉県には数少ない銅板葺き看板建築が残っているからである
また池上本門寺と並ぶ日蓮宗の古刹・法華経寺の門前町として戦前から栄えた歴史があるので、それ以外にもなにかしら古い物件があることが期待できるだろう
「だろう」という仮定型なのは、看板建築以外には、あまり情報がないためで、やはりいつもの行き当たりばったりなスタンスに変わりはない
駅を降りると駅前から寺町まで、まっくすぐに商店街が延びていた。駅前には大きなマルエツがあり、ガード下にもスーパーがあるようなごく普通の郊外駅の雰囲気が漂っている
もちろんマンションなどもあるが、目障りな巨大建築は見当たらず、大きな町の船橋とはちがって、あまり再開発されたような感じではなかった。個人的にかなり好印象の駅前風景である
この先には谷中や池上のように、たくさんの寺院があるので、商店街は参道の延長線として、栄えていたものと思われる
銅板葺き看板建築があるぐらいだから、もちろん戦前から続く老舗にも期待できるが、駅前付近の風景は、東京近郊のどこにでもありそうな地味な雰囲気であった
ちょうど夕暮れ時なので、近所の主婦の買い物や、会社や学校を終えて帰宅するような時間帯のせいか、ひと通りは途切れることがなかった
なんとなくアラビア語のような語感の「アイサダ」という八百屋ベースのスーパーがあり、かなり賑わっていた
この店、どこにでもありそうなありふれた外観だが、調べてみると驚いたことに昭和3年の創業だそうだ。ということは、アイサダはもちろんアラビア語ではなく、おそらく「相定」をカタカナ表記にしたものだろう
しかし、そんな昔から続く庶民的な店が、今でも大繁盛しているという情景は、いつも滅びかけた町ばかり取材しているので、こちらの気分まで明るくなる
アイサダから少しゆくと戦前の古い商家を、全面板張りにしてしまった建物を見つけた
なんとかモダンな雰囲気にしたかったという気持ちはわかるが、古民家マニアとしては、出来れば昔の姿を活かしてほしいところだ。店舗の横にある通用門だけが、昭和初期の姿をとどめていた
その隣には、建物の前面が、全面軒先テントで覆われた建物があり「なんだこりゃ」と、思って離れた場所から眺めたら、わりと古そうな角地を利用した看板建築だった
これなどは、一見、あまり古そうに見えないが、僕の勘ではたぶん昭和30年代の物件ではないだろうか?
この建物の前を横切る交通量の多い広い道路が、かつての房総往還、千葉街道である
まだ散策をはじめて15分も経っていないが、千葉街道を船橋方面に曲がると、早くも今回のクライマックスが訪れてしまった。こんなに早急にクライマックスでは先が思いやられるぞ
見事な銅板葺き看板建築の老舗佃煮屋である
これを見たときには、思わず心のなかで「おおっ!」と、感嘆符が浮かんだことは言うまでもない。しかし、わりと賑やかな通りなので、後ろをリーマンとかOLさんが歩いていたので、もちろん声には出さなかった
1階の店舗部分はモダナイズされてしまっているが、2階から上は、紛れもなく戦前型の銅板葺き看板建築そのものだ
戸袋の部分には亀甲の紋様が記され、2階の真ん中にスクエアに配置された東京の戦前型看板建築のお約束どおりの造りは、東京からすぐ、という立地によるものだろう
しかし、素晴らしいのは、そのスクエアな窓の上に、むくり屋根が設けられていることで、これは東京では、あまり見たことがない仕様である
さらにファサードに掲げられた看板に「錦蓬莱(きんほうらい)」という文字が記されているのもポイントが高い。蕗の薹の佃煮と錦蓬莱というのが名物のようだ。錦松梅のようなものか?
調べてみると現在営業している店は、終戦直後にこの建物に入居したそうで、それ以前がどんな商売の店だったのかは、調べてもよくわからなかった
いやー、素晴らしい! これが見られただけで、もう下総中山の取材は成功したようなものだ。でもこの先、尻すぼみになるのも困るなあ……
という懸念は、千葉街道をはさんだ反対側の建物を見ただけで杞憂に終わった
そこにあったのは、冠木門を構えた見事な豪邸である
よく見ると千葉街道沿いに新しい建物を建設したせいか、おそらく以前は街道沿いにあったものと思われる出桁造り(たぶん)の立派な主屋が見えないのが悲しい
しかし、いきなりこの2連発なら、先の心配はなさそうなので、古い建物が途切れるまで、船橋方面の様子を見にゆくことにした
続く
†PIAS†
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