****
綾瀬から川の手通りをすすむと、堀切菖蒲園駅の手前で平和橋通りと交差している。僕が歩いてきたのは川の手通りの家1軒ぶん裏手の暗渠道である
川の手通りは、足立区から葛飾区に入ったあたりから、商店街の体をなすようになった。街灯には堀切中央通りと記されているが、時代に取り残されたような昭和な町並みが続いていた
やや寂れた雰囲気だったその町並みは、平和橋通りのあたりからひと通りが増えて、それまでの寂れた感じから、賑やかな雰囲気にかわった。平和橋通りの先も堀切中央通り商店街は続いていたが……
今どきの駅前商店街には珍しい低層の建物が続く
並んでいるのは、ほとんどが飲食店であるが、駅が近いせいなのか、やたらとひと通りが多く、この手の商店街にはありがちな寂れた気配はまるでない
これだけ流行っているのに、新しい建物に建て替えられていないのは、都内では珍しい例であるが、その理由は後ほど判明する……が、それはひとまずおいて、先にすすむ
今どきこのような町の小さな本屋が残っているのも珍しい
僕の小学校の同級生の家が、やはりこうした町の小さな本屋で、かなりの老舗の戦後型の看板建築だったが、僕が中学に上がるころには、○教堂などの大手チェーンの書店に押されて廃業して、マンションになってしまった
商店街は、ひととおり見たので、この長屋商店街の真裏を流れていた川跡の暗渠の様子も、たしかめてみることにした
平和橋通りを横切った川跡は、それまでの“暗渠スキルがある程度ないと”わからなかった、単なる隙間の細い路地、あるいは緑道的な姿から、わかりやすいコンクリート蓋暗渠に姿を変えていた
今まで暗渠であることを、ひた隠しにしていたのに、なぜ今さらこんなプリミティブな見るからに、暗渠丸出しの姿になったのだろう?
この先でコンクリート蓋暗渠は……
堀切中央通り商店街の店の裏側をとおりながら、ボコッと盛り上がって……
建物の隙間で次第に先細りになって消滅していた
いや、ちょっと待て。暗渠がいきなり消滅するわけはないし、おそらくこれは、川跡が建物の下に潜りこんでいるのではないだろうか
その証拠に、このちょっと先で
建物と建物の細い隙間に、明らかに暗渠とわかる形跡が残されていた
しかし、川の手通りから見ると、どこにでもあるような長屋商店街の建物は、こうして裏側から見ると、きちんとした(という表現は適切とは言いかねるが)建物ではなく、バラックに毛が生えた程度のものだとわかる
建築法では暗渠、すなわち公図上で水路敷とされる場所には、基本的に建築物を建てることができない
都心部であっても、半世紀以上、あるいはそれより前に埋め立てられてしまった川跡が、意味不明な隙間や暗渠として残っているのは、そのためである
ということは、おそらくこの商店街は、かつての川跡の上を不法占拠
することによって、成り立っていたのではないだろうか
そんな違法物件は強制排除されないのか?
ーーと、誰もが思うだろうが、これがなかなかそういうわけにはいかない。おそらく戦後のドサクサでバラックが建てられてしまったので、権利や法的な問題はともかく、こうして何十年もその場所で商売をしている既得権が発生するのだ
以前このブログでも取り上げた武蔵溝ノ口のバラック商店街などは、川崎市も扱いに困っていたところ、放火によって焼けたのを、ここぞとばかり取り壊して、立ち入りできないようにフェンスで囲ってしまった
ーー話が逸れたので戻す
暗渠もだいたい見終えたので、バラック商店街のはじっこまで行ってみると……
ええっ、これはもしかして橋の欄干では?!
先ほど、だんだん先細りになっていた川跡は、ここでは完全に建物の真下になっていた
ということは、やはり僕の想像は、間違っていなかったということになる
それにしても、まさか、ここまであからさまな痕跡が残っているとは思っていなかったので、これにはかなり驚いた
僕がひとりで大興奮していると、地元のひとは、いつも見ている日常的な風景なのか、誰ひとり気にすることもなく通りすぎて行った
川跡は、このすぐ先で
堀切菖蒲園駅の真下をくぐり抜けていた
画面の中央に、細長く写っているのが京成電鉄・堀切菖蒲園駅の登りホームだ。かつては、このホームから川を見下ろすことができたものと思われる
駅を抜けた暗渠は、再びシロウトさんにはパッと見わからない、単なる歩道に姿を変える
堀切菖蒲園の駅前の並木道が、かつての川跡であるが、現在は、ごく普通の駅前風景で、痕跡はほとんど残っていない
さて、綾瀬を出発点にはじめた今回の散策だが、冒頭で述べたように、どこにゆくのか決めていない
じつは歩きながら、堀切菖蒲園駅に着いたら、京成電車に乗って、浅草で晩飯を食べて帰ろう……
などという結論に決まりかかっていたのだが、まだ日没には少し時間があるし、暗くなるまで散策を続けることに、方針を転換することにした
堀切菖蒲園駅前が夕陽に染まる。逆光でよく写っていないが、角地に建っている看板建築に「ヨロヅヤ」と記されている
常識からすると「万屋」を仮名表記にした場合、どう考えても「ヨロズヤ」が正解のはずだが、この場合、より強くノスタルジーを喚起させるのは、明らかに「ヨロヅヤ」のほうであろう
という、どうでもいい話はともかく。さて、これからどこに行こうかしらん
続く
†PIAS†
****